時と空間の勇者
先頭に躍り出たアルマ。
そして、魔物が剣で襲い掛かる。
叩かれたアルマの音がトンネル内を響かせた。
その脇をすり抜ける魔物をゼクスが盾で押し戻す。
このスローロリス似の魔物、変なスキルは使ってこない。
真っ向、剣で挑んでくる、もちろん数で押し切る積もりだろうから、次から次に出てくる。
イヤ、石化と爆弾と多分ソレ以外の無効化がスキルなのか?
――旦那! こいつらなんだか変ですぜ――
ムラクモがアルマにたかっている一匹を刺した。
――まるで、手応えが無い――
その刺された魔物が、消える……風船を突いた様に弾けて消えた。
その場には何も残らない、硬い筈の剣ですらも残らない。
試しに一番近い所で弾けた魔物の、その場所で召喚の魔法を使って見たが無反応。
スキル召喚も駄目だった。
「確かに変だ」実体はソコに有り、アルマに傷こそ付けられ無いがシッカリした攻撃は当てている。
アレが俺に当たれば大怪我だ。
「コツメ! 火炎弾を、見えている敵に撃ってくれ」
頷くコツメ。
しかし、火炎弾はすり抜けた。
「次は、氷手裏剣だ」
刺さった。そして弾けた。
「奴等、実体の無い攻撃は無効化してる」
「炎も爆風も石化も硬さが無いモノは駄目だ」
「つまりは、直接攻撃しか無いのだな」頭目が走り込み、両手の剣で薙ぎ払う。
その二振りで3匹の魔物が弾けた。
「幸い、敵はそんなに強くない……脅威は数だけだ」
ソレを合図に、盗賊団が各々に気勢を上げて走り出す。
ピーちゃんも普通のサイズで走り出す。
その背中に槍を持ったジュリアを乗せて敵を踏み潰しながらにツツク。夜目で良く見えていないピーちゃんにジュリアが指示を出し、その取りこぼしを突いていた。
セオドアは地面を走っている、この暗闇で無闇に飛ぶ事が出来ずに居るようだ。糸も時折は出すが、硬さが足りないのか少しの抵抗ですり抜ける。
同じ理屈か? 蜂達の針飛ばしも駄目な様だ、直接針で攻撃している。
しかし、数が多い、見える範囲でも犇めき合っている。
――地上に大きい魔物が居る様だ――
カラスが俺の肩に止まり。
――その背中の毛の中から、小型の魔物が続々と出てきているらしい――
「ソイツがボスか?」産んでいるのか? 隠れて居たのか?
――多分そうだろう、送られてくる画像記憶で見ても、この魔物のサイズ違いでしかない――
「ソイツを攻撃出来ないか?」
――今、ネズミと連携してやってはいるが……決定打が無い状態だ――
「俺達も、地上まで行かないと駄目か」
コチラも決定打が無い。膠着状態だ。
この先の何処かに駅が在ればそこから上に登れるのだろうが。イヤ、確実に地上へと通じる道が有る筈だ、コイツらがここに居るのだから。
この線路の先に……。
線路?
後ろを振り返る。
列車が有る、鉄の塊の列車だ。
走り寄り連結部分を確認した。どう繋がっているのか今一わからない。
「ジュリア」
「ここの連結を外せないか?」
ピーちゃんと共に走り寄り「出来ると思う」
「よし、任せた」そう、言い残し列車の中へ。
後端あるいは先頭か? の運転席を確認した、単純に前進と後進とブレーキだ。
いけるかも知れない。
「外したよ」ジュリアの声、と、同時にガコンと振動。
そして俺の適当な操作でライトが着いた。
行けそうだ、試すようにユックリと前進。
「皆、乗れ」窓から半身を出し叫び、徐々にスピードを上げていった。
駅はスグそこに有った。
列車で魔物を撥ね飛ばしながらの少しの移動で、煌々とした明かりが見えて来た。
そこへ滑り込ませて、すぐさまホームに飛び出した。
ここは若干に魔物の密度が薄い。
コイツらは明確な意思で俺達の所へ集まっていたのだろう。
ソコを越えたのだから、後は応援? 補給? の魔物達だ。
スグに後ろから来るだろうから、グズグズはしていられないが。
「階段を一気に登れ」俺の指示に頷く皆。
「邪魔なモノは蹴散らせ!」頭目の指示に気勢を上げる皆。
微妙に差が有るような気がする。
明かりが有るならとセオドアが糸で飛ぶ。
ジュリアも再びピーちゃんだ。でももうピーちゃんも見えているのでは?
とにかく走った。
「しかし、相変わらず……凄いわね」走りながらのマリー。
「貴方が居るだけで、建物の電気が着くなんて」
「電力の供給も切れている筈なのに」
「ついでに言うと、ムラクモのトラックもシグレ達のバイクも燃料が減らない様だぞ」鎧だけのアルマが動くのと同じ理屈なのだろうと、勝手に想像した。
「無茶苦茶ね」
「今のこの光景の方が凄いと思うが?」
「死人が階段を掛け上がっている」マリーを見ながら。
1F改札を飛んで抜ける。
切符など無い。
キセル……は、ムラクモが持っているが……カエルの運賃が有るなら誰か教えてくれ。
そのまま駅前ロータリーに飛び出した。
そのビルとビルに囲まれ少し開けたロータリーのど真ん中に、ボスで有ろうドデカイ、スローロリスが鬱陶しそうに手でカラスを払いながらも、ソコに座っていた。
白黒映画のゴリラ宜しくだ。
そのうちにカラスを捕まえ、ビルをよじ登るだろう。
「アイツを先に……」言い掛けて、チラリと頭目を見る。
「ボスを仕留めろ」剣で魔物を指し「雑魚は後回しだ」
一斉に走り出す。
先陣は槍を携えたムラクモだった。
大ジャンプから舌で姿勢をただし、魔物の真上からの急降下攻撃。
それに続いてセオドアも糸で飛びながらの急降下攻撃、落下中に巨大化して威力を上げている。
流石に効いたのか魔物が立ち上がる、その時によろけた。
その方向に居たコツメがビックリしたのか意味の無い火炎弾を放つ。
イヤ! 意味は有った。
火炎弾はすり抜け無い。
「マリー、爆弾をくれ」
と、受け取ったソレを魔物の顔に投げつけた。
爆発と共に顔半分の毛が焼け焦げた。
やはりだ。
「ボスには魔法も爆弾も効くぞ」
「じゃ、こっちの方が良いわね」と、納豆爆弾を手渡して来た。
ソレを投げ付けた。
破裂した粘りけの有る糸で絡まれる。
明らかに動きが変わった。
カラスがマリーに集まり、そいつらに納豆爆弾を放り投げて掴ませ、魔物に投下させる。
次々と納豆爆撃だ。
真っ白に成って絡まり蠢く魔物に、セオドアが糸で巻き取り始めた。
程なくスローロリスのす巻き、納豆あえの出来上がり。
後は、雑魚をと身構えたその時、ボスを残した全ての魔物が忽然と消えた。
納豆の粘りと糸で鼻と口を塞がれて、その上毒まで回ったのか、ボスの命と同時にだった。
「あの雑魚達、この子の幻影だったのね」マリーがボスをツツク。
「ここには時と空間の勇者は居ないわね」
「そうなのか?」
「幻影を倒しても、魔力の回復は出来ないでしょ」
「人も居ないし」辺りを見渡し。
「時間指定を間違えたのね」
「無駄足に成ったか」
「そうでも無いんじゃない」
「アイツが転生させたダンジョンが幾つ有るのかは知らないけど、続けて転生なんてアイツに取って危険な事をやったのだから、魔力回復がしにくい事に成っているのよ」
「先のダンジョン見たいに、魔物がほぼ全滅とかね」俺を見て。
「ゾンビ達と魔物の取り合い何て……面倒臭いでしょう」カラスとネズミを見る。
「暫くは大人しいのか……」
「暫くはね」
「でも、この国でダンジョンを創ったのは事実」
「また来るわよ」
「なぜ、そう言いきれる?」
「ヤツも勇者なら、何処かの国で召喚された筈、なのにこの国での動きだ」頭目「自国の指示でだろう」
「戦争の為の尖兵をやらされたか……自分から名乗りを上げたのか」
「或いは」チラリと俺を見て、マリーが「自国に追放されたか……逃げ出したか……ね」
「どちらにしても、ネクロマンサーを狙って来るわね」
「確かに、ヤツに取っては美味しいスキルかもしれん」
「自分でダンジョンを造り、その中の魔物を使役する」
「でも、多分知らないのね」
「ネクロマンサーが直接攻撃を出来ないって事を」
「ソレって、アイツにとっても致命的な事なのにね」
「ヤツには勝ち目が無いって事か」
「私達が負けた時が、アイツの最後よ」
「でも、俺をただ排除するだけなら……」
二人が同時に俺を見た。