魔王
目の前に、セオドアの糸でグルグル巻きにされた頭目がいた。
「ソフィーは何処だ?」
「……」黙り込む頭目。
「兄貴」フローラルな盗賊が「喋っちまった方が良いぜ」
「弟をコンナにしちまって」俺を睨み「この悪魔が」
「喋る気は無さそうだな」
コツメを見て「殺れ」殺意を込めて。
しかし、コツメは首を振る。
他の皆も一歩、引いた。
そんな皆を睨み付け。
「セオドア、殺れ」
シブシブと前に出るセオドア。
チラリと俺を見て、ため息とともに細剣を頭目の心臓に突き刺した。
即死だった。
満足が顔に出る。
「盗賊どもは生きて残すな」
盗賊ゾンビにそう命じて「全員、皆殺しだ」
その言葉に、盗賊ゾンビ達がゾロゾロと小屋を出る。
俺は頭目に呪文を掛けて、改めて聞いた。
「ソフィーは何処だ?」
「魔王め」頭目ゾンビが吐き捨てる様に呻き。
「ここの地下倉庫に転がしてある」
「コツメ」顎でそくす。
ビクッと身体を震わせて、走って行った。
「で……ソフィーを狙った理由は?」
「上からの依頼だ」
「上?」
「国だ」
「国と取引しているのか!?」
「俺達は国に囲われている」
「国からの仕事しかしない」
「国の汚い仕事専門か……」
「盗賊と言う名の特殊部隊なのか」
「ナニそれ」フローラルな盗賊が首を捻る。
「お前も、公務員だったって事だよ」知らなかったのだろう。
コイツに教えていても、ロクな事には成らんとの判断なのだろうが、ソレは正解だと思う。明らかにボンクラだ。
「国は何故、ソフィーを?」
「勇者召喚の生け贄だ」
「あの子の母親もソレで死んだ」
「召喚されたのはハズレだったらしいがな」俺を見てニヤリと笑った。
「ソレが俺の事だとわかって言っているのか?」ゾンビ頭目の目の前で拳を握って見せた。
慌てて「召喚の儀式の贄は、本来は1世代に1人なのだが、戦争に成りそうなのを焦ってやり直しに成ったんだ」
「あの子は可哀想だとは思うが」首を振り「俺達に拒否権は無い」
「マリー、召喚の儀式の事は知っていたか?」
「ええ」頷き「ソフィーの先祖の王から聞いているわ」
「あの、骸骨よ」
「アイツが? 王?」
「そう、負けて王座を明け渡した、その本人よ」
「……」口許を手で覆い「それで俺に王に成れと言ったのか」
「そんな事を言ったの?」
「ああ、約束させられた」
「ふーん」少し考え「仕返しってわけでも無さそうだけど」
「何か考えでも有ったのかしら?」
「サァ」
「ソレより、召喚の儀式ってのは?」
「普通の召喚じたいが難しい事なのに、勇者召喚と的を絞るとモット難しく成るのよ」
「まぁ、そうだろうな」
「で、的を絞るのに最も有効なのが、勇者の血よ」
「ソフィーの家系は、王族の時代の事だけれど、勇者の血を代々、集めたのよ何世代も掛けてね」
「勇者が召喚される度に子供を作らせたのよ」
「そして、勇者が必要に成った時に、その世代の娘が贄に成るの」
「娘ダケか?」
「そう、女でないと無理なのよ」
「娘の腹に魔法の玉を孕ませて」自分の下腹部に手を当て「魔法の玉を育てるの、母体の魔力を吸わせてね」
「そうして大きく成った魔法の玉が、母体と成った娘の肉体そのものを呑み込んで、そのまま魔法の玉の状態でその場に留まり、数年後に勇者召喚が発動するのよ」
「死ぬのか……」
「貴方は、ソフィーの母親から産まれたのね」
「母親の命と引き換えに」
「ソレをやらせたのは?」
「王よ」
「そんな事、王にしか出来ないわ」
「アイツか!」
「チョッと、なに考えてるの?」マリーが俺を見て、目を見開いた「顔が怖いわよ」
「ふん、そんな事……」
「今から、あの王を殺しに行くダケだ」
「なに馬鹿な事を言ってるの」
「勝てるさ、今見たいに片っ端からゾンビにしてやれば良い」
「お前達、今すぐ準備をしろ!」その場の全員に叫んだ「命令だ!」
「この国中の人間を全て、ゾンビにしてやる」笑いが溢れた「女も子供も」
「全部だ!」
皆が凍り付く。
1人冷静なマリーがセオドアを呼び寄せ、何かを話したかと思たら……。
俺に糸を飛ばして、捕縛させた。
「何しやがる!」
「アンタ、魔王に成ってるわよ」
「なんだ! お前まで俺を魔王と呼ぶのか!」
「お前も殺してやろうか!?」
「良いから聞きなさい」
「イヤ、もう死んでいるのだな」睨み「滅してやる」
「セオドア、口を閉じさせて」
頷き、俺の口元に糸を飛ばした。
サルグツワだ。
「いい? アンタは今、魔王化している」
「イヤ、まだしかけている?」
「どっちでも良いけど、危ない状態よ」
何やらゴソゴソと鞄を探り。
「アンタ、魔王の卵って言われたのでしょ」
「ソレは、比喩じゃ無くてその可能性がアルって事よ」
「アンタだけじゃ無いわ、その可能を持った勇者が三人居るのよ」
「未来視の勇者、それと時と空間の勇者、そしてアンタ、魂の勇者」
「そもそも、勇者ってのは強大なスキル持ちってだけじゃ無いのよ、ソレゾレにハンデのようなペナルティのようなものを背負ってる」
床に魔方陣を描き始めた。
「例えば、剣の勇者は敵を斬る度に力が上がるのだけど、盾の防御力が反比例して落ちるの、その逆もね敵の攻撃を受ければ受けるほどに防御力は上がるけど、攻撃力は下がる」
「そして、未来視の勇者は、未来予知のスキルを使う度に、持っているスキルのレベルが下がるのよ、自身がどんどん弱く成る、強力な……殆んど無敵のスキルなのに使う度に弱く成る、そうすると心が折れるのよ、そして魔王に成ろうとするの」
「時と空間の勇者はねスキルを使う度に魔力と歳を削られるの、魔力と歳が連動しているのね、しかも時間と空間のスキルは強大過ぎて一気にそれらを持っていかれる、その2つを回復する手段が自分が作った空間で、誰かもしくは魔物を直接攻撃で倒すしかないのよ、その代わりにソレを繰り返せば、ほぼ永遠の命が得られる……でも、その永遠に耐えられるかしら、耐えれなければ狂って魔王よ」
マリーの手元で何かが光る。
「最後はアンタ、魂の勇者はもっと直接的よ、ネクロマンサーはアンテッド召喚をする度にそのアンテッドと繋がるの、ソレはアンタも感じた事が有るでしょう? ソレは魂までもが繋がるのよ、心の奥の奥、負の感情もね」
俺の鼻先に小瓶を突き出しながら「これを吸いなさい」少し落ち着くような、良い臭いがした。
「多分、腐った盗賊を召喚した時から少しずつ心が侵食されたのね、ソレがここで大量にアンテッドを召喚したものだから一気に流れ込んだ感情に飲み込まれて、流されたのよ」
マリーはまだ何か話続けている。
俺の気を紛らわせようとしているのだろう。
しかし、俺の意識が限界の様だ。
少しづつ、遠く離れるように……マリーの声が小さくなり、視界と共にプツリと消えた。