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カード

 

 マリーはここ暫くは商人ギルドに詰めっきりだ。

 銀行と保険とが旨く噛み合って大忙しのようだ。

 その2つ、特に魔法のカードは急速に広まっている、皆も重い貨幣に辟易して居たのだろう。

 それに、泥棒対策としても使える様だ。


 昨晩の事。

 俺にカードを渡して来たマリー。

 そのカードには金貨110枚と記されている。

 この間の報酬をそのまま銀行に預けたのだろう。

 

 「そのカードを持って、私に金貨1枚と銀貨1枚をあげると言ってみて」


 「わかった」いや、良くわかってない。

 「金貨1枚と銀貨1枚をやる」


 それに頷いたマリーが俺のカードに自分の持つ金貨1枚と書かれたカードを当てた。

 キーンと音がする。


 「金額を見て」

 

 言われて見てみると、金貨108枚、銀貨99枚と文字が変化している。

 「お? 数字が……」


 「見て」と、自分のカードを見せる。

 見ると、金貨2枚、銀貨1枚と、コチラも変化している。


 「お互いが納得して声に出せば、お金が移動するのよ」


 「脅して言わせられれば、どうなる?」


 「言わせた方のカードが止まるわ」

 「再開には銀行の中で、六法全書で裁判よ」


 「詐欺は?」


 「同じ事よ。お互いの心の奥まで確認するから」とカードをヒラヒラとさせる。

 「非合法な事は絶対に無理」


 「クレジット機能も有ると聞いたが?」詰まりは借金だろ?


 「借りたお金には金利が付くし踏み倒せば……」とニヤリと笑う


 「差し押さえの赤い札か?」

 成る程良く出来てる。


 「後は……偽造か……」


 「ソレも無理よ」

 「コレを造るレシピは誰にもわからないわ」

 「元の世界の知識を混ぜてあるから」


 「成る程完璧だ」と頷く


 「国も、コレには税金を掛け難い筈よ」

 「税金なんて掛ければ、皆はコレを使わなくなる、そうなれば、モノの売り買いも減り景気も下がる、消費税の税収もね」

 「ここまで普及した、この便利なモノをもう手放したくは無いだろうから民衆の反発も怖いだろうし」

 「コレに税金は、勇気が要るでしょうから」

 「ツイでに保険にも同じ効果が在るでしょうね」

 

 「どちらも無税なのか」


 「景気を考えれば、国としても損は無いでしょ」


 「さて……そんなに上手く行くか?」


 「そうなったら、アンタが王に成って無税にして」


 そんな感じの事だった。

 冒険者ギルドも商人ギルドもツイでに職人ギルドもすっかり立て直せた。

 その3っつがギルドの中核なのだから、その他ももう大丈夫だろう。


 保険の請負人も金の有る貴族達がこぞって受けてくれている様だし。

 貴族ってのは得てしてギャンブル好きだしな。

 ソレを考えても、ヤハリ税金は掛けられないか。


 などと煙草ふかしながら考えていると、フローラルな香りが漂ってきた。

 見るとローブにくるまった男が玄関を開けてコチラに来る。


 「今日の夜だそうだ」

 「場所は冒険者ギルド横のレストラン」

 そう伝えるとそのまま去っていく。

 フローラルな香りを漂わせたままに。


 ナニ、カッコ付けてんだ。ハードボイルド気取りか?

 腐りかけのふにゃふにゃなのに。

 煙草の煙でフローラルな香りを上書きしてやった。




 さて、その日の晩。

 俺は独りでレストランのど真ん中の席に着く。

 背中には頭目が、やはり背中を向けて座りっている。


 店は大繁盛だ、俺以外は全員ゾンビだが。

 成る程この状況なら、真ん中の席が聞かれたく無い話に最適だ。

 ソコに1人の男が入ってきた。

 ローブのフードを目深に被り辺りを気にしながらコチラに来る。

 怪しすぎだ、逆に目立っている。


 そして、男が頭目の前に座った。

 そのタイミングで、俺の席に注文をした覚えの無い料理が運ばれて来た。コレが合図なのだろう。

 このウエイターもゾンビだ。

 この男のようだ。

 しかし、旨そうなステーキだ。

 フォークとナイフを取り、一口。


 「すまんが水をくれ」その男が、去り際のウエイターに声を掛けた。

 

 「久しぶりに街に来たが」切り出したのは頭目。

 「えらく賑わっているな」先ずは雑談からか。


 「ああ、銀行ってのが出来てな」

 「皆、金が出来たと騒いでいるのさ」

 銀の板、カードをテーブルに投げて「コレが金なんだと」


 「俺も持ってる」頭目も懐からチラリと見せた。

 「便利で良いじゃないか」


 「管理が商人ギルドと言うのがな」

 

 「気に入らないか?」


 「フン!」想像はつく、苦虫の後の鼻息だ。国主体でないのが気に入らないのだろう。


 ウエイターが水を置いて立ち去る。


 「で、本題は?」


 「ああ」と水を一口呑み「あの娘なんだがどうにか成らんのか?」と溜め息交じりに言う。


 目を細め「どうにか? とは……」


 「どうにもキナ臭い、あんな事をしておいて、なにも言ってこない」

 「いや、態度が変わらなさすぎる」


 ソフィーを助けたと思っている、その国の事か?


 「うまい手口だな」

 「現にこうして、不安に成っている」


 「……」

 「ヤハリ、今動くのは得策ではないか」


 「そう、思うがな」


 男の顔を見てやろうと、俺はナイフを立てた。

 昔に見た映画のように。

 が、肉の油で写らない……しまった、食うんじゃ無かった。


 「もう一度、上を説得してみよう」

 「この続きはまた今度だ」と、立ち上がり店を出る男。


 その男に蜂を一匹放って、後を着けさせた。

 

 俺は目の前の冷めた肉を頬張る。


 「随分と焦っているようだな」食いながらに、背中越しに声を掛ける。


 「ああ、怯えているのだろ」

 「戦争の恐怖だな」


 「その戦争は本当に起きるのか?」


 「さあな、少なくともこの国から攻める事はしないだろうが」

 「攻め込めれる確率は、高いかもしれん」


 「勝てるのか?」


 「どこの国が攻めてきても勇者がいるが……」

 「この国には居ないしな……」


 「勝てないのか……」


 「アンタが出ればどうだ?」


 「ハン」とナイフをテーブルに叩きつけ「俺はこの国に捨てられたんだぜ」

 「出るとしても、この国が負けた後だ!」


 「出る気は有るんだ」


 「俺と俺のまわりの奴等が危ない時はな」


 「その中に俺達は入っているのか?」頭目が聞く。


 「どうだろうな……その時に考える」


 「まあいい」と席を立ち「出る時には知らせてくれ」と店を出ていった。


 ハードボイルドなヤツだ。弟と違って板に付いてやがる。


 冷めた肉を食い終わる頃には、店には俺1人になっていた。

 俺も店を出る。

 お勘定はカードでだ。


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