本物のダンジョン
少女は棺をお立ち台にして……踊っていた。
素っ裸で、何も隠さずに……。
この光景、テレビで見た事が有る様な?
素っ裸なのが邪魔して思い出せん。
コツメが調子に乗って、真似し始めた。
勿論、素っ裸を真似したのでは無く、踊りの方だ。
「ジュリ扇が欲しい~」クネクネと踊りながら。
あ!
「ジュリアナ」思わず叫ぶ。
「とーきょー!」俺に合わせて叫ぶ。
やっぱり……。
「扇子もだけど、ボディコンもだろ」
「ってか、素っ裸だけど、気付いてる?」
あ? 自分を見て……俺を見る。
……。
顔が見る間に真っ赤に成り、出来るだけ小さく成りながら、出来うる限りのスピードでチビッ子ゴーレムの着ている白衣を引ったくり、そして被る。
あの後、
蓋を開けて、少女を引っ張り出した。
その直ぐに、少女は息絶えた。眠る様に、綺麗な死に顔だった。
が、直ぐに眼を開けて……踊り出す。
アンテッド。
死んで直ぐだからゾンビか? が、踊り出す。
そのままだと、普通はスリラーの筈が……この少女の頭の中にはジュリアナの音楽が流れたようだ。
1つ確信した。
この少女……女は俺と同じに召還者だ!
ソレも、少し時代がズレてる。
コホンと咳払い。
「失礼……少しはしゃいでしまったわ」
「浮かれたゾンビなんて初めて見た」
「まあ、本物のゾンビを見るのも初めてだけど」
「ゾンビなの?」コツメ。
「たった今、死んだからな」
「じゃ……腐るじゃん」イヤーな顔に成る。
「腐らないわよ!」声を張り上げ。
床に魔方陣を書き出す。
チビッ子ゴーレムはその魔方陣に、ナニやらの草を詰めた瓶を置く。
呪文と共に光。
光が修まったソコには、紫色の液体の入った瓶が有った。
ソレを、錬金術師の少女がグビグビと飲む。
「なにソレ?」変な色の液体に眉をしかめるコツメ。
「防腐剤よ」ぷはーッと、
「ホルマリンみたいなモノか?」俺も眉をしかめ「ソレは、ソレで臭くないか?」
「ホルマリンじゃ無いわよ! 人を標本見たいに言わないで」
「防腐剤!」
「腐らなく成る、魔法の薬よ!」
「へーそんな薬も造れるんだ」
「錬金術師だからね」胸をはる。
「でもソレって、ゾンビにしかいらないよね」鋭いコツメ。
「他にも造れるわよ」指を折りつつ「回復薬でしょ、痺れ取り薬でしょ、傷薬に痛み止めとか……後、イロイロ」
「でも、パンツは作れないのね」プッ。
「ナニよ!」
「ベーつに」
さっき、面白い娘って言われたのを根に持ってるな。コレわ。
「でも、いい加減パンツくらいは履いた方が良くないか?」
「履きたいわよ」そっぽを向く「無いのよ」
「無い? なんで?」
「用意してないのよ」声を張り上げ「忘れてたの!」
「バカー」少女を指差しての大笑いのコツメ。
そのうちに喧嘩に成りそうなので。話を変える事にする。
「ところで」少し溜めて「召還者だよね」少女を見て「錬金術師の勇者……とか、か?」
俺を見て、首を振る。
「勇者では無いけど」ため息「そんな様なモノよ」
「様なモノ?」
「召還者は召還する者が居ての召還者」
「私を召還した者は居ないわ」
――旦那、ソレは転生者です―― ソレまで大人しくしていたカエル♂
「転生者……」顔の横で掌をヒラヒラ「イヤな言葉ね」
「元の世界で死んだのか?」
「死んで無いわよ!」
「たぶん……」
「今は死んじゃってるけどね」コツメ。
――コツメちゃん、いい加減にしときなさい―― カエル♀
下唇を突き出し「ホントの事じゃん」
キッとコツメ睨む、少女。
「元の世界に帰る方法は? 無いのか?」
今度は、俺の方をジット見て。
「着いて来て、良いものを見せてあげる」
手招きして、歩きだす。
先ほどの廊下。
皆も着いてくる。チビッ子ゴーレムも含めて。
コツメはそのゴーレムにじゃれている。
抱きついたり、登ったり。
「辞めてください」
「歩き難いです」そう告げるだけで、抵抗はしていない。
じいっとは出来んのか?
「ねえ」少女に「コレ、欲しい。頂戴」
「イヤ!」ジロリと俺を見て「躾が成って無いわね」
――ごめんなさいねぇ……えーっと、何ちゃんと呼べば良いのかしら――カエル♀。
「貴方に謝って貰っても」と、肩をすくめ「マリーで良いわ」
「私は、錬金術師のマリーよ」
「チビッ子ゾンビのマリー」
――コツメちゃん!――カエル♀が尻を叩いた。パーン!
何で、私が怒られるの、と、ブチブチ……。
ソレは、シツコイからだ。とは言わない。躾はカエル♀に委せよう。丸投げ。
――ホントにごめんなさい、マリーちゃん――カエル♀もそうする積もりになった様だ。
――私は、ニヒキガエルのシグレ、覚えておいてね――
! 名前が有ったのか!
シグレを見てカエル♂を見る。
――そっちは旦那のムラクモ――カエル♂を指し。
ムラクモ!
――コツメちゃんにイヤな事をされたら私に言って――
「なによ、保護者みたいな事言って」
――私の方が年上よ。奴隷としても先輩――チロリと睨む。
――年下の後輩を苛めるのは、良くないわよ――
「マリーはだって」
「見た目はこんなダケど、中身はオバサンじゃん」
「さっきの透けた女なのよ」
シグレはピョンと飛び、コツメの尻を、今度は槍の胴で叩いた。
スッパーン
エレベーターを横目に、階段を昇ろうとする、マリー。
「エレベーターは?」ボタンを押し「使えないのか?」
チーン♪
扉が開いた、使えそうだ。
「なっ! あぁ、そうね……」チラリと俺を見て「ソレで行きましょう」
最上階を押す。
そして、屋上に辿り着く。
見えたのは、廃墟と化したビル軍。
丸く切り取られた様な崖に囲まれた、街。
俺の立って居る屋上の背後はその崖に食い込んでいる。
イヤ、違うか……崖が建物を切っているのだ。
絶句している俺に。
「東京よ」手のひらを振り差し「一部分だけど……結構な広さでしょ」
「まさか、造った?」疑問が、質問を絞り出す。
「まさか、こんなの造れる分けないじゃない」
「私と同じ……転生? よ」
「さっきの召喚主の居ない召喚? ってヤツ?」首を振り「イヤイヤ、街だぜ」
「そうね、街」頷き「空間ね」
「人が召喚出来て、空間が召喚出来ないって道理は無いわよ」
道路が見える、信号機も歪んではいるが、ちゃんと有る、勿論車だって有る。
が、人が居ない。
廃墟だがヤハリ街だ!
「私ね、この病院に勤めていたの、1日だけだけどね」
「看護学校を出て、やっと看護婦になって、ここに勤め始めた初日に……
この街ごと召喚よ」
「人も大勢居たわ……最初はね」
「その人達は、何処へ?」
「殆どの人は死んだわね……魔物に襲われて」
「生き残った人も居たのでしょうけど、何処へ行ったのか、どうなったのか……全くわからないわ」
「私はすぐに逃げたから……この街から」
「運が良かったのね」
「しかし、街ごと……とは」
「他にも、結構有るわよ」
「みんなダンジョンに成ってるけど」
「街じゃ無くても、森とか、山とか、見た目では区別が着かないだけで、ソコいらじゅうにね」
「貴方みたいに、誰かに召喚されたってのよりも、はるかに多いと思うわよ」
「ソレで何故? ダンジョンに?」
「召喚って魔力を相当に使うのよ」
「コレだけの空間だから、とてつもなく、ね」
「その魔力が、魔素粒子に成って溜まるの、それに魔物が引き寄せられる」
「その上、その魔素粒子が凝縮された時、魔物が召喚されたりもするの」下、ビルの影を指差し「ほら、あんな感じよ」ソコに光と共に魔物が突然姿を現した。
「コツメが襲われた時と同じだ」
「この理屈で、貴方も召喚されたのよ」
「あれを人為的に、ターゲットを人にしてね」
「しかし、魔物は何処から?」
「何処かの、魔物が居る空間ね」
「元の世界が在って、ココみたいな魔法の世界が在って……魔物の世界が在っても不思議じゃ無いでしょって事よ」
そんな話をしている間のも、また魔物が召還されているのが見えた。
このペースを考えるに、ここには相当数の魔物が居るのだろうな。
「レベル上げにでも、行く?」ジッと廃墟を見ている俺に「生きては、帰って来れないでしょうけど」
「コッチには来ないのか?」
「ここは大丈夫よ」屋上の縁ギリギリに仁王立ち「私が張った結界が有るからね」
「城に有るってヤツか?」
「そう、ほぼ同じね」
「アッチは圧縮魔交炉型」
「コッチは水力魔交換型」胸を張り「私の発明よ」
「貴方も見たでしょ、洞窟の滝、あれを利用してプラス魔素とマイナス魔素を分離するのよ」
「何言ってるのか……ワケわかんない」コツメが唸る。
そのコツメを指し「つまりは、貴方の様なバカと」廃墟に向き直り、魔物を指し「魔物に、そのマイナス魔素が効くのよ」高笑い。
風に白衣をはためかせて。
「ナニよ! お尻丸出しの癖に」フン。
マリーとコツメ。
取っ組み合いの喧嘩を始めた。
尻どころか……大事な所も丸見えだ。
コイツらコレから先もずっとこうなのか?
呆れ返った眼差しにも気付かずに、組み合ったままでアッチに転がりコッチに転がり…………。




