大臣
「終わったか?」俺はマリーに微笑んで見せ。
「さて……俺の方の続きを初めようか」槍の男にも微笑んで見せた。
「わたしを……殺せ」大臣が初めて口を開いた。
「それは」思わず笑い声が出る「どっちに言った?」
「どちらでも構わない」俺を見て「私は、確かにあなたを見殺しにした、指示を出したのは右大臣だが……それを止めなかった」眼をふせ「止めると言う気にも、考えすら浮かばなかった」
「だそうだ、さて……どっちがやる?」そう言いながら、大仰に右手を上げた。
目があちこちにと、泳いでいる槍の兵士。
「待て、言う……総てを話すから」唾を飲み込み「俺の命ダケでも助けてくれ」
「見逃してくれ」
「その話はもう終わったぞ」首を少し捻り「元々、俺は興味の無い話だし」
「頼む」マリーに向けての懇願。
「実は、私もそんなに興味があったわけでは無いの」マリー。
「それに、ここで大臣も死ぬのだから……それを知った所で意味も無いのよ」
絶句する槍の兵士。
「大条際の悪い」大臣がため息混じりに「曲がりなりにも城詰めの兵士なのだろう」そう言いながら、自分から一歩前に出て、その場に座り込んだ。
「流石! 大臣、潔い」
「で、どっちが良い? 生き埋めか? 一思いにか?」
「頼む見逃してくれ」大臣に聞いたのだが、答えたのは兵士。
「それしか言えないのか?」
「私に言っているのなら、それも無意味よ」マリーが。
「ここにいる全員が、ソコの男の奴隷だから」俺を指して笑う。
それ、笑うところか?
「ジュリア」頷き「射っていいわよ」
「わかった、言う、言うから…………」それを言い終わらないうちに、槍の兵士に矢が三本刺さった。
呻きながら倒れ込む。
俺はジュリアを見た。
だが、矢をつがえたままに立ち竦み、首を振る「私じゃ無い」
そしてまた、矢が飛んでくる。
かなりの距離を、俺を掠めて大臣に刺さった。三本。
誰か居る。
その場に緊張が走る。
カラスとネズミを見て「探せ!」
ジュリアが大臣の前に立ち、刺さった矢を確認して反対方向に矢を放つ。
「こっちの方角です」
次の矢をつがえたままで。
「…………」
「逃げた様です」
「何故わかる」
「撃った弓者に取って、唯一の脅威である、私に射って来ないからです」
「複数居るのだろ?」
「その全員が逃げたのか?」
「いえ、狙撃者は一人です」
「矢の角度が揃っています」
「一度に三本を撃ったのか」
「はい、相当の手練れです」
弓から矢を外す。
「でも、この矢は……私の造ったモノ……」その言葉は、うまく聞き取れなかった。
どうでも良かった。
そして俺は、大臣の側に立ち見下ろして息絶えるのを見ていた。
完全に事切れるのを見て取って、呪文を唱える。
むくりと起き上がる大臣。
「マリー、防腐剤をくれてやれ」
その言葉と、ほぼ同時に馬車が燃え尽き崩れ落ちた。
ネズミの報告では、やはり狙撃者は見つけられなかったと言うことだ。
だが、妙な扉を見付けたと言ってきた。
洞窟の入り口を隠す様に草木でカモフラジュされていると。
「それは、塹壕だな」大臣がマリーに貰った薬を飲みながら。
「この辺りには、幾つか在る」
「モノにもよるが大きいモノは地下トンネルで繋がっている」
「穴型塹壕か」口元に手をやり「物騒だな」
「溝型も、やはり在るのだろ?」
「勿論ある」大臣が俺を見て「詳しいな」
別に詳しくは無い、塹壕なんて掘った事もない。
ただ、知っているだけだ。
それにこの世界、魔法が飛んできて、弓も有る、爆弾も……普通に考えれば塹壕戦が基本に為る筈だ。
戦争だと聞かされれば、まずそれが頭によぎるだろう。
「トレンチナイフは?」
眼を剥いた大臣が「詳しいじゃないか」
それがわかるなら、俺達の世界の塹壕戦と変わり無いか。
多分、過去の戦争経験者がその知恵を持ち込んだのだろう。
マリーが俺と30年程の差なのに、この異世界では数百年の差に成っている。
昭和の初めの人間が過去に居たって不思議じゃ無い。
もっと、古いかも知れない。
「あんた、ホントに年下?」マリーがいぶかしむ。
「そんなの、私でも知らないわよ、ナニ? トレンチナイフって」
「もしかして、自衛隊とか?」
「狭い塹壕の中での白兵戦用のナイフだ」
因みにだが自衛隊の経験は無い。
総ては、映画と小説の知識だ。
だから、間違っている可能性も有る。
「その塹壕なのだが」カラスが「その中にローブの男が入って行った様だ」
「見付けたのとは、違う穴だが」
「成る程、ソコに隠れて居たのか」ロイドが、それを自身で見付けられ無かったからか、若干に悔しそうだ。
「どおする?」頭目が聞く。
放置しても問題無いとの判断だろう。
「一応は……売られた喧嘩だしな」
「覗きにでも行くか?」
その答に頭目もロイドもニヤリと笑った。
移動中。
「何故、私を助けた?」大臣が俺に聞く。
「助けたわけじゃない」
「ちゃんと、見殺しにした、今はあんたはゾンビだろう?」
笑って。
「あんたも俺を見殺しにした」
「詰まりは、どちらも罪は一緒で……同罪の相殺だ」
「そして、あんたには利用価値が有りそうだしな」
「利用価値か……」
「詰まりは、私にそのまま大臣で居ろと言う事か」
返事の変わりに、笑ってやった。
「まあ、良いだろう……今はお前が主人だ」
「しかし、惜しい事をしたな」
「何がだ?」
「イヤ、王だ……」
「ネクロマンサーだとわかっていれば、殺そうとはしなかっただろう」
「それに気付けないとは……やはり愚かだ」
「ネクロマンサーなんて忌み嫌われるモノじゃ無いのか?」
「それはそうだが……」
「実際は、強い」
「ゾンビ兵士が造れるのだぞ、最強だ」
「戦争に怯える必要も無い」
「それに、嫌われ者だろうが、そんなものは関係無い……勇者とは詰まりは兵器なのだから」
「それはそうか」
「戦争の為に召喚されたのだから、やっぱり兵器か」
「その最強の兵器を、みすみす投げ棄てたのだ、戦争に成っても勝てる筈もない」
「で、成りそうなのか?」
「わからん」
「それを避ける為の私で、この旅なのだが」
「まあ、その旅……続けて貰おう」
「従者の代わりは、このロイドが務める」
「人が代わった所で、気付かれんだろ?」
「ふん、従者の顔なぞ誰も見ていない」頷いた大臣。
俺もロイドも頷き返した。
そして、塹壕穴の前。
草木の茂る森の中に、地面に寝かせた扉が有った。
下に洞窟? トンネル? が有るのだろう。
静かに、開ける。
やはり、斜めに伸びた人口の洞窟だ。
まずは、ネズミに偵察だ。
今日は、随分と遅くなったけど何とか書けた。
荒いなあ……自分でも思う
ポイントも増えたし
書くのが楽しいし
明日も遅く為るだろうけど……
書きたい
書くぞ~