襲撃者
森の中の邪教徒どもが一斉に矢を放ってきた。
「まずい!」こちらは道路の上、開けた場所だ、隠れる所がない。
しかし、矢の軌道は少しズレた所に飛んでいく。
「うふぉふぉ、スキル幻想空間じゃ」
「流石、アマゴクイ様」イワナクイが褒め称える「素晴らしい」
「幻想空間はサルギンの王ダケが使えるスキルなんだよ」ヤマメクイが「凄いよね」
あの水面を造っていたヤツか。
それと、同じ様に俺達の幻想をズレた位置に造ったのだな。
俺達に見えないのは、変化と違って見る者に作用するのか。
「今のうちよ、ジュリア達は車に逃げて」マリーが俺の手を引きトラックに押し込んだ「生身なんだから、当たると痛いわよ」
「大丈夫!」コツメが叫ぶ「ゴーレム達が盾に成ってくれてる」
見れば、コツメとジュリアとタウリエルを囲って固まっている。
そのコツメは氷手裏剣を投げまくっていた。
その隣のタウリエルはソコから矢を放っている。
ジュリアの武器が無いな……。
「ムラクモ、弓を奪えないか?」
「ジュリアに渡してやってくれ」
「ハイさー」と、舌を飛ばした、渋いアランのままでの舌飛ばし……異様だ。
ゾンビ達が突撃して居るその中から弓を拾い、ジュリアに投げた。
そして、自身も空中戦に突入だ、透明状態で次々と仕留めていく。
シグレも透明化と高速移動で回り込みながらの攻撃。コツメより忍者している気がする。
セオドアは透明化を使えるのに使っていない。木々を飛び回りながらの何時ものアメコミ攻撃にカラスとネズミとの連携をプラスしている。
飛び回るセオドアに複数のネズミが飛び付きそのまま敵に突撃、一撃後にセオドアは離脱するが、その場に残ったネズミが続けて攻撃、そしてカラスが急降下でトドメを刺す。脳天直撃クチバシ! かな?
木々の隙間を縫い、高い所から突然に現れる敵、奴らには初めての経験なのだろう。屈強な筈の男達が全くに対応が出来ていない。
別の場所では、他のカラスが上に惹き付け、そこに腰下の低い所から小ロイス達が青竜刀を突き上げてくる。
慌てふためく間もなくゾンビ達の正面攻撃。ゾンビ達は流石は肉体派盗賊ならではの強さを発揮している。
と言うかゾンビだ、矢も剣も気にもしていない。それは強いだろう。
その頃には、ジュリアとタウリエルの攻撃がバージョンアップしていた。マリーが矢に小さな爆弾を括り付けてランボウに手渡している。炸裂ボウか? そんな映画があったな。
敵からの弓の攻撃の恐怖が無くなったのかコツメは前線に突撃して、もうソコには居ない。
木々の間を高速移動しながら刀と氷手裏剣でシグレに対抗して居るようだ。
ピーちゃんとサルギン骸骨は、変化で敵を翻弄して居る。味方の振りをして近付き……ブスりだ。
敵の包囲陣形は瞬く間に崩壊した。
そもそも普通の戦闘経験しか無い者達だ、今の俺達の敵では無い。
そして呆気なく終わった。
敵の大半は逃げた様だ。
「一つ聞いていいか?」俺は足元に転がった、死体を見ながら。
「奴隷狩りって、こんなに大勢で待ち伏せするものなのか?」
「しないな……」頭目が応えた「人数が多すぎる」
「これではコストが合わん」
だろうな、大人数で、何時来るかもわからん者をただ待つ……しかも、人の通りそうもない森の奥、この先はイセオ湖への一本道だ。
そして、死体の額には見覚えの有る印、以前にカエル達が描いた印だ。
「奴隷を使って奴隷狩り……」それもなんとも奇妙だ「無くは無いだろううが……どうにも府に落ちん」
「でも、変な宗教なのは間違い無さそうよ」
マリーがその額の印を指差した「この奴隷印の右下に小さな別の印が重なっているでしょ」
「これ、ドール印って言って、完全に自我を無くして人形に成るのよ」
「そして、そのドール印は本人が望まないと無理なの」
「この男は、自らそのドールに成ったって事か」
「自我を無くすと言っても」頭目が捕捉「心と意識が主に対して絶対服従に成ると言う事だが」
バーサーカーとかとは違うのか。
俺の使う使役、名ばかり奴隷と言うよりも、もっと分かりやすく本物の奴隷って感じになるか。
そもそもの奴隷ってモノが理解出来て居ないが。
俺の感覚では奴隷の中の奴隷……奴隷よりももっと奴隷?
「成る程、邪教か……」
「信仰のなせる技か」
「もう一つ」頭目が息を飲み込み「自国を盲信した兵士とか……国民とか……」トラックの後ろに繋がれた、借り物の馬車を見ていた。
つまりはテロリストの可能性って事か。確かにそんなニュースも有った、体に爆弾を巻き付けての自爆テロ。
今回のは、ソコまででは無いが、盲信と言う部分は合致する。
「本人に聞いて見るか」と、死体を見る。
「駄目よ」その俺をマリーが止めた「あんた、心を喰われるわよ」
「邪教にしろテロリストにしろ、確固たる信念の思い込みよ」俺を睨み「あんたに耐えられる?」
「訳のわからない教祖様なんて嫌よ」フンと鼻を鳴らし「魔王の方が幾らかましよ」
「まあ、テロならこれで終わりと言う訳でも無いだろう」
確かに、目印となる馬車を引いている限りは、また現れるだろう。
「そんな奴らを返り討ちも、料金の内だがな」不敵に笑った。
そんな頭目を見て、いったい幾ら貰った。俺は一銭も貰ってないぞ。等とは言わない、言えばイザと言う時に逃げられなく成る、それは嫌だ。
そん時は頭目、お前を置いていくぞ。
そして、俺達はプレーシャを目指すトラックの中。
死体は片付けようとしたのだが、タウリエルに止められた。
森林監視官殿が言うには、そのまま放置して置けば森の糧に成るからと。
だが、その糧とする殆どは魔物だと思うのだが、それはどうなのだろう。
等と考えたが、ここは彼女のフィールド……従いましょう。
取り敢えず使えそうなモノは剥ぎ取って、適当にトラックに放り込んではおいた。
その中の良さげな弓をジュリアがめでていた。
「えらく、気に入った様だな、それは良いモノなのか?」と、迂闊にも聞いてしまった。
「コレはヨウイチの弓です」ハッキリと「業物です」
「ヨウイチ?」
「余市の弓……では無いのか?」
「そんな伝説級のモノがこんな所で転がって居る筈無いじゃ無いですか」
「コレはその余市の弓を模したヨウイチの弓です」鼻の穴が開きっぱなしだ。
「伝説の鉄鍛治師、ヨウイチが造った弓なのです、レアです」
「鉄鍛治師?」
「その弓は木で出来てないか?」
「そうです」ふん。
「木なんです、鉄鍛治師が木だけで造ったのです、とてもレアなのです」
「高いのか?」
「いえ、値打ちは……あまり」
「みんな見る目が無いのです」首を振り「珍しいのに」
成る程……珍品の類いか。
「コツメの刀よりは良いモノ……くらいかな」もう、興味が無い。
「コツメちゃんのコテツも……素晴らしいモノです」もう一段に鼻が拡がった。
「虎鉄? コツメが勝手に付けた名前だろ?」
「いえ、チャンとした小鉄です」と、側に居たコツメの刀を勝手に抜いて「ほら、ココ、見てください」フン、フン。
根元部分に小鉄と有った。
「虎鉄じゃなくて……小鉄」
「虎鉄なんて、それも伝説級です」
「ロンズデーライトで造られた業物です」フン。
「隕石の欠片のか?」
「そうです」フン、フン、フン。
「因みにですが、作はヨウイチです」フン、フン、フン。
なんだ……ヨウイチか。たいした事……無さそうだ。
しかし、ジュリアよ、鼻息が……。
フン、フン、ふん、フン、フン、フン、フン……。