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ベルガモ


 そして俺達は旅の途中。


 その出発間際の事なのだが、俺と頭目は荷馬車に馬を押し込んでいた。

 悪戦苦闘のその姿をコツメがたった一言で解決してしまった。


 「ミニマム使えば?」と、ネズミのダンジョンを指差す。

 ソコには大量のネズミの死体、つまりはミニマムは幾らでも有る。


 そんなわけでポニーサイズの馬2頭、余裕で載った。

 馬は小さく成ったが、俺達の疲労はドット大きく成った。もっと、早く言えよ。



 「さて、一旦、ベルガモと言う町に行く」頭目はロイドと入れ替わりにトラックに乗っている。

 バスの運転はフローラルがしていた。新しい仕事を見付けた様だ。

 そのバスには、40人程が乗っている、大部隊だ。

 その中からロイドが自分を含めた6人を選ぶ様だ。それに口を出す積もりも無い、人選は丸投げ、頭目もその積もりの様だし。


 「ベルガモって?」素朴な疑問。


 「王都の次に大きい町だ」

 「特徴としては、獣人が多い」


 「ふーん」

 「そう言えば、王都にはあまり獣人は居なかったな」


 「人間の王の治める国だからな」

 「その王のお膝元だ、人間が自然と多くなる」

 

 成る程……目に見えない差別が存在すると言うわけか。

 ドワーフ達、職人ギルドが王都に無い理由……か。


 「ソコで一晩、宿を取って」

 「翌日はイセオ湖を経由して、プレーシャと言う町を目指す」

 「その町がヴェネトの国境に近い最後の大きな町に成る」

 「国境を越える準備の為だ」

 「このルートはそのまま本物が通る道に成る」

 下見も兼ねているのか。



 なぜにそんな所で一泊? の、疑問の答えは至極、簡単なモノだった。

 単純に遠いのだ。

 着いた頃には日が暮れていた。

 途中、幾度か弱い魔物と遭遇はしたが、然程はロスはしていないはず。

 コレが、馬車なら3・4日はゆうに掛かるだろう。


 

 町並みも少し雰囲気が変わった感じ。

 暗いので良くは判らないが、石造りの王都とは違い、木造が多い様にも思う。高さは2階建て迄の様だ。

 そして、住んでいる者も違う。

 トラックとバスが珍しいのか人が集まって遠巻きに見ている。

 王都ではチラ見程度がここではガッツリだ。夜だから人だかりに成らないだけ、そんな感じに見えた。


 宿は、町の中心の大広場に在った。街灯も無いので良くは見えないが、噴水が真ん中に見える、そこから放射状に石畳の道が幾つも延びている。

 王都は奥、半分が王城区画で手前半分が放射状に成ってはいたが、造り自体は良く似た感じだ。

 その王城区画の様なものも無くて普通に放射状に道が有るだけ。

 民衆区画が360度に拡がっている。


 まあ、うちの屋敷はその王城区画に建っているのだが。

 ……自慢している訳じゃ無いよ。

 城その物はもっと奥に有り、王城区画には貴族や役人の屋敷が連なる。

 その、端ッコだけどね。区画的にはそっち側。自慢じゃ無いからね。

 俺達の世界で言う所の、高級住宅地。……だから、違うからね。

 ……。

 ……違うよ。



 「宿を取って来る」と、頭目がトラックを降りた。

 そのトラックもバスも宿屋の前の広場に横付けだ。


 「あれ? そう言えばジュリアは?」


 「今更?」マリーが何時もの目。

 「出発した時からバスの方よ」


 ああ、道理で静か……居ても静か、か。スイッチが入らなければ……。

 そのジュリアを呼びに行こうとバスに乗り込む。

 

 中は初めてだ。

 一階部分は盗賊でひしめき合っていた。

 前の方の座席と後ろの座席を残し、その真ん中辺りは何も無い形に造り変えられたその床に直接座っている。そんなゾンビ達が全員で俺を見る。

 若干に威圧された俺は、早々に上に続く階段へと移動。


 そして2階は、今度はネズミとカラスとで溢れている。

 その中心にジュリアとピーちゃん、ロリスが居た。

 ジュリアの目の前には、明らかに其れとわかる酒樽。

 ここの住人は……完全に出来上がっている。

 絡まれるのは嫌だ、と、静にその場を後にした。


 

 ソコに頭目が帰って来た。

 バスの運転席横で鉢合わせ。


 「ここに居たか」俺を探していたようだ。


 「何か?」


 「宿なのだが……2部屋しか取れなかった」


 俺と頭目とで、後ろのゾンビ共を見た。

 ソレはそうだろう。行きなり来てこの人数は無理だと思う。


 「一部屋はロイド達6人が使うとして……」唸る頭目。


 その6人は影武者なのだから、か。

 まだソコまで気を使う必要も無いと思うが、用心か?

 にしては、バスはおかしいだろう。

 と、考えていると。


 「次に来る本物がそのまま使うのよ」と、マリー。頭目の後ろに居たのか。


 「じゃ、残りの部屋は女、子供と、運転して疲れているであろうムラクモかな?」


 じゃ、俺もかと立ち上がるフローラルを俺と頭目が運転席に押し戻す。

 「お前は駄目だ」

 「バスから一歩も出るな!」


 「何でだよ」そんな目で見る前に鏡を見ろ。

 半分腐ったゾンビが町中に出れるハズも無いわ。


 「アンタ……いっそのことスケルトンにでも成れば?」マリーが言うのだが。それでも同じだ。何一つ解決はしていない。


 「嫌だよ……まだ殆どが残ってるのに……」


 ハゲを気にした薄毛の言い分か? 残ってるでは無くて、見た目の問題なのだが。

 同じような拘りか、未練か、が有るのだろう。


 「サッパリするわよ」可哀想だから、もう辞めてやれ。

 「そんなに」一瞥し「腐り散らかして」


 涙目のフローラル、そのフローラルから体臭? 腐敗臭が涙と共に吹き出した。


 「うわ」鼻を摘まんで飛び出すマリー「臭い」


 しょげかえったフローラルを見る、俺も涙目だ。

 同情とかでは無い、臭いが目に染みるのだ。臭い……。


 


 翌朝、俺はトラックの中で目が覚めた。

 酒臭いと見ると、ジュリアが寝ている。

 大股開きで、ヨダレを垂らし、たまに身体をビクッとさせてニヘラと笑う。

 その寝姿に影の薄さは微塵もない。

 もう酒は飲ませないでおこう。そう、コレは酒のせいにしといてやるからもう呑むな。


 そこへ、マリーとコツメが入ってきた。

 その二人、ジュリアを見て「相変わらず、寝相が酷いわね」


 酒のせいにしたとこなのに……。


 「出発前に買い物に行っていい?」コツメが聞いて。

 マリーがジュリアを蹴って起こす。

 「ほら、起きなさいよ」


 「なに……」寝惚けジュリア。


 「買い物」

 「アンタも行くでしょ」


 「行く」のそのそと……ジュリアは可愛い部類のハズなのになあ。


 そんなジュリアの後ろ姿を見ていると、入れ替わりに頭目がやって来た。

 

 「出発は少し後だ」と告げる。


 「ああ、今三人で買い物に出たしな」


 「ロイドも野暮用だと出ている」

 「ここに保険と銀行の支店を作るんだとよ」と、窓の外、広場の先の建物を指す。


 その建物の看板は冒険者ギルドと商人ギルドとが一緒に掲げられている。

 ギルド会館、見たいに成っているのだろう。

 なんとも仕事熱心な奴だ。

 

 「しかし、人が多いな」人間はもとより獣人、ドワーフ、エルフと、それっぽいのが広場中に見える。

 「黒いガタイの良い……触手? なのか? の人も居るな」人では無いのだろう、亜人なのだろうが、今一ピンとこない。


 「ソレは、ミュルミドーン人だな、亜人だ」

 「虫に近いと噂される種族だ」


 ソレは、つまりは差別の中の差別をされる側と言う事か。

 だが、言われれば確かに虫っぽい。蟻っぽい?


 鱗を持つ者も居るようだ。


 「人が多い様に見えるのは、この乗り物が珍しいのだろう」


 「見物人か」俺達のせいか。


 そんな話をしていると、トラックの後ろが開かれて、水やら食料やらが積み込まれた。


 「酒は買ってないだろうな?」ジュリアを睨み「要らんぞ、必要ない」


 そのジュリア、背中にソッと何かを隠した。



 程なくロイドの用事も終わった様だ。

 出発だ。

 ノロノロと人を避けながらに動き出すトラック。


 動き始めて早々に、三人娘達はキャッキャと話し出す。

 コツメは髪飾りを買った様だ。


 「この町はどうだった?」何気に聞いてみる。


 「普通ね」三人同時に頷いた。

 「売っているモノは王都と代わり無いし」

 「ウーン……今一ね」


 そのわりには、いろいろ買った様だが。

 「ジュリアは何を買ったんだ?」酒以外で。


 ソッと見せてくれたのは耳飾り。


 「マリーは……パンツは買えたか?」の、その問いに。

 見せようとした何かを握りしめ。

 は! っとした表情。

 

 そんな顔を見せると言う事は……また、忘れたのか。


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