盗賊とカエル
深い森の中を半日ほど歩き、今は山の中腹辺り。
日も陰り初めた頃。
時計の針は、19時半。
「この辺りで夜営でもするかの」大きな木の根元に腰を落とした骸骨。
俺も適当に座る。
蜂達もそれぞれくつろぎ始める。
今は、11匹居る。
あれからスグに川を見付けて蜂達に命じて探させた。
程なく、それぞれが死んだ蜂を抱えて戻ってきた。5回程だ。計20匹の蜂の死骸。
召喚出来たのは、そのうち7匹で、11匹になった。
1度に召喚出来る数は、最初の頃のそのままなので、俺自身はほとんど成長していない、と、言うことか……。
しかし、蜂は成長している様だ。生き残った4匹は、新しい蜂の3倍位の大きさに成っている。腹が親指ほどだ。
そして、確実に強く成っている。
針を銃弾の様に飛ばして攻撃出来る様に成った。針ヌートリアのスキルだ。
火を起こして倒した針ヌートリアを放り込む。
コイツは食える! と、スキルが教えてくれる。
最初の何の役に立つのか分からなかったスキルのヤツだ。
目の前のモノを食えるか食えないかを判別してくれる、只それだけなのだが……とても役に立つ、素晴らしい。
が、料理の仕方がわからない……丸焼き……とにかく焼けば大丈夫だろう。
針ヌートリアの丸焼きは、臭いは酷いモノだが、味も酷かった。
腹を満たすのに、気合いと根性を必要とした。
蜂達は、棄てた内臓にたかり、生のまま食っている。
旨いのだろう……みるみる減っていく。
料理………問題だな……。
そして、ふて寝した。
翌朝、腕時計では9時を過ぎている。
「ノンビリじゃのー」天を指し「もう日も昇っとるぞ」
確かに寝過ぎたな……頭がボーッとしている。
「また山登りか?」
「まだまだ遠いのか?」
「この山を2つ程を越えてスグ先じゃ」
立ち上がり、剣の位置を整える。
「もっと、楽な道とかは……無いのか?」
「在るぞ」
「楽で、早い、チャンとした道じゃ」
骸骨の顔を見る。
「人に出合えば……面倒か」
「そう言う事じゃな」頷いて、歩き出す。
道中。
相変わらず、スライムと針ヌートリアにしか出合わない。
ドチラも、もう楽勝だ。
蜂達が瞬殺してくれる。
登って。
下って。
夕方前。4時を過ぎた頃。
崖の上から下を覗き込みながら。
「ここで、夜まで待ちじゃな」と、骸骨。
俺も覗き混む。
3メート程下に石畳の道がある。
「凄いな!舗装されてる道が真っ直ぐ伸びてる」
「舗装道路は国の力を現しておるからの」
「この国は強い」
「力? 国力?」
「どっちもじゃ」
「綺麗に平らに真っ直ぐに。造るのも大変じゃが、維持もな」
「しかし、それは、イザ戦争の時に速さと量をもたらす」
「兵士の行軍の速さ……補給の速さ……それらの量じゃ」
「勝敗は速さが決める、速さが、強さ、じゃ」
「平時は、経済の速さ、か」
「そう言う事じゃ」
成る程、そう言うものか。
「でも、夜まで待つ意味は?」
道を逸れても、多少の高低差と少し丈の在る草むらとで、少し脚を取られるくらいのものだろう。
「ここからは、迂回は出来ん」
「この道を進むしかない」
「それは?」
「この辺りのモンスターは少し強い、しかも群れる」
「が、道路には結界石が混ぜ混まれておる。城の結界よりかは、随分と弱いモノだが、ソレでも道を行く分には十分の効力は在る」
「ワシ1人なら、問題にも成らんが……数で来られては、貴様を守りきれんやもしれん」
「安全策じゃ」
「わかった」頷き「委せる」
「昼間は、人通りも有るようだしな」指を差す。
差した先、少し遠い所。
道路を幌馬車? が一台近付いてくる来る。
しかし、引いているのは馬ではなくカエルだった。
「カエルだ……」目を凝らし。
「ン? ニヒキガエルじゃな」
「前と後ろで車を牽くのを得意とする、そんな擬人じゃ」
崖っぷちから少し離れた、座り良い場所に腰を落としつつ。
「あれで結構、速いのじゃぞ」
「擬人? とは?」
「フム……」
「人間……亜人……獣人……擬人……魔人……魔物」
「順番で、人から遠く成る」
「亜人は、エルフとか、ドワーフとか、イロイロじゃ」
「獣人は、いろんなタイプの獣の様なモノ……1度、見たじゃろ、と、ここまでが人間に近い霊長類じゃ」
「そして、擬人……カエル……その他……大分と人からは掛け離れては居るが、知力は人並みじゃ、喋ったりは出来んが、聞く事は理解出来ている、分類的には魔物なのじゃが、まあ、良いモンスターかの? そんな感じじゃ」
「魔人は、ほとんどモンスターじゃな、本能で生きている、若干、人に近いがの」
「魔物は魔物……そのままモンスターじゃ」
「大雑把にはだが、そんなモノじゃ」
「で、ここはどんなモンスターが出るのか?」
「ウーム……昼間は、イノブタンとかウリボークンとかじゃの……」
「夜に為れば、その上にイノキングじゃ」
「ソイツ等は……2本脚で立つのか?」
「おおう!正解じゃ……魔人に分類されとるからの」
「槍が得意とか?」
「ソレは、イノブタンじゃな」
「斧は?」
「イノキングじゃ」
「因みにウリボークンは、体術の使い手じゃな」
「ナルほど……あれは、ウリボークンか?」
「?」
「カエルの幌車が、その3種に襲われて居る様だが?」
骸骨が立ち上がり。
「ホントじゃのう」
「助けるべきか?」
「ワシが出ては、ヤヤコシイ事に成るやも知れんぞ……」
「あぁ」頷いて「先ずは俺達だけでやってみる」
「そうか」合わせて頷き「危なく成ったその時はワシを呼べ」
そして、もう一度頷く。
「作戦開始だ」蜂達に告げる。
「偵察任務を命じる! 候補者を選出せよ」
ブン!
――先行隊3名――隊長蜂が新人の中から選びながら、指示を出す。
程なく、カエルの幌車の方へと、飛び行く。
俺も、同時に動き出した。
崖をよじり降り。
走り。
向かった。
道中。報告が入った。
モンスターが計5匹。その内訳は。
イノキングが1匹。
イノブタンがが1匹。
ウリボークンが3匹。
カエルの幌車からは、人間の男達3人が飛び出して応戦しているようだ。
近付くにつれ、詳細が目にが入る。
車のそばにはカエルが腹に槍が刺さった状態で蹲って居る。ソレを、もう1匹が庇いながら支えていた。
カエルが殺ったのか? 相討ちか?
側に、イノブタンが1匹、倒れていた。戦闘不能だ。
「全隊に告げる……戦闘態勢に入れ」
一呼吸起き。
「目標! モンスター! 全隊で遊撃せよ」
「戦闘開始だ!」
ブブブブブブブブーン
人とモンスターの闘っている隙に、後ろから寄ってタカっての攻撃。
致命傷を与える事は出来ていないが、毒で体力を徐々には削っている様だ。
人間達は、その場に突然に新たに現れたモンスター(蜂達)に驚き! 慌てふためくも、次第に状況が見えてきたのか? 徐々に後退し初めた。
モンスター同士の殺し合い……とでも、理解したか?
トバッチリだけは避けようという感じの闘い方。
一方、モンスター達は蜂を攻撃しようにも小さすぎるのか、的に成らない様す。
仕方無くか? ヤケに成ってるのか? 的の大きい方の人間達を狙っている。
暫く続くその状態。
結構な時間。
突然、ウリボークン1匹が、何も無い所で倒れた。
毒が効いたか?
ソレを合図の様に、次々と倒れ初めて……。
最後の1匹、イノキングも崩れ落ちた。
完勝だった。
怪しまれ無いように、蜂達をパーカーのフードの中に待機させ。
ヘタリ込んでいる人間達に声を掛けた。
「大丈夫か?」
人間達は、ギロリと俺を見て。そして驚いて。最後に納得した。
大方、俺も巻き添えを食ったのかと、考えたのだろう。
「兄ちゃん……なかなか運が良いな」
「モンスター同士の同士討ちで命拾いなんて」ニヤリと笑い「一生の内に、在るか無いかダゼ」
曖昧に返事を返し。
ソレでは! と、手を挙げ。踵を返す。
その背中に、人間達が声を掛けた。
「待ちな! 兄ちゃん……」
振り向くと。武器を構えつつ、ニヤ付いて立っている。
「本当に運がいい」先頭の男。
「有り金全部で命が買えるゼ」右手の男。
「その、異世界の服と、左手の光りモノもだ、置いていけ」俺の後ろに回り込んだ男。
コイツら盗賊か?
「骸骨を呼んでこい」小声で。
パーカーから一番小さい蜂がソッと抜け出し、飛び立った。
先頭の大柄な男がボスか?
武器は日本刀だ! が、短い、脇差しだな。
を、振りかぶり。
「さぁ」
「おょ!」何処からか女の声、子供かな? が微かに聞こえた。気がした。
もう1人居るのか?
辺りを見回しても、見付けられない。
気のせいか?
ソレよりも、後ろの男が気になる。
3本のナイフをジャグリング、器用だ、投げるのかな?
ソイツが「さぁ」
ボスの後ろの男は、魔法使いの様だ!
小さな火の玉を空に向けて撃ったり。
俺のスグ横の地面を凍らしたりと、威嚇している。
コイツが唯一、マトモそうに見えるが、どうやら順列は一番下ッパらしい。
「さぁ」
「さぁ」
「さぁ」
「さぁ」
ニジリ依る。
ウザすぎる!
骸骨を待つ気も失せた。
「殺れ」
「威力攻撃開始! だ」小声で。
フードから飛び出す蜂達!
ブブーン
!ウワー
蜂の巣を突ついた、大騒ぎ!
プチ……。
「いてっ! 刺された!! 毒だ! 毒消しを寄越せ」
声と同時に魔法使いが小瓶を投げた。
液体がジャグラーにかかる。
が、間髪入れずに蜂の攻撃。
プチ……プチ、プチプチプチプチプチプチプチプチプチ………………………………。
「もう一度寄越せ!」
が、魔法使いは自分にタカる蜂に手一杯に成っている。小さな蜂を狙って火の玉を打つも……掠りもシナイ。
ジャグラーの手元には、既にナイフは無い。投げ尽くした後だ。
勿論、掠りもシナかった。
今は素手で払うのみ。
蜂達のスピードを舐めて貰っては困る。
お!
ジャグラーの足元が凍った。
蜂の誘導に、魔法使いがマンマと填まっている。
「お前! ナニしやがる!」
しかし、その魔法使いも、顔色が悪い。
紫色だ……耳も聴こえず、目も見えて無い様だ。
もう、メチャクチャに射っている。
また、ジャグラーに当たった。
肩から火の手が伸びる。
既に、ヘロヘロ……虫の息。
「うわー」叫び声が小さい。
これは、もう時間の問題だ。
魔法使いの方はと、見ると。
今、マサに倒れたところだ。
そして、ボス!
旗色の悪さを見て、独りで逃げ出そうとしている。
「子分共を置いて逃げ様とは……見下げ果てた奴じゃ」駆け付けた、骸骨に殴られ……その場に倒れた。
気絶。
「ホレ、加減をしてやったぞ」と、蜂を呼び「トドメを刺せ」
骸骨が現れたその時。
何処からか、声。先の女の子?
「きゃっ」と、同時に。
バフンと、音と共に強烈な臭い!
そして「イヤーン」
骸骨と顔を見合わせ……互いに、首をかしげた。