ギルド
「失礼致しました、当人の末娘を探して降りましたのですが、どうにも見付かりませんでいたもので」頭を下げて「お待たせ致しまして、申し訳ない」
「アラ、何処かに遊びに行ったのかしら」優雅にお茶をすすりながら。
「別に良いわよ」マリーもお茶をすする「その子に会いに来たわけじゃ無いから」
「はははは」苦笑いの主「では、約束の御礼です」と、金貨10枚を差し出して来た。
――少ないわね―― マリーの念話だ。
「ン?」と、マリを見る。
――慌てないでよ、ナイショ話に使ってるのよ……バレるじゃない――
「あ……う……」
――心で念じて、スキルのオムニリンガルよ――
小さく頷き、オムニリンガルを心の中で唱える。
――出来たか?――
――そのお金、断りなさい――
――何故?――
――チぃ、鈍いわね……いいわ、私に合わせなさい――
何か考えがあるのか? ――わかった――
「このお茶、安物ね」すすりながら。
「でも、美味しいわよ」おっとり、優雅なお嬢様。
「そうね」もう一口「良いお茶はもっと美味しいけどね」
「おい、失礼じゃないか?」マリーを見る。流石にちょっとと、声が出た。
苦笑いの主人。
「本当の事よ」回りを見て「あまり羽振りの良いようにも見えないわ」
「名の通った有名貴族様のわりには使用人も居ないみたいだし」
「お嬢さんは、小さいのに良く見ておいでになる」苦笑いはそのままで。
「おっしゃる通りの没落貴族です」頷いた。
「アラ、潔い」目を丸くして「このお金で、もっと良いお茶を買いなさい、来客用にね」と、金貨をそのまま主の前に押す。
「イヤイヤ、コレは娘を救って頂いた御礼ですから」と、押し戻す。
――駆け引きの始まりね――
――何の?――
――この主は金貨10枚で事を終わらせようとしているのよ――
――それでいいんじゃ無いのか? 突き返したら1円にも成らない――
――お金は入らないけど、恩は売れるわ……私達には有名貴族のコネが手に入るのよ……金貨10枚じゃソレは買えないわ――
――アクドイ――
――聞こえたわよ――
「じゃ、少し聞いていい?」カップを置いて「何故、そうなったの?」
「貴族なのだから、領地は?」
「私共に領地は元々に御座いません」観念したのか話始めた「ギルド運営の権利ダケです」
「何故? 貴族なのに?」
「ソレは、私共が元国王の子孫だからです」
「国王の時の領地の全てが、今の国王の先祖にメシ取られたのです」
「ソレでも、命ばかりか貴族として生かされました」
「確かに、破れた王の末路は処刑ね」
「たいへん有難い恩情でした」
「お陰で、私も娘共も今ココに居られます」
「利用されたダケでしょ」
「国王の首のすげ替えにね」
苦笑いの主人。
――どう言う事だ?――
――クーデターにしろ戦争にしろ、国を奪ったと為れば国民は荒れるわ、でも、元王から王位を継承したと為れば、ソレは祝い事よ……新しい王の誕生なのだから――
――成る程、だから殺さなかったのか、新しい特別な貴族として残した――
「しかし、ギルドなんて時代遅れもいいトコじゃない」
――そうなのか?――
――ギルドはいわば同職の利権を守る為の組合よ、大きく成れば声だかに権利を主張するわよ――
――権利とは?――
――金よ! 商業ギルドも職人ギルドも、冒険者ギルドだってそう、安定した仕事をして報酬を得る為に在るのよ、報酬は詰まりはお金よ――
――成る程、しかし報酬を得るのは当然じゃないか?――
――仕事をした方はね、でも運営側は? ギルド運営にだってお金は掛かるのよ、経費ね……それに税金もよ、大きく動くお金に税金を掛けない国なんて無いのよ――
「全くもって、その通りです」
「報酬を払う度に赤字です」
結局は押し付けられたのか。
少し考えて。
「新たにギルドは作れるのか?」
「ソレは可能です」頷き、俺の問いに答えた。
――この世界に、保険てあるか?――
――無いわね――
「保険のギルドを作ってみては?」
「保険とは?」
「ある種のギャンブルだ」
「この間、娘が誘拐されたのだろう?」
「仮にだ、娘は近くの村まで行かなければ成らない用事が出来たとする」
「親であるアンタは心配するよな?」
頷く主。
「ソコで娘に保険を掛ける……そうだな、この金貨10枚を掛け金にして俺が受けよう、娘が村まで行って用事を済ませて家に帰ってくる迄の期間だ」
「もし、その間に娘に何か有れば……例えば誘拐だとか事故とかが有れば、俺は貴方に金貨100枚を渡そう」
「金貨100枚有れば、仮に身代金が金貨50枚だったとしてもソレを払えて、お釣まで残る」
「無事に何事もなく帰って来れば、俺は金貨10枚の儲けだ」
主の目が熱くなって来た。
「その掛け金はどうして決めます?」
「ソレは、掛けたい人間の言い値でいい」
「このカップに金貨10枚でも構わない、コレが明日までに割れれば金貨100枚とかな」
「しかし、掛け金は必ず前払いで、魔法の証文を付ける」
「自分でわざと割ればソレは無効だ」指先でカップを弾いた。
――魔法の証文で……出来るよな?――
――出来るわ――
大きく息を吐き、頷く主。
この主、頭は悪く無い様だ。
「冒険者ギルドにその金を持って行って、盗賊退治でも構わない」
「報酬は金貨20枚で、無事に娘を戻せばプラス30枚……」
「逆でも良いぞ、俺はこの金貨10枚から5枚を冒険者ギルドに持ち込み、娘の道中の用心棒を雇う」
「どうだ?」
「ソレは、商人の買い付けでも?」
「それこそが、本来だ」
「この街の商人が、ドワーフ村まで商品の買い付けに行くとして、保険を掛ける、無事に戻れば掛け金は無くなるが、戻って来れなければ10倍だ、その買い付けに行く者は本人の必要も無い、冒険者にリストを持たせて行かせれば良い」
「成る程、しかしリスクが……」自分が10倍を払う事を考えたな?
「その保険を受ける者は、新しく創るギルドで募集を掛ければいい」
「例えば、金持ちの貴族とか」
「商人ギルドそのものでも構わない」
「ソレゾレが自分のリスクを考えて、受ける保険を自分で選ばせるのだ」
「その時の仲介料を稼ぎにすれば良い」
「仲介料は、掛け金の10パーセントとかな」
「金貨1枚の儲け……」
今一度、考え込み。
「その保険を保険ギルドで直接受けるのも……」
「有りだ」
「……」考え込んで「貴方の取り分は?」
「無しで良い」
「その代わりに、仕事を優先的に回してくれ」
「その、保険がらみの仕事で構わない」
「それくらいなら……」
「しかし、それで本当に良いので?」
「提案は確かに俺だが」
「俺には、ソレを実現出来るモノが何も無い」
「そして、実際に動くのはアンタだ」
「どおする?」
「アラぁ、何だか難しいお話見たいですねぇ」カップを置いたお嬢様は「私は、お連れ様のお相手をさせて頂いても宜しいかしら」
「何だか、面白そうな方達で、興味が沸きますわ」と、立ち上がり部屋を出て行くお嬢様。
出て行く最後までお嬢様。
見事に緊張を切って経つ。
流石、お嬢様。
「今晩は是非に当家の屋敷でお休み下さい」ニコニコと主が言った。
――うまく、一晩考える時間を作ったわね――
俺は素直に頷き、その提案を受ける事にした。