差し押さえ
「サア、返すの返さないの!」
魔法の証文を手に、マリーが村長に迫っている。
「どっち!?」
「か、返したいのはやまやまなのだが、その……先立つモノが」マリーの前で膝を着いてシドロモドロの村長。
「お金は無いと……」
「払う気は無いと……」
「いえ、払うつもりではおります……その、少し待って頂けないでしょうか?」
眉を寄せるマリー。
「お金が無いと言うのなら仕方が無い」
「待って頂けるのですか?」笑みの欠片が村長に。
「武器屋は何処?」
「え?」
「アッチの方に武器屋と防具屋が並んでたよ」コツメがニコニコと。
「みんな! 着いてらっしゃい」と、走り出す。
武器屋に飛び込んだマリー。
ソコに在る武器に魔法の証文を片っ端から当てていく。
証文を当てられた武器には、赤色の札が現れて貼り付けられた、その札には(差し押さえ)と、書かれている。
「ナニをするんだ!」店の親父が、その札を見て怒鳴り声を上げ、札を剥がそうとするが取れない、と言うか……触れられない、札も武器も触ろうとすると電気の様なモノがバシンと走る様だ。
「何なんだ! コレは!」半狂乱の店主。
「代金は村長に請求しなさい!」容赦なく札を貼っていくマリー。
「あんた達、欲しい武器は勝手に持っていきなさい」
イヤ、そんな事を言われても……。
マリー以外の全員が顔を見合わせて……。
あぁ、コツメも除外。
刀! 刀! と、探していた。
「コレなんかどう?」と、マリーが槍をムラクモに投げて寄越した。
慌てて受け取ったムラクモのそれは、槍先に斧の様なモノが付いている、多分……ハルバートとか言うヤツだ、柄の部分も含めて白っぽい金属製のその槍……見るからに高そうだ!
もう一本の槍、コチラは刃の部分が細くて長い、やはり白っぽい金属製、ソレをシグレに投げた。
しかし、その二人は俺を見て。
――旦那、今の俺達じゃこんな良い武器は使えません――
レベルが足りないのか?
「だとよ……」マリーに「コレくらいのじゃ無いかな?」と、無造作にカゴにまとめて放り込まれている槍を指す。
「ソンなの、差し押さえの足しにも為らない安物じゃない!」
「しかし……使えないんじゃなぁ」と、カエル達を見て「まぁ、使えそうなのを本人達に選ばせたらどうだ?」頷き、即す。
――旦那、良いので?――
「もう、マリーは止まんないだろ? 仕方無いから……貰っとけ」小声で。
――では、遠慮無く―― 二人で頷き合い、選び始めた。
「つまんない……刀、無い」コツメがブチブチと愚痴を垂れる。
ソレを見たマリー「村長!」呼びつけ「後で、刀加治が出来る者の所へ連れていきなさい」言い放つ。
言われた方の村長は、必死に店主をなだめて居たのだが「ハイ!」と、裏返った声を出す。
ソレを見ていた店主。
「刀鍛治って、自分じゃないか」と、村長を見ながらボソッと吐き捨てた。
「村長って加治屋だったのか」
「そうだよ」店主「この村の筆頭鍛治だ」
「へぇ、じゃ刀も造れるのか?」
「勿論だ! 打てないどおりが無い」
「マリー出来るってよ」
「……」返事が無い。
「嬢ちゃんなら、隣の店に行ったよ」店主、諦めたのか? 「どうすんだよ……コレ」店の中を見渡しては大きなため息を吐き出した。
そんな店主に掛ける言葉もない、が一言。
「恨むなら、ジュリアの爺さんだ……この騒ぎの大元だ」
「あのジジイか!」と吐き捨てた店主、すぐに納得した様な顔を見せた。
成る程、あのジジイさん普段もあんな感じなのか……。
俺は肩を小さく竦めて、店を出た。
隣の店は防具屋。
もう既に真っ赤だ。
ここの店主は放心状態。
ムラクモは黒い帽子の様な傘を被って居る、良く見ると、手甲とスネ当ても……純和風の防具。
槍を持ったその姿は戦国時代の足軽か? と思わせる風体。
シグレは……なかなかにひどい、朱色の着物の上に革のジャケット……尖った鋲付きのライダース革ジャン? ヘビメタ風?
本人はえらくガッカリしているようだ、無理矢理着せられたのか?
コツメは? と、探してみると、何だか小さいフルプレートアーマー、子供用か? の、後ろで小さく隠れてる。
今の服、俺達の世界のリクルートスーツ見たいなのがお気に入りのようだから、変な装備を着させられるのは嫌だと逃げ腰だ。
あ! イヤ、ホントに逃げた。
その拍子に子供用のフルプレートアーマーが引っくり返った。
ガシャンと音をたてて倒れたフルプレートアーマー、が、むくりと起き上がる。
「大丈夫か?」と、シルバーラインのゴーレムが側に寄り脱がせ始める。
中身は、ノーマルゴーレムだった。着させられてたのか。
「コレ、動けないよ」ノーマルゴーレム。
足元の脱いだフルプレートアーマーを蹴飛ばした。
その鎧を見ながら、ふと思う。
コレは……ゴーレムには成らんのかな?
人型だし、中身はホンガラだけど、縫いぐるみのセオドアと変わらないんじゃ無いかな?
等と考えていると、頭に呪文が浮かんだ。
普通に出来るんだ。
呪文と魔方陣。
むくりと起き上がるフルプレートアーマー。
「ふあ? あれ? ここは……」寝惚けたゴーレム、フルプレートアーマーだが、3度目。
ガシャンガシャンと動き出す。
ソレを見た店主が叫びながら走り出ていった。
その入れ替わりにコツメが戻ってきて「こっちにスキル屋が在るよ」掌で呼ぶ。
それに応じてマリーも走って行った。
俺達も続く。
店に入るなり、マリーがゴーレム達を呼びつける。
「あら? 1人多くない?」
今の今、増えたからね。
「まあ、良いわ」と、店の親父に断りも無く、カウンターを乗り越え、棚からスキルを取り、ゴーレム達に配った。
呆気に取られた店主、しかし、スグに我に返り怒鳴り始めるもそんな事は知ったこっちゃ無いとばかりに店を出るマリー。
その後、店主に両手を合わせた村長が誤り倒している。
大変だねー。
武器屋に戻ってきたマリー。
ゴーレム達に武器、剣、両手大剣、ランスを持たせる、と、今度はまた、防具屋に。
盾を取りゴーレムに渡す。
セオドアにはフェンシングで使うような細剣を。
ノーマルのゴーレムは、剣と盾。
シルバーラインは、両手大剣。
フルプレートアーマーは、傘の様な形のランス。
ソレゾレにそれらを持たせて、頷いたマリー。
納得のコーディネートの様だ。
イヤ、チョッと違うのか? セオドアを呼びつけ。
赤色のマントと赤色の長靴を装備させた。
ソレを遠目に離れて確認。
赤色の帽子、羽根つきのヤツだ、を渡して、今度こそ納得の顔。
ダルタニアンか? 長靴を履いた……熊? そんな感じに成った。
一通り暴れ捲ったマリー、少しは落ち着いたかと思ったのだが。
魔法の証文を確認して、また走り出した。
あの魔法の証文には、どうも金額が書いてあって、ソレが自動で減るらしいのだが、その減った分が気にいらなかった様だ。
「全然減ってないじゃない!」ソレが捨て台詞だった。
ジュリアの家に飛び込んだマリー。
何か目ぼしいモノをと探すのだが、何も無い。
ソレでも何か無いかと目を皿の様にして、アッチうろうろコッチうろうろ。
「爺さんは、彫金師でも在るんだから工房は?」の俺の声に。
! マークを頭の上に出して、奥へとズンズン入って行く。
この家の主である爺さんは、村長に睨まれて、オロオロしながらマリーに着いていった。
奥の方から、情けない声が聞こえてくる。
マリーが容赦なく赤い札を張り捲って居るのだろう。
暫くして突然、大きな声が響いた。
「コレだけは駄目だ!」今までとは明らかに違うトーンで、語気荒く叫んでいる。
その声に俺と、孫のジュリアが反応した。
ジュリア……居たんだ。
叫び声がした部屋。
先に入ったのはジュリア。
「ええええぇぇ」と、急停止したジュリア。
俺は、一体どんな大事なモノをと慌て後を追う、大事な人の形見とかソンナのは流石に駄目だろうしと、部屋を、項垂れて力無く棒立ちのジュリアの肩越しに覗こうとして……。
ジュリアの背中を少し押してしまった。
そこは、台所で爺さんが声を荒げて守っていたのは酒樽だった、ソレに揉み合いながらも今まさに差し押さえ様と、魔法の証文を振りかざしているマリー。
「何処まで呑んだくれなんだこの爺さん」と、言う俺が言葉を発する前に。
ジュリアの悲鳴が響く!
俺が押したせいで、ヨロヨロと二人の方へとヨロけたジュリア。
この酒樽ダケはとマリーの腕を掴み払い退けた爺さん。
その2つの事が、同時にタイミング良く重なり……。
結果、ジュリアの額に証文が当たった。
そして、悲鳴。
ジュリアの額には差し押さえの赤い札がシッカリ張り付いていた。