最初の仕事
翌朝。
俺達は叩き起こされた。
泣きながらのお嬢様にだ。
話を聞くに、末娘がまた誘拐去れたのだとか。
昨晩は見掛けないのだけど、また自室に籠ってしまったのだと思い自分は寝てしまったのだとか。
先の誘拐以来、うわ言のように、骸骨がぁ、骸骨がぁと、うなされる事がしばしばで、そのせいで夜は寝られずにいましたから、寝れたのなら起こさないようにと、そのままにしてしまいました。
父も一晩中に書斎に籠り考え事をしてしまいましたら、今朝に成って手紙が投げ込まれまして、気が付きました。
と、こんな感じだとコツメが通訳してくれた。
泣いて、慌てて、支離滅裂な言動……俺にはわからん。ナニ言ってるのかサッパリだ。
が、一大事なのは確かだろう。
服をひっ掴み、館の主の元へと走った。
玄関ホールの中央で羊皮紙を握りしめワナワナと震えている館の主。
「何故……ソフィーばかりがこんな目に」
末娘の名前か?
初めて知ったが、そんな事はどうでも良い。
「また、拐われたと聞いたが」主の目を見て「本当か?」
「冒険者どの、今朝にコレが」震える手で差し出した。
ソレは見ずに「要求は?」
「金貨50枚と……」
「昨日の話にそのままか!」
「なら、その話」
「のってやろう!」
「ナニを……」
言い掛けた言葉を遮り。
「金貨10枚で、保険を掛けろ」
「その保険」
「俺達が受ける!」
そう宣言して、皆の所へ踵を返す。
部屋に入るなり叫ぶ。
「仕事だ!」ぐるりと見渡し「準備しろ」
ポカンとコチラを見ているコツメ。
股をおっぴろげて大事な所も隠さず寝ているマリー。
その二人以外はそそくさと出発の準備を始める。
マリーよ……いい加減にパンツを履けよと、言いたいのは後回しにして、叩き起こした。
寝ぼけたマリーを担ぎ上げ、コツメを引っ張り部屋を出る。
館を出る前。
通りがかりのロビーで、オロオロしている主に「心当りがある、大丈夫だ心配するな」と、言葉を投げて飛び出した。
その心当たりなのだがソレは、今、目の前に転がっている死体だ。
「何?」マリーが鼻を摘まんで「この死体は?」
「俺達が殺した、盗賊だ」
「うわ」コツメは首をすくめ「虫が涌いてる!」
「コイツ等がソフィーを拐った犯人だ」
「死んでるのに?」首を傾げるコツメ。
「最初の誘拐の方だ」
「じゃぁ、関係無いんじゃない」マリーは、まだわかっていない様だ。
「そうか?」首を振り「同じ人間を短期間に拐う様な偶然は無いだろう?」
「コレは、ソフィーだけを狙った誘拐だ」
「その狙った理由がわかれば、居場所もわかるだろう」
「成る程」頷くマリー。と、その他全員。
「でも、どうすんの?」コツメ。
「こうする」と、呪文を唱えた。
アンテッド召喚。
魔方陣が光、腐った盗賊が起き上がった。
「うわっ」一気に拡がる臭いと虫に皆が遠巻きに逃げる。
「なんて事をするのよ!」マリーが腐った盗賊を指し「もう少し考えなさいよ!」
「ナンだよ、自分だって」死んでるじゃないかと、言いかけたが、辞めにした。ゾンビでもマリーは仲間だ。
「全く違うわよ」しかし、マリーは俺の言いかけた事を察した様だ。
「私は、新鮮な死体」
「ソイツは腐った死体」
自分でソレを言うか?
「ナンだよ、人を無理矢理に起こしておいてその言いぐさは」腐った盗賊だ。
「ギャー喋った」コツメがトラックに逃げ込んだ。
だから……マリーと同族だって……。
まぁイイ。
「ところで」腐った盗賊に向き直り「聞きたい事が有る」
「ソフィーを拐ったのは、何故だ?」
「ソフィー?」腐った盗賊が首を傾げる。その拍子に虫が舞う。
「幌車に押し込めていた、娘だ」
「ああ」ポンと手を叩き、虫が舞う「あの娘か?」
「アレは、兄貴の指示だ」
「兄貴ってのは、俺の兄ちゃんで盗賊の頭目ナンだぜ!」パンと胸を叩き……虫が舞う。
鼻を摘まみながら、空いた手で虫を払い。
コイツ、わざとか?
「その理由は聞いたか?」
「イヤ」ピョンと跳びはね、ドンと着地「そんなどうでも良い事を聞くわけ無いだろ」
わざとだ!
「ガハハハ」口から笑い声と共に虫を吐き散らかした。
取り敢えず、盗賊のアジトを目指す事となった。
ソフィーの事は、その頭目の兄貴に聞くしか無いだろうからだ。
道案内は勿論、腐った盗賊だ。
が、コレは非常にもめた。
マリーとコツメがトラックには絶対に乗せないと鍵を閉めて立て籠り。
ジュリアは幌車でヒヨコをけしかけた。
シグレはバイクでとっくに逃げている。
協議の結果、トラックの屋根の上で妥協させるのが精一杯だったのだが、今度は、ブツブツ言う腐った盗賊を説得するのがまた、苦労させられた。
盗賊のアジトは山を2つほどを越えた先の谷にあった。
今、俺達はソコを見下ろせる谷の上に居る。
幾つもの小屋と塀と柵で複雑な道順を作っている。
小屋の壁と塀は見た目に頑丈そうだ。
幾つかの見張りやぐらも見える。
全てが木製だが。
完全な砦だ。
「盗賊どもは、何人ぐらい居るんだ?」
「沢山だ」腐った盗賊からフローラルな香りが漂った。
道中でマリーが造った消臭剤の臭いだ、殺虫成分入りだと自慢げにしていたが、確かに虫も居なくなった様だ。
「頭目……兄貴は何処に居る?」
「あの奥の小屋だと思う」指した先には一回り大きな建物があった。
ソレを確認して頷いた。
「さて、作戦だが」皆を前に話し出す。
「待って」ソレを遮ってゴーレム達を手招き。
呼ばれたゴーレム達は、ソレゾレに木箱を持ってきた。
見ると、中には黒っぽい丸い玉が箱一杯に入っている。ソレが二箱。
「なんだ?」玉を1つ、手に取り。
「爆弾よ」
「ほう」少し考えて「癇癪玉はまだあるか?」ニヤリと笑う。
「殲滅作戦開始だ!」先ずは、俺が癇癪玉を投げた。狙ったのは砦の真ん中。
大きく響く音に、盗賊達が建物から飛び出して来る。ゾロゾロ居た。
「ジュリア! ヒヨコに石化を」
「セオドアもだ!」
「ぴよー」ヒヨコのクチバシに魔方陣。
ソレを真似してセオドアも「ぴよー」
流石にこの数だと、何人かは固まった様だ。
盗賊達が右往左往し始めた。
「コツメ! 手伝え」と、爆弾を投げ込む。
二人して一箱を投げまくった。
結構な威力だ、小屋が簡単に吹き飛ぶ。
盗賊達は大混乱だ。
「アルマを先頭にゼクスとシルバは突撃開始」砦を指し「切り込め」
「ムラクモとシグレは、透明化で援護しろ」
「蜂達は、遠距離攻撃を阻止せよ」
「コツメは……適当に火を着けて回れ」
「コツメは俺に任せろ」セオドアがコツメを抱え糸を出し飛んだ。
見張りやぐらを支点に次々と糸を飛ばして飛んで行く。ヤハリ、アメコミだ!
二人して飛びながら、火の玉を撃ちまくる。
直ぐにアチコチから火の手が上がった。
「あなた、火が好きねぇ」マリーが笑った。
煙が立ち込めるのを見て。
「俺達も行こう」
爆弾の箱を腐った盗賊に持たせて、走り出す。
アルマ達が作った道を通って、砦に飛び込む。
途中、飛び出して開け放たれた扉に爆弾を投げ込み、小屋を吹き飛ばしながら進んだ。
しかし、そんな事をする迄も無くアルマ達は強かった。
剣も槍も通さない。流石に高級品の鎧だ! 硬い。
そしてアルマがスキル蛍火を使い、引き付けた盗賊達をゴーレム達が加速で斬って捨てる。
その後ろに回り込もうとした盗賊が呻いて倒れる。透明化したムラクモとシグレが殺ったのだろう。
完璧だ。一歩一歩確実に前進し、その後には死体の山だ。
そして俺は、その盗賊達の死体に、片っ端から呪文を掛けまくる。
続々とゾンビ達がアルマに加勢し始めた。
頭目が居る小屋の前まで来る頃には、溢れたゾンビ達が適当に徘徊しているほどになった。
アンテッド・ハザード? いや、ネクロマンサー・ハザード! 状態だ。
しかし、これだけのゾンビを召喚出来るとは自分でもビックリだ。
コレは、蜘蛛達がしっかり仕事をしてくれている、そのお陰だろう。
今度、会った時には何かご褒美をやらねば、ボーナスだ。
そして、全員で小屋を取り囲む。
後は、頭目をふん縛るだけ。
俺達の勝ちだ。