9話 覚悟を決めました
のんびりだけど楽しく過ごした翌日。
「マリコ様は上達が早いですね」
「そうかな?力業なだけだけど」
カミーリアさんに褒められるけどそんな事ないと思う。無理矢理やってるだけだからね。
今日は午前中はカミーリアさんに魔法の講義、午前は制御訓練。毎日地味だけどやらないと上達しないからね。
ローレルさんが何が言いたげだ。あー、あの目は私に同意だな?聖女らしからん聖女で悪かったわねー。
談笑を交えつつ話を聞いていたら、慌ただしい足音が近づいて来た。
なんだろ?あんなに走ってるとか只事じゃない気がする。魔力からして多分騎士さん。カイゼルさんじゃないな。
ばん、と音がして扉が開く。うわ、ノックも無かった。
「副団長、聖女様!!」
「何だ騒々しい。聖女様の部屋に許可もなく立ち入るなど無礼だろう!」
「申し訳ありません、ですが今は一刻を争います。処罰は後でいくらでも受けます。だから今は急いで団長の所に来て下さい!!」
騎士さんの切羽詰まった様子は尋常じゃない。カイゼルさんの所に?
「何があった」
「団長が刺されました…!刺した刃に即効性の毒が塗られていたらしく、団長は今非常に危険な状態です!」
え?今なんて?カイゼルさんが?刺された?状態がまずい?
言われた言葉が理解できない。頭が真っ白になる。
「聖女様の治癒が必要です。お願いします!」
騎士さんの言葉に一瞬固まっていたローレルさんが我にかえると私をいきなり抱き上げた。
「申し訳ありません。貴女の足で走っていたら間に合いませんので失礼します」
確かにここから騎士団の敷地は近いけれど状況からしてこの方が早い。
そのままローレルさんは猛然と走り出した。カミーリアさんが何か叫んでいたが聞き取れない。
私は突然訪れた緊迫した事態についていけない。
なんで?なんでカイゼルさんが刺されたの?どうして。
混乱でパニックになるまいと私はぎゅっと自身の手を握る。駄目だ、私が今パニクったら。助けられるのは私だけだ。
私を抱えて疾走するローレルさんにすれ違う人は驚くがローレルさんは気にせず走る。
騎士団の敷地に入りカイゼルさんが使う執務室に行くと騎士達が沢山いた。絶望感のある顔をしていたのが私を見て表情が僅か明るくなる。
「聖女様がきたぞ!」
「道を開けろ!」
さっと割れた人垣の中に、床に倒れたカイゼルさんが見えた。血溜まりと共に。
「?!」
私もローレルさんも息を飲む。意識が飛びかける。
「気をしっかりもって下さい!」
ローレルさんに叱咤されなんとかこらえた。
近付けば最悪の光景が目の前にあった。全身の血がざっと引いた。
床を大量の血で染めた中にカイゼルさんが仰向けに横たわっている。出血は右肩。傷口にはナイフか何かの刃だけが深々食い込んでいた。
「これは」
「自分達が駆けつけた時には既に団長は倒れておられました。ナイフも柄はありませんでした」
「毒があるなら抜かなければ治癒しても意味がない。…やるしかないか」
険しい顔をしてるローレルさん。どうするんだろう。
「いいですか。これから俺が団長の傷口の刃を抉り出します。刃が抜けたら即座に解毒と治癒をして下さい。僅かでも遅れたら団長は助かりません」
言われる言葉に息が止まりそうになる。助からない…死ぬ?カイゼルさんが?
ステータスを見る。HPが100。しかも未だに減ってきている。カイゼルさんは先程から全く動かない。
呆然とする私の横でローレルさんがカイゼルさんの口に布を押し込んでいた。舌を噛まないようにだ。
「団長、少しだけ耐えて下さい…!」
そしてローレルさんが持っていた短剣をカイゼルさんの傷口に差し込んだ。
「っっぐーー!?」
今までピクリとも動かなかったカイゼルさんが目を見開いて悲鳴を上げる。口が塞がれているからくぐもった呻きだが耳を塞ぎたくなる悲鳴だ。
無茶なやり方は私がいるからこそだ。
暴れる身体は周りの騎士さん達が抑え込む。
刃はかなり深く食い込んでいるようでローレルさんも苦戦してる。
「っ、んっ、んぐっ!!」
喉の奥から絞り出すような悲鳴。苦しみもがく姿が見ていられない。
短剣が動くたびに血が溢れてHPが減っていく。50を切った…!早く、早く終わって!
「んーーー!!!」
一際大きな呻きを上げてカイゼルさんの身体が動かなくなる。ぎくりとするがよく見たら息はしてる。気絶しただけだ。
「取れた…!治癒を!!」
ローレルさんの言葉に私は震える自分を叱咤する為に自分の両頬を思い切りばちんと叩いた。そして集中して治癒をかける。
「解毒と治癒を!」
お願い!死なないでカイゼルさん!!
全力で魔力を込める。MPが尽きたっていい、カイゼルさんを助ける!
傷が急激に塞がっていく。ステータスを見る。HPは25。ギリギリ、間に合った…!
解毒も効いて治癒も出来た。もう大丈夫だ。
周りで見ていた騎士さん達から安堵の吐息が漏れる。
「良かった、団長…!」
「団長を助けてくれて…ありがとうございます」
ローレルさんも泣きそうになりながら礼を述べてきた。初めて見た、こんな顔。
「団長を部屋に!慎重にだぞ!」
騎士さん達に運ばれていくカイゼルさんをみて、一気に気が抜けた私は生まれて初めて気絶した。
目覚めたら見慣れない天井だった。
あれ、ここどこだろ?見渡してからいつもの部屋ではないけど城の中は間違いない。
暗い。もう夜?
身体を起こして見回したらローレルさんがいた。トリヤさんもカミーリアさんもいる。
「マリコ様!大丈夫ですか!?」
カミーリアさんがいの一番に駆け寄り手を握ってきた。
「倒れられたと聞いて、もう心配で!体調は大丈夫ですか?」
身体を軽く動かす。不調はない。HPは満タンだし、MPは治癒はしたがそれ程減ってない。魔力切れじゃなくて普通に気絶したんだ。いや、気絶ってああなるんだね。
それより!
「カイゼルさんは!?大丈夫なんです!?」
何よりそれが一番知りたい。治癒はしたけど、あんなに出血したんだから。
「団長は別の部屋に。まだ目は覚まされていません。マリコ様は気を失われたのであまり動かすのはよくないと判断しましたので近くの部屋にお連れしました」
ローレルさんが説明してくれた。私はそれを聞いてすぐさまベッドを降りる。
「マリコ様、急に動かれては!」
「私は大丈夫です。それより今はカイゼルさんの側にいたい」
「ですが…!」
「お願いできますか。一命は取り留めましたが暫くは絶対安静です。毒が全身に回りましたから回復には時間もかかるでしょう。討伐は私達が引き受けますからマリコ様は団長をお願いします」
止めようとするカミーリアさん。それをローレルさんがそう言って間に入る。
「わかりました。カイゼルさんは私に任せて下さい」
「お願いします。マリコ様の護衛は騎士を配置して必ずお守りします」
その言葉に頷いて私は行く。
カイゼルさんは執務室の隣にある私室に寝かされているらしい。
入り口には騎士さんが見張りで二人いた。私を見て当然のようにドアを開けてくれた。
部屋の奥のベッドにカイゼルさんは寝ていた。
ベッドに近寄り側の椅子に座る。
薄暗い中でもわかるくらい青白い顔。でも寝息は穏やかだ。
良かった。生きてる。
安堵して涙が溢れてくる。起こさないよう声を出さずに私は泣いた。
それから暫く泣いてから、私はカイゼルさんを見つめる。
その時、瞼がかすかに動いて目が開いた。
「…マリコ、殿?」
「カイゼルさん…目が覚めたんだね…!」
声を聞いてまた泣きそうになったけど目をすって堪えた。
「ここ、は?俺は、一体…」
「カイゼルさんは刺されて酷い怪我で倒れたんだよ。危なかったけど私が治癒したの」
「倒れ、た…そうだ、俺、は…っ!?」
カイゼルさんがいきなり起き上がろうとして出来ずに頭をおさえる。
「まだ起きたりしたら駄目!絶対安静なんだよ!」
私は慌てて言うとカイゼルさんの手を取る。
「身体に力が入らないな…」
「当然だよ…あんな、怪我…。本当、心配した…死んじゃうかと思った」
堪えていた涙がこぼれた。一度流れ出したら止まらなくなった。自分でもわけがわからないくらいぐちゃぐちゃな気持ち。
私の涙を見たカイゼルさんが手を伸ばして涙を拭ってくれた。
「泣かないでくれ。どうしたらいいかわからなくなる」
「っ、カイゼルさんが、泣かせることするからだしっ」
せっかく優しく涙を拭ってくれている手を軽く叩いて振り払うと私は椅子から立ち上がって離れたソファに行くと背を向けて座る。
病人にする所業じゃないのはわかってるけど感情がついてこない。優しさが嬉しいのに素直になれない。
背を向けたままぐすぐすしていたら衣擦れの音がした。何だろうと振り向いて涙が引っ込んだ。
カイゼルさんが起き上がってこちらに来ようとしていた。
「ちょ、カイゼルさん!?」
ソファから転げるように降りてからベッドに戻るとカイゼルさんを押しとどめる。
「だから、絶対安静なんだから起きてどうするの!」
「貴女が離れたから側に行こうとしただけだ」
「だからって」
「泣いていても怒っていてもいい。だが…離れないでくれないか?」
常と違った凄く弱々しい声に思わず息を飲む。どうしたんだろ。
びっくりしてこくこく頷いてからとりあえずもう一度寝かせようとして首を振られた。
「少しだけ、話がしたい」
「それなら寝たままでも出来るでしょ?」
そう言っても何故か譲らない。仕方ないのでベッドに座らせてブランケットを羽織らせる。男の人にはちょっと似合わないピンクのそれは私が今まで羽織っていたものだ。かけると当然拒否されたがこれはこっちが譲らない。相手は病人なのだから身体を冷やしていいわけがないからだ。
まだ体調が悪いからか一度で頷いてくれた。
「寄りかかっても?」
頷くとカイゼルさんが肩に頭を乗せて寄りかかってきた。かなり体重をかけてるからそこそこ重い。身体を支えるだけの力が入らないんだろう。
そんな状態なら寝て欲しいんだけど。
暫く無言でぼんやりしていたらカイゼルさんが話し出した。
「…今回は、正直本気で駄目だと思った。毒の回りが早くてすぐに意識が薄れていった」
話を聞いてぞっとする。間に合わなかったら、そんな考えが過った。
「その時に考えたのは、貴女の事だった」
私のこと…?何で?
「このまま会えなくなると思ったら堪らなくなった。ずっと、誤魔化してきた。考えないようにしてきた。だがもう嘘は吐けない。俺は、貴女の事が…」
「まった!それ以上言ったら駄目」
私は先を言わせまいと言葉を遮る。嬉しいけど、私が受け取っていい言葉じゃないよそれ。
「っ、何故…!」
言葉を遮られたカイゼルさんが私の肩から顔を上げる。まだ血の気がない顔色にちょっと揺らぎかけるけど言う。
「勢いだけでそれを言ったら駄目だよ。カイゼルさんのそれは気の迷い。聖女だからっていう付加価値が見せてる幻だよ。それは本当に言うべき人に言わないと。私みたいな10歳も歳上のおばさんにはもったいない。私なんかより若くて可愛い子は沢山いるよ」
自分で言いながら若干傷ついてたりするけどまあ仕方ない。私なんか聖女が無かったらただのおばさんだ。
カイゼルさんは、優しい。きっとその優しさが勘違いを起こさせてるだけだ。
「カイゼルさんにはちゃんと相応しい人がいるって。だから早く忘れて…」
「若い、か。やはり、若い男がいいのか?俺より若い、殿下やローレルがいいのか」
はい?なんだって?
いきなり何故そこでフレイ様やローレルさんが出てくるの。フレイ様は確かに王子様だけど憧れみたいなものだし、ローレルさんに至っては喧嘩友達レベルだし。
「そうだよな。わかってはいた。殿下は優しい。ローレルは何だかんだ言っても貴女を気にかけている。最近は態度もかわったしな?貴女に何度も情けない姿ばかり晒すような俺より、よほど2人の方が貴女に相応しい。…こんな事なら、あのまま死んだ方が良かった…っ!?」
黙って聞いてたらとんでもないことを言ったのでつい頭を引っ叩いてしまった。手が早いのは性分です。でもその発言は許せないよ。
「なんて事言うのよ!カイゼルさんが倒れてローレルさんだって他の騎士さん達だってどれだけ心配したと思ってるの?!フレイ様だって、きっと滅茶苦茶心配してる!その気持ちをわかっててそんな事言うの!?」
ローレルさんや騎士さん達の顔を思い出す。みんなみんな、本当に心配してた。それをそんな言い方するなんて。
「なら、他に誰か好いている奴がいるのか」
「いません!つい最近外に出たばかりで知り合う余裕とかないし!一番側にいるのカイゼルさんじゃないですか!」
「それでも、俺じゃ駄目なんだろう…?…どうしたらいい?俺は、もう…お前じゃないと駄目なんだ」
息が止まった。様でも殿でもない。名前通り越してお前とか言われた。そして、顔。今まで見たことがない弱々しい悲しい泣き出しそうな、辛そうな表情。
そこまでどうして。
「私が、いいの?聖女だからじゃなくて?もしかして、聖女を逃がさない為とか?」
そんな顔をみても私はまだ信じられない。こんなステキな人が私を選ぶなんて。だから聞いてしまう。
最初の聖女が拒否をした。私も居なくなればこの国は終わるかもしれない。だから引き止めるためにとか?
するとカイゼルさんが顔を歪めて俯いた。
「頼むから、これ以上俺の気持ちを踏み躙らないでくれないか。俺の、想いを否定しないでくれ…」
カイゼルさんが再び顔を上げる。真っ直ぐ真剣な眼差しが私を見る。偽りなく、この人は私を。
「聖女だからじゃない。俺は、お前が好きなんだマリコ」
言われた。言われてしまった。名前を呼ばれて好きだと。
告白ってこんな凄いもん?こんなに何もかも打ち砕くみたいな衝撃があるものなの?
じわじわと熱い何かが胸に込み上げる。
受け入れていいの?私が?こんな、ステキな人の告白を、想いを。
「お前は?どうなんだ?」
カイゼルさんが答えを迫る。どうしよう、どうしよう!?
「私料理出来ないよ」
「俺が出来るからいい」
「出来るの!?普通騎士様なら誰かにやらせるとかの世界じゃないの?」
「王族や貴族はそうだがこの国の騎士は違うな。遠征で自炊くらいは自分でやる。因みに陛下も王妃様も殿下も料理はするぞ」
うっそ!庶民的だな?王族ファミリー!
「お裁縫とか出来ないよ?」
「俺は出来るから心配するな」
ハイスペックだな!カイゼルさん!女の私の立つ瀬がない!
「貴族の社交界とか絶対無理だよ?」
「聖女は関わる必要はないな。それによその国よりうちの国はそう言ったいざこざは少ないから気にするな」
穏やかな国だなここ!
「騎士団長の奥様としてなんて振る舞えない」
「聖女である事が何よりだからな。必要ない」
聖女無敵だな!
「歳上だよ?先に死んじゃうかもよ」
「いや、俺が魔物にやられて死ぬかもしれない」
「そんな真似させるわけないでしょ!」
「何でだ?騎士として魔物と戦う以上可能はある。騎士なら皆覚悟はある」
「駄目!」
「何故駄目なんだ?」
「私が嫌だから!」
「何故嫌なんだ。俺なんてどうでもいいんだろう?」
「どうでもいいならあんなに心配しないし泣いたりしないよ!好きだから嫌に決まって………ああ!?」
否定したくて矢継ぎ早に色々言ってたら逆に誘導された!勢いで答えてたら言っちゃったし!!あああもう!
睨みつけたらしてやったりという顔。さっきの神妙な様子はどうしたんだ、この男!
「訂正は許さないからな。マリコ、俺の側にずっといてくれ」
うー、とかあーとかしか言わない私をカイゼルさんが抱きしめてきた。
出会ったばかりなのに、こんなにあっという間に距離が近づくなんて。恋に時間は関係ない、なんて言葉はフィクションの中でだけだと思ってたのに。
私は、この騎士団長様にあっさり落とされてたんだね。
覚悟を決めよう。誤魔化すのは止めよう。私は、カイゼルさんが好きです。誰よりも側にいたい。
「返品はきかないから覚悟してよね?」
「嫌と言われても絶対に離さない」
「あの、えっと。色々酷い事言って、ごめん」
「…あれだけ気持ちを否定されたら流石に堪えたぞ?」
「ごめんなさい」
「まあ、もういい。こうして俺を受け入れてくれたのだから」
そんな事を言うカイゼルさんはもう恥ずかしくなるくらい蕩けるような笑み浮かべちゃって。絆マックスになるの早いよホント。
私を抱きしめたままだったカイゼルさんだけど、急にこちら側にのしかかってきた。
え、どうしたの?まさかいきなりそういう展開!?いや、まだ心の準備が!
わたわたして顔をみたら眉間に皺が寄ってる。しまった忘れてた!
「悪い、力が入らない…」
「大丈夫!?」
慌てて寝かせ直して布団をかける。少し呼吸が忙しない。だいぶ体力を使わせてしまったみたい。
「無理するから。死にかけたんだからね?」
「実感が無かったんだが。自分の身体じゃないみたいだ」
片腕を布団から出すと気怠そうに持ち上げる。それすら大変そうだ。
その手を下ろすと私の手を握る。
「嘘じゃないよな?」
不安げな瞳。ちょっとさっきは言い過ぎたよね本当に。
「嘘じゃないよ。私はカイゼルさんが好き。ずっと側にいる。えーと、うーと…私を貴方のお嫁さんにして?」
なんか言わないとと思ったらそんなセリフを我が口が吐いた。
どこの女子中高生だー!中二病より恥ずかしいわ!いや、今時の子はこんな事言わないか。じゃなくて馬鹿か私はー!
言った自分に総ツッコミしていたらカイゼルさんがくすくす笑った。笑ったなー!?
「似合わないぞ」
「わかってるよ!自分で!嫌と言う程!」
「そんな顔するな」
笑いながらカイゼルさんが私の手のひらにキスをした。
たあ!でたな!乙女をきゅんさせる技!恥ずかしげもなく!普段真面目なくせして何故にこういう時だけナチュラルタラシが出るんだ!は、お兄さんか!あのお兄さんならやりそうだ。似たのか!
「もう、わかったからとりあえず寝る!でないと側に居てあげないよ」
「それは困るな。わかった、休む。そう言えばお前はどこで寝るんだ?」
お前呼び定着させたな。解放されたみたいにいきいき押しが強くなりおって。ぐぅ、こんなにきゅんさせられたら私の心臓がもたない。なれなければ!
「ソファかなんかで寝るよ」
隣室でもいいけど、やっぱまだカイゼルさんの身体が心配なんだよね。ソファ寝は慣れてるし。残業帰りとか良く寝落ちたりしてる。
「そんな場所で寝たら風邪を引くだろう。ほら」
って布団捲るカイゼルさん。
はい?え?一緒に寝るってこと?まずくない?それとも。
「え、もう肉体関係に?」
「なっ、何を馬鹿な事言ってるんだお前は!いずれは勿論だが今はそんなつもりはない!」
私のずばりな言葉に真っ赤になってカイゼルさんが否定する。けど私はちゃんと聞いたぞ流さないぞ。
「いずれはするんだ」
「してくれないのか」
突っ込んだら返された。うあ!聞き返すな!卑怯な!
「そ、それは」
「とりあえず変な真似はしないからこい。剣に誓う。お前の同意なしに無理強いなんてするか」
動揺する私に少し真面目な顔をしてカイゼルさんが言う。
それはわかってる。でなきゃ今二人きりで部屋になんかいない。まあ、自分で思うよりずっとカイゼルさんに惚れてて信頼してるんだよね。
「じゃあお邪魔しますー」
もそもそ布団に入ればほっとする。本音をいうと少し寒かった。
「こんなに冷たいじゃないか。全く」
ぎゅっと抱きしめられた。あったかいー。
暖かくなってきたら眠くなってきた。安心したからもあるんだろうな。
眠そうな私をみてカイゼルさんが当然のように唇にキスをした。あ、ファーストキスだ。
「ゆっくり休め」
「ん、カイゼルさんもね。おやすみ」
私もキスを返してから幸せな気持ちで眠りについた。
もう少し焦らし焦らしさせようか悩みましたが、私が我慢出来なくなったのでくっつけてしまいました〜。