ブラフ
時と空間の勇者には、そのうちにフン縛って本人に直接聞いてみよう。
ソレよりもこの大スローロリス、と近付きスキル召喚の準備をする。
が、ソレをマリーが止めに入った。
ゾンビの方が良いのではと、提案してきたのだ。
「コイツの能力、幻影雑魚はヤツには有効よ」との事。
成る程と頷いて呪文。
――苦しい―― モガモガと蠢くスローロリス。
それにマリーが何かの液体を掛けて粘りを溶かし、セオドアが糸を切る。
――フー……ひどい目に有った――
「アンタが雑魚をけしかけるからよ」
――先に手を出してきたのはアンタ達の方じゃ無いか――
「……あら、そうだったかしら」フンと鼻を鳴らしてその場から去った。
確かにその通りだった気がする。
お詫びでは無いが、スキルを1つ、ミニマムをくれてやった。
さてと、と振り向くと、バスの回りにゾンビだかりが出来ている。
ちょっとゴージャスな2階建ての観光バスだ。
その運転席にはムラクモが座り、頭目に何かを話してる様だ。
近付くと、頭目が。
「これをくれ」と、バスを指す。
「いいが、どうやって下ろす?」
「セオドアと猿でどうにか成らんかな」エラく気にいった様子だ。
「セオドア、巨大化して運べるか?」
「やってみる」
大きく成ったセオドアだが、バスを持ち上げるのがやっとだ。
ソコへ猿が来て手伝った。
二人掛かりで移動は可能な様だがフラフラだ。
そのまま道路を進み、崖の縁にまで来た二人だが、ソコでピタリと止まった。
二人して下を覗き、そして考え込む。
結構な高さだ、ジャンプするわけにもいかないだろうし、さてどうするのかと見ていたら。
いきなり、ピーちゃんがセオドアに体当たりした、その背中にはマリーが乗っている。
体当たりをされたセオドア、藁ではなく、バスにすがり付きそのまま背中からの落下。
ソレを上から覗いて「うまくいったじゃない」ニヤリ。
セオドアがクッションに成りバスは無傷。
だが「何しやがる! 死ぬかと思ったじゃないか」
「死なないわよ、縫いぐるみなんだし」と、ケラケラ笑い飛ばした。
そして、ダンジョンを後にする。
もちろん盗賊団はバスでだ。運転手は頭目。
俺達はムラクモのトラックで街へ戻る。
その途中ロイドからの連絡が来た。
新しいダンジョンの存在が冒険者に知れたらしい、が、今更だ。
ギルドに依頼も出されないだろうし、第一に国は盗賊ギルドに依頼を出したのだから出す元が居ない。
一応は解決と、暫くは大丈夫だ、そう連絡しておいた。
そうそう、猿なのだがミニマムでセオドアと同サイズに成り着いて来た。
ジュリアからロリスと名前まで貰って上機嫌の様だ。
セオドアの方は拗ねてしまって、アレから一言も喋らない。ただマリーを睨むだけ。
そのマリーの方はといえばコツメとジュリアと話をしながら、腹を抱えて笑っている。
俺は、流石に疲れた、早く風呂にでも浸かって寝ようと、煙草をふかす。
しかし、風呂にはまだ入れない様だ。
館に帰り着いて、適当にだらけていると。
頭目からの連絡が来た、今晩に例のレストラン、だそうだ。
アイツも忙しいヤツだ。
それに付き合わされる俺の身にも成れ。
そして、その例のレストラン。
前回と同じ真ん中の席、ただ今回は足元にネズミが一匹、屋根の上にはカラスだ。
ネズミも遠距離通信を持っているのだが、レベルか相性かでその距離が短い。
なので、カラスとの中継役だ、流石にカラスは店に入れば目だってしまう。
そのカラスの連絡先にはロイドとマリーが居る。
俺の席にウエイターが来る、注文していない料理だ。
見れば、入り口に二人のフードを被った男。
その片方がウエイターに一言を掛けて、真っ直ぐに頭目の前に座った。
「貴方は?」先に口を開いたのは頭目だった。
「コチラは、私の上司だ」チラリと見て。
ウエイターが水を運んで来る。
コレは、何時もの事なのだろう。決まり事の1つか? 話の途中で近付くなと言う事なのかも知れない。
そのウエイターが去ったのを待ち。
「今回は無理を2回も聞いて貰ったのでな、そのお礼を直接したいと思ったのだ」その上司が銀のカードを出して、頭目に則す。
頭目もカードを掴み、上司とだけ名乗った男の前に出す。
「金貨500枚だ」カードを合わせて。
「もう一度、金貨500枚、コレは二つ目の分だ」
カードを確認した頭目、懐に戻す。
合計1000枚か! いきなり金持ちだな。
「随分と気前がいいな」上司を見て「オマケが有りそうだ」
その上司に変わって、何時もの男が話始める。
「少し、困った事に成っている」
「兵士が出せないのだ」
「戦争が怖いから温存したいのだろう?」歯に衣着せぬ言い回し、盗賊スタイルか。
「イヤ、そうじゃ無い」
「それも無くは無いが、少し違う」
「今回は兵士達自身が拒否したのだ」
「召集を掛けても半分も集まらん」
「なぜ?」怪訝に「国の命令だろ」
「そうなのだが……」
「保険が降りないから嫌だと」
「辞めたいとまで、言ってきた」
「ほぼ全員がだ」
「国が報奨金を出すのだろ?」
「そのボーナスが割に会わんと……」
「国の兵士なんて花形なのに」
「確かに、今回は予算の都合で減らしたのだが、冒険者ギルドよりは良い筈だ」上司だ。
カードで机をコツコツと叩く。
「成る程、カードの実績欲しさか」
頷く上司。
「暫くは、頼む事に成る」
「ふーん」
――聞こえるか? 俺だ――
ピクリと耳が動いたが表情は変えない頭目。
――1つ提案してみろ、俺の言う通りにだ――
「その保険だが、国で受ければ良いのでは?」
「民間の保険をか?」首を振りながら。
「まあ、聞け」
「先ず銀行に金を預ける、国の税金でも何でもだ」
「そんな大金なら、筆頭預金者だろ」
「銀行も話を聞く以上に口が出せるぞ」
「なぜ銀行だ」
「それに……そんな金……」
「預けるだけだ、減りはしない」カードをチラつかせて。
「その上で保険ギルドに交渉だ」
「生命保険を国で管理するとな」
「なぜそれで、保険ギルドだ?」
「このカード、クレジットの部分は保険ギルドが絡んでる」
「銀行と保険の合作だからな」カードをテーブルに置いた。
「直接の金は銀行だが、その金に保険が掛かっている、そんな仕組みだ」
「銀行からの圧力なら、首を縦に振らせられる筈だ」
嘘だ。
どちらかと言えば、保険ギルドの方が上だ。どちらも俺が絡んでいるのだが。
「国が保険をか……」
「そうじゃ無い、保険の請負人に成るんだ、ソレも生命保険だけのな」
「なぜ? 国でやった方が……」部下の方。
「民衆の反発か?」上司だ。
「ソレも有るが、儲けは生命保険だからだ」
「生命保険は死ななければ払われない、でも掛け金は毎年だ」
「コレは税金みたいにズッとだ、死ぬまでだ」
「しかし、兵士はその確率が高い」上司は頭が良い。
「戦争だろ」頷き。
「勝てば、相手国から戦争賠償を請求すれば良い」
「負ければ?」
「その時は、国が無いじゃないか」
「成る程……」
実際は勝ち負けが決まらない戦争も有る、そちらの方が多いかもしれん。
名目だけの勝利も含めてだ。
「ついでに、医療保険も付ければどうだ?」
「なんだ? それは」
「怪我とかの薬代を保証してやるのさ」
「もちろん掛け金は毎年だが」
「コレは兵士も冒険者も一般市民にも喜ばれるぞ」
「何せ、怪我だけでも仕事が出来ない、喰えなくなる」
「確かに、喜ぶだろう」
「だが、民間の保険ギルドが良い思いをするだけだろう」
「その保険の名前を変えてしまえば良い」
「国の名前の保険」
「今の王の名前でも良い」
「ソレを保険ギルドに……か」
「首は、無理矢理に縦にだ」
「そして掛け金と言う名の税金もガッポリだ」
「その金で、俺達には良い仕事を……だ」最後はニヤリと笑う。
頭目は背もたれにもたれ掛かり、大きく息を吐いた。
目の前のローブの男達はもう居ない。
「これで良いのか?」
「ああ、素晴らしい出来だ」背中の頭目に。
「一応は、興味を持っただろう」
「うまくいくのか?」
「ほんの少しの興味でも十分さ」
「今はね」
「だが、奴等にそんな力が有るのか?」
「下っぱ役人だろ」
「イヤ、あの上司」
「見覚えが有る」
「そうなのか? 何処で」
「初めての王との接見の時に見た」
「王のスグ左に居たヤツだ」
「!」
「偉いさんじゃないか」
目の前のコップの水を飲み干した。
ローブの男の飲み掛けの水だ。