別れ
河津のジジイを連れてダンジョンを折り返す。
ヨボヨボのヨタヨタなのでピーちゃんに咥えて運ばせた。
嘴からぶら下がったジジイ、モズのはや贄の様だ。
「自力で歩かせる為にも、魔物を倒させねば……駄目か」
情けない姿に目を覆う。
「もう、奴隷印が有るのだから……あんたの魔力を分ければ?」と、素っ気なくマリー。
「そんな事が出来るのか?」
「何を今更」チラリと俺を見て「あたし達ゾンビが動けるのはあんたの魔力を貰っているからよ」
「そうなのか……」少し考えて。
だから、俺が居なく為った時のために、疑似魂で魔力を自力で供給させるのか。
「で、どうやるんだ?」
「さあ?」首を捻るマリー。
「そんなのわかんないわ、私達は……無意識に貰っているから」
あっそ。
仕方無い、イロイロと試して見るか。
と、先ずは念じて見た。
頭に呪文は浮かばない。
次は、疑似魂を入れる時の方法をつかってみようかと考えたのだが……魔力だけを珠にする方法がわからない。
うーん。
無意識に顎に手がいく。
その手を、百合子が引っ張り自分の頭に乗せる。
乗せられた手は無意識にその頭を撫でた。
?
「何故に乗せた?」
「だって、疲れたんだもん」ちょっぴり成長して、幼女から少女に成っている百合子が甘えてくる。
「まあ、いいか」と、なで続けてやった。
可愛いからね。
すると、その手がどんどんと下に下がる。
百合子の頭が、明らかに低くなっていく。
見れば、幼女に戻っていた。
完全に元の姿に為った百合子は「もういい」と俺の手をはね退け、ジュリアの元に走っていった。
「魔力の補充……出来てるわね」驚いているマリー。
「百合子は奴隷化はしてないぞ?」
「それは、関係無いみたいね」
頷いたマリー。
俺も頷いた。
なんとも簡単な事だ。
河津のジジイの頭も撫でてやる。
見る間に若返り始める。
ジジイから初老。
中年、青年、少年……。
「何時まで戻る積もりだ!」
無理矢理、手をひっぺがした。
「ちっ……」ピーちゃんの嘴にぶら下がったままに河津少年が舌打ちだ。
中学生くらいか? 子憎たらしい顔だ。
「ピーちゃん……落とせ」
「ピー」ペッと吐き一鳴きしてジュリアの側に戻る。
皆、ジュリアの側に行くのだな。
俺より……ジュリアか。
寂しい話だ。
嘴から落とされた河津、シュタッと着地してスタスタと歩き出す。
「こんなに簡単に魔力回復が出来る方法が有ったのか」
頷き、唸る。
「知らなかった」
「そらそうだ」河津を睨み。
「ネクロマンサーを敵視していては、頭は撫でられん」
「敵だからな」俺を見て。
「水と油だ」
「そう思っているのは、お前だけだろう?」
「そんな事はない、何時もどちらかが魔王だからだ」
「それが宿命だ」
「確かに……」マリーも頷いた。
マリーは敢えて聞かない様だ。
自分を転生させたその真意を。
心の中では怒りが在るだろうに。
しかし、既に結果なのだからと割り切ったか?
まあ、本人が聞かないのだから……俺が聞いても仕方無い事なのだろう。
ソッとしとこう。
何か有れば、俺はマリーの味方をする。
それでいいだろう。
そんなやり取りを遠目で見ているコツメやジュリア達。
つい今の今まで、お互いに殺し合おうか? との勢いだったのに……。
それが、今は少し距離は在るのだろうが……普通に話をしている、そんな俺達が不思議で為らない様だ。
内心と表面上の使い分け……俺達が日本人だからか?
いや違うな。
少なくとも俺は違う。
ネクロマンサーとして河津を奴隷にした為に、意識が無意識の下で繋がった事による理解?
それも……違うか?
河津の行動に理解出来る余地は無い。
繋がった意識で……河津が反社会的な行動を起こした弟を見るような目になっているのかも知れない。
それが一番しっくり来そうだ。
許す積もりは無い。
だが、その罪を追及する事も出来なくなっている。
そして、一つの目的も在る。
元の世界に帰るその為も在るだろう。
そして、マリーを見て見れば……もう少しだけ複雑な感情が渦巻いているようだ。
目的は同じだが、仲間で有った過去と自分をこの世界に引き込んだ元凶。
転生者の惨殺。
だが、それは自身の命を守るための事。
俺達が、私達が、牛や豚を殺して食べる事と同じ……理屈ではそうかも知れない。
ただの遊びで殺しているわけでは無い。
そんな事を考えているのだろうなと、思われる。
そう思うのだから俺もそう考えているのだろうな。
それを許す気は無いが。
俺が殺した魔物や盗賊やフェイク・エルフに本物のエルフ達、その罪も許されるものでは無いと為るのだが……。
さて、河津自身はそれをどう考えているのか?
どう割り切れば……それが出来るのか?
俺には答えが出せそうも無い。
答えが出ないなら、それは後回しだ。
「河津……帰れる方法を知っているか?」
先ずはそれだ。
「知らないとは言わせないわよ」マリーが低くドスを効かせて。
小さく首を振り、答えた河津。
「僕には……それを出来るスキルが有る」
口許だけで笑った。
「じゃ、私達を戻して」間髪入れずに叫ぶ。
「ここじゃ無理だけどね」
「どう言う事?」
「ここは、転生の魔方陣の中だから、その中で魔方陣を描いても別のモノに成ってしまう」
「ああ……そうね」
「ダンジョンの外でなら出来るのね」
「そうだね」
頷き。
「出来るね」
そのやり取りに、ふと疑問が一つ。
「河津はそれが出来るのに……何故、戻らなかったんだ?」
その問いに。
ただ笑って誤魔化しただけだった。
「ここの方がいいだろう?」
その意味は、元の自分よりも今の勇者で居たいと言う事か。
それは……わかる気がしないでも無い。
この世界は楽しい。
そして、面白い。
酷い目にも有ったがそれでもだ。
だが……俺の世界では無いと心に違和感を感じている。
辛い現実が待って居ても、元の世界に帰りたい。
自分の世界にだ。
「ダンジョンを出れば、すぐに魔方陣を描いてやるよ」
小さく笑い。
「それで……帰ればいい」
「そうする」
俺もマリーも頷いた。
マリーのアトリエの在る病院を抜けて森の中に出る俺達。
そこで、先ずは皆とはお別れだ。
マリーがコツメやジュリアを順番に抱き締めている。
俺もと両手を広げたのだが……。
コツメにイヤな目でみられた。
「いやらしい」
ジュリアも頷いている。
「変態……」
そこまで言われるのか?
いいよ……と、ムラクモやシグレを抱き締めた。
ツルツルしている。
次にゼクスやシルバ。
固くて、ヒンヤリと冷たい。
そして、アルマを見る。
……拒否られた。
そうですか……。
「で、あんた達はどうするの?」
マリーが口を開く。
「私は、帰ります」ジュリアだ。
「私は……あの家を貰って良い?」コツメ。
――あっし等は、商業ギルドの会長の所にでも行って厄介に成ります――
ゼクスとシルバとアルマはロイド達と合流して、一緒に行くそうだ。
そのロイドは王都で保険ギルドの仕事を続けると言う。
レイモンドも新聞を続けると頷き。
アラン達は、新王に挨拶をしてから決めるのだそうだ。
セオドアは旅に出ると早々に出ていった。
骸骨は……何も考えていないらしい。
サルギン達と一緒に何かしようかと考え中。
ピーちゃんと土竜はどうしようかと迷ったあげく、セオドアに着いて行く事にしたらしい、慌てて後を追い出した。
カラスとネズミ達は各々で適当にと、飛び去った。
蜂達は骸骨と一緒がいいとサルギン達に着いて行くらしい。
皆が、少しづつこの場から離れて行く。
最後に頭目がバスに乗り込んだ。
「じゃあな」
その一言だけで、あっさりとした別れだ。
その場にには、俺とマリーと百合子とタウリエル……そして河津だけに為った。
「さて」
河津がぐるりと俺達を見て。
「始めようか」
そう言った。




