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ウサギの里に寄り道

 

 春の陽気の中、幌車はユックリ進んでいる。


 流石に暑く成って来たので……既に、相当暑かったのだが、ダウンベストを脱ぐ事にした。

 マリーから返して貰ったパーカーを着ている。


 時折出会う魔物も、攻撃して来ないならコチラも無視して進んでいる。

 弱い魔物を虐めても仕方無い。と、言う事にしとこう。


「随分と来たけど、まだなのか?」


「まだまだよ」


「遠いのか?」


「遠いわよ!」


「地図でも、買っとけば良かったなー」


「チョッと、五月蝿いわよ!!」


 マリーは、今、錬金中だ。

 あの煙玉をコツメがえらく気に入った様でソレをねだったのだが、アレは本来は爆弾で、何百年も保管していたら湿気ってああ成ったモノらしい。

 だがアレはアレで面白いので今度、研究してみる……そうな。

 じゃ、普通に爆弾を造ってと、頼んでいたがソレもレベルが足らんと、一蹴去れてた。

 が、どうもコツメに造れないと、言ったのが相当に悔しかったのか、今、癇癪玉を造っている。

 その最中だ。

 なので、幌車も、停止中。


「平和だねー」と、煙草で一服。

 コツメはシグレに化粧を教えて貰っている。静かだ。


 ムラクモもキセルで一服。

 ムラクモは器用に煙で輪っかを作っている。


「ウマイね!」


 俺も遣ってみようと、チャレンジしてみたが……巧く行かない。


 ――旦那、こう口を丸くして……ふう~ッと―― 簡単に輪っかを作る。


 ふう~…………………………だめだー。


 ――気長にやってりゃその内に出来ますよ―― カン! っと、キセルの火種を幌車の引き手に当てて落とした。


「出来たー」マリーだ。


 見ると、手描きの魔方陣の真ん中に、小さめの黒い玉が幾つか転がっている。ピンポン玉より一回り小さい感じだ。

 材料は岩塩を使っていた。

 その岩塩は、元々この幌車の中に在ったものだ、盗賊達の食料箱の中に。

 後、何だか臭いもの……コレは良くわからない、どこに有ったのかも含めて、謎だ。


 その内の1個を俺に渡してくる、試し投げをしろという事か。

 前方の草原に1つ岩が突き出ている、ソコに投げてみた。


 パーーン! 


 岩は勿論、何とも成らないが、しかし、中々の音量だ。


 コツメとシグレが、何事かと飛んで来た。

 そして、前方の岩の裏からウサギが跳び跳ねた。


「お! 今日の晩飯はウサギの丸焼きかな?」


 ――旦那……アレは擬人ですぜ、喰うんですか?―― 若干、呆れ気味。


 良く見ると、二本足で立ち、オロオロと辺りを伺っている。


 ゲコッ! ゲコ! と、ムラクモ。

 ――済まねーな、ビックリ差せちまったかい?―― 翻訳するとこうだ。


 キイ~、キイ。

 コッチは翻訳できない、何を言っているのかさっぱりだ。 


 「ムラクモ、ウサギは何て? 言ってる?」聞いてみた。


 ――さあ……何って言ってるんですかね?―― わからない様だ。

  

  手を振りながら、鍬を担いだウサギが近付いてきた。

  そして、地面に文字を書く。


  《さっきのは何だったんでしょうかね? イヤー、ビックリしました。

  まだ、耳がキーンとしますよ。》

  と、長い耳を擦りながら。


  ムラクモは俺の顔を見る。

  俺は首を降りつつ、掌で即す。


  《ホント、たまげたね》

  ちゃんとトボケた。

  《しかし、あんな所で何をしていたんだい?》


  《アア、魚釣りの餌探しですよ、ミミズ》と、小さい布袋を出して見せた。

  

  《この辺で釣れる所が在るのかい?》辺りを見渡す。草原しか見えない。


  《アッチに川が在るんだ》と、来た道の外れの方を指す。


  俺も地面に書いた。

  《釣れると良いな》

  書いて見て、ふと思う。

 「異世界の文字を何で書けるんだろう?」

  

 「スキル、オムニリンガルよ」マリー「私も持ってるわ」頷き「て言うか、この異世界に召喚された人のほとんどが最初から持ってるスキルよ」


  成る程、スキルなのか……これは。

  異世界の言葉が理解出来て、読み書きが出来る! だ。

  

 「召喚式の中に、最低限のスキルが組み込まれてる? そんな感じかしらね?」

  

 《貴方達は、旅人ですよね?》ウサギが幌車を見て《もしも、お急ぎで無いのなら、私達の里に寄っていって下さい》ニコッと笑う。


 《何か、名物でも在るのかい?》


 《名物何て無いですが……》ポリポリと頭を掻きながら《私の従兄弟がスキル屋を営んで居まして……もし宜しければ、覗いて戴けると嬉しいのですが》


 「成る程、客引きか」しかし、擬人のスキル屋ってのも、中々に興味深い。


 《宿も在りますし》


 《その宿屋は……兄弟とか?》ヤハリ、客引き。


 《イエ、私の店です》


 こちらが本命か。


 《それに》チラリとコツメを見て《ソチラのお嬢さんの顔色も優れない様ですし……宿で休養を取られてはと》

 

 ? ッと。

 コツメを見ると、口の先と両頬が見事に真っ赤だ。

 カエル式の化粧なのだろう、思わず目が点に成る。


 そんな感じで、皆に見られたコツメ。

 気に成ったのだろう、地面の文字を読み始めた。


 みるみるうちに顔を真っ赤にして、そして……幌車に駆け込み……拗ねた。


 化粧なら、マリーに教えて貰えば良かったのに……。




 ウサギの里は案外近くに在った。

 道沿いの林の中、木洩れ日に彩られた幾つかの簡素な小屋が建っていた。

 その間をウサギの擬人の子供達が走りながら遊んでいる。


 俺達は、幌車を入り口付近に適当に停めて、スキル屋を探しながら里を歩く。

 コツメは、まだ拗ねたまま幌車の隅で踞って居る、詰まりは留守番だ。


 さて、スキル屋はスグに見付けられた。


 店先に小瓶に入れられた光る玉が並べられて居る。


 「俺のスキル玉とは、だいぶ違うな?」


 「アレが本来のスキルの管理の仕方よ」マリー。


 「ほう、成る程」


 「瓶の蓋を開ければ、スキルが浮いて出てくるから、それに触れるの」


 「魔物から出して、スグのその感じか」

 「しかし、結構な数が在るな?」

 「全部、スキルスチールで取ったのか?」


 「まさか」肩を竦めて「スキル職人が居るのよ」

 「造るの」


 「錬金術みたいなモノ?」

 「マリーにも造れるとか?」


 「無理よ、スキル職人はまた別物」

 「幾つかの特別なスキルとやたらに難しい勉強をしてやっとよ」


 「良くわからん……」


 「東大とか京大の優秀な大学院生ぐらいのレベルよ」


 「わかった様な、でもわからん」


 「面倒臭いわね、スキルは造れるの、でも難しいの!」手をヒラリと振り「目の前に在るんだから、ソレで良いじゃない」


 《お客様》店番のウサギが出てきた、あのウサギの従兄弟かな?

 《何か、お探しですか?》


 ウーン

 《料理のスキルはあるか?》


 料理の担当はコツメなのだが……最初に本人がやる、出来ると言ったのだが。

 実際は、酷いモノだった、ただ不味い。

 マリーが作ればソレなりに旨いのだが……料理は錬金術の一種だとかで、作り方を見ると食べる気が失せる。


 ここは、常識人のシグレに、人間の料理を覚えて貰おう、うん! ソレが良い。


 《和風ですか? 洋風ですか? 中華風ですか?》


 ? 思ってもいない返事が帰って来た。


 「えらく細かいのだな?」


 「人工的に造ったスキルは、天然モノと違って成長しても変化しないのよ、だから細かく成るの」


 「ン! じゃあ、その人口スキルを持った者から俺が抜き取ったスキルは……成長しないのか?」最初の冒険者だと思う者の墓から取ったスキル、ウオークとかは? あれ?


 「1度、取り込んで馴染んだスキルは、次に取り出した時には天然モノと同じ様に成ってるわ」

 「取り出す時に、その経験値が溶け込んでそう成るんじゃない?」

 「どんなに凄いスキルでも、1度取り出せばレベルは1に戻るから」

 「あくまでも、私の考えよ……正解かどうかは保証しないわよ」

 

 面倒臭いとか言いながらも、聞けば答えてくれる。

 

 《その3つでいくらだ?》


 《オマケして、セット価格の金貨1枚です》


 「微妙に高いな……」


 「別に、買わなくても良いんじゃない? 差し迫って必要なモノでも無いんだし」


 そうなのか? 結構、重要な事だと思うのだが……。


 「それに、スキルは持ちすぎると成長が遅く成るわよ」


 ! 新事実だ! イヤ、確かにコツメを見ているとワカル気がする。

 「器用貧乏……か」


 「悪いな……今回は辞めとくよ」


 ウサギがニコッと笑い《また、何時でもいらして下さい》


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