プレーシャ
それから二晩掛けてプレーシャにたどり着いた。
襲撃は無かったが魔物には出くわした。
雑魚ばかりだが、鬱陶しい事この上ない。
ゾンビ共がワーっと出ていって、ワーっと帰ってくる。
それだけだ。
もちろんジュリアやタウリエルが弓を撃ったりもするのだが。
が。
その弓にフローラルがワザと当たり、頭に刺さった矢をタウリエルに見せに行くのだ。
そのたびに叫んで気絶したタウリエルを介抱しなくちゃいけない。
誤魔化さなくちゃいけない。
いい加減にしろよ。フローラル。
さて、町に入る前に俺達はタウリエルとお別れだ。
もう、2度と迷うなよと、握手してサヨナラした。
別に彼女のせいでは無いのだが、この鬱陶しいからやっと解放される。と、バスを睨んだ。
そして、宿屋を探す。
頭目が言うには、この町に暫く留まらなければいけないらしい。
先のテロリストの件も合って、ここで一旦、本物と合流する事に成った様だ。
ベルガモの保険ギルドの支店を使い連絡をとったのだそうだ。
つまりは本物は、やっとベルガモを出たところ、と言う事だ。
そんな話を歩きながらに聞いていた。
何故に歩きか、それはこの町にトラックどころか馬車も入れない。
巨大なウッドデッキの上に町が乗っかっている、それも複層式、階層が何段にも在る。それらが全て木で出来ていた。
森との境も丸太の塀だ。
成る程、森の都だ。
そんなわけで、乗り物は町の下に有る駐車場のような所に停めさせられた。
もちろん、フローラルは留守番だ。
宿は町の中央に有った。
探すのに若干に苦労させられたが。
部屋自体は空いていた。
何でも、100人以上の団体客が突然に帰って来なくなったと、女将が怒っていた。
「それ、ヤツ等の事だよな?」小声でマリーに。
「でしょうね」どうでも良いと、言う返事。
「宿屋の住人と云う事は、ココにはヤツ等の拠点は無いのかもしれん」成る程、頭目の見解に納得だ。
と、案内された部屋に入れば、そこは大部屋だった、いや、大ホールだ。
全員で一部屋か?
他に部屋は無いのか?
と、案内の女将をと、探したがもう既に居ない。
それに、其々が適当な場所でくつろぎ始めている。
納得していないのは俺一人かと、端っこに転がった。
うたた寝してしまった様だ。
回りの喧騒に目が覚めた。
どうやら宴会が始まっていた。
盗賊共が酒をかっ食らっている。
もちろんその真ん中にジュリアが居た。
ベロンベロンで訳のわからない踊りを踊っている。
マリーの裸踊りよりはましだが。……にしても酷い。
「やはり血なのか……」
「弓を使えて凄い奴なのに」
「弓どころか、全部の武器が使えるわよ」俺の独り言を聴いていたのか! マリー。
「全部? 何でも?」
「そりゃそうでしょ」
「自分で造ったモノを試せないんじゃ、その出来も良し悪しもわかんないじゃない」
「ああそう云う事か」ポンと手を打つ。
「技とかは簡単なのしか使えないけどね」
「職業柄、器用貧乏は仕方無い事ね」
「器用貧乏? イヤイヤ単純に凄いじゃ無いか」
「そう? でもイザ戦闘になったら武器は1つよ」
「弓を引きながら剣は振るえ無いわよ」
「臨機応変に状況を見ながら、武器を持ち替えて……」
「盾役でアルマにかなう?」
「一撃もシルバの両手剣の方が遥かに強いわよ」
「ゼクスは盾で守りながら確実に進むし」
「まあ、今の所は遠距離狙撃でしょうけど、その専門の……例えばタウリエルみたいなのが新しく入ったら、もう出番も無いでしょうね」
「一番になれなくても、2番じゃ……」駄目か。
「つまりは、やっぱり器用貧乏なのよ」
「ジュリアの祖先もそうだったしね」
「うーん」
「あ! でもピーちゃんが居るわね」
「ピーちゃんの背中に乗りながらの攻撃はジュリアにしか出来ないわ」
それは、たぶんフォローなのだろう。
巨大ひよこゾンビのピーちゃんは単体でも十分に強い。
戦闘中は常にジュリアを守っているから、目立ってい無いだけだろうしな。
「本職は鍛治師なのだから、それで十分でしょう」
そうだな、マリーも戦闘じゃ、大して役に立って居ないし。
俺なんかは、参加すらしていない。
うん、十分だ。
……。
あれ? 話がすり変わったぞ。
十分じゃ無くて、凄いんだって、と、続けようとした時にはマリー居なかった。
宴会の真ん中でテーブルに飛び乗り踊っている。扇子の代わりはお盆だった。
その宴会は深夜迄続いた。
俺は我慢出来ずに、廊下で寝た。
明日、もう一部屋とろう。
翌朝、マリーに蹴り起こされた。
「あんた、何でこんな所で寝てるのよ」
マリーはなぜに蹴って起こす。
もう少し優しく起こせないのか? と、想像したら気色悪かった。
うん、これからも蹴って起こせ。
「買い物に行ってくるわ」コツメとジュリアも一緒の様だ。
「部屋にはもう誰も居ないから、寝るのなら中でね」
「頭目とかは?」
「町を調べに行ったわ」テロリストの事か。
「ロイドは支店の準備よ」
「ムラクモ達はデートだって」コツメが口許を抑えながら。
「ゴーレム達はピーちゃんの所に遊びに行きました」ジュリアが言う。昨日あれだけ呑んだのに、二日酔いには成らんのだな。やはり凄い。
そうそう、ピーちゃんも馬も駐車場だ、町には入れさせて貰えなかった。
動物は駄目なのだそうだ、仕方無いか。
そのうち、ピーちゃんダケでも変化でコッソリ入れよう。
昼過ぎ、俺は一人で町を歩いた。
ここは、人間が少ない様に感じた。
獣人が多い、コツメカワウソは居ないが、鹿が居た、牛も、犬も、猫も。
擬人も多いな、ウサギも居る。
町自体は賑わっている。
商店街も良い感じだ。
店の品揃えを見るに、ロンバルディアのモノでは無い雰囲気の物も多い。
ヴェネトの物か。
しっかりと交易が出来ているのを見ると、戦争の影など無い気がしてくる。
と、その商店街の端に見覚えの有るマーク。
緊張が走った。
あの男達の胸の首飾りと同じだ。
ソコは教会の様だ。
信者と思わしき人達が普通に出入りして居る。
目立たない様に、その前を通り過ぎて、宿に取って返した。
部屋では頭目とロイドが話し込んでいる。
「教会を見付けたぞ」開口一番に。
「ああ」驚く様子も無く頷いた頭目。
「この町に根付いた教会の様です」ロイド「悪い噂も聞きません」
「もう少し、探りを入れる必要が有りそうです」
「下手に飛び込んで暴れても、悪者は俺達に成りそうだ」
「それに……ヤッパリ何かがおかしい」
「教会が有って信者なら、この宿に泊まっていたのは誰だ?」
「その客は、学生みたいよ」マリーだ。
「南の村に有る寄宿学校の生徒が、忽然と消えたそうよ」
「学生?」
「魔法学校よ」
「ロマーニャの北の村か」頭目は知っている様だ。
「その足取りも、探るべきですね」
「今夜にでも、忍び込んで見ましょうか」
「教会か?」
頷いたロイド。
「なら、ネズミも放とう」仕事だ。
その日の夜、町中のあちこちをネズミ達が走り回った。
今週は日刊は無理かもしれません。
仕事が忙しすぎて……。
ご免なさいです。