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河津の罪


 そのダンジョンはやはり、巨大なのだろう。

 至る処に魔物が居る。

 そして、気が付けばすぐ側に転生されてくる。


 今、目の前の巨大トンボを倒したと思ったら、後ろに現れた巨大レッサーパンダが襲ってくる。

 見た目は粒羅な瞳で可愛いのだが……爪と牙は凶暴そのものだ。


 だがそれもタウリエルの予言でそこに現れる事が事前にわかっていた。

 なので対処も早い。

 早いのだが……。

 交差点事に現れては、鬱陶しくてかなわない。

 魔物渋滞だ。

 

 「河津のヤツは何でまたこのダンジョンに居るんだ?」

 これだけ魔物が居れば面倒だろうに。

 自分のダンジョンで無い所では、魔力の回復も出来ない筈なのに、ここになんの用が有るのだ?

 甚だ疑問だ!


 「本人に聞いて見るしか無いわね」すりこぎ棒を握ったマリーが答えた。


 魔法グレネードはどうした?

 何故に今更、すりこぎ棒?


 だがそれは魔物が近すぎるのだとすぐに気付いた。

 そして、このダンジョンは常に白いモヤの様なもので覆われている。

 それは魔素の霧なのだそうだが、この場に立つと視界が奪われる。

 上から見た時には気にも為らないモノだったのだが……場所によれば自分の足の爪先も見えなくなるほどだ。

 確かにそんな所で爆弾なんか危なくて使えないと、納得。


 まあ、アルマやゼクス達が強いのだから問題も無いが。


 もう一人、強い頭目はまだ病院に居る。

 ゾンビ盗賊達の到着を待って一斉に突撃だと構えていた。

 本当は、頭目も一緒に来たそうにしていたのだが。

 ロイド達にたしなめられていた。

 頭目としての仕事だと。

 それに、河津の逃げ道を塞ぐ為にも別動隊として動くべきだと。

 そこまで言われて渋々に納得して見せたが……本心は絶対に納得していないと思われる。そんな顔をしていた。



 「なんだか不気味ね」と、ジュリア。


 「楽しく無いよね」と、コツメが返事を返す。


 もう、何百年と放置されている街なのだから、所々でビルのガラスは割れているし。

 信号機も根元が錆びて腐って傾いている。

 車はタイヤのゴムが腐り、パンクしているし。

 あちこちに人の骨の欠片らしきモノが転がっている。

 そして、道路も建物も、その中も埃が砂の様に為って降り積もっている。


 コツメが何時もしていた探検は出来そうに無い。

 変わった服もお洒落な服も総てが誇りまみれだ。


 「そのビルの地下のガレージに河津の描いた魔方陣が有るわ」そう言って指を差すタウリエル。


 頷いて、アルマに指示を出した。


 ビルの脇から斜めに降るスロープを進む。


 薄暗いソコにはコウモリが天井にところ狭しと張り付いている。

 それを、コツメの自称火炎の術と、ここぞとばかりに取り出したマリーのグレネードで焼き払う。

 だが、一番に活躍していたのはピーちゃんだった。

 コウモリを啄んで食っている。

 余ほどに旨いのか凄いスピードだ。

 そして逃げ惑い飛び立とうとしたコウモリは、セオドアの蜘蛛の糸で編んだ網に自ら飛び込み絡めとられていく。

 タウリエルは弓で、ジュリアはライフルで其々で射ぬいていく。

 

 魔物を全滅させる必要も無いと、移動する隙間をだけを確保するように攻撃をして進む。

 目的は魔方陣の破壊だ。

 

 程なく見付けた魔方陣。

 それの一部を足で擦って消した。

 ほんの少し欠けただけでも機能しなくなる。

 マリーのゴーレムが前にそれを見せてくれていた。

 あのときは、ただのボケだとは思うが。


 「よし! ここを離れるぞ」

 その俺の声に機敏に反応して、アルマが反転を開始した。

 

 

 その頃、頭目はダンジョンの入り口に居た。

 俺達は、真っ直ぐに中央を目指したのだが、頭目達はそこから右に曲がり、反時計回りに進む様にタウリエルに言われていた。

 その間に幾つかの魔方陣が有るのだと言う。


 先頭は頭目だ。

 歩き初めてすぐに魔物が襲い来る。

 

 大カマキリだ。


 それをアランが瞬時になます斬りにした。

 刀を抜く間も見せずに、一閃。

 だが、つまらぬモノなんとかは言わない。

 ただ黙って斬る。


 その死んでしまったカマキリの尻から、黒い線虫がうねうねと出てくる。


 それは、エマが口から火を吹く魔法で焼き殺す。

 魔法使いの筈なのだが……それっぽくない。

 せめて杖でも装備していて欲しかった。

 有っても、口から吐くのなら意味もないか。


 各々で固有のスキルも強いのに、今は魔法銃も有る、そんなゾンビ軍団。

 弱い筈も無い。

 出合う魔物は瞬きすらさせずに倒していった。


 

 その頃、ロイドも戦っていた。

 骸骨が勝手に撃った大陸間弾道魔法に校長が激怒して乗り込んで来たのだ。

 

 それをなだめ透かし、説得を試みて、逃げ惑う。

 八面六臂の活躍とはこの事か? と、それを体現してくれていた。


 当の骸骨は、指を差し、拍手までして、笑いながら見ているだけなのだが。

 

 そこにまた、タウリエルからの連絡が入った。

 「北西に撃って」

 場所は、イメージとして送られてくる。


 頷いた骸骨。

 「少しばかり静にしてくれんかのう?」

 手振りでシッシと二人を払った。


 そして、疑似魂を魔方陣に並べて……躊躇無く撃った。


 と言っても、この場所では疑似魂が壊れるくらいの変化しか起こらないのだが。

 狙った先では魔素に依る光と熱で大爆発を起こしている。


 「もう、ここには用はないぞ」と、ロイドに告げて、自分はサッサと逃げ出した。


 

 俺達はビルの影に隠れてそれをやり過ごした。

 巨大な光の柱と爆風。

 一瞬で街を焼く。


 その爆風は凄まじく、影に隠れていてもすべての空気を根こそぎ持っていったかの様に、息苦しさまで感じていた。


 「これで二発ね」タウリエルが口元を抑えながら。


 「後は中心にか?」


 「ええ、そこに老人が現れるわ」

 「後は、それを捕まえるだけ」

 そう言って頷く。

 「ただ、急いだ方が良いわ」

 「ここの魔物を倒して若返るから」


 その言葉にマリーが反応した。

 「それって……」

 「ここのダンジョンを召喚したのは……河津ってこと?」


 「そうじゃないの? 魔力を回復出来るんだから」

 さらりとタウリエル。


 「それって、マリーをここに転送させたのも……河津ってことか」俺も唸ってしまった。


 静かに前だけを見つめるマリー。

 確か、河津は昔の仲間だと言っていたが……。

 自分のカタキでも会ったのか。


 河津自身はその事を知っていたのか?

 知っていて、わざとマリーに近付いたのか?

 その先は考えたくもない。

 仮に、マリーを保険として側に置いていたのかも知れない。

 いざ、魔力切れの時に、ダンジョンで後ろから刺せばいいと、そんな風に考えていたのか。

 それとも、何も考えずにただ仲間として一緒に居ただけ。

 そちらなら、まだ許せるか?


 いや、どちらにしったって……許せるものじゃない。

 

 やはり、ヤツは野放しには出来ない。

 同じ異世界人としてもヤツを捕まえねば為らない。

 それが出来ないのなら……倒してでも止めなければ。

 いや、罪を償わせねば。

 それが、帰る手段と引き換えにしてでもだ!


 ヤツは……マリーと百合子をこの世界に転生させた張本人だ!

 

 その決意と共に足の運びが早く、強く為る。

 この怒りが暴走する前にヤツに合うんだ。


 その思いは、皆にも伝わっていた様だ。

 いや、思いが一緒なだけかもしれない。

 皆の顔が、一点を見詰めて真顔になっていた。

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