表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/114

捕食者


 ドワーフの村を出た俺達は、今現在、ダンジョンの入り口に着ていた、あの蜘蛛のダンジョンだ。

 今後の事も考えて入り口を作っている、せめて幌車が通れないと何時までも徒歩だ。

 その作業はゴーレム達が担っていた、皆とても力が有る、土木作業もなんのそのだ……セオドアを除いてだが……。


 ジュリアは……とても遠い目をして呆けている。

 あの後、カエサルの墓を後にして、いったん家に帰り、旅の支度をして、村を出たジュリア。

 村を出るその時には家族と別れを惜しんではいたが……ソコまでは普通だった、ジュリアの場合は普通と言ってもアレなのだが、まぁ普通だ。

 だが、しかし、村を出たその瞬間にコツメが大笑いし出した。

 ジュリアを指差し、腹を抱えて笑いだす。

 ソレを見たジュリア、顔の色がサーっと青ざめ……そして、今に至る。

 あの時に、多分気が付いたのだろう……自分がコツメに騙された事に。


 マリーは1人墓に残った、後で合流するからと。

 多分、本当の用事なのだろう、カエサルの墓を静かに見詰めていた。


 ソンなコンなを考えていると、ノーマルゴーレムが俺を呼ぶ。

 「出来ましたよ」


 見ると、ビルの壁を取り壊し、その瓦礫で段差を綺麗に均している。


 「おお、凄いな」ちゃんと幌車が通れる大きさだ!

  

 「ホント良く出来てるわね」頷き。

 「でも、問題は反対側ね……」少し思案気に。

 「コチラは一階だけど、アチラは三階だから……段差が凄いわよ」


 「まぁ、蜘蛛ももう居ないし」軽く微笑み「全員で、ユックリやれば良いじゃないか」 

 隣のノーマルゴーレムを見て「なぁ」と頷いてやる。


 「ねぇ、この子達の名前は?」コツメだ、ゴーレム達が作業をしている間、何処かに消えていたのに……。


 「名前か?」ノーマルゴーレムを見て「有るのか?」聞いてみた。


 「自分はNo.006と呼ばれてました」

 

 「006か……それは、駄目だな」数字で呼ぶのはチョッとなぁ、人格無視な気がする。


 「じゃ、エイティとかどう?」コツメ案。


 「イヤ、セーイでしょ」マリー案。


 「ゼクスだな」俺。

 

 「どれにする? 自分で決めて良いわよ」マリーがゴーレムに。


 ウーンと考えて「でわ、ゼクスでお願いします」ニコリと笑ったゼクス。


 その後ろに、いつの間にかシルバーラインと空の鎧が並んでいる。

 自分の名前が欲しい様だ。


 「次は、シルバね」コツメ案。


 それに俺もマリーも頷いた、それしか思いつかない。


 「鎧は、アルマトゥーラが良いんじゃない?」コツメ。


 「アルミュールとか、どう?」マリー。


 「イヤ、もっと男らしい感じでパンツァーだな」


 全員が俺を見た。

 ン? 決まりか、と思ったら。


 「この子、女の子よ」目一杯、呆れられた、全員に。

 見てわかんないのと言う顔のマリー。

 うわー、ヒッドーな顔のコツメ。

 ただ首を振るシグレ。

 俯くムラクモ。

 セオドアには鼻で笑われた。

 ゼクスとシルバは一歩引かれた。

 

 イヤイヤ、逆に聞きたい!

 何故わかる?


 「アルマに決めましょう」マリーが決めた。

 

 俺はただ頷く、それしか出来ない、って言うかそれ以外の権利を無くした様だ。



 さて、ゴーレム達が造りあげた道、ソコを通って街の中……ダンジョンなのだが、ここの魔物の蜘蛛は既に倒している。

 なのだが、あまり油断はしない方が良いだろう。

 新たに別の魔物が涌いてる可能性もあるし、と、慎重に確認して入ろうとしている俺を横目に……。

 マリーとコツメがスタスタと喋りながら歩いて行く。

 

 その時のマリーの目が、あんた何してんの? と、問い掛けていた気がした。

 

 「大丈夫なのか?」思わず声に出す。


 「大丈夫よ」肩を竦めて「この規模のダンジョンなら、ソンナに頻繁には湧かないわよ」

 「倒し損ねたヤツの生き残りは居るかもだけど、ソンナの」鼻で笑い「なんとか成るでしょ」と、スタスタ。

 

 あっそう……。

 頷き、俺も後を追う。


 呆けたジュリアもゴーレム達が手を引き連れていく。


 

 ビルをクグって道路に出る。

 左は崖でドン付き、右に大通り。

 メインの大通りは斜めに真っ直ぐ延びている。

 ソレは前回、通った時からわかっている。

 だから迷わず大通りを行く。

 

 その真ん中の交差点には、焼けたタンクローリーが、爆発で飛ばされたのか、角のビルに逆さに食い込んでいた。

 そして、道を塞いでいた蜘蛛の巣は痕跡だけを残して、無く成っている。

 随分と、歩き易く成って、結果オーライだ。


 ――旦那、アレはなんです?――

 交差点の右の道の奥にあるバイクを指差している。


 でかくて黒光りした、アメリカン。

 「ハーレーだ」おお、良いね「俺達の世界の鉄の馬だな」


 そちらの方へと寄り道。

 ムラクモとシグレが着いてきた。

 やはりこの二人は乗り物にとても興味が引かれる様だ。

 

 ハーレーのエンジンを掛けてやる。

 腹に響く排気音。

 

 カエル達の目が輝き出した。


 しかし、これは俺にしか動かせないしな……。

 と、考えた時にふと思う。

 ゴーレムには出来んのか?

 

 やってみよう。駄目で元々。


 呪文を唱えた。

 ハーレーの真下で光る魔方陣。


 しかし、やはりか、ハーレーが勝手に動く事は無い。

 一瞬、服従の意思を感じた気がしたのだが、勘違いか?


 気を取り直して、バイクに股がる。

 エンジンを軽く吹かしてUターン。


 ――オオオオ!―― カエル二匹の合唱。


 「後ろに乗ってみるか?」顎で誘った。


 その誘いに、ムラクモとシグレが即座に反応して、二人して飛び乗った。


 ハーレーに三人……チョッと窮屈。しかし走れない事もない、すぐソコまでの事だし……この世界にはお巡りさんも居ない事だしな。

 イヤ、居ても大丈夫か? 1人と二匹だから法律違反じゃ無いよね。

 なんて、くだらない事を考えながら交差点を曲がり、ジュリアとゴーレム達を抜き去り、マリーとコツメの居る場所へと走った。


 二人は地面を見ながら何か話している。


 「どうした?」バイクを停めて、二人の側へ。


 「アノときに倒した蜘蛛なのだけど……」


 ソコには蜘蛛の死骸が5匹、ガソリンの臭いをさせながら転がっている。


 「蜘蛛だね」何かおかしいのか?


 「ここにはチャンと在るのに」マリーが交差点を指し「焼けた蜘蛛の死骸が無かったのよ」

 

 「爆発で、飛ばされたとか?」タンクローリーが吹き飛ぶくらいだし。


 「それでも、何処かにはソノ痕跡くらいは残すでしょう」頷き「無いのよ」

 「アンタ、何か見付けた?」


 「イヤ、そう言えば見てない」交差点を見て「蜘蛛の巣の焼けた後は有ったが、死骸は無いな」


 「そう……」辺りを見渡しながら「嫌な予感がするわね」


 その時の、悲鳴が聞こえた。

 見ると、ジュリアが血相を変えて走ってくる。


 「出たの!」交差点の方を指差し。

 「見たの!」俺に向き直り。

 「居たの!」叫ぶ。


 「何が?」蜘蛛か?


 「黒いのが」肩を縮込めて「カサカサって」

 「居たの!」


 ジュリアのチャンとした声を初めて聞いた。

 見た目に反して、少し低めのトーン。

 個性的だねぇ……等と、考えている暇など無かった。


 ジュリアの示す方に黒い物体。

 両脇のビルから続々と……カサカサと出てくる。

 ゴキブリだ!

 ソレも、デカイ!

 アメリカのバスケット選手の靴、一足分のサイズ。

 ソレが無数にだ!

 交差点からコッチに向かってくる。道路を黒く染めながら。


 「な、ナニよ! アレ!」マリーが狼狽えている。


 「来るな!」小さな炎を飛ばしながら叫ぶコツメ。

 変なポーズを着ける余裕もない。


 「何処から沸いたのよ?」じたばた「何処に居たのよ!」


 迫り来るゴキブリ。


 しかし、俺達を中心にピタリと止まる。

 

 「囲まれたぁ」半泣きで、氷のナイフを目茶苦茶に投げながら。


 増え続けるゴキブリ。

 だが、線を引いた様にソコから入ってこない。


 「何故? 」気持ち悪い、その姿とその行動「何故ソコで止まる」


 イヤ、しかしコレはチャンスだ。

 考えていてもわからんのなら行動だ。


 「蜂達に告げる。敵進行軍を適時迎撃せよ」

 

 ――報告……任務……遂行不可能……ウゲ……げろげろ――

 

 ? なんだ? どうした?

 フードを引っ張り蜂達を確認すると、フラフラでゲロを吐いている。

 フードの中にだ!


 「どうした!? 何が在った」


 ――ほ、報告……臭いがクサいです――

 ――頭がクラクラです――

 ――蜘蛛から臭いが……ゲロゲロ――


 「蜘蛛?」あ! ガソリンか! 

 「ガソリンの揮発臭が殺虫剤がわりなんだ!」


 「じゃ、ガソリンを撒けば良いのね」ガソリンスタンドを指差すマリー。


 「イヤ、駄目だ」


 「何故?」


 「蜂達も殺られてしまう」


 「それに、ムラクモ達もだ」

 見ると、やはり本調子には見えない。擬人でもヤッパリ両生類なのだろうか?


 「でも、おかしいわね」首を傾げたマリー「ガソリンが殺虫剤に成るなんて聞いたこともない」今の状況を無視した発言。

コレはたぶん現実逃避の行動なのだろう。


その気持ち、良くわかる。だから、兎に角だが答えてやる。

 「ここが異世界で、ガソリンなんてモノが存在しないからじゃ無いか?」適当な事を言っている俺。

 そんな話をしながら、別の事を考えていた。

 蜘蛛が居た時は、ゴキブリなんて見掛けなかった。なのに今はウジャウジャ居る。

 新しく召喚されて来たにしては多すぎる。

 やはり、アノときから居たと考えるのが妥当だ。

 そう言う事なら、答えは出た。


 蜘蛛の死骸に死者召喚の呪文を掛けた。

 

 「なにするの!」マリーが叫ぶ。


 「この蜘蛛が捕食者だったんだ」


 5匹の蜘蛛のゾンビが動き出した。


 「でも、レベル1でしょ? それで戦えるの?」


 「わかってる!」

 「ムラクモ」道路の奥を指差し「あそこの猫の絵の書かれたトラック……四角い背の高い車の所に俺を抱えて飛べるか?」

 ソコはまだゴキブリが少ない、それでも数匹は見えるが、まだましな方だ。


 ――舌のスキルですね! 旦那――

 俺に飛び付き、舌を飛ばしてトラックまで飛んだ。

 

 素早くトラックに張り付いていたゴキブリを蹴飛ばし。

 スライド式の助手席側のドアを開け「よし!乗り込め」

 そのドアから運転席にも荷室にも行けるチョッと変わった作りだ。

 ムラクモが乗り込むのと同時にドアを閉めた。そのドアに一匹のゴキブリが挟まれ潰される。

 びちゃっと嫌な音がした。

 ソレを合図にか、ゴキブリがトラックにタカリ始めた。

 潰れた仲間を食っている様だ。

 

 俺は、そのまま運転席に飛び付きエンジンを掛ける。

 フロントガラス這い回るゴキブリをワイパーで飛ばして走り出した。


 黒い絨毯の様なゴキブリの中をタイヤで踏み潰しながら走る。

 出来るだけみんなから離れるようにして、次々と轢いていく。

 暫くそのまま走らせていると、ムラクモが声を上げた。


 ――旦那、マリーさん達が呼んでます――窓の外を指差した。


 ハンドルを少し切ってトラックを滑らせて旋回。

 ゴキブリのせいで雪道を走っている様に簡単に滑った。

 反動でへばり付いていた数匹が弾き飛ばされる。


 そのままマリー達の所へ走って行って、急停止。

 

 間髪入れずに蜘蛛達が車体のゴキブリを糸で絡めとり、皆が乗り込む隙を作ってくれた。

 もう、しっかりとレベルが上がった様だ。

 次々と倒していっているのが、ガラス越しに見てとれる。

 戦い方は、まさしく捕食者のソレだ。

 糸で捕まえ、飛び付いてトドメ。

 ソレでもゴキブリの数が多すぎる。

 なので、俺もトラックを走らせて加勢した。

 

 小一時間もした頃には、もう殆どが見えなく成った。

 全てを倒したワケでは無い様だが、成長した蜘蛛達に恐れを成してその大半が逃げて隠れた様だ。

終わったと、しておこう。


耳をすませば……カサカサと音がする気がしたが……。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ