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取り立て屋マリー


 「サア、キッチリ耳を揃えて返しなさい!」

 魔法の証文を手に、マリーがジュリアのお祖父さんに迫っている。


 村に着くなり、ジュリアの家に直行したマリー。

 家長は、お祖父さんであると教えられ、債務者だと判断したらしい。

 

 「お嬢さん、いきなりなんだい?」

 しかし、債務者であるお祖父さんは、マリーを債権者とは見ていない

様だ。

 ごっこ遊びに付き合う近所のお爺さんを演じている。


 「あんた、ジュリアス・カエサルの子孫でしょ」


 「確かに、ジュリアス・カエサルは我が家の御先祖様だ」頷き「大変名誉な事だ」頷き、頷く。


 「だから、お金返せ」証文を突き付ける。


 「良く出来た証文だね」頷き「お嬢ちゃんが作ったにしては出来すぎか?」頷く「誰に貰ったんだい」


 「本物よ!」突き出す。


 「そうか、そうか」頷き。


 「しかし、そのジュリアス・カエサル様はもうこの世には居ないのだよ」頷き「居ない人にはお金を貸すのは難しい事だ」頷き。


 「居たときに貸したのよ」


 「もう何百年も前に死んでしまったのだよ」頷き「お嬢ちゃんの産まれる前の遥か昔の事だぞ」頷く。


 「ソノ昔のジュリアスにお金を貸したのよ」マリーの顔が赤く成り始めた。


 「そうかい、お嬢ちゃんは長生きなんだね~」頷き。


 「そうやって誤魔化すつもり?」頭から湯気が出始めた「もういいは、代金を払わないなら現物を回収させて貰うわ!」ドタバタと足音をさせながら家を飛び出した。


 「オヤオヤ、もうお仕舞いかい?」頷き「最近の子供はマセた遊びをするもんだね~」頷く。


 「あんた達! 何をぼさっとしてるのよ! 行くわよ!」家の外から叫んでる。


 

 

 スタスタと中央の魔光炉へと歩いて行くマリー。

 「ナニよ! ヒトの事を馬鹿にして! もう知らない、覚えてらっしゃい」

 ブチブチ……ズンズン……スタスタ……ブツブツ……。


 魔光炉の入り口前に立つと、大声で。

 「ゴーレム達! 集合!」


 ? と、セオドアが俺を見る。

 違うと思うぞと、首を傾げる。


 その時、魔光炉の扉が開き見覚えのあるゴーレム達が出て来た。

 順番に、マリーの前に並ぶ。


 「マリー様、なに用でしょうか?」

 先頭のひときわ大きなゴーレムがマリーに。


 「ここでの仕事は終わりよ! みんな! 撤収!」大声で。


 ゴーレム達は全員で頷き。

 「わかりました」

 「魔光炉はどうしましょうか?」

 「このまま稼働させておくのは危険かと思いますが」


 「そうね……放置してメルトダウンでもされたら、目覚めが悪いわね」


 ! メルトダウン! 原子力発電? 大事じゃん!


 「すべて、停止させて!」


 「通常停止の場合、丸1日程の時間が掛かりますが」

 

 「魔光炉スクラムで停止させて」


 「なに? スクラムってなに?」コツメが聞いた。

 

 「緊急停止の事よ!」邪魔しないで感、丸出しで。


 ほう、緊急停止の事をスクラムって言うのか!と、ここにいる全員が思った筈だ。


 「直ちにスクラムを開始します」

 全ゴーレムが魔光炉の中に戻っていった。


 「まるで原子炉……」思わず口に出た。


 「そりゃそうね、原子炉をモデルに作ったのだから」

 「高圧縮魔石結晶を魔法分裂させるのよ」


 「ソレをマリーが作ったのか?」


 「コレはそうね」指差し「でも、魔光炉自体は、遥か昔の錬金術師が開発したのよ……ソレを模しただけ」


 「イヤ、じゅうぶん凄い!」

 本来のマリーなら原爆でも作れてしまうかも……怖っ!

 

 ソンな会話をしていると、先のゴーレム達が戻ってきた。


 「スクラム完了しました」

 と、整列する。


 大、中、小のゴーレム、小のヤツはそのまんまマリーの病院に居た奴だ。


 「? 数が足らないわね」ひ、ふう、みい……と、数えたマリー。


 「3体が機能停止の状態です」先頭のゴーレム。


 「何故? 何があったの?」


 「2体は、事故により損傷です」

 「1体は、原因不明の停止です」

 と、マリーの目の前に、粉々の瓦礫と、肩から斜めに真っ二つのゴーレム、見た目どこも変わり無いが、動かないゴーレムが運び出されて来た。

 粉々のはわからないが、その2体は小のヤツだ、多分……身長1メートルって所か。


 それぞれをマリーが調べ始める。

 「粉々の方と、割れてる方は、魔核が駄目ね」

 

 「魔核?」何ソレ?


 「これよ」割れてる方の胸の辺りを差すソコに、赤色の水晶の様なモノが割れていた。

 「貴方の造るゴーレムの魂を、人工的に再現したものよ」


 「成る程、確かにソレっぽいのが他のゴーレムにも入ってるのがわかる」

 動いてるゴーレム達の胸の中にソンな感じのが在る、ソレが俺にはわかった。


 「こっちは……どこも壊れて無いわね……わからないわ」


 「イヤ、そいつには魂がないぞ」教えてやった。


 「無い? どう言う事?」


 「うん無い。コイツだけ魂が無い」指差し「理由はわからん」


 「ウーン」腕を組み唸るマリー。


 「本人に聞いてみるか?」と、提案。


 「そうね、そうしてくれる」頷くマリー。

 

 ゴーレムをゴーレム化する……なんか変な感じ……。

 しかし、呪文はちゃんと浮かび、魔方陣も出る。

 ゴーレムの真下で光る。


 「ふあ? あれ? ここは……」寝惚けたゴーレムを初めて見た。


 「ねえ、聞きたいんだけど」いきなり本題のマリー。


 「ん? 貴女は? どなた?」


 「マリーよ!」


 「マリー様?」首をかしげて「マリー様はもっと妙齢で美しい方です」


 「今はワケあってこの身体なの」


 「そうなのですか? このチンチクリンがマリー様?」ゴーレムのボスに確認。

 頷くボス。

  

 「失礼な奴ね!」と、睨む。


 「おい! どうなってんだ? いきなり魔光炉が止まったぞ!」

 ゾロゾロと四方からドワーフ達が集まってきた。

 「熔鉱炉にエネルギーが来ないじゃないか! どうしちまった?」


 見ると、黒い煙が消えている。


 「ン! ゴーレムども! なにサボってやがる、仕事しろ! 停まってるぞ!」


 「私が停めさせたからよ!」


 「なんだ! 嬢ちゃん、なんの冗談だ!」語気が荒い「早く、戻れ! 魔光炉を動かせ! 仕事に成らねえだろうが」ゴーレム達を怒鳴りつけた。

 しかし、ゴーレム達は動く気配が無い。


 「おい! お前か! 何かしやがったな!」ドワーフの一人が俺に食って掛かってきた。

 ソレを合図と、その他のドワーフが一斉に俺を見る。 


 えええ……俺のせいか?

 ってか、みんなエラク殺気だって来たぞ。

 

 「おい……マリー、どうすんだ? これ」


 フンっと鼻で笑ったマリーが「ゴーレム達! ヤッてしまいなさい」


 その号令で、先の復活した失礼なゴーレムだけを残し、ドワーフ達に詰め寄っていく。

 

 「なんだ! お前ら! やろうってのか?」ドスを効かせた声だが、ジリジリと下がっていく。


 ゴーレムは俺達を守る事も考えてか、ゆっくりと詰める。


 一触即発状態。


 「おい! 辞めんか! コレはいったい何の騒ぎだ?」

 初老の男が出て来た。チョッばかりに偉そうだ。


 「村長、この男がゴーレム達をかどわかしやがったんだ」

 さっきの奴だ、俺を差す。どうしても俺のせいにしたいらしい。

 

 「俺は見たぜ! その男がゴーレムに変な魔法を掛けてたのを!」別のドワーフだ。

 

 「魔法?」村長と呼ばれた初老の男「それが本当なら、穏やかでは無いな」

 

「ああ、魔方陣の光が見えた」

 

 頷いた村長、俺を見て「あんた、何をした」ギロリと睨みを効かせながら。


 「俺はこのゴーレムを」脇に立つゴーレムを指し「蘇生……イヤ、修理しただけだが……」


 眉を寄せた村長が、瓦礫の山と真っ二つのゴーレムを一瞥し「ソレをか?」

 「あんたが壊したんじゃ無いのか?」


 「調べればわかるわ」マリー「壊れてから、数十年か、数百年は経ってる」鼻で笑い「あんた達、職人でしょ……見てわかんないの?」


 「確かに今、壊された様では無さそうだ……」マリーを訝しむ村長。

 「しかし、このゴーレムを治せる事が出来るのか?」


 「造ったのは私だから、直せもするでしょうよ」フンっと。


 「お嬢ちゃんが?」

 

 「サッキから皆でお嬢ちゃんとか言うけど、見た目で判断しないでくれる」

 

 「しかし、このゴーレム達は……もう何百年もココに居るが、お嬢……貴女はそんなに長生きなのか? 到底信じられんが?」


 「この魔光炉を造った程の大錬金術師マリー様なのだから、可能なのでは?」と、俺は適当な事を言ってみる。


 「コレを造った!」マリーを見て「ソレが本当なら……」唸り「イヤ、確かに村の言い伝えの中にマリー様と名前が残って居る」


 マリーがスタスタと魔光炉の入り口に近付き「ココに在る定礎石を見なさい」と文字の書かれた石板が建物に埋め込まれているソレを指し「私の名前が彫って在るわよ!」


 「イヤ、確かにそうだが」

 「貴女がそのマリー様かどうかは……」


 「面倒臭いわね!」今度は、割れたゴーレムの側に立ち「コレを治して見せれば良い?」


 「治せるのか?」チョッと心配に成る俺。


 ソンな俺を見て、村長が「こちらの方は?……」


 ソレを途中でぶった切り「私の助手みたいなモノよ!」


 俺は、助手だったのか!


 「誰か、粘土……イヤ、シルバークレイを頂戴」割れたゴーレムを診察中のマリー「この村なら在るでしょ」


 「確かに、私の兄が金工の中でも彫金を得意にしている」頷き「誰か、呼んできてくれ」


 「金工?」


 「鍛冶の事よ!」ゴーレムをまさぐりながら「彫金なら銀細工も出来るって事」


 「フム、結構な量のシルバークレイが必要ね」割れ目の所を幾つか指差し「ココとココ、欠けて無くなってるわ」

 「魔核も、ダメ出し」割れた赤色の水晶の様なモノを取り除く「まあ、今回は必要ないから良いけど」


 と、そんなやり取りをしていると。


 村長の側に、ジュリアのお祖父さんが灰色の粘土を持ってやって来た。

 「なんだか、えらい騒ぎに成っておるの」呑気な爺さんだ。元をただせばアンタのせいな気がするが。


 「兄さん」頷き「この、娘さんにソレを渡してやってくれ」


 「ン……結構、値が張るぞ」村長の顔を見て「大丈夫なのか?」マリーを見る。

 何に使うのかはわかっていない様だ。

 「失敗すれば、回収するだけだ」と、お祖父さんをそくす。


 二人が兄弟と言う事は、村長もジュリアス・カエサルの子孫って事か。

 

 シルバークレイを受け取ったマリー。

 ソレを粘土の様に捏ねながら、割れたゴーレムに塗り込み、接着剤の様にしてくっつけた。


 「コツメ、あんたバーナーみたいな火が出せたわね、今くっつけた所を焼いてくれる?」そう指示を出し、自分は魔方陣を描き始めた。

 

 コツメは「いいよ」とゴーレムを焼く。

 スグに「色が変わってきた」と、少し感動しているようだ。

 

 ゴーレムの繋ぎ目が、鈍く光る銀色に変色した時点で、大きいゴーレムに命じて魔方陣の上に置き、呪文を唱え始めた。

 

 光る魔方陣。

 

 ゴーレムに何の変化もない、倒れたまま。


 「何も起きないじゃないか」村長が呟く。


 「まだよ! 今のは形を直しただけ」俺を呼び「後の仕上げは、助手がやるわ」わかってるわねと、顎で即した。

 

 俺は、頷き……ゴーレム召喚の呪文を唱えた。


 「ふあ? あれ? ここは……」寝惚けたゴーレム、2度目。

 銀のラインがたすき掛けに入ったゴーレムが動き出す。


 鼻で息をしたマリー「ドオ? 納得した?」


 「貴女がマリー様なのは……わかりました」まだ少しのみ込めない感じか?

 「しかし、この騒ぎはいったい?」


 「ソコの爺さんが借金を踏み倒したからよ」ドーン! と、ジュリアのお祖父さんを指差し、魔法の証文を村長に突き付けた。


 村長は、その証文を確認して、そしてお祖父さん、兄を見た。


 「ンん? なんじゃ?」わざと惚けたのか? 天然か? 多分に後者の方な気がする。


 「何か、兄さんが失礼な事をしたみたいで」深々と頭を下げ「申し訳無い」

  

 「謝るより先にお金返しない!」


 「それは勿論です、先祖カエサルの言付けとお金を託されております」頷き 「マリー様が現れたらコレを返す様にと、金貨一万枚を代々長兄が保管しております」


 一万枚! それは相当な額だ! 多分……。


 「兄さん、やっと約束を果たせる時が来た」考え深げに「私達の代でソレが果たせる」天を仰ぎ、目頭を押さえる村長。

 感無量をそのまま絵面にすれば、そのまま今の村長だ。


 「……無いよ」ジジイ。


 「兄さん、今なんて?」その動きを見切る間もない程の早さでジジイを見た村長。


 「うん、お金は無いよ」かるーく。


 「何故?」絞り出す声。 


 「使ってしまった」


 「何に?」


 「酒と酒と酒と酒と肴と酒……」


 飲んだのか!


 「金貨一万枚も? イヤイヤそんなには……」首を降り「幾ら足らない?」ヒキツリながら。


 「足らない?」ウーンと、考え「一万枚かの?」


 遣い切ってるじゃないか!


 「一万枚分も飲んだのか!」


 「まさか、いくらワシでもそれは無理じゃ」ウンウンと頷く。


 「じゃ……足らない分は?」すがるような目で。


 その目に、少し恥ずかしそうにしながら小さく小指を立てた。


 女か!


 ガックリと膝を割る村長。

  


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