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ロンバルディア王の最後


 ロイドは見えない馬車を追っていた。

 その小さな車の助手席にはカラスが一羽、踞っている……通信用のロイド専用のカラスだ。

 後席には、九匹のネズミとまた一羽のカラス。

 そして、馬車を監視させているカラス、今現在は合計三羽のカラスを所持していた。

 河津の監視用に七匹を渡したので、最初は十匹だったのだが。

 今は、三匹もいれば十分だった。


 今回の旅の目的は本来、保険ギルドと新聞の支店造りの為だったのだけど、それももう意味も持たなくなってしまったからだ。

 それでも、ただそれだけならそんなに必要も無いだろうが、其々の町の周辺と町中の情報収集も兼ねて居たのでその数を連れて出たのだが。

 そちらの方が重要な意味を持つかもしれない。

 ただの行き掛けの駄賃ついでの仕事の筈だったのに。


 助手席のカラスがゴーレムに化けて。

 「馬車が停まりました」と、そう告げた。


 「こんな所で?」まだ王都からもそんなに離れた距離じゃないのに。

 「何か……有ったのか?」

  

 「周辺には何も無い草原です」と、カラス。

 「これからネズミが中に侵入を試みる様です」


 「バレ無い様に慎重にな」例え小さなネズミでも、狭い馬車の中では目に付きやすい、見付かれば大事に為る事は無いにしても確実に放り出されてしまうだろう。


 それに、返事を返す前に。

 「馬車のドアが開け放たれました」と、ロイドの顔を見た。


 「映像を送ってくれ」目を閉じ、カラスの念話を待つ。


 馬車は、舗装された道の真ん中に停まり、そのドアが開いていた。

 そして、そこから一人の男が倒れる様に落ちる。

 転がったその男の胸にはナイフが突き立てられていた。

 そして、明らかに贅沢な服装のその男は、この国の王だ。


 一転して馬車内の映像が見れた。

 ネズミが見たモノなのだろう。

 ソレには、返り血を浴びた大臣の姿が見えた。

 手は胸の高さで固まる様に止まっている、そしてその形は、そこには無いナイフを握ったそのままにだ。


 王を刺したのは明らかに大臣だ。


 また、外からの映像。

 その馬車の側面に火矢が数本刺さる。


 誰が、撃ったのかとカラスが探し始めればすぐに見付けられた。

 タウリエルが矢をつがいて、草原に立っていた。

 その隣には一人のエルフが立っている。


 タウリエルはカラスを見付けて、ニコリと笑う。

 カラスが何をしているのかを理解しているように。


 そして、また矢を放つ、今度は火矢ではなく普通の矢を一本。


 その矢の行き先は。

 燃え始めた馬車に驚いて、飛び出した大臣の額の真ん中だった。


 自分が刺した王に覆い被さる様に倒れ込む大臣。

 そのすぐ脇で燃え盛る馬車。


 御者と御付きは上手く逃げ延びた様だ、その馬車を呆然と眺めて居る兵士の格好をした三人が側に見えた。

 だが、その三人の誰一人として、王も大臣も助けようとの素振りすら見せない。

 ただ、立ち尽くすのみ。


 暫く後、燃えて傾き出した馬車が王と大臣の転がっている方へと崩れ出した。

 燃える馬車に埋もれてしまった二人。

 もうその姿も確認出来ない。

 火の手と煙に完全に飲まれてしまっていた。


 撃ったタウリエルをと、カラスに命じて見たが。

 その姿も見えなくなっていた。

 側に居たエルフ共々に消えている。


 これで、戦争は終わったのだろう。

 城も落ちて。

 王も死んだ。

 そして、それをエルフが見ていたのだ。

 戦争犯罪者として処刑された大臣も含めたそのすべてを。

 

 後は、抵抗をする者を排除するだけだ。

 


 それらの映像は俺も見ていた。

 あっけ無い最後だ。


 だが、タウリエルは何故にそこに居られたのだ?

 横にエルフが居たのだから迷子では無いのは確かだ。

 王を狙っていたとして、そこに逃げてくるとは中々考え付く事でもない筈だ。

 まるで知っていたかの様にそこに居たとしか思えない。

 しかしその答えはいくら考えても出てきそうに無い。

 今度、会えた時にでも聞いて見よう。

 会えればだが……。



 脇路地に避難していたレイモンド達もそれを見ていた。

 そして、考える。

 逃げる必要はもう無いのではないか? と。

 安全な場所で隠れていて、時期を見て投降すれば良いのでは無いかと。


 その考えは、ルイ家の当主も同じだったようだ。

 「私の屋敷に戻りませんか?」


 貴族街の端っこ、袋小路に立つ屋敷だ。

 そこが一番に安全かも知れないと、頷いたレイモンド。

 幸いな事に、今居る裏路地を伝えば人混みも避けられて辿り着ける。

 

 皆で、阿鼻叫喚の大通りを背に屋敷に向かう事にした。 

 


 そのやり取りも、カラスを通して聞いていた俺は、ホッと一息を入れた。

 いくらエルフでも、無抵抗に投降する者を殺す事も無いだろう。

 それも、戦争が終わった後にだから尚更無いと思う。


 それでも急いで帰ると言う処の変更は無い。

 トラックは速度を緩める事無く走り続けた。




 その日の夜に王都に辿り着いた俺達。

 途中、ロイドとも合流して一緒だ。

 このままトラックと車では目立ちすぎると、家の側の城壁に停めてそこから土竜に庭までトンネルを掘って貰った。

 

 通りの一番端の我が家、庭に城壁が立つ。

 その隣がルイ家の屋敷。

 トンネルを潜り抜け、そのままルイ家に向かう。


 人っこ一人居ない通り。

 街のあちこちではまだ火の手が残っている。

 だが、もう銃声と爆発音はしない。

 そして、逃げ惑う人達も落ち着いていた。

 

 ロンバルディアが負けた事を、誰かがアナウンスして回ったのだろう。

 平静迄は程遠いが、それでも一応の静けさは戻っている。


 

 俺達は、ルイ家の玄関を叩いた。

 すぐに開けられた扉。

 その広いエントランスに全員が集まっていた。

 

 ジュリアの顔を見付けた百合子が飛び付いて来る。

 それを優しく抱き締めていた。


 コツメはお姉さん達が集まっている所に走っていく。


 ロイドはレイモンド達と無事を確認していた。


 俺とマリーはルイ家の主人の所に行く。

 「皆、無事の様だな」


 頷いた主人。

 「もう大丈夫な様です」

 「敗戦の報と一緒に、敵対行動の無い者の安全は保証すると有りましたので……暫くは静かにさえしていれば危険は無いかと思われます」


 「そうか」


 「ですが……この国の行く末はまだわからないままです」


 「それは、エルフ次第か……」


 「私は……もう覚悟はしているのですが……娘達が」と、床に座り込んで話している二人を見た。


 ルイ家の主人も貴族だ。

 戦争犯罪を問われる可能性は高いと言う事だろう。


 「もしもの時は俺が……預かる」言っては見たものの、その一言はかなりの重圧が掛かった。

 

 ニコリと微笑んだ主人。

 「御願いします」と、頭を下げる。


 「それは、まだ早いと思うぞ」

 「そうと決まったわけでは無いのだから……上手く事が運べば」と、言葉を濁した。

 でも、実際には名ばかり貴族である事には違いがない。

 もしかしたらと、思うのだが……。

 元王家だと言う事もある……やはり、わからない……か。

 

 そこにカラスからの連絡が入った。

 ゾンビ大臣に化けている。

 「ワシじゃ」だが、その先に居るのは骸骨の様だ。

 「今、大臣達と合流したので、急いで帰る事にする」

 「兵士達は、そのまま徒歩でユックリと王都に向かえと指示は出してある」

 「バスに乗るのは、ワシ等だけじゃ」


 詰まりは、大臣と盗賊達とロイスにサルギンってことか。

 

 「わかった……気を付けろよ」

 方角的に南からの北上に為るだろうから、敵に見付かると厄介だぞ。


 「心得ておる」小さな大臣で、骸骨が喋ると違和感が有りすぎるなと、どうでも良い事を考えてしまった。


 そんな事が脳裏に浮かぶのだ……もう、落ち着いている証だろうと、頷いた。


 バスで走って二・三日後か。

 その頃には、この国の行き先も見えていれば良いのだが。

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