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マリー 家を買う


 目が覚めた俺は、まだ頭目の小屋に転がされて居た。

 頭がズキズキする。

 サルグツワはほどかれていた。

 目の前でマリーと頭目が話をしている。

 昨日はナニを食ったっけ?

 頭目が誰かを呼んだ。

 フローラルなゾンビが近付いて、ナニやら話してまた離れた。

 お嬢様は可愛いかったな、ソフィーもあんなに美人に成るのだろうか? うるさいダケだったが。

 フローラルなゾンビが男を1人連れてきた。

 シュッとした男前だ。やはりゾンビだが。

 男前でも所詮はゾンビだ。

 美人ならゾンビでもいい。


 「目が覚めた?」いつの間にかに目の前に立つマリー。


 「今度、パンツは花柄を買ってやろう」


 「まだ、薬が効いているようね」そう言いながら、俺の鼻の前に小瓶を差し出す。


 ああぁ、あの良い臭いのと、期待で肺一杯に吸い込んだ。

 だが、ソレとは違い強烈な刺激臭で思いっきりむせ込んだ。

  

 「なんだ! コレは」


 「ただの気付け薬よ」小瓶をしまい「しっかり目が覚めた?」


 「ああぁ」ノソノソと身体をよじり、起き上がる。


 「暫くはそのままで、糸をホドク積もりは無いわよ」じいっと俺を見る。


 「ああ」頷いた。


 「随分とマシに成ったようね」


 「病気見たいに言うなよ」


 「じゅうぶん病気よ」鼻で笑い「魔王病ね」


 「そうか……」苦笑い「病気か」

 アンテッドを召喚して、そのアンテッドに影響される。

 確かに、そうかも知れない、蜂達の前と後では少し行動が変わった気がする、御気楽に成ったような。軽い感じに成ったような。

 次のアンテッドはマリーだった。その後も少し変わったか、打算的に成った様な、理屈っぽく成った様な、そんな気もする。

 そして蜘蛛の後は、真面目な感じか? 優しく成った様な、か?

 ソレゾレに微妙に違うとは思うが、でも行動はやはり変わった気がする。

 気がするとしか、わからない。

 自分の事なのにだ。 

 自分の事だからか?

 考えてもわからないものはわからないか……。

 しかし、盗賊の時は大きく変わった。徐々にだが、ソレはわかる。

 やはり、数か?

 もう少し成長すれば、克服出来るものなのか?

 ソレもわからない。

 わからないのだから、出来る限りアンテッド召喚はやらない方が良いだろう。

 時間が解決してくれるなら、ソレが一番楽なのだが。

 マリーの言う通り、暫くは病気として付き合って行くしかないのか……。


 一旦、切り替えよう。

 この、考え込むのも、何かの影響かもしれない。


 大きく息を吐き。

 「で? ソフィーはどうなった?」


 「今、コツメとムラクモが送って行ったわ」

 「アンタの事は、怪我して治療中で遅れるって伝言を持たせてね」

 

 「大丈夫なのか?」


 「護衛にアルマとシルバを付けたから、大丈夫でしょ」


 「なら……安心だ」


 俺から目を離さないでいたマリーが、1つ溜め息を付く。

 「貴方も大丈夫そうね」頷いて。

 「今、頭目と話していたのだけど」

 「今後の事ね、どうしようかしら?」


 「このまま、盗賊で良いんじゃないか?」

 「下手に動けば、怪しまれるだろうしな」


 「そう」頷き「その通りね」


 「あの、男前は?」


 「ここの状況を聴きたくて、呼んだの」


 少し考えて。

 「話がしたい」


 頷いたマリー。

 直ぐに男前なゾンビを呼んだ。


 「何かご用で?」この男、声も渋い。


 「今の盗賊達の状況は?」


 「半分はゾンビで、もう半分は死んだままです」


 「その半分で、盗賊の仕事……国の仕事は出来るか?」


 「ゾンビ化で能力も飛躍的に上がりましたので、その人数でも余裕が有ります」


 「ウーン」

 「死体だが、腐らないようにして地下室にでも保管しといてくれ」


 「ゾンビにするつもり?」マリーだ。


 「余裕が出来たらな」首を振り「今すぐじゃ無い」


 「大丈夫なの?」


 「一応はネクロマンサーだからな、アンテッドを造れなければ普通以下だ」と、笑って見せた。


 「わかったわ」


 「で、お前は国の仕事はした事があるか?」


 「いえ、私はやった事が有りません」


 「国の連中に顔は知られているか?」


 「大丈夫です」頷き「私の顔も名前もわからないでしょう」


 コイツは、頭がキレそうだ。俺の話の意図を理解している。

 「ここには、女の盗賊も居るのか?」


 「居ります」頷き。


 「では、お前を含めて男2人と女3人」

 「適当に見繕ってくれ」


 「わかりました、今すぐに」と、小屋を出て行った。


 そして「頭目」と、声を張り上げ呼んだ。


 「なんだ?」


 「五人ほど連れて行くが、良いか?」


 頷く頭目。


 「後の事はお前に任せる」

 「出来るだけ今まで通りにしてろ」


 「ソフィーの件はどうする?」


 上への報告か。

 コイツもヤハリ頭がキレる、流石は頭目だ。


 「剣と盾を持った奴に奪われた」

 「そう言っとけ」


 「成る程」頷き「良い考えだ」


 「ン?」マリーは1人わかってない様だ。


 「そう言っとけば、剣の勇者の国が介入したと、勝手に想像してくれるだろ」

 「勇者召喚は一度ダケだと、そう言い意味に勘違いしてくれる」

 「そのうえで、ソフィーが無事に戻れば、盗賊と国の関係もわかっているぞと、脅しだともな」

 

 「そう、思うでしょうね」頭目も頷いた。


 「じゃ、盗賊達が危ないんじゃ無いの?」


 「大丈夫だ」マリーを見て「今、盗賊達に何かをすれば認めた事に成る」

 「暫くは、表だった事は出来ない」ニヤリと笑い「勘違いしている間ダケだがな」


 「アンタ」いぶかしむ目で「ホントに大丈夫?」

 

 俺自身も、俺をいぶかしむ。

 俺は今、大丈夫なのか?




 男前なゾンビは有能だった。

 俺の思惑そのままの人選。

 男は渋目の壮年、いやもう少し上か?

 女は3人共に若い、そして派手さは無いが美人だ。

 多分、皆が頭もキレて、そして強いのだろう。

 「合格だ」


 「一旦、ソフィーの屋敷に行く」

 「お前達も着いて来い」


 全員で頷いた。





 城下街に入る前に、俺の拘束は解かれた。

 その時に薬瓶を持たされた。

 あの良い匂いのする方だ。

 落ち着かせる効果が有るのだそうだ、ついでに麻酔の効果もと、言っていたが本来はソッチじゃあ無いのか? と、思うのだが。

 イザと言う時には使う事にしよう。

 などと考えながらに屋敷に向かう。


 ソフィーの屋敷に入るなり、主が俺に頭を下げた。

 「有り難う御座いました」ペコペコと、貴族の顔ではなく父親の顔で。

  

 「仕事をした迄だ」


 「おお、そうでしたね」

 「先払いの金貨10枚を置き忘れて行かれましたね」と、巾着袋を差し出す。

 「しかし、これでは少ないと思いますので別を用意したいと思うのですが」


 「保険は金貨10枚の約束だからな」手を振り「これで良い」


 「しかし……気持ちが」


 「なら、住む所を紹介してくれ」


 「ウーン」手を口に当てて考える。


 「無理ならそれで良い」


 「いえ、当ては有るのですが……」

 「当家の別邸です」

 「ですが、人に貸していまして」


 「ソレは、仕方が無い」笑い「追い出して入るわけにもいかないし」


 「出来れば追い出して頂けますと助かります」

 「家賃を払ってくれないのです」


 「そんなのさっさと追い出しなさいよ」マリー。


 「ソレが、商人ギルドの会長でして、その、強く出られないのです」


 「その家、金貨10枚で買ったわ」と、俺の手から巾着袋を奪い、主に渡した。

 

 「家一軒で金貨10枚は安すぎだろう」


 「人に取られるよりは遥かにましよ」と、俺に。

 「権利書を出しなさい」と、主に。


 魔法の権利書を手にしたマリーは、例の顔でニヤリと笑う。

 「家は何処?」


 「隣です」


 「え! あのデカイ家」

 「ヤハリ金貨10枚では……」と、言いかけたが、もうソコにマリーは居なかった。


 「なんかマリーが隣の家の門番ともめてるよ」そう言いながら、コツメが玄関から入ってきた。

 ソフィーと姉のお嬢様と一緒に。


 慌てて隣へ走る。

 

 もう既に大騒ぎだ。

 閑静な筈のこの辺りなのに、人だかりが出来ている。

 その先頭は、やはりマリーだ。

 

 「門番なんか要らないわ、アンタ達は解雇よ」

 その手に家の権利書をかざしながら。


 苦笑いの門番。


 「早く主を出しなさい!」詰め寄るマリー。


 「子供の遊びに付き合うほど、ここの主は暇じゃない」

 「さっさと帰りなさい」詰め寄るマリーを軽く押す門番。


 俺には軽く押す様に見えた。

 が、マリーは派手に突き飛ばされた、そんな感じに転けた。


 「小さい子供に乱暴するな!」野次馬から怒鳴り声。


 良く見ると、壮年のゾンビだ。


 「こんな子供を突き飛ばすなんて、この屋敷の人達はなんて酷い人達何でしょう」少し芝居かかっている、女のゾンビ1。

 「ホントに酷いわね」その隣のゾンビ女2。

 「館の主の顔が見てみたいわ」ゾンビ3。


 それにツラれて、普通の人間達もヒソヒソと話し出す。

 騒ぎが段々と大きくなった。


 そんな中、屋敷から1人の男が出てきた。

 「コレは、何の騒ぎです?」


 「すみません」門番が頭を下げて「この少女が騒ぎまして」とマリーを見て。


 「アンタ、ここの主?」屋敷から出て来た男を指差すマリー。


 「いかにもそうですが」と、マリーを見て「お嬢さんは?」と、物腰、柔らかく尋ねた。


 「この家の持ち主よ!」と、魔法の権利書をつき出す。


 「イヤ、ここはルイ家の持ち物で、私共がお借りしているのですが」


 「そのルイ家から買ったのよ」

 「アンタ! 家賃を滞納してるでしょ」

 「ここを見なさい」魔法の権利書の一部分を指差す。

 

 ソコには金額が載って要るのだろう、あの魔法の証文と同じだ。


 「イヤ、そんな筈は」流石は商人ギルドの会長、その魔法の権利書が本物だと一目でわかっている様だ。


 「払わないなら立ち退きよ!」

 グイグイと、権利書を押し出す。


 ソコへ、1人の女の子が屋敷から出て来た。

 「パパ、どうしたの?」背丈はマリーと同じぐらい。


 「立ち退かないなら、差し押さえよ」

 その女の子の額に魔法の権利書を押し当てた。


 「あ!」会長の叫び。


 「キャー」額から赤い札を下げた女の子の悲鳴。


 「どうしました?」女性が飛んで来た。

 

 「ママー」


 その女性の額にも魔法の権利書を押し当てたマリー。


 そして、魔法の権利書に書かれた金額を見てニンマリとする。

 「二人とも、結構な値が付いたわね」

 会長を見て。

 「まだ全然足りないけど」と、会長に飛び付いた。

 


 娘と母親の差し押さえの札に狼狽えていた会長は、そのマリーを避ける事が出来なかった様だ。

 額に札がぶら下がっていた。


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