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可能性


 で、件の移住先なのだが、結局はあのネズミのダンジョンに決めたようだ。

 今はゼクス達と盗賊ゾンビ達が協力して、高架に繋げる道を掘っている。

 ゼクスのゼ、はゼネコンのゼ、だった様だ。


 まあ、道が出来たなら、あそこの車を取りに行こう。

 俺の愛車と同じやつ。

 頭目は、フィアットパンダ4×4と言う車が気に入ったようで、チッチャな車に体を押し込んで乗り回していた。

 その他にも適当に魔法を掛けて置いたので、どれでも好きな乗り物を選べば良い。ただ、ソコに有る全部じゃない、魔法を描けたのは俺の趣味が多分に反映している、詰まりは外車が多いって事。

 古い外車好きにとってはここはパラダイスだ。


 

 さて、そんな事よりも幼女だ。

 取り敢えずはルイ家に預ける事にした。

 ハンザ家よりも金持ちだしその方が良いだろう。それにマリーの取り立てが厳しいらしいし、その上子供まで押し付けてもなぁ。頭取も大変だ。


 の筈なのに、今は家に居る。

 ジュリアになついてしまった様だ。


 「しかし、良く生きて居られたな?」そんな幼女を見ながら。


 「本当、運が良いのね」マリーも見ていた。


 「そう言えば」ジュリアが「聞いた事が有ります」

 「転生者は、基本的にスキルを持たないのですが」

 「希に、初めて出会った者のスキルがうつると」


 「うつる?」おう? スキルは風邪か?


 「そんな話も有るわね」頷くマリー。

 「私達の感覚では、見て覚えるとか、そんな感じなのだけど」

 「ソレは、転生者じゃ無くても起きる事」

 「師匠に付いて何年間か修行すれば、そのスキルが自身に産まれるのよ」

 「ソレが転生者は白紙状態だからか、見て、触れて、スグに産まれる事が有るのよ」


 「門前の小僧習わぬ……って、ヤツの強化版!」

 ?

 !

 「て、事は……最初に会ったのは時と空間の勇者……だから」


 「そうね」

 「でも、そのスキルそのものは無理よ」

 「勇者と呼ばれるのは、特別過ぎるスキルだからよ」

 「ソレがうつるなんって……」

 「有るのかしら……」考え込み始めた。


 今まではそんな、希なケースが無かったダケで、もしかすると? か?


 三人で、幼女を見つめ、唸り始める。


 時と空間のスキルなんて、そんな強力なのをこの子が?


 「でも」マリーが「そのスキルが、仮に有ったとして」

 「なぜ? この子は襲われ無かったのかしら」


 「ソレは、これのせいじゃないの?」と、ソコに通り掛かったコツメが、幼女の胸元の、今は枯れてしまったユリの花を指差す。


 「コレは、ピアノの発表会の時にお母さんが着けてくれたの」と、胸の枯れた花を大事そうにしている幼女。


 「そう言えば、ネズミは雑食で他の花は喰うんだけど、ユリだけが苦手だった」今、思い出した。


 「そうなの?」驚くマリーとジュリア。


 「そう見たいよ、ゾンビネズミが嫌な匂いって言ってたもん」コツメは、ゾンビネズミとも仲が良いのか。捕食者と被食者の関係の筈なのに! 獣人とゾンビだからセーフなのか?


 「お母さんが守ってくれたのね」ジュリアが優しく、その枯れた花を取り、俺に差し出した。


 「何だ?」


 「鈍いわね」鼻を鳴らしたマリー「アンタに、この花をゾンビ化してって事よ」

 「これ以上に腐らないようにね」


 成る程、と、呪文を掛けた。

 ユリの花には何も変化は見られない。


 「コレは、何処かに飾っときましょうか」と、幼女に問いかけ「どこがいい?」


 「じゃ、お姉さんの部屋」と、ジュリアに抱きついた。


 

 その日の晩は、ルイ家に帰らず、ジュリアの部屋に泊まった幼女。

 名前は百合子と言うらしい。寝るまでの間にジュリアとコツメと遊びながらに話していたのを聞いた。

 だから、ユリの花、だったのか。


 マリーはあの後に、買い物に出ると言って出ていって。

 帰って来た、その手にはスキル瓶と錬金術の初心者セットを持っていた。

 ソレを百合子に渡して「勉強しなさい」と、一言。

 この世界で生き抜く手段として、の事だろう。

 優しい事だ。

 


 その日の夜、夢を見た。

 多分、夢だ。

 俺は、半透明な状態で、元の世界の俺を空中から見ていた。

 俺は俺には気付かない。

 俺も俺には、何も干渉出来ない。

 ただ、見ているだけだ。


 

 俺はトーストを咥えながらに、眠い眼を擦っている。

 何時もの朝だ。

 これから、ブラックな仕事に出るのだろう、憂鬱そうな顔をしている。

 客観的に初めて見た自分の顔、暗い顔、決して人に好かれる顔じゃない。

 昔は人当たりも良くてモテたのに……。


 前の仕事を辞めて、派遣に成って……人相も変わったのだろう。

 その前の仕事は、中堅の会社で普通のサラリーマンをしていた、こっちで学校を卒業して、帰郷せずに就職したのだ。

 悪くない会社では有ったのに……我慢が切れてしまったのだ。

 録なキャリアも無いのに突然に思い立った様に辞表を出した。

 その後悔も顔に乗っかって居るのだろう。

 イヤ、仕事が有るだけ増しなのか……。


 そんな俺に電話が掛かってきた。

 母親からだ。

 俺は、少し嫌な顔を顕に電話に出る。

 

 それに、そっと近付いて、電話の声に耳をそばたてた。


 母親からの呼び掛け。

 素っ気ない返事の俺。

 仕事が有るからと電話を切ろうとする俺に、母は泣いていた。

 帰ってきなさい、と……言って。


 その電話は、以前に受けた事が有る。

 その後の通勤途中の車の中で、俺はこの世界に召喚されたのだ。

 いきなりに、突然に。

 


 そして、目が覚めた。

 いい気分の夢では無い。

 今の俺は、あの時と同じ顔に成っているだろう。


 ノソノソと、ベッドを這い出し。

 服を着て。

 何時もの場所へ行って、煙草に火を着けた。 


 ソコへマリーもやって来る。

 こちらも、冴えない顔に成っていた。


 「イヤな、夢を見たわ」ボソッと。


 頷き「俺もだ、ここに来る前の俺を見ていた」


 驚いた表情のマリー。

 「私の夢も同じよ」

 「ここに来る前の、病院での私を半透明な私が見ているの」


 「同じだな」


 「……」二人して黙り込む。


 「偶然?」先に口を開いたのはマリー「じゃ無いわよね」


 「偶然なら……出来過ぎ、だな」


 「おはよう」ソコにジュリアと百合子がやって来た。


 「お母さんの夢を見たの」少し涙目の百合子。

 「ピアノの発表会の時の」

 「会いたいな」

 「何処に居るのかな?」

 「家に帰りたい」


 その問に、俺も頷いた。


 「三人が同じ夢ね」

 「完全に、偶然じゃ無いわね」と、じっと百合子を見つめるマリー。

 「時と空間のスキル?」ボソッと「なのかしら?」

 

 「夢を見せる?」


 「夢じゃ無くて、時間と空間を遡らせたじゃない?」

 「転生を条件にしてね」


 「ソレを夢と認識してしまったのか?」


 「そう考えれば」頷き「辻褄が合うわ」

 「そして、コレが時と空間のスキルなら」

 俺を見て。

 「私達……帰れるかも知れない」


 「なに!」咥えた煙草をその場に落とし、椅子を蹴飛ばして立ち上がった。


 「この子のレベルでソレが出来るなら」

 「本物の時と空間の勇者なら、元に戻れるゲートみたいなのを……」

 「造れるんじゃない?」


 「あの殺人鬼が……か」


 「どうにかして、会って見たいわね」


 「ヤツは危険だぞ」


 「でも」頷き「初めての手掛かりよ」

 「それに、危険なら、貴方が奴隷にしてしまえば良いのよ」

 「殺さずにね」


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