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ベルガモ防衛線の崩壊

 

 日が暮れ始めた。

 雨はまだ止まない。


 だが、一番恐れていた事が起きた。

 敵が、進撃を再開したのだ。

 それも、盾を全面に立てて、ゆっくりと前進してくる。


 夜で、しかも雨。

 爆弾が使えない。

 ジュリアの弾は盾を撃ち抜く事が出来ない。

 頼みの魔法使いは数名のみ。


 俺の目の前で、その魔法使いのコツメが必死で撃って居る。

 数名を吹き飛ばす威力なのだが……焼け石に水だ。


 着実に押し込んで来た。


 マリー達の仕掛けた地雷が爆発する。

 地雷の特性上、防水加工はされているのだと言っていたが。

 そんな事も意味も持たない様だ。

 その勢いが止まらない。


 「白兵戦の準備だ! 剣を抜け!」

 俺は出せる精一杯の声を張り上げた。


 敵はすぐに塹壕になだれ込んで来た。

 銃声は鳴りやみ、代わりに剣の弾ける様な金属音が響きわたる。


 俺の目の前でも、アルマとゼクスが盾と為り、シルバが敵を突き刺している。

 カエル達も槍を突く。


 だが、其々が振り回すには長過ぎる。

 トレンチナイフを待たせる事を失念してしまっていた。

 それを知っていたのに……明らかに俺のミスだ!

  

 俺の背後でコツメが呻いた。

 振り向けば、胸に矢が刺さっている。

 

 その矢を見た瞬間に悟った。

 この敵兵の中に本物のエルフが混じっている!

 見事な押し引きと、この突撃の見事さは最新鋭の無線以上のエルフの特性でか!


 駄目だ、勝てない。

 「引け! 撤退だ!」

 コツメを担ぎ上げて、アルマを盾にして後退を始めた。

 「逃げろ!」有らん限りの声を張り上げて叫ぶ。


 その時、足元に爆弾が転がってきた。

 フェイク・エルフの使う一回り小さいヤツだ。


 あ! と、思う間も無くマリーが飛び付いた。

 

 そのマリーに叫ぶ。

 「穴に放り込め!」


 塹壕の底に開けた穴。


 ソコにマリーが爆弾を落とす。

 そのすぐさま、水飛沫を上げて、縦に爆風が噴き上げた。

 そして、同時にマリーも吹き飛んだ。


 下半身を丸々無くしている。

 吹き上がる爆風を避けきる時間が無かったのだ。


 「マリー!」


 駆け寄ろうとしたとき、肩に担いだコツメが俺の背中を思いっ切りに叩いた。

 それに一瞬、時が止まる。

 ……。

 次に動き出した時には、ムラクモがカエルの舌でマリーの上半身を引き寄せて抱えて走り出していた。


 その間にもシルバとシグレが退路を作り出している。

 敵の剣と弓をかわしながらに、なんとか丘の斜面に抜ける通路に辿り着いた。

 その時、俺の身体がコツメ共々に宙を舞った。

 セオドアの蜘蛛の糸でトラックの所まで引き寄せられたのだ。

 マリーを抱えたムラクモもトラックに舌を飛ばして飛んでくる。

 そして、ピーちゃんが飛び込みジュリアとシルバを咥えて走り出す。

 セオドアとムラクモが残りの者を引き寄せて、トラックに飛び乗った。

 

 ベルガモ防衛線は完全に崩壊した。

 

 走り出すトラックの後ろの窓から見る戦場は混乱と狂乱が混じり会う殺戮の場に為っていた。

 

 せめてもの救いは、逃げ延びた者も見付けられる事だった。

 

 それを俺は、マリーの冷たく成ったその手を握り締めながらに見ている。

 その視界が歪む、嗚咽も漏れる。

 この世界に来て……初めての涙だ。


 もう一度、マリーの顔を見ようと覗き込む。

 泪が粒に成り、マリーの頬に落ちた。


 マリー……が、俺をジロリと睨んだ。

 「私……死んでるけど、死んでないわよ」


 「え!」


 「あんた、なに泣いてんのよ、ゾンビなのよこれくらいじゃ死なないわよ」


 「そう……か」泪は止まらないが、笑顔にはなれた。

 良かった……。


 「良かないわよ、下半身がどっか行っちゃたじゃない」

 「……」

 「ちょっと、何処かで拾ってきてよ」


 「?」首事、顔が前に出る。


 「戦場なのだから、私のサイズに合いそうな死体は無いの?」


 「その戦場から、今逃げている所だ……」


 「もう……」下唇を突き出しブー垂れた。


 「マリーの実験室は? あの病院」


 「あそこのは駄目よ、腐りかけのホムンクルスしか無いわ」


 「しかし、死体なんて……そうそう落ちていないぞ」

 途方に暮れる俺、でも泪はやっぱり止まらない、笑顔も一緒に。


 「ちょっと……」コツメが掠れた声で叫ぶ。

 「いい加減に私の怪我を治してよ……」


 しまった! 忘れてた。


 床に転がるコツメに飛び付き。

 矢を抜いて、グリグリと刺してホジくる。


 「適当にやんないでよ」泣き叫ぶコツメだが。

 

 もう、既に治療は終わっていた。

 肋骨に当たって、そう深い傷には為っていなかった様だ。


 しかし、やはりマリーだ。

 どうしたモノか?

 

 「痛みとかは無いのか?」


 「大丈夫よ」

 「ただ、中身がね……」


 見れば、内蔵がこぼれている。


 「それもどうにかしないと……」と、指を差す。


 首だけを起こしてマリーも見た。

 「うーん」


 「これで蓋しとけば?」コツメがヘルメットをつついた。


 「馬鹿にしてる?」マリーが睨む。


 「でも、それは良いかも」と、ジュリアがヘルメットを取り。

 鍛治の仕事を始めた。

 マリーの胴体に合わした丸い板を造り、それで蓋をした。

 外れない様に、縁もちゃんと有る。


 「どう?」ジュリアがマリーに。


 両手で体を起こしたマリー。

 床からヘソの上が生えている感じに見える。

 それを、両手で体を振って器用に移動し出した。

 

 「うん、良いわね」

 「動けるわ」


 「暫くは良いとしても……」

 うーんと、唸る俺。


 「その身体も造ったんでしょ?」

 「だったら、もう一度作れば?」コツメが言った。


 「そうだな、クローンだったな?」


 「相当に時間が掛かるのよ」唸るマリー。

 

 「なら、それを造りながら、代わりの下半身を探そう」

  そう、提案した。


 ――なら、マリーさんの病院に向かいますね――

 そう、言ってムラクモはトラックを加速させた。


 もう、戦争は十分だ……。

 俺達の仕事はそれ以上をしたと思う。

 後は……好きにやってくれ。


 


 ゼクスがマリーを担いで、マリーの実験室の有る病院の廊下を歩いた。

 その後ろを俺達、全員が着いて行く。


 相変わらずの場所だった。

 と、言ってもつい最近も、骸骨を起こしに来たばかりなのだから変わり様も無いのだろう。


 その実験室に入る為りマリーがゴーレムを呼びつけた。

 俺のゴーレムでは無く、マリーのゴーレムの方だ。


 数体のゴーレム達が慌ただしく動き始める。

 幾つかの大きな筒の水槽に液体が入れられて、その底からプクプクと空気が気泡に為ってゆらゆらと昇っている。

 

 なにをやっているのかはさっぱりだ。

 なので、俺達は部屋の一角を借りて寝る事にした。

 流石に疲れている。

 まあ、動ける者は適当に手伝ってやればいい。

 俺は……寝る! と、横に為る。

 一緒にジュリアも倒れ込んだ。

 カエル達もだ。

 一人コツメは、マリーのゴーレム達の仕事を邪魔しながら遊んでいたが、それは放っといて……寝るのだ。

 と、気絶した。


 

 そして、数時間後……俺は、カラスに叩き起こされた。


 そのカラス、レイモンドに化けている。

 詰まりはレイモンドからの連絡なのだろう。


 「なんだ?」寝ぼけながらも聞いた。

 まだ、全然に寝足りない。

 疲れも取れた気がしない。

 寝惚けた状態での返事だった。


 「南のロマーニャが北上して来ました、王都に迫りつつあります」小さなレイモンドに化けたカラスが言った。


 「そうか……ベルガモ防衛線もアディジェに突破されたぞ」


 「北と南で挟まれるのですか……」


 「骸骨達の救出作戦も間に合わんだろうな……」


 「逃げた方が良いですかね」


 「そうだな、最後に一仕事して逃げろ」

 「あ! 百合子を頼む……一緒に逃げてくれ」


 「わかりました、最後の新聞を書いて……盗賊の里に行きます」


 「すまないが……頼む」


 小さなレイモンドが一礼して、そして元のカラスに戻った。


 首都陥落も時間の問題か……。

 あの間抜けな王、最後はどうするかな?

 逃げた、大臣もだが。

 腹を切る覚悟が有るとも思えんが……。 

作者……風邪を引きました。

でも、仕事も休めない。


なので、もしかすると……明日は書けないかもしれません。

今週、何処かで、休むかも……。


でも、エタった訳じゃ無いので待っていてください。


もう、物語も終盤です。

最後まで、チャンと書ききります。


今一、底辺から脱出は出来ませんでしたけど、作者は楽しんで書いています。

もう少しのお付き合いをお願いします。


読んでくれた方が……楽しんでくれたなら幸いです。


作者からの連絡でした。

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