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少年

 

 岩の荒野の道をバイクとトラックが行く。

 そのトラックの後ろには、幌車を修理して繋げて引っ張っていた。

 何故そんな事をしているのか、ソレは……ヒヨコが大き過ぎてトラックに乗せられないからだ。

 1度はトライしてみたのだけど、余りの狭さにマリーがキレてしまいこう成った。

 もちろん修理と改造はジュリアの仕事だ。

 切れたマリーに責任を取れと迫られたのだが。

 しかし、そんな事を言われるまでも無くハナからソレをする積もりだったジュリアは、ゴーレム達と協力して一晩で仕上げきった。

 そして、今はヒヨコと一緒に寝ている。


 そのヒヨコも奴隷印を打つと大人しく成った、言う事もちゃんと聞く。

 しかし、ジュリアが一番好きと言う部分はブレる様子は無い。常に一緒に居たがった。

 その行動も見た目も可愛いのだが、如何せんペットとしてはデカ過ぎる。

  

 そして蜘蛛達なのだが。

 アノままダンジョンに置いてきた、と言っても捨てた訳じゃない。

 1つの仕事を与えたのだ、掃除……つまりは駆除。

 あそこはコレから先も利用する事に成る道だ。その為にもしっかりと仕事を全うしてもらいたい。

 アノ見た目が……連れて歩きづらいというのもあるが。ソレは言わない。


 ――旦那、草木がチラホラ見える様に成ってきました、草原が近いようです――

 運転しているのはムラクモ。


 「もうか、ヤハリ速いな」


 ――どうします? ウサギの里に寄りますか?――


 「イヤ、辞めとこう」スキル屋には覗きたいとは思うが、差し迫って欲しいモノもない。

 料理はジュリアが出来る。

 ソレもとても上手だ、昨晩の鶏料理は本当に旨かった。

 ヒヨコの親だが……。


 


 そのまま暫く走る。

 今はもう草原の中だ。

 途中の飛空石も何度見ても凄い。

 道路脇から見えるソレは壮観だった。

 このペースだと、夕方前には城下街に着きそうだ。

 ソレでも少しは時間が掛かる、その間に昼寝でもしよう。と、横に成った。




 ――旦那……旦那……―― 俺を呼ぶ声がする。

 その声で目が覚めた、けっこう疲れていたのか、熟睡していたようだった。


 「なんだ?」バキバキに固まった背骨を伸ばしながら。


 ――子供が1人で歩いています――


 「子供?」

 見ると、前方の少し前、道路から離れた所に子供? 少年が1人で木の棒を引き摺りながら、歩いていた。


 「城下街の子供か?」

 「ただ遊んでいるだけだろ?」


 ――子供の足で、城下街は遠すぎます――


 「じゃ、村の子か?」


 ――ソレも、遠いと思います――


 「遠いと言っても、四・五時間の距離だろ?」そう言って、気が付いた。

 魔物の居るこの辺りまでは、確かに遠すぎる。

 「停めてくれ」

 マリーも起き出した、目を擦っている。

 コツメは、股を開いて大の字に熟睡中、起きる気配はない。

 

 車を降りて、少年の方に歩み寄る。

 遅れてマリーも着いてきた。

 少年の方はと見ると、既にこちらに気付いていたのか、ジッと黙って目線を向けている。

 俺達とトラックを値踏みするように。


 「こんな所で1人かい?」辺りを見渡して……ヤハリ誰も居なかった。


 「……」無言の少年。

 黒髪で華奢で線の細い感じの少年。美少年とは少しモノ足りないがソレでも悪くは無いと思う。


 「ナニしてたの?」マリー。

 

 「ダレ?」マリーと同じぐらいの背丈の少年が目を細目ながら。


 「コレから、城下街まで行こうとしている、その旅の途中でね」トラックを指し「君も一緒に乗って行くかい?」


 「……」


 警戒されているようだ。

 無理もないか、俺の格好はまだ、この世界のモノではないし、トラックも引くも押すも無く勝手に動くなんてモノは、現実に目の当たりにしても想像し難いモノだろう。


 「ココ、魔物も出るわよ、1人なら一緒に行きましょう?」


 「……」


 「城下街じゃ無くても、行きたい場所まで送ってやるぞ?」


 「……」首を振るだけの少年。


 「そう」その一言ダケで車に戻るマリー。


 「良いのか?」

 ソレは、少年へ向けてだったが。


 「本人の意思よ」マリーが答えた。

 「何か大事な用事でも有るんでしょう」


 もう一度、少年を見る、ジッと黙って動かない。


 「じゃ、気を付けてな」片手を降って踵を返した。


 車に戻り、車窓から覗き込んだ少年は、コチラに興味を無くしたのか、また棒を引き摺り歩いていった。


 ソレを見るマリーは何か考え事しているのか、少し険しい表情だ。


 「行こう」ムラクモに告げた。


 その先スグの道中。

 カエル達に出会った場所を横切る。


 アノ盗賊達の死体もまだソコに有った。

 鳥か魔物かに喰われて骨半分、肉半分のグロい状態だ。


 あの少年は大丈夫だろうか?

 もう少し、良く話して連れて来れば良かったと、少しの後悔。

 しかし、ソレも今更かと、前を向く。



 

 そして、今は。

 大きな城壁の前、その正門であろう場所に、俺達は立っていた。

 城下街はその中だ。

 

 衛兵達が数人、俺達とトラックを見ている。

 

 「街に入りたいのだが」そのうちの1人に、貴族からの招待状、羊皮紙を掲げて見せる。

 ガッシリとした体躯の男だが、有能そうには見えない少し残念な男。


 「フム」俺を見て、マリーを見て「冒険者……子連れの旅人か?」

 

 「しかし、妙なモノを連れているな?」別の衛兵がヒヨコを見たのだろう。


 「ペットなのだが」指差し「あれは駄目か?」


 「躾は出来ているか? 暴れたりはしないか?」


 「その点は大丈夫だ」頷き「見た目通りのヒヨコだしな」ただし、デカイが。


 「ルイ家の紋章も有るしそのまま通してヤレ」横から出て来た別の衛兵、背の低い小太りの定年一歩手前と言う感じの冴えない男。

 「面倒臭いのは御免だ」本音はコチラか。


 「ウム」道を明け「ヨシ! 通れ」


 


 街は石と木で出来ていた。

 三階建ての建物も見える、建築技術は高い様だ。

 その証明が中央奥に見える王城だ。門をクグって真っ直ぐな道の先に建つ一際背の高い城。

 街の中も賑わい、見るからに平和そのもの。

 人、亜人、獣人、擬人、様々な人種がソレゾレの格好で、争いもなく闊歩し、時に談笑している。

 そんな中をユックリと車を走らせた。

 ソレを見た、皆が一様に目を見開き、指を指すが、騒いでいる者も居ない。

 初めて見るモノなのだろうが、ソレでも物珍しい以上には成らないようだ。

 少し変わった魔法の乗り物と、解釈されたのだろう。


 そのメイン通りの両脇には様々な店が並んでいた。

 武器屋、防具屋は勿論、スキル屋に雑貨屋、服屋、食堂に屋台、そして宿屋も見える、みな其なりに繁盛している様だ。活気がある。

 コツメが目を輝かせて見ているが、それらは後回しだ。

 先ずは、屋敷を目指す。


 道行く人を適当に選んで、行き道を聞く。

 街の中心の噴水広場を左に折れて、ドン付だそうだ。

 適当に聞いて、一発で教えてくれる、さぞ有名で立派な屋敷なのだろう。

 

 と、目の前に一際、貧相な屋敷。

 噴水を曲がって、とても立派な屋敷が続いたが、この一軒だけが小さい。

 そうは言っても、俺達の世界のチョッと小さいホテル並みだはあるのだが。

 如何せん、隣がデカ過ぎる。イヤ、その隣もだ。

 相対的に見て、明らかに貧相だ。

 この屋敷ダケ門番も居ない。


 一応は、隣の門番に聞いて確認してみるのだが。やはりココのようだ。

 

 門番の居ない門をクグり玄関前ロータリーに直接、乗り付ける。

 誰かが出てくる気配もない。

 仕方が無いので扉の前に立つ、が、ノックもない。

 頭を掻いて唸っていると、マリーが勝手に開けて入った。


 「チョッと! 誰か居ないの?」

 広いホールにマリーの声が響いた。


 暫くして、中央の目の前の階段を1人の男が降りてくる。

 「どちら様でしょうか?」

 良い服は着ているのだが、冴えないおじさんだ。

 使用人か?


 「この屋敷の主人を呼んで頂戴」


 「私がそうですが」

 オット、コレは失礼。態度には出さず、心の中で謝っておこう。


 「アラそう、コレは失礼」マリーはそのまま悪びれも無く謝った。


 「当家に何様でしょうか?」


 俺を見たマリー。


 「コレを貰ったのだが」と、羊皮紙を差し出す。


 「あなた様が、娘の恩人」声のトーンが明るくなった「ササ、どうぞコチラへ」俺の後ろを見て「お連れ様もどうぞ」

 見ると、コツメ達が玄関から半身で覗いていた。


 右の部屋へと通される。

 椅子ダケの何も無い部屋。

 その奥の扉の向こうに応接室が見える。

 ここは、その待合室か? 一応は貴族の屋敷だけの事はある。無駄な作りだとは思うが。

 

 「お前達は、ココで待て」そう言い残して、奥の部屋へと入る。

 マリーは1人着いてきた。


 俺達に椅子を進めた主は「少々、お待ちを」と、部屋を出た。

 突然に訪れた格好だから、慌てさせたか?

 しかし、アポの取り方などはわからない。

 電話が有るわけでも無いこの世界ソレなりの作法も有るのだろうが知ったこっちゃない。

 

 暫く後、えらく綺麗な娘がお茶を運んでくれた。

 メイド……では無さそうだ。向かいに座る。

 そして、主が今一度現れ、その隣に座った。


 「この度は、妹が大変お世話になりました」美人の娘が頭を下げた。

 紛れもないお嬢様だ。


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