決意
「さて、コツメ君」
蜘蛛の糸でグルグルのす巻きにされ、両崖から真ん中に吊るされたコツメを見上げながら。
「今、君が吊るされている……その理由がわかるか?」
「反省してます」しょげかえったコツメ。
「違うでしょ」キッとにらみ「先ずは理由を聞いてるのよ」マリー。
「アタシが……我慢出来なかったからです」
「前にも一度有ったよね」自分の肩を叩いて示し「大怪我をしたろう」
「はい……ごめんなさい」
「あの時、痛かったろう」
「うん……」グスン。
「ソレをもう一度シッカリ思い出しなさい」
「もうしません」半泣きで「許して、下ろして」
「今回は誰も怪我しなかったから良かったけど」ため息混じりのマリー「誰かが怪我をしてたら、どうするツモリだったの?」
「でも……」
「でも? ナニ?」
「ゴーレム達は簡単に直るし」
「アンデット達はもう死んでるし」
「………」ジーっとコツメを見詰めるマリー「反省が足りないようね」
「え!」
「今晩、一晩そのままよ」吐き捨ててトラックの中に入って行った。
「イヤー!」じたばた「ゴキブリが出るー!」
鶏を解体しながらソレを見ていたジュリア。
隠れて小さくプププっと笑う。
セオドアは先程に、手にいれた鶏のスキルをコツメに試している。
「石化! 石化!……」口の前に魔方陣が出ているのでスキル自体に問題ないのだが、未だに1度も成功いていない。
そんなセオドアをジュリアが呼んだ。
ふて腐れながらブツブツと洩らしながらジュリアの元へ。
そして、二人は何やら話始めた。
半分のビルの屋上を見ながら。
鶏のスキルなのだが、石化と、早起きと、ジャンプ、盲腸便、軟便、逃げ足、警戒心、神経質、クチバシ、体術だった。
今回、一番活躍したセオドアに選ばせてやったらば、石化と逃げ足とジャンプと体術を持っていった。
普通そうだよな?
残りは録でもないと思いながらも一応は飴玉に変えたのだが、
その内の軟便をジュリアが、どうしても欲しいと言ってきた。
とても必死な眼差しに、どうせ捨てるかもだしと、くれてやる事にした。
しかし、何故そんなモノを……謎だ……。
その二人、目の前に居たのだが。
話終わったのか、セオドアが頷き、ジュリアを抱えて、糸を屋上に飛ばしてスルスルと昇っていく。
セオドアの蜘蛛の糸、何だかアメコミを想像出来る位に成長している。
さて、カエル達なのだが鶏に壊されたであろう、幌車を見ていた。
さぞ悔しかろうにと、声を掛けようとした時。
笑い声が聞こえた。
二人して大笑いしている。
そして、シグレはバイクの方に行き……ウットリ。
ムラクモは鼻歌を歌いながらトラックに乗り込む。
トラックもやはりゴーレム化している様だ。ムラクモが運転出来ている。
その仕方は、俺を見て覚えたそうだ、この二人乗り物に関しては優秀過ぎる。
相当に好きなのだろう。イヤ、本能に刻まれてるのか? もしかするとそんなスキルが有るのかも知れない……ン? そう言えば、マリーがそんな事を言っていたか?
そして俺は、その壊れた幌車の中を探った。
荷物は多少は散乱してはいたがまだそのままだ。
その中の、食べ物の入った木箱と飲み物の樽、その裏に手を突っ込む。
その場所は、コツメが気に入って常にいた場所、つまりはここに……。
探る手に触れるもの、ソレを掴み見てみるとヤハリだ。
花柄の小さな巾着袋……中身は銀貨10枚、コツメにやったお小遣いだ。
ソレを持ってコツメの所へと戻る。
途中、蜘蛛を一匹呼んで、シクシクと泣いているコツメを下ろさせた。
「ごめんなさい」地面に足を着けたコツメが謝った、腹の部分は糸でグルグル巻き状態のままで。
「ホレ、コレ」そのコツメに花柄の巾着袋を渡そうとした時。
蜘蛛が俺をツツいてトラックを指し示す。
その先には、窓越しにコチラを睨んでいるマリーが居た。
ソレを見た俺、小さく首を振り「まだ、お許しが出ないようだ」と、花柄の巾着袋をコツメの胸に押し込み、蜘蛛に命じた。
泣きながら宙吊りにされるコツメ、しかしもう暴れる事はしなかった。
しっかり反省はしているようだ。
そして小声で俺に「アタシのお小遣い……有り難う」半泣きで、半笑い。
それに俺は、頷いて返してやった。
蜘蛛も小さく肩を竦める様な仕草をし、ゴーレム達と遊んでいる仲間の所へと立ち去る。
しかし、蜘蛛達は一言も喋らない……何故だろう? 念話は出来る筈なのに。
召喚した時を考えるに、ヤハリその直前の出来事が、何か反映されるのだろうか?
確かあの時、ジュリアのチャンとした声を初めて聞いた……予想外に低い声に個性的だと思った、その思いが影響したのだろうか?
もっと単純に直前に見たのが普段無口なジュリアだからか?
セオドアの時もだが、ヤハリ良くわからない。
等と考え込んでいると。
いつの間にかに居たセオドアが俺をツツいて。
「チョッと来てくれ」と、屋上を指す。
セオドアに抱えられて屋上に連れてこられた俺は、驚愕する事に成る。
ジュリアが黄色いヒヨコに追いかけられていた。
全長2メートルは越えるであろう、巨大ヒヨコ。
「あの……ヒヨコはなんだ?」と、セオドアに尋ねる。
「さっき迄は卵だったんだが……」
「順を持って話せ」
「ジュリアに屋上に鶏の巣を見付けたから、一緒に来てくれと頼まれたんだ」と、指を指す。
その先には、枯れ草と枝で作った巣と割れた卵の欠片がある。
「その時はまだ、普通に卵だったんだが」
「ジュリアがその卵を調べながら、コンコンと叩いたらヒビが入って、中からあれが出てきた」
「ぶったまげたぜ」
「ソレが何故にジュリアを追いかけている」ウーン、危険では無さそうに見えるが、魔物だしなぁ。
「サァ」
「ジュリアはどう思う?」走り逃げるジュリアに問いかけた。
が、ただブンブンと首を横に振るだけ。
そのうち、追い付かれたジュリアの襟をクチバシで摘まみ、自身の背中に放り上げ、その場でうずくまるヒヨコ。
ジュリアが降りて逃げると、また追いかけて同じ事をする。
「ずっとあれの繰り返しなんだ」ワケがわからんとセオドア。
「ふーん」ヤハリ危害を加える気は無いようだ。
と言うよりも、甘えてる? そんな感じにも見えた。
「親だと思ってるのか?」
「なんだ? それは?」鼻で笑うセオドア。
「刷り込みってヤツだ」
「鳥の習性だな、初めて見たモノを自分の親だと思い込む」
「へぇ」頷き「なら、そうか」
「アイツが最初に見たのはジュリアだし」
「しかし……コレは、どうしたものか?」
「マリーを呼んでくる」そう言い残しビルから飛び降りた、セオドア。
「ありゃ」呆れるマリー「ナニやらかしてンのよ」この光景を見た第一声。
「こんな事に成るなんて」グスン「思わなかったの」声は小さいが普通には喋れている。少し慣れてきたかな?
「ただ、卵を見付けたから、ソレを見に来ただけなのに」ヒヨコの羽毛に半分埋もれながら。
「ウカツなのよ」と、近付いていくマリーに、威嚇するヒヨコ「オット」
「完全に拉致られている」ため息「どうスッかな?」
「倒しちゃいなさいよ」クダラナイとばかりに吐き捨てる。
「イヤイヤ、それは」
「ナニ? 同情してんの?」
「親を殺したから?」
「確かにこの状況をみればそうね、卵を守ろうとしていたダケの必死な母親」
「ソレを有無を言わさず、殺しちゃった」
「そんな、可哀想な境遇のヒナ」
「ヤハリ……そう言う事か……」誰の目にも、そう見えるのか。
「でも! だからナニ!?」ヒヨコを指差し「コイツの親が私達に喧嘩を売ったのが先よ!」
「勝てない喧嘩を売ったコイツの親が悪いのよ!」
「自業自得!」
「イヤ、それは親であって……コイツでは……」
「アンタ!」指で指し「甘いわよ」
「ここは弱肉強食の異世界なのよ!」
「勝った者が正義なの!」ドーン。
「……」
「アンタ、いい加減にソレを受け入れなさい」
「イヤ、異世界なのはチャンと理解している」
「アンタのその格好」
「未だにコレは夢かナニかで、そのうちに目覚めるか?」
「もしくは」
「帰れる方法がスグに見付かるって、思ってるんでしょうけど」
「そんなのは無理だから! 無いから!」
「イヤソレは……」
「思ってない? って言いたいの?」
「心の底ではそう思ってるのよ」
「だから、その証拠に元の世界の服を未だに脱げないで居るのよ」
「甘えないでよ!」
確かに……そうなのかも知れない。
言われるまでも無く、半分夢うつつの様な感じが常にある。
この現実が、未だに呑み込めない。
ソレは……ヤハリ、甘えなのか……。
しかし、だからと言って急に変われるもんじゃない。
ソレでも、今の俺では駄目なのだろう。
今度、何処かで魔法使いのローブでも手に入れよう。
そして、少しでも変わろう。
今のこの世界が俺の世界だって言い切れる様に。
生きていく為に。
生き抜く為に。
過去よりも今だ!
「ゴメン、言い過ぎたわ」
そんな俺を見て、落ち込んで居るように見えたのか、マリーが素直に謝った。
「でも、もう少しだけシッカリしてよね」
「私達の運命は貴方が握ってるのだから」
「ああ、その責任は果すさ」ハッキリと言い切った。
それに頷いて「お願いだからね」
「それとヒヨコだけど、奴隷印を打ってやれば言う事も聞くんじゃない?」