王と商売の話
次の日の朝。
商人ギルドの会長こと、銀行の頭取が血相を変えて屋敷に飛び込んできた。
王と接見をする事に成ったらしい。
早いな。
昨晩の撒いた種がもう芽が出たのか?
「国がお金を預けたいのでしょう?」
「ちゃんと、銀行として受けなさいよ」マリーがパンをかじりながら。
「そうなのでしょうか?」
「他にアンタを呼ぶ理由なんて無いでしょ」
「イヤ、しかし、商人ギルドの取り壊しとか……」
「ギルドの事ならルイ家を呼ぶでしょ」
「しかし……」
「アンタ! シッカリしなさい頭取でしょう」
言われた頭取、だが未だに不安を隠しきれていない。
「もう」
「良いわよ、一緒に行ってあげる」
その一言に頭取はマリーに膝ま付く。
今回は土下座まではしなかったが、ソレでも速業だ。これもやり慣れてるのか?
その日の昼、二人は城に向かった。
マリーはソフィーに服を借りテレーズに髪を解かして貰い、ローザの靴でだ。
「テレーズって誰だ?」思わず口に出た。
ジト目のマリー「ソフィーのお姉さんよ」
ああ、ポンと手を叩く。
「因みにだけどローザは会長の娘よ」
うん、そんな事は知っていると、いう顔が出来ていると思う。
じーっと見るマリー。
「イヤその服は可愛いね」白が基調のフリフリドレス。
「靴も可愛い」赤いエナメルな感じの靴。
「そお? なんだか歩き辛いのよね」と、ドレスの裾を摘まみ、靴を鳴らした。
ソレをコツメが羨ましそうに見ている。
ジュリアはボソッと「馬子にも……」
その先をキッと睨んで言わせないマリー。
「じゃ行って来るわ」
と、踵を返す。
と、その勢いで転けたマリー、めくれたスカートの下はやはり桃色の尻。
パンツは借りてないのか……。
偉いさんの前で転ばなければ良いのだが。
俺は屋敷の何時もの所で煙草をふかしていた。
側にはカラス。
――そろそろ、王のお出ましの様だぞ――
マリーの襟元にはミニマムで蚊程のサイズに成った蜂を一匹潜ませてある。
もちろん遠距離通信のスキルで覗く為だ、音声だけだが。
ただヤハリ蜂も距離が短い、途中でネズミが中継してカラスからカラスと成る……この伝言ゲーム、若干の不安が有る。
――ヤハリ銀行の話らしい――
――王がカードを作りたいと言っている様だぞ――
カラスからの話は中々に面倒臭い。
俺は目を瞑り、その話に集中して……想像した。
謁見の間。
王が玉座に座っている。
その左右には、何時もの二人。その左側が昨日のローブだろう。
うん、良い感じに成ってきた。
王が言う「ワシもカードが作りたいんじゃ」こんな感じか? ちょっと違うか?
まあ良い。続けよう。
「コレは、中々に便利なモノだと聞いた」
「是非にワシも欲しいのだが、どうだろうか」
恐縮して固まっている頭取に変わってマリーが答えた。
「もちろん王様であっても、お金を預けて頂ければスグにでも作れます」
フムとマリーを見る。
頭取を指差し「こんな状態なので、着いて来ました」
左側のローブが王に耳打ちをした。
「そうか、中々に親思いの娘のようだ」確かに娘は一人居るが、良い感じに勘違いしてくれている。
「良い娘を持ったのう」頭取に向けて。
「それにシッカリしている、頭の良さそうな子じゃ」
「有り難う御座います」
「しかし、困ったのう」頭取を見て「話が出来んのか?」
「大丈夫です、私が聞いて後で話ておきます」
「で、いか程をお預かりすれば宜しいのですか?」
「フム、まあ良いか」
「後日、使いのモノを差し向けよう」
「で、そうじゃな」思案して「国庫に有る分の半分でどうじゃ?」
! 大きく出たな。恐ろしく大金だぞ……多分。
「構いませんが、移動が大変ですね」考えるマリー。いや、フリだな。
「いっその事、全部でそのまま国庫に置かせて貰えませんか?」
「もちろん、魔法は少し掛けさせて貰いますが」
眉をしかめる王。
「お金自体は国庫の中ですが、カードで何時でも使えます」
「兵士達、お役人様達の給料はそのカードでお支払という事で同でしょう」
左側の大臣を呼んで、話を始める。
結構な長話に成っている。
「国庫の中の金を持って行かなくても良いのか?」
「はい、大丈夫です」
「先程も申した通りに、魔法を掛けさせて貰いますが」
「勝手には触れない様にか?」
「そうですね」頷くマリー。
「なにより、その方が安全です」
「城に盗みに入る輩は居ないでしょうから」
「ウム、居ないな」
「しかし、それで良いのか?」
「はい、つきましては、新しく銀行自体を国の持ち物にされてはどうですか?」
「今の銀行の経営は私共、商人ギルドが致しますが」
「?」
大臣二人を呼ぶ。
「つまりは国営銀行を作って頂いて、私共の民間銀行にお金……額面だけで結構ですので預金をお願いしたいのです」
「実物のお金はその国営銀行で管理して頂いて」
「額面分を私共がカードで管理すると言う事です」
「その国営銀行が適当な額を出すかも知れんぞ?」
「あまり無茶をされては経済が混乱します」
「実際の金貨を造り過ぎたのと同じ事ですから」
左の大臣が王に耳打ちをする。
これも長い話をしている。
「成る程」
「今の実際の金貨をそのまま額面にして、金貨その物を封印するのが良いのだな?」
「そうですね、ソレが分かりやすいと思います」
「今の経済をそのまま維持出来るでしょう」
「少し考えても良いか?」
「はい、後日でも結構ですので何時でも当銀行へいらして下さい」
「あ! 王様が来られると……」頭取を指し「こうなるので、別の誰かをお願いします」
ニコニコと頷いた王。
「では、後日にこの大臣をやろう」左の大臣を見て、頷く。
「でだ、話は変わるが……」良いよどむ。
「預金の件ですが、そのまま預けるだけでなく保険を買われては如何ですか?」
「保険? それは生命保険の事か?」
食い付いた! ヤハリそちらがメインか。
「そうですね、生命保険でも構いません」
「その権利を買うと、言っても請負人を国営銀行でやるので、逆にお金が入って来ます」
「年間幾らのですが」
「それは、保険ギルドに、であろう?」
「いえ、その保険の売買権を銀行が持っております」
「生命保険とこの度、新しく医療保険もです」
「なんと! そうじゃったのか!」
「なら、話が早い」
「是非に国に売ってくれ」
「ただ売るのは手数料が莫大に成りますので、是非に国営銀行を御一考下さい」
「ウム、わかった」
左右の大臣に指示を出す。
中々に無茶苦茶な理屈だが。王には通った様だ。
流石はマリーだ、金にはうるさい。小狡い。
そして、謁見は終わった。
王に頭を下げて、頭取を引っ張り踵を返す。
そして、やっぱり転んだ。
「可愛い尻だ」最後の王の言葉だった。
うまくいった様だ。
マリーの成りが子供なのが良かったのだろう。
安心させ、ビックリさせ、シッカリ聞かせた。
最後は落ちも着けたようだが。
帰って来たマリーと頭取。
屋敷に付くなり二人してヘタリ込んだ。
「国営銀行とは良く考えたな」
「銀行だもの、お金の発行元は必要だわ」スカートをパタパタと扇ぎながら。汗を掻いたのだろう。チビっていないと思う。
「まあ、あの感じなら直に動くだろう」
「暫くは銀行に張り付けだな」マリーを見ながら。
「さっさと、来て欲しいわね」パタパタ。
「今すぐにでも売り付けたいのに」パタパタ。
パタパタ。
「怖くて夜も眠れない」パタパタ。
扇ぎ過ぎじゃないか?
やっぱりチビったか?
てか、毎晩、熟睡してるじゃ無いか、大股開きでイビキまで掻いて。
パタパタ。
パタパタ。