旅立ち
墓場を後にし。森の中へ。
月明かりの届かない、深い森の奥へと進んで行く。
時計を見るに、深夜0時を回っていた。
道の無い所を、普通に進めているのは、さっきのスキルのお陰か? 確かに凄い。
暫く骸骨について行くと、先から水の音が聞こえてきた。
川だ。
「この辺りかな?」立ち止まり辺り伺う、骸骨。
「おぅ! 見つけた」そして、俺を制止し「ここで、暫く待て」
そのまま、川の方へと1人、進む。
直ぐに呼ぶ声がした。
川縁の流れの無い、水の溜まりを指し。
「先程の、失敗したアンテッド召喚をここでやってみよ」
指した先を見ると、数匹の虫の死骸が浮いていた。水中には蜂の巣らしきモノが沈んで見える。
「死喰い蜂じゃ……これでも、一応はモンスターじゃぞ」
足長蜂に、見える。サイズも形もそのままだ。
言われるがまま「○×△□…………」アンテッド召喚。
水面に光が走る。魔方陣。
数匹の中から、7匹の蜂が光を纏い、動き出した。
「おお!いきなり7匹もか! なかなかやりおるの、貴様は」
蜂が俺の周りを飛び回る。
蜂からは服従の意思が感じとれる。完全に使役出来ている様だ。
「さて、まずは……コレが貴様の兵だ」
「コレが? 兵士?」骸骨を見「ただの蜂だろ? 虫だ!」
「まずは、じゃ」首を振り。そして、蜂を指し。
「これで、攻撃の手段が出来た……喜べ」
森を抜けると、空が白み始めた。
春を感じさせる平原へ。
「ここらで……良いだろう……」辺りを見回して「狩りでもしようかの」
そして、何やら呪文を唱え始めた。
「狩り?」首をかしげ「モンスターハント?」辺りを見回し「モンスターどころか、獣1匹……居ないぞ」頷き「だいたい、墓場からの、ここまでも、この蜂以外には遭遇していない」
「それは、そうじゃ」何を、当たり前の事をと言いたげに「ワシのスキル……畏怖堂々……のお陰じゃ」
「スキル?」もう一度、辺りを伺い「なるほど、道理で……」
「てっきり、町の近所は……余り居ないもんだと思っていたが? そう言う事だったのか」納得。
「イヤ、それも……ある」
「城を中心にして、結界が張ってある」
「それは、レベルに比例して……高レベルなモンスター程、近より難くなるモノでの……なので、低レベルなのは普通に入り込めるのじゃ」
「それを、ワシのスキルで封じていたのじゃ」
「なるほど」頷き「今は、普通にエンカウントするのだな」
「そうじゃ」
「で?」
「で?……とは?」
「こんな所に、ただつっ立っていて……エンカウントを待つのか?」
「そんな、爺の暇潰しの釣り見たいな事はせん」俺を指し「貴様と、貴様の兵の出番じゃ」蜂を指す。
蜂を見る。整然と隊列を組、俺の斜め後ろを飛んでいる。
「命じてみよ」
蜂達の正面に立ち。面を合わせると、蜂達が一斉に緊張が走る? 気がした? 敬礼をしている? 様にも見えてきた?
「モンスターを探してこい……」蜂達は、動かない。少し、隊列を乱すだけ。
「……」もう一度と、その時。頭のなかに言葉が浮かぶ。
「命じる……索敵」
ブン! と一鳴き? 羽根音? で答えて四散した。
程なく、チョッとオドロオドロシイ感じのアラームと言うか、サイレン? が響く!
骸骨を見る。何事も無くその場に立っている。
聞こえているのは俺だけにか?
「コッチだ」音は方向をも示していた「行こう」
「ウム……貴様の闘い、見せて貰おう」俺につづく。
すぐ側の草むらの中。
――スライム1匹! 発見――その草むらの上で、臨戦態勢の蜂を黙視出来たとき。頭に直接、声が届く。
この蜂の声?実際に喋った訳では無いのはわかったが、少し……驚かされた。
――攻撃許可をモトム――
羽根音が鋭くなる。
「待て!」
「全隊集合! 後! 隊列を組め!」四方から順次駆けつける蜂達。
全七匹を確認したのち。
「威力攻撃開始! 目標スライム1匹!」
――突撃~! 我に続け~!―― 見付けたヤツかな? 隊長の気分か?
ブ~ン。
ブ~ン。
ブブブ~ン。
スライムにタカり初めた。
スライムもまた応戦!
が……ノロい、ぶよぶよとうごめくだけですべてが空振りだ。
その間、蜂達の攻撃は確実にダメージを与えていた……。
――全機に告げる……コレより特攻攻撃を開始する……トラ・トラ・トラ―― 蜂達が空中高く静止し尻の針を突き出した。
――とっか~ん―― 一斉に、急降下を初め。順次、針を刺し離脱しては、また刺すを繰り返しの攻撃を数回。
そして、スライムは力尽き、その場に溶け初めた。
――敵モンスター撃沈を確認……われ奇襲に成功せり……此より帰投する――
おいおい。
真珠湾か?
お前ら、零戦か?
若干、呆れたが。
しかし、戦果を挙げたのもまた事実。所詮はスライム1匹だが、初陣にしては、まぁ、そんなものか。
意気揚々と帰って来た蜂達がまた、斜め後方で待機を初めた。
「フム! 見事じゃ」
「それが、ネクロマンサーの闘い方じゃ」何度も頷く。
「つまりは……他力本願って、ヤツか?」
「何を言う……貴様は、司令官として役割を果たし、自身の兵を導き……勝利した」
「これは、貴様の功績じゃぞ」
「ただの戦争ゴッコにしか、見えなかったが?」
「それはつまり、貴様の能力がスライム1匹では、役不足であったと言う事じゃ」
「そうなのか?」実際に何もしていない。ただ蜂達が勝手に闘っただけ。それも成りきりゴッコで……。
「納得しておらん顔じゃの」
「まー良いでは無いか、実際……勝ち、そして報酬も手にいれた」溶けたスライムを指す。
ソコに米粒くらいの光る石。
スキルか?
手を伸ばそうとした時、骸骨に止められた。
「それは、今回、頑張った兵士に褒美としてあげよ」
蜂を見る。
1匹が、ブーンとヒト飛び、前に出る。
隊長? 最初にスライムを見付けたヤツかな? たぶんそうなんだろう。
に、頷いてやった。
ブーン…ブーンと、嬉しそうに飛び、スキルを取り。
俺の前で、針を見せる。やはり、嬉しそうだ。
本の少し、その針先が紫っぽい色に……成っている……気がする。
見せにきたのだから、きっとソレに関するスキルなのだろう。
多分……チョッと強く成ったのかな?
いや……。
ヤハリ、良くわからん。
その後、暫くはスライム狩り。
と、言うか? スライムしか出合わん。
先程のスライムのスキル、1つ貰ってみたが……毒のスキル? のようだ。
攻撃が回復に変わる俺には? どう作用するのか? その内に試してみなければ。
?
あれ? 蜂って元々に毒は持って無かったっけ? 強化されたのか? 別の毒だったのか?
ヤハリ、良くわからん。
と、突然にサイレンが鳴り響く!
――警戒警報……左舷後方に敵影発見!――
「左舷……って」 まぁいい。
「状況確認せよ」
――針ヌートリア1匹確認……命令されたし――
――敵……いまだコチラを視認せず……奇襲攻撃可能なり……命令こう――
スライム以外の初めての魔物か。
警戒すべきか?
イヤまだまだ城に近い。レベルも低いはず。
それに、こんな所でマゴついていては、この先が知れてる!
「とら、とら、とら……威力攻撃を開始せよ」
――命令確認……敵、針ヌートリア1匹……先制攻撃を開始する――
ブーン。
ブブーン。
一糸乱れぬ編隊飛行からの攻撃。
――我……奇襲に成功せり……敵、被害甚大なり――
――此より……通常攻撃に移行する……全隊員に告げる、突撃!――
しかし、今回は若干に苦戦しているようだ。
スライムよりも動きが早い上に、背中から針を飛ばしてくる。
――敵…機銃弾幕確認……此より、低空より進行し一撃離脱を敢行する……我に続け――
1列編隊で草むらスレスレを滑空。針の射程線からもギリギリだ。
1匹。
2匹。
3匹と攻撃に成功し、無事に離脱。
が、そのあと4匹目が、草先に弾かれて若干高度を上げた所を狙い撃ちされた。
針に撃ち抜かれて力無く、勢いのままに斜め前方に流れ落ちて行く。
5匹目、6匹目は接近には成功したが、攻撃態勢に入った一瞬の隙を突かれて……撃墜された。
しかし、敵も弱っていた。毒が廻り始めたのか? 針に勢いが無くなってきた。
少し遅れて。
最後の7匹目が、針ヌートリアの尻に一撃! それがトドメとなった。
――敵……撃沈を確認……作戦終了――
――当隊……被害甚大なり――
――此より……帰投する――
「7匹が、4匹か……今回は苦戦したの」俺の後ろに並ぶ蜂を見る骸骨。
「じゃが、勝は勝じゃ」頷く。
「ただ、見ているだけは……気楽で良いな……」ジロリと骸骨の腰にさげた錆びた剣を見る。
「フム……我に闘えと?」
「確かに、我にとっては一撃じゃが、ソレでは貴様らの成長にはならんぞ」
「我は、貴様には使役しておらん……眷属でも、奴隷でも無い。ただの付き添いの様なモノ」
「経験値の共有もないと? 言う事か……」
「因みに、我を使役するには……まだまだ時間が掛かるじゃろう……ずっと先の先じゃ」
「レベルが足りない……ってヤツか」
「ソレよりも、ホレ!」針ヌートリアを差し「スキルを取ってやれ」
スライムとは違い、溶けているわけでは無いのでそのままだ。
魔方陣を出しスキルを浮かび上がらせ、ソレを蜂に与えた。
スキルを与えた蜂も、ソレ以外の3匹も、見た目に意気消沈している。
勝利に浮かれたところが微塵も無い。
俺も、溜め息をついた。
「死食い蜂は、濁った水辺を縄張りにしておるぞ」
「この草原を下った先に川が在る、ソコを探してみよ」
「減った分の補充か……」蜂を見て「徴兵って……ヤツか」
煙草を一本、火を着けた。
――赤紙!――蜂達が、ざわついた。