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熊の縫いぐるみ

 

 ウサギの里を出て、今度こそはドワーフ村を目指す。


 本当はウサギの里で1拍したかったのだが、コツメが幌車から出て来なかったので仕方なく先を急ぐ事となった。


 暫くは草原。

 緩やかだが登り勾配が延々と続いている。

 その前方、少し進んだ先に急勾配の丘も見える。

 もっと先、丘の向こうには尖った山も見えた。



 「ムラクモ……大丈夫か? 適当に休んでも良いんだぞ、シグレも」


 ――大丈夫でさ、あっしもシグレも脚には自信がありやす、旦那達はのんびりしていてくだせい――


 「本当に良いのか?」決して軽いとは言えない幌車を常に牽いている。

 その上、イザ戦闘と為るといの一番に飛び出していく、盾役だ。

 ムラクモに相当に甘えた格好だ。


 ソノ戦闘も少しずつだが、増えている様にも感じていた。


 急勾配に差し掛かる。

 しかし、ユックリでは有るが、一切の速度を落とさずに淡々と牽いていく。

 

 丘の頂きが見えた頃。

 マリーが幌車を停めさせた。

 「チョッと、花摘に行ってくる」と、一人で降りた。


 「採取なら、護衛を連れてけ」と、蜂に合図した。


 「要らないわ」が、マリーはソレを断った。


 「イヤ、危ないだろ」蜂を戻し、ムラクモに頼む。

 そのムラクモは、俺の顔を見て首を振る。


 「仕方ない、俺が着いていこう」


 「来なくていい!」頑なに拒む、マリー。


 「何で?」


 俺の顔をジット見て「トイレよ!! 着いてくんな!」そそくさと丘を登っていった。


 あ!


 ――……旦那――

 首を振るムラクモ。


 「ぷぷっぷ」と、笑うコツメ。


 そんな皆の視線に、俺は誤魔化す様に煙草に火を着けた。

 

 「チョッと! 来て」マリーの呼ぶ声。


 「何だ!」と、近付く「そんなに大きいのが出たのか?」


 「違うわよ!」と、下を向き「ここじゃ無くて、そっち」と、丘の頂きを指す。


 その、場所まで行くと、尖った山に見えていたモノが空中、空に浮いているのがわかった。


 「飛空石よ」俺に近付き、ソレを指す。


 「凄いな!」思わず声が出る。

 「あんなに大きいのが、空に浮いてるとは……流石は異世界だ」

 

 「あのサイズは、私も初めて見るわ」


 暫くその光景に見惚れていると。


 「さあ、行きましょ」と、幌車に戻るマリー「急いで居るワケでも無いけど、ココにジイっとしていてもね」


 「ああ」


 そして、幌車は丘を越えて、今度はくだって行った。

 



 草原の道は何時しか、岩肌の剥き出した峡谷の底を通る道へと変わっていった。

 左右は切り立った崖、時折、小石が降ってくる。


 「ここは、まるで……川が干上がって、ソコに道を造ったみたいだ」上を見ながら、空がそのまま道に見える、一本の青い筋。


 「そうなのかも知れないはね」

 「元々、川だった所の一部が転生してきたのか? 水源が転生で消えたのか?」

 「この景色を見る限りは、間違いでも無さそうね」


 「成る程」今、くだって来た道程の方に目をやり「雨でも降った日には、エライ事に成りそうだな」


 「私達の」笑い「流し素麺ね」


 「笑い事か?」


 ――旦那様、大丈夫ですよ雨の気配は有りません――


 シグレが言うのだから問題ないか。


 ――もう長い事、雨粒1つ落ちた事が無いのでは? 草木1本も生えとりません―― 

 ムラクモも、同意する。


 そんな感じの道、緩いカーブを抜けた先、ソレは突然に現れた!


 元の世界のビルをスパッと切って、ソノ両脇を崖に支えられた様な感じで、立っていた。

 各フロアーが本棚の様に成り上に続いている。

 ビジネスビルだったのだろう、一番下の階層、その道路側に瓦礫と一緒に机やら椅子やらが散乱していた。


 「これは……」呻く俺。


 「ダンジョンね」眉間にシワを寄せるマリー。


 ――道も完全に塞がれている様ですね……どうします? 旦那――

 

 「ん? なんか奥に扉が見えるよ、通れるんじゃないの?」 

 止める間もなく、コツメが瓦礫をヒョイヒョイっと乗り越え中に進んで、ソノ扉を開けた。

 「うん、行ける見たい」


 「おい! ムチャはするなよ」思わず声が出る。


 「大丈夫見たいよ」と、その場で飛び跳ねて見せる「ちょっと埃っぽいけど」

 

 「これは、しかし……どうする?」進むべきか?


 「私は、この道しか知らないわ」肩をすくめ「最後に通った時にはこんなモノは無かったのだけど」


 「ソレは、比較的に新しいって事か」


 「そうね、まだ若いダンジョンね……今なら、魔物も少ないんじゃ無い?」

 徒歩に成りそうだと、リュックと肩掛けバッグを手に取るマリー。


 ソレは、このまま進めと言いたいのか?


 と、突然に魔物の鳴き声、ソレも背後から!

 振り向くと、巨大な鶏がこちらを見ている。

 確実に見ている。

 

 「ヤバイな?」俺。


 「ヤバイよね?」マリー。


 「あたし、今……目が合った」コツメ。


 ――旦那……アレは勝てませんぜ―― ムラクモ。


 ――逃げましょうよ、旦那様―― シグレ。


 ブーン。


 コケ~! クワクワ!

 鳴き声と共に突進してきた。


 「走れ!」

 その合図でコツメ以外が、さっきの扉目掛けて駆け出した。

 コツメは、オロオロとしながら幌車を見たり、扉を見たり。


 「幌車は置いてけ! 諦めろ!」

 

 「でもー、あたしのお小遣いが……」っと、半泣き顔。


 「後で、また渡してやるから、とにかく今は逃げろ」


 「ホントだよ! 絶対だよ!」やっと、走り始めたコツメ。

 

 その時、魔物のクチバシの前、空中に魔方陣が現れた。

 コケ~!

 鳴き声と共に、コツメが走る姿のままに固まった。


 「あ! 石化」マリーが叫ぶ。


 「ムラクモ! カエルの舌だ!」


 ――へい! 旦那!――

 コツメを引き寄せ。

 ソレを俺が抱えて。

 先にたどり着いていたマリーとシグレの開けた扉に飛び込んだ。


 ドーン! と音、そして振動。


 締める扉の隙間から、巨大鶏がビルにぶつかるのが見える。

 何とか、逃げられた様だ。


 扉の向こう側は、予想通りの廊下、ただ右側に見えるエレベーターの表示は3Fと成っている。


 「こっちだ!」エレベーターの先に非常口の看板。

 非常階段を駆け降りて、1Fロビーに走り出た。

 振動はまだ続いている、鶏がまだ暴れているのだろう。

 そのまま、ビルを飛び出した。

 

 背後のビルを見る。

 流石にコレを壊すのは無理だろうと安心させられる、ソレぐらいに大きなビル。

 目の前には道路。

 右は途切れて崖の壁、

 左の先に大通りが見える。


 「みんな無事か?」

 

 「大丈夫みたいよ」息を切らしたマリーの返事。


 「あのー、もうおろして」脇に抱えたコツメの声。


 「石化が解けたのね」マリー。

 「石化のスキル持ちって事は、あの鶏はコカトリスね」

 「確か、視線の範囲内しか効果はないはずよ」


 「て事は、扉を閉めた時点で解けていたのか……」


 「しかし、なぜコツメだけ? 距離か?」


 「石化は確率が低いのよ、たまたまコツメだっただけ」


 「そうか……偶然か」

 「しかし、危ないスキルだ」


 「そうね、気を付けて置いた方が良いわね」頷き「その内に石化解除の薬を造っておくわ」



 「あれ? 女の人?」

 俺の腕から解き放たれたコツメが指をさし。

 「でも……なんか固まってる?」

 「石化?」と、走りより。

 ガン! と、ショウウインドウの硝子にしこたま額を打ち付けて、その場に踞る。

 「いた~い」硝子をバンバン叩いて「なんなのコレ、硝子?」


 ――大きな硝子ね……こんなの、初めて見るわ―― シグレも叩きながら。


 そのうち、コツメが刀で叩き出す。

 

 「何をしている? 割る積もりか?」


 「だって、この閉じ込められた人」刀を力一杯振りかぶって「助けてあげないと……」思いっきり叩きつけた。


 「ソレはマネキンだ……人形だよ」

 黒いスカートと白いシャツを着て熊の縫いぐるみを抱き抱えた格好のマネキン。


 「ウソ、人形? 人間にソックリよ」と、もう一度叩いた時に硝子が割れた。


 コツメは、マネキンに近寄りふれる。

 「あ! 固い」

 

 「コレ貰うわ」マリーが熊の縫いぐるみを取り、抱き抱えて。

 そして、マネキンを蹴った。

 蹴られたマネキンはバラバラに成る。


 「あ!」シャツでかろうじて繋がった腕を掴み「外れてる」と、コツメ。

  

 ソレを横目で見ていた俺に、熊を抱いた? 担いだ? マリーが。

 「この子で、ゴーレムを造ってみて?」と、熊の縫いぐるみを渡してきた。

 

 茶色い体に、赤色のスカーフ……典型的な熊の縫いぐるみ。 


 「出来るのかな?」


 「形はもう在るんだから、簡単な筈よ」

 「それに、軽いし」


 「重さって……関係在るのか?」


 「有るんじゃない? わかんないけど」


 「そんな……いい加減な」

 と、床に転がし念じてみる。

 頭に、呪文が浮かんだ。

 

 「出来そうだ……」呪文を唱える。


 熊の縫いぐるみの回りに魔方陣が光り、むくりと起き上がった。


 キョロキョロと辺りを伺っている、熊。


 「出来たじゃない」

 そう言って、熊を抱き上げたマリー。

 「この子の名前を考えないとね」


 「わ! 可愛い」コツメも反応した。


 ソレより、俺のレベルも上がってる様だが……。

 ソレは二人には、どうでも良い事の様だ。


 「トムはどう?」マリー。

 

 「カムイ! これが良い」コツメ。


 「クマで良いんじゃ無いのか?」適当に答える。


 ――セオドア―― 熊、本人がそう名乗った。


 「セオドア? どっかで聞いた様な? アメリカの大統領にそんな名前が居たな?」

 

 「アメリカ? 大統領?」首を傾げるコツメ。


 「ルーズベルトの事?」マリーは、多分……正解。


 「アメリカってのは、俺達の世界で一番強い国で、大統領は……王様みたいなもの」途中で面倒臭く成った。

 

 「セオドア……なんか変……」俺の説明は聞いてはくれない様だ。


 ――変な名前で悪かったな! ソレが俺の名前だ――


 !? な、コツメとマリー。


 ――暑いんだよ! 抱きつくな―― と言ってマリーの腕から飛び退いた。


 何だか……柄が悪い……。

 


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