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新しい奴隷

 

 観念した会長は、家を明け渡すと言ってきたのだが。

 額の札は消えなかった。

 滞納分の清算がまだだと魔法の権利書が判断したのだろう。

 相変わらずの凄い性能だ。

 裁判所の役目まで果たしている様だ。

 「魔法の六法全書なんか有れば、ソレこそ裁判所は要らないな」


 「有るわよ」そんな俺の独り言に、マリーは答えた。


 有るんだ。


 「この世界に合わせた法律だけどれどね」


 「ソレもやっぱり差し押さえの札?」


 「犯した罪によるわよ」

 「大抵は、その犯罪の罪状よ」


 「罪状が札に成って、額に?」


 「そうね」


 「ソレは、まさしく札付き!」 

 牢屋に入れられた、犯罪者の額に赤色の罪状が書かれた札……コレは性犯罪は出来ないな!

 そんな事をする積もりは毛頭無いが。


 「役所の書類も、やっぱり魔法の……なのか?」

 「例えば、婚姻届とか」


 「有るわよ」


 「浮気1つ出来ない!」そんな甲斐性も無いが。


 「ちょっと黙ってて」俺を睨み。

 「今、取り込んでるのよ」と、商人ギルドの会長、詰まりは家賃滞納で赤い札の貼られた一家に向き直り。

 「で……どうすんの?」

 

 「どうにか……分割に……」


 「しても良いけど、その札はそのままよ」

 「ソレで仕事、出来る?」


 「しかし、一括では……その金額が……」

 

 「どうにも成らないわよ」

 「アンタだって、知ってるのでしょう」

 「商人ギルドの会長様なのだから」


 「……」

 黙り込む会長。

 シクシクと泣く娘。

 呆然としたままの母親。


 「選択は2つ」

 「そのままの状態で、少しずつ返すか」

 「奴隷に成って、札を消すかよ」


 「しかし、奴隷では仕事に差し支えます」


 「黙ってれば、バレ無いんじゃないのか?」

 「ココだけの話にしとけば良い」と、ツイ口を挟んだ。


 「ソレは、アンタが奴隷印を打った時の話よ」

 「国で奴隷印を打つと、奴隷って一目でわかるシルシが付くのよ」


 「そうなのか?」

 「知らなかった!」


 「あの……コチラの方はシルシの無い奴隷印を打てるのですか?」そんな事がと、信じられないと言う顔で。


 「私はこの男の奴隷なのだけど」

 「わからないでしょう、言われるまでは」


 まじまじとマリーを見詰めて。

 「本当に奴隷?」


 「本当よ」


 「では、ソレで是非ともお願いします」いきり立って答える。


 「ソレで」ジット見詰めて「ホントに良いの?」

 「一生奴隷で、死んでも奴隷よ?」

 「因みに、これ比喩じゃ無いからね」


 「背に腹は変えられません」

 「兎に角この札を剥がさない事には、この屋敷から一歩も出られません」

 「仕事にも行けません」

 「お金も返せません」


 懇願? 脅迫? どっちだ?


 「だって」俺を見て、会長一家を指差し「どおする?」


 「お願いします」頭を下げて「お慈悲を」土下座だ……。


 初めて、土下座された。

 ソレもとても上手な土下座。やり慣れてるのか?


 「わかった」少し居たたまれなく成った。土下座、恐るべし「頭を上げろ」

 「本当に良いのだな?」


 会長が頷くのを待ち。

 魔法の呪文を唱えた。

 額の札が消える。


 「私もお願いします」泣いている娘が、そう訴える「このままじゃ、学校にも行けない」

 学校が在るのか……。


 「良いのか?」会長に確認。


 「お願いします」溜め息を吐き「一家全員で宜しくお願いします」


 俺も溜め息が出た。



 俺達はルイ家に戻って事の次第を主に伝えて。

 そして、家の交換を持ち掛けた。

 大きい方は豪邸過ぎて落ち着かない。

 コチラの貧相な方が良い。

 何より目立ちたく無い。

 

 チラリとマリーを見ても、異議を唱える積もりも無いようだし、是非にとお願いしたい。


 恐縮しきりの主だが、最後は頷いてくれた。

 

 恐縮するのはこっちだ。

 金貨10枚では申し訳無さすぎる。

 もちろん家賃の滞納分はルイ家に返すようにと会長には言ってある。

 

 そして俺達は屋敷を手にいれた。

 

 会長一家は元ルイ家で今は俺の屋敷の裏の小屋に仮住まいと成った。

 元は使用人の為の小屋なのだろうが、ルイ家に使用人など居ないので荒れ放題だが、掃除をすれば住めるだろう。

 それ以外の者は本邸なのだが、落ちぶれていると言っても一応は貴族の屋敷、部屋の数がそれなり以上に有ったので、ソレゾレに適当に選ばせた。

 一番良い部屋をいの一番に取ったのはコツメ。

 マリーは二階の奥、元は書斎だった場所。

 ジュリアは何故か地下室を選んだ。

 ヒヨコは馬小屋、ココも使われていなかったので、ジュリアが掃除をした。

 カエル夫婦はマリーの部屋の隣で。

 ゴーレム達はその隣に全員で入った、個室は嫌なのだそうだ。

 俺は、一階の奥の部屋、階段なんて面倒臭い。

 ソレでも部屋は余っている。

 貧相などと思って悪かった、十分に立派だ。

 

 一通り落ち着いた頃、俺はマリーと隣の新ルイ家に向かった。

 さて、期せずして、家は手にいれたのだから、次は仕事の確保だ。

 

 新ルイ家はやはりデカイ、玄関ホールだけで十分にに住めるだろう、そんな広さだ。

 その端に椅子と小さいテーブルが有り、ソコにコツメが居た。

 ソフィーと会長の娘と一緒に成ってキャッキャと話している、友達にでも成ったのか?

 と、眺めていると、ルイ家の当主が出て来た。

 家が立派に成ったので、俺の認識が、主だったのが当主に成ってしまった。

 

 「お待たせしました」

 「どうぞコチラへ」と、案内しようとする手が定まらない。

 ソレでも歩き出した当主に着いていく、開いた扉の先は何も無い大広間だった……。


 マリーと顔を見合せ。

 「ロビーに椅子が有りましたよね」

 「ソコで良いのでは?」


 情けない笑いの主が頷いた。

 短い間の当主だった。この先何があっても認識が当主に成ることは無いだろう。

 

 ロビー、コツメ達の反対側の椅子に適当に座った俺達。

 向かいに主。


 「保険のギルドは、結局はどうだろうか?」話を切り出したのは俺。


 「はい、冒険者ギルドの一角に窓口を設けました」

 「今は娘が受付をしております」


 やる気に成ってくれたか。


 「ただ、要領が得ないのか、難しい様で……」また、情けない笑顔。


 ソレは、要領ではなくて、お嬢様の性格のせいだろう……とは言わない。


 「コツメ」反対側に届くように大きく「新人達5人を呼んできてくれ」


 「えー」少し仏頂面で「いまー」


 「今すぐよ」マリーが叫ぶ。


 「ぶー」ブー垂れて出ていく、少女達も連れて。


 程なく5人がやって来た。

 その先頭の男前に。

 「仕事を頼みたい」

 「保険業務と、この家の警護だ」


 「保険とは?」

  

 その質問に一通り説明をしてやり。

 「人選は任せる」


 「かしこまりました」

 と、暫く考えて。

 「アランとエマとケイトをこの屋敷の警護に」

 「私とリリーで保険ギルドの運営をさせて頂きます」


 「コチラは?」男前のゾンビを指し。


 「私はロイドと申します」主に一礼した。


 ロイド! そんな名前だったのか、名前まで男前だ。


 「彼は優秀だ」たぶん「任せて置けば利益を上げてくれる」かな?

 

 「貴方の紹介なら心強い」立ち上がって、ロイドと握手をする主。

 「リリーさんも宜しくお願いします」

 

 リリーは、にこやかに頷いた。

 小柄な美人なのだが、可愛いの方が勝っているそんな感じの娘だ、看板がわりに成ってくれそうだ。

 

 「しかし、当家に護衛は必要無いのですが」


 「ソフィー様の事を狙う輩が他にも居るかも知れません」ロイドが先に答えた。

 

 「暫くして、何もなければその時は引き上げさせましょう」俺が続ける。

 王の事、勇者召喚の事は言わないで置く事にした。

 その内に王は動く筈だ、諦める事はしないだろう。

 戦争に成るにしても、その抑止力としても勇者の名前が必ず必要だと考えて居るだろうからだ。

 そして、ソフィーはそのオトリだ。

 

 3人に向き直り「宜しく頼むな」と、微笑んだ。


 ソコへ、会長がやって来た。

 滞納分の返済を早速に持ってきた様だ。

 主と挨拶をして、お金を差し出す。

 ソレを見たマリーは、魔法の権利書を出して確認して、舌打ちした。

 対して減らなかった様だ。


 「ちょうど良い」そんな会長を呼び止め「今、新しいギルドの話をしていた所だ」と、話を振った。


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