仕組まれていた襲撃
翌朝はカラス達が町中のそこかしこの屋根の上に居た。
昨晩のネズミの情報だと、この教会にはスポンサーが居るようだ。
一段高い位置に建つ町一番の豪邸に何時ものように寄付を募る、そんな話を聞いたと言っている。
ロイドの情報は、ここ最近神父が教会を空けている、それぐらいだった。
深夜の教会には、不審な点は見付からなかった。
しかし、消えた学生の話は、不自然な程に無いのだそうだ。
なので、ネズミに引き続き昼間はカラスに仕事を引き継いだ。
「その豪邸を調べるべきかな?」警戒してか、隠語なのか豪邸としかわからない。
「そうですね」何かを考えているロイド。
「奴隷狩りは……本当に有ると思うか?」
「わかりませんね」
「学生が消えたを、簡単に考えれば」唸りながら「有ると……成ります」
「しかし、この間の連中は、どうも奴隷狩りでは無いような気がします」
「ゾンビにすれば早いのだが」ため息だ。
「そのリスクを背負う必要は無いでしょう」
「我々の目的は、先遣隊の安全です」
「ソコさえクリア出来るのなら、奴隷狩りでも何でも好きにやってくれればいい」
「その確証が欲しいだけです」
ロイド……ドライ過ぎるぞ。
「まあしかし、俺達が襲われたのは事実だ」
「そして、ヒントは教会の首飾りしかない」
「それが、見せ掛けだけの罠の可能性も有るがな」
「先ずは教会だな」
「そうですね」
「あれだけの人数が潜伏出来る場所」
「ソコを突き止めましょう」
「町の中なら、教会かその豪邸、その2つに絞れますね」
「纏まってと成るとソコしかないな」
「この町の造りでは、大きな建物は3つしかないしな」
後の1つは宿屋か、ここの巨大なウッドデッキでも、所詮は人工的な床、しかも木だ、強度的にも構造的にも難しいだろう。
「しかし、何故に木なんだ?」
「単純に森の中だからか?」
「にしては、難しい造りだ」
「理由は簡単な事です」
「ココは国境に近い、隣国に攻め込まれて拠点にされるのは厄介です」
「イザその時は、火を放って燃やしてしまえばいい」
「その為の多層構造のウッドデッキなのです」
成る程、確かに良く燃えそうだ。
普通の火事が怖そうだが。
戦争の為の備えが優先か。
「その豪邸の方なのですが、ネズミ達にお願いできますか?」
「警備が厳重なので、忍び込むのは無理そうです」
「私は、町の外を調べて見ます」
警備の事を知っていると言う事は、既に調べたのか。
もしかすると、こっちの方が本職か? 手際が良すぎる。
「カラスの範囲も広げよう」
「森の木が邪魔するだろうから詳しくは無理だが、見える範囲で探させよう」
「そうですね」
「お願いします」
そう、頭を下げて部屋を出ていった。
「しかし、学生が気になる」
「そんなに大勢がいったい何処に」
「不自然なのは確かだ」頭目が目を細めて。
「生きて居るにしろ、死んで居るにしろ痕跡は残る筈なのにだ」
この町に来て10日ほどが過ぎた。
その間、何事も無く、何も出てこない。
いくら調べても、全くに状況が変わらない。
先遣隊の方も4日前にイセオ湖を通過して居る、今日、明日には襲われたその場所を通る頃だ。
カラスを一匹送ったので、状況は逐一わかる。
この町に着くには後10日は掛かるだろう。馬車なのだからやはり時間が掛かる。
「これだけ調べて、何も出ないと言う事は……」俺は口元に手がいった。
「まさか、あの場所にまだ居るとか……」まさかな。
「迎えに行きましょう」ロイドが急に立ち上がる。
「そのまさかなのか?」
「可能性はゼロに近いですが」
「全くのゼロでも有りません」
「こちらで出来る事が無いのです」
「直接、警備をしましょう」
「初めからそうすれば良かったのでは?」
「それでは、少数の先遣隊に成りません」
「が、我慢の限界です」
「理由は後でこじつけましょう」
来た道を戻る事に成った。
トラックは馬車も荷車も切り離して置いていく、もちろん馬もだ。
カラスは最低限の監視役を町に残して先に飛ばした。
その連絡を受けるボスは一緒だ。
そのカラスのボス、今は小さいロイドに成っている、が「また、大木が倒れている様です」
「あの大木は退けたぞ」と、本物のロイドの顔を見た。
「急ぎましょう」
「馬車はソコに着くのは後どれくらいだ?」小さいロイドに聞く。
「明日の昼前位でしょう」
前回は、ソコからココまで2日掛かった。
魔物を倒しながらで急いでは居なかったが。
それでも、俺達がソコに着くのは明日の夜に成るだろう。
奴等が、この前見たいに夜まで待つのならば……それでもギリギリか。
「半分ほど、その場所に残して警戒してくれ」カラスに。
「いえ、全部でお願いします」ロイド。
「馬車の方は一匹が居るのでしょう? それで十分です」
「その場所を広く偵察して下さい」
「わかった」小さいロイドが本物に頷いた。
「油断しました」
「いえ、過信です」
「自分達が、あんな者に遅れを取る等と考えもしませんでした」
「ああ、完全に裏を掛かれたな」頭目が唸る。
「コレは、あの首飾りに気を取られ過ぎた」
「あれは、やはりワザと見せたのだ」
「俺達を町に留める為に……」拳を握る。
「額の奴隷印も……含めてかもしれん」その拳を床に叩き付けた。
「そうなのだとしたら」今まで聞くだけだったマリーが「私達を狙った事が、初めから仕組まれていた」
「私達が偽物としてソコを通ると知っていた」
「情報が筒抜け?」
「そうなるな」頭目の声が荒い。
「俺達に依頼を出した事を知っている誰かが裏切った」
「王国にそいつが居る」
「黒幕?」俺が。
「スパイか? 裏切り者か?」
「ただの怨みか?」
「大臣なんかやってるんだ、怨みも有るだろう」
「戦争に成るかも知れないのにか?」
「その戦争を望んでいるヤツかもな」
「それだと、幾らでも居るぞ、王国にも他国にも無数だ」
「王国にもか? 負ける戦争なのだろう?」
「逃げ先が有るのだろう」
「それとも、ただの馬鹿かもな」
「その戦争に成らないかも知れないわよ」
「ココはまだ、王国なのだから、事故にすれば良いだけよ」マリー。
「そうだな」
「なら、権力争いか」吐き捨てた頭目。
「馬鹿か、賢い野心家か……他国か」
「それとも、その全部かもね」マリーが呟いた。
今日は、何とかなった!
少し遅くなったけど。
少し、荒いかもしれないけど。
そのうちに直すかも知れないけど。
話の筋は絶対に変えない。
今週は、キツイ~。