冒険者デビュー
――雨が降りそうね―― シグレが幌車を押しながら。
――まだ、大丈夫だろう―― ムラクモが幌車を引きながら、天を仰ぐ。
カエルだから、判るのだろうか?
なんか、胡散臭い。
さて、村までの道中……イロイロと寄り道をさせられた。
回復薬の材料の何かの草探し。
調合の際に、魔素粒子を取り出す為の触媒に成ると言う……石ころ探し。
その魔素粒子を手っ取り早く集める為の魔物の死骸。
ミッションは、その3つ。
依頼者は、マリー。
コレが冒険者デビューってヤツだ……多分……。
先ずは草探しから始める。
出発してスグの森の中で幌車を停めて。
マリーに草の特徴を聞き、全員での探索開始。
木の影の、少し薄暗い所に生えているそうだ。
ムラクモとシグレのカエル達は、二人でゲコゲコ話ながら、近場で草を摘んではマリーに見せて、そして、首を振られるを繰り返している。
コツメはと言うと、退屈そうに、そこいらの草木を刀で凪ぎ切って払いながらプラプラと歩いているだけ。
探す気は無いようだ。
俺は蜂達を展開する。
「命じる、特殊任務、付近を探索せよ」
――任務! 了解です――
――コレより探索任務を開始する――
――全隊員に告げる! 順次出撃を開始せよ――
マリーの着ているパーカーのフードから蜂達が飛び出しって行く。
「ギャー」コレは、マリーの叫び。
「何時からソコに居たのよ!」首を縮こめながら。
「最初から、ソコに居たよ」ナニを今さら「ソコが蜂部隊の定位置だし」まさか? 気付いて居なかったのか?
「マリーの護衛も兼ねてる」後付けだが。
「まあ……良いわ」少し考えて「蜂達も仲間なのだし……」
――目標発見!――
それに仕事も速い!
早速取りに行く、流石に蜂に採取は無理だ、サイズ的に。
「なにコレ」マリーに得意気に見せるも……。
「痺れ草じゃない」フンと鼻息1つ「やり直し」
「一応は、貰っとくわ」
再度、蜂達に命じる。
――目標発見!――
「毒草ね」
「コレも貰っとくわ」
――目標発見!?――
「幻覚キノコ」首を振り「もう……草でもないし」
「ソレでも良いんじゃない?」遊び飽きた……いや、最初から飽きていた? コツメが帰って来た。身体中草まみれだ。
「あ! それ」コツメの体に付いた草を取り「コレよ」マリー。
「何処に有った?」コツメに。
「さあ……多分、あの辺じゃない?」スグそばの、草むらを指す。
簡単に終わった。
次は、石ころ探し。
ココから少し登った所に川が有り、その川原に有るそうだ。
その川の水があの滝に続くのだそうだ。
「周囲を警戒しつつの移動を開始せよ」蜂に新たに命じる。
蜂達を散開させ、ムラクモを先頭に進む。
コツメは懲りたのか、シグレの後に続く3番目だ。
その後ろを、俺とマリーが揃って続く。
結構な距離を歩いた。
マリーが遅れがちになる。
俺はスキルのお陰だろう、問題なく歩けている。
擬人のカエル達と獣人のコツメは、そもそもが違うのだろう、コレも問題ない。
「少し休もうか?」
「え? こんな所で?」と、コツメ。
俺はマリーを指し。
「少し休もうか!」湿度が高いせいも有るのだろうが、汗だくだ。
息を切らしたマリーがヘタリ込む。
「ヘタレ」ソレを見たコツメ。
「うるさい、この脳筋バカ」ソレを小声でい言い終わらないうちに「……あ! 後ろ」と、コツメの後ろを指す。
――敵襲!―― そして、サイレン。
デカイ蛇の魔物が鎌首をもたげて此方を見ている。
その足元には、蛇に足は無いが……下には、無数の小さな蛇、小さいと言っても見慣れた蛇よりかは数段デカイ、大蛇の方がデカ過ぎるのだ。
「各隊員、適時応戦しろ」
俺の言葉に、先ずは蜂が反応した、高さを維持した毒針り飛ばし攻撃、ソレを確実に当てている。
ムラクモ達は、二人して……その場でスクんでいる。蛇とカエルか! コレは相性が悪すぎる。
「コツメ! 前に出ろ」叫んで、固まったムラクモ達を後方に引き摺った。
頷いたコツメの刀が子蛇の中で舞う。
両断とまではいかないが、確実にダメージを与えている様だ。
マリーは後ろで魔方陣を描いてる。
何かをするきだ。
「コツメ! 魔物を一匹捕まえて、コッチへ来て」
「死にかけでも良い?」
「構わないわ!」
返事を聞く前に、尻尾を掴み、走り戻るコツメ。
「蜂部隊! 時間を稼げ」
ブンブーン!
――全軍! 突撃ー!――
蛇達にタカリ始める。
「コツメ! 刀を魔方陣の中にかざして」
「貴方は、この魔物から魔素を取り出して」と、俺に、魔方陣の真ん中、コツメの刀の真下に置かれた、死にかけの子蛇を指す。
「どうやって?」
「スキルを出す時と同じよ」
「頭の中で、スキルの部分を魔素に変えて念じてみて」
「わかった」と、返事をする前に、頭に浮かんでくる、その呪文を唱えた。
子蛇から握り拳大の光の玉が浮かび上がってきた。
刀を通りすぎ、その上まできた時、マリーが毒の草と、痺れ草と、幻覚キノコをその真上に抱えて……呪文。
魔方陣が光出す。
と、同時に液体が刀に伝い滴る。
「ソレで切ってみて」大蛇を指し「毒の刀よ!」
おおおっと、かざして目を輝かせるコツメ。
「妖刀コテツ!」シュタタタッと走り寄り「忍法! 毒斬り!」叫びを上げて、切り着けた「フフフン」
そのコツメに大蛇が鎌首を向ける。
「アアーン」走り逃げる「全然効いてないじゃん」
「大丈夫よ」リュックから何かを出し「毒が回れば倒れるわ」と、出した何かを投げた。
「みんな、逃げて! 爆発するわよ!」
が、飛んで行った先は明後日の方向。
しかも、爆発はせずに煙が一気に辺り1面に広がった。
「ナニよ! 下手くそー」投げるのが下手? 爆発しなかったから錬金が下手? 多分……両方の意味だ。
いや、しかし、コレはコレでラッキーだ。
「煙に紛れて、逃げるぞ!」
――旦那……申し訳ない……――
ムラクモ達も動けるように成っていた、煙で視界から蛇が外れたせいだろう。
――アッシ等種族は、どうにも蛇は苦手でして――
「気にするな、誰にだって苦手くらい有るさ」
――面目無い――
が、蛇に目眩ましは効かない、ピット器官が有るのだから、熱探知で確実に迫ってくる。
しかし、その動きは、痺れか? 毒か? で、動きは鈍い。
「コツメ! 適当に火を着けろ」
「火事に成るよ?」
――大丈夫よコツメちゃん、じきに雨が降るわ――
シグレの予言。ほんとかよー。
「わかった!」信じた!
「火炎の術!」と、小走りに走ってはしゃがんで、火を着け、また走る、をくりかえす事、数回。
暫く後、複数の火柱が逃げる背後に立っていた。
そして、蛇どもは、もう追ってこない。
逃げ切った様だ。
そのまま、火事から距離をとり。
「ここいらで、一息入れよう」ふうっと、ため息。
「火事は? 巻き込まれない?」心配そうに、少し離れた火事を見つめる、コツメ。
「風上だから、大丈夫だろう」
風が山上から下に吹き下ろしている。
「ところでマリー」
肩で息を切らして座り込んでいるマリーに質問。
「魔素粒子を取り出すって言う石ころは、要らないんじゃないか?」
今さっきの錬金術には、使ってなかった様だし。
「正確には、魔素を魔素粒子に変える為のもの」息を喘ぐ様に貪りつつ。
「触媒って、言ってたっけ?」
「そうね、実際はちょっと違うのだけど」深呼吸。
「魔素って、とても早くに変化しやすいのよ、まあ、消えて無くなる、霧散する、大地に吸収される、兎に角スグに消えるの」
「ソレを、固定化するための触媒、触媒その物が消えて無くなるんだけどね」
「ん?」首を捻る「それって、触媒? おかしいくないか?」
「鋭いわね、その通り、触媒ってのは本来変化しないもの」
「その変化しないってのを、魔素の変化しやすいってのとを、魔法で入れ換えるのよ、その為の石」
「なんだよ、その言葉遊びみたいなの」
「ソレが、錬金術よ」
「じゃ、さっきのは? 妖刀何とか?」
「妖刀コテツ!」刀をかざしてウットリのコツメ。
「今は、ただのコテツよ、もう毒も消えてるわ」
「えー……ウソー」あからさまにガッカリ。
刀を鞘に納める。
「ソレを定着化させる為にも、石よ」
「まあ、刀の場合は、鍛治師も必要だけど」
「さて、先を急ぎましょ」掌を天に向けて「本当に降ってきそうよ」空を仰ぎ見る。
確かに、濃い色の雲が分厚く成ってきた。
ポツポツと雨粒が落ちて来た、その川原に、やたらにドデカイ、カエルが居た。
トラック並みの大きさのウシガエル? ポイのが三匹もだ。
ムラクモ達に「あれは、同族とか? なんか? では、無いよね」
――旦那……あれは魔物です、アッシ等とは、縁もゆかりも有りません――
「でも、強そうね」気楽な筈のコツメも怖じ気付いているのか?
「よそを探そうか?」あれは、確かにデカ過ぎる。
「待って……足元、お尻の方を見て」ソコに光る透明な石の様なものがある「触媒の水晶よ」指差すマリー。
「あれか……」
「邪魔ね」チィッっと、舌打ちのマリー。
――どうしやす?―― ムラクモ。
「なんか? 眠そうにしてない?」と、コツメ。
「後ろに回って、こう、そーっと」手振りを入れて「取れないかなぁ?」
「危ないんじゃないか?」
「大丈夫よキッと」イヤ、ヤハリ気楽なヤツだ……。
「倒せれば……速いんだが」ウーン。
と、考えていたとき、ウシガエルと眼があった。
シューっと舌が飛んできて、コツメを捕まえて、キャっと悲鳴だけを残して、口の中に引き込んだ。
カエルがハエを捕まえる様なものだ。
ア!
「コツメを助けろ!」
蜂部隊が飛び掛かる。
しかし、そのうちの一匹が別のウシガエルに、シューっと捕まった。
モグモグと、顎の下を動かしている。
「蜂も喰われた!」
「コレを投げて」マリーがサッキの煙玉(本来は爆弾)を寄越した。
俺に渡したのは正解だ。
スキル! 投擲!!
コツメを喰ったヤツと蜂を喰ったヤツの丁度、真ん中に投げ込む。
ドッカン! 閃光と轟音! 今度のはちゃんと爆発した。
しかし、ウシガエルには多少の傷を付ける程の威力しかない様だ。平然としている。
が、口の中のコツメはビックリした様だ。
ボフンと音と共に強烈な臭い。
その余りの臭さに耐えかねたウシガエルが、ペエっとコツメを吐き出し。
そして、逃げ出した。何故だか蜂を喰った一匹を残して。
とにかくだ「全員で掛かれ!」と群がる。
しかし、ウシガエルは一切の反撃をしてこない、イヤ、出来ない。
完全に痺れて動けない様だ。
蜂の攻撃? 口の中で針を刺しまくった?
その証拠に、口から蜂が這い出してきている、勝ち誇った顔で……小さいから見えないのだが。
あの、匍匐前進の訓練に意味が有った様だ。
そして、今のうちがコレほどしっくりくる事はないと、全員でボコった。
ボコりまくった。
魔方陣を描いているマリー。
その中央に水晶の触媒。
俺は、今、倒したウシガエルのスキルを取り出して、ソレをムラクモにやる。
カエルのスキルだ、カエルのムラクモとは、相性も良いだろう。
[パッシブスキル(カエルの舌)]絶対に良い筈だ!
――有り難う御座います。旦那――
「で、どんなスキルだ?」スキルの説明が頭に浮かんで来ない。
もしかすると、魔物のスキルは理解しにくいのかな?
――はい……やってみやす――
と、舌をシューっと出し、コツメを捕まえて目の前に迄、引っ張って来た。
一瞬の出来事だ、あのウシガエルのやった事と同じだ。
「ナニするのよー」
「お! 屁は垂れるなよ」鼻を摘まみながら。
「しないわよ!」真っ赤に成って「私を何だと思ってるの?」
『コツメカワウソの獣人!』全員で声を合わせた。
ウッと声を詰まらせ「正解」
と、同時に雨が本降りに成った。
「ああ、せっかく描いた魔方陣が……」雨水に流され消えていく。
「幌車に戻って、やり直しだな」
カエルの脚を一本切り取って、コレで足りるか? と確認し、帰路に立つ。
火事は、まだ燻っていたが、通れ無くはない感じ。
その中に子蛇の丸焼けを何匹も見付けた。
大蛇は、何処にも居ない、多分、逃げたのだろう。
子蛇のスキル。
[パッシブスキル(ピット器官)]コレも、説明が無いが……だいたい想像がつく、そのままだ。
蜂達の全員分は有る。
そのまま蜂達に渡した。
ムラクモ達には全力で拒否された、蛇のスキルなんて……だそうだ。
コツメは欲しがったのだが、魔物のスキルは獣人には無理なので、諦めさせた。
とても悔しがって居たが。しかし、夜目は効くからソレで良いとも思うのだが。
マリーは、普通に「要らないわよ」の一言だった。
アンテッドなのだし、有っても良さげだが、仕方ない。
幾つかを飴に変えて、仕舞い込む。
幌車に帰り付き。
濡れ祖ぼったそのままに乗り込んだ。
で、集めたその3種を前に、マリーが幌車の床に魔方陣を描いて居るところ。
水晶の様な結晶を眺めて。
ウシガエルの足、巨大だ。を見る。
魔素粒子はこの世界では、自然界の何処にでも在る魔素の結晶体らしいが、その魔素は極少量なので結晶体にまでに成らない量で。
ソレを集めるには大量の素材を集めるか? 元々大量に持って生まれる生物……人でも、人以外の人外でも、動物でも、魔物でも良いらしい。
そこで、気を付けないといけない事が、魔素は直ぐに土に還ろうとする性質を持っているので手早く、新鮮なうちに処理をするなり何なりとしなければ駄目らしい。
生き物が死んで土に還る、のそれは魔素が土に溶けるから起こる事なんだと。
そんな理由で、魔素を大地から取り出しても、溶ける方が多くて駄目なのだそうだ。
と、言うのを……そんなの地面から取れば良いじゃないの……の、俺の一言に、馬鹿に教える様に、永遠と説明された。
「ところで、その魔方陣は何で手描き?」前の時も描いてたし。
キッと、ひとにらみ。
「嫌味?」
「念じて浮き上がらせる事が出来るのは、勇者と魔物だけよ」
「え? コツメは何も無しに魔法を使ってるけど、あれは違うモノなのか?」
「私? 魔方陣ならお腹に描いてるよ」服を剥ぎ腹を出す。
ヘソの上に三つの小さい、ソレらしい魔方陣が並んでいる。
「いつの間に……」
「スキル貰って、試してみたら」小首を捻り「頭に浮かんだのを描いた」
ボボッと、指先から炎を出す。
「あ! ちょっと強く成ってる」チョッとした、バーナーくらいの炎だ。
「でしょ」照れて笑うコツメ。
「そんなのイチイチ描かなくても、火の魔法くらいならアクセサリーで、魔方陣の代用は出来るわよ」マリー。
「そうなの?」俺の方を見て「じゃー今度、買ってもらおー」
「幌車の中に転がってたわよ、イヤリングと、腕輪と、指輪」
あの盗賊の魔法使いの装備か?
「ウソ!」慌ててゴミの山に駆け寄るコツメ。
そんなこんなの間に錬金は終わっていた。
回復薬の入った瓶が10個有る。
「あれ? 今回わ手伝わなくて良かったのか?」
「触媒の水晶が有れば、私一人でも出来るわよ」
そんなことよりも、と。
「疲れたから寝る」と、フラフラのマリー。
その時、探していたアクセサリーを見付けたコツメが。
「回復薬って確か……初歩だよね?」マリーに向けて。
「仕方ないでしょ! レベルが1に戻ってるんだから!」
「何で? 凄い錬金術師なんでしょ?」口元に手を当て、笑いを堪える様な仕草をマリーに見せ付けるコツメ。
「元の私はそうだけど」苦虫を噛み潰した様うな顔で「この体は経験値が0なの!」
「ずっと、培養器の中で育ったから……」
「フーン」
「1からやり直し? たーいへん」
「知識は有るわよ、レシピはしっかり全部、覚えてるわ」
「だから、レベルさえ上げれば……そんなのすぐよ」
「今は」プププ「使えないんでしょ」腹を抱えて笑い出す。
「うるさい!」
「寝る!」そのまま、幌車の端っこへと行くマリー。