2話 聖女生活始めました
続きになります。だんだん脳内ツッコミが激しくなってきました。頭をゆるくして読んで頂ければです。
ふかふかした感触がする。やーらかーい。私のお布団てこんなに柔らかかったけ。
ぼんやりした頭のまま目を開けると見慣れない天井。天井というかやたら豪華な天蓋付きベッド。うわーすごーい。
「ってココどこだー!」
叫びながら飛び起きた。すると。
「何かありましたか!」
ドアをノックする音。低音ボイスのいい声。誰だろー。ってそうだ!
そこで漸く自分の現状を思い出し慌ててドアの外に声を返す。
「何でもありません!すみませんお騒がせしました!」
「…そうですか。ならば侍女を呼んで参ります」
安堵したような声が聞こえると立ち去る足音。言葉通りに侍女さんを呼びに行ったのだろう。
うう、何かこのやり取り二度目。叫んで驚かすのいい加減やめないと。あ、水晶の件もあるから三度目?あ、あれは多分叫んでないからノーカン、よし決めた。
にしても昨日は違ったのに気付いたらカイゼルさんすっかり敬語なんだよね。何というかあんな立派な人に敬語使われるのは申し訳ない。でもきっとあのままなんだろね。無理に強制出来ないし。
ひとしきりうだうだしてたら再度ノック。今度は女性の声。
どうぞ、と言ったらしずしずと若い子が入ってきた。年は確か二十歳とか。二十歳か…。
侍女さん、お名前はトリヤさん。二十歳の割には落ち着いた感じ。私よりむしろ大人っぽい。藤色のロングヘアーが素敵。紫っていかにも異世界の色だよね。
着替えとかをお世話されながら昨日の事を思い出す。ちなみに全部じゃないよ。それは辞退する前にわかってるみたいで着方がわからないとかのお手伝いのみ。
神殿からこの部屋に案内されるまでは誰にも会わなかった。神殿から続く城の部屋は聖女用でやはり限られた人間しか入れないし通れない。にしても人が居なさすぎじゃないかなと思っていたら、特別に人を減らしているとか。どうやらいきなり召喚された聖女が沢山の人にあってパニックにならないようにとの配慮みたい。
確かに。やれ王様だとか偉い人だとか大勢を紹介されたり囲まれたりしたら流石にパニクる。有り難い配慮だ。多分、私の前の聖女達の前例もあるんだろうな。
そんなわけで、昨日はマースさんとカイゼルさんとトリヤさんくらいしか話しをしていない。マースさんの周りにいた神官さんもカイゼルさんの周りにいた騎士さんとも話さなかった。お世話係がトリヤさん一人なのも同じ理由。慣れたら段々関わる人を増やすとか。
「マリコ様、如何でしょうか」
トリヤさんに言われて着替えた服を見る。
昨日は召喚されたばかりだから当然あっちの私服。うちの会社はオフィスカジュアルだからスーツじゃない。ジーパンにシャツ、カーディガンと楽な格好だった。それを寝るときは服を貰って着替えた。すんごいネグリジェとかだったらどうしようと実は心配したけど、ワンピースタイプのパジャマだった。まあ、私からしたらだいぶんお姫様仕様なひらひらだったけど。
そして今着てるのは白いローブ。マースさん達が着てたのと似た様なのだけど私のやつのほうが若干キラキラしい。白いんだけど刺繍の装飾とかが凄いんだよね。聞くと、魔力を込めてある服みたいである程度の魔法・物理防御があるらしい。布なのに凄い。魔法凄い。
でも、このローブで良かったー。シンデレラみたいなお姫様ドレスだったら逃げ出すところだ。若ければ憧れるが四十歳であれは恥ずかしい。
「大丈夫だと思います。ありがとうございます」
「マリコ様はお綺麗ですから良くお似合いですよ」
お世辞、お世辞だこれは。私の顔は貴女に比べたら平々凡々なんですよ、ええ。日本人顔のごくごく普通の顔です。トリヤさんの方が余程綺麗だ。鼻高いし、明らかに欧米人顔。カイゼルさんも男前だったし、マースさんだってお年を召してるけど若い頃は絶対イケメンだったよね、って顔だった。そーいや、皆さん年齢聞いたけど私年齢言ってないんだよねー。薄々感じてたけど、たぶん私かなり若く見られてる。日本人て外国人からみたら若く見えるらしいんだよね。二十歳とか思われてる?え、何?若く見えるからって黙ってようとか思ってないかって?はい、思ってます。
私がそんなせせこましい事を考えているとはつゆ知らずトリヤさんは私を隣室に案内する。一人暮らしのマンションの部屋に比べたらだだっ広い寝室の他に後数部屋、私様に部屋がある。寝室の隣は私の私室。その隣は護衛用の部屋。その隣は人と会う用。因みに寝室は角部屋で隣に部屋はない。
私室に行くとマースさんとカイゼルさん、後もう一人居た。騎士服だからカイゼルさんの同僚かな?
「おはようございます聖女様。昨夜は良く眠れましたか?」
「おはようございます、良く眠れました。お布団ふかふかでしたから!」
ふかふかお布団でお日様のいーにおいだったんだよねー。なんてだらしない顔をついしたら睨まれた。誰かというともう一人の騎士さんに。
なにゆえ?睨まれるほどじゃないと思うんだけど?
初見から睨むとか、嫌な予感しかしない。
とりあえず無視する。あの手のは真正面から相手にした駄目だと営業事務経験が語る。感情と仕事は時に分離しなければならないのだ。
そう、聖女は私にしか出来ない仕事。たとえ睨まれようとも頑張らなければならない。
気にしないようにスマイル浮かべていたらカイゼルさんが口を開いた。あの人が睨んでたのは立ち位置的に気付いてないのだろう。カイゼルさんの後ろだったからね。
「マリコ様、彼は我が騎士団の副団長をしておりますローレルです。私が護衛に付けない時はこの者が代わりにお側に付きます」
「聖女マリコ様、ローレルと申します。何卒宜しくお願い致します」
「はい、色々ご迷惑をお掛けするかもしれないですが宜しくお願いします」
さっき睨んだのは嘘かと思うほど柔らかな笑みを浮かべてローレルさんは挨拶してきた。うーわー、今度は銀髪碧眼のイケメンだよ。カイゼルさんが男前ならローレルさんはイケメン。美青年って言葉が似合うね。きらっきらの銀髪は腰くらいで割と無造作に束ねてるっぽいのにさらっさら。うう、顔面偏差値にやられる。
けど…笑顔だけどなんかあれだな。作り笑顔。目が笑ってない。つか怖い。カイゼルさんと対称的。
ローレルさんの態度に嫌な予感は更に高まるばかりだけど無視!とりあえず無視!
ローレルさんを紹介したカイゼルさんは騎士団の仕事をするらしく退室していった。私が居るからメインは私の護衛だけど、今日はまだ部屋からは出ないし会う人もこれ以上はいないみたいだから離れても大丈夫。でも代わりを置いてくんだからホント聖女って重要人物なんだなあ。
「ではマリコ様、これからの事をお話致しましょう」
カイゼルさんが退室してから侍女さんが朝ごはんを持ってきてくれた。朝食をとりながら和やかに話しましょうとのこと。いやはや、聖女に対する気遣いが至れり尽くせり。
案外のんびりだな、なんて思ってしまう。魔物は大丈夫なんだろうか。
けど、何も知らないままでは何の役にも立たないし何より得た力の使い方を知らなければ話しにならない。今は大人しく話しを聞こう。
美味しそうに湯気を立てているご飯を食べながら話しを聞く。私以外は皆ご飯は済んでるので一人食べてるのは若干気が引けるが仕方ない。会社でも良くあるから食べる。腹が減っては戦はできぬ。
マースさんによれば私はまず魔力の使い方を知る事からとか。当然だね。私の世界には魔力なんてない。それから徐々に慣らしていき討伐に参加。簡単に言えばこれだけ。
だが、ここで衝撃の事実。
「聖女は攻撃魔法は使えないんですか」
そう、聖女は攻撃出来ないんですって。うう、ズガーンドガーンてぶっ放したかった。ストレス解消したかった。リアルでは出来ないからストレス発散は主にゲームでしてました。戦術とかやり方とか難しく考えずばしばしボタン叩く派です。
あ、いや、こんな私が攻撃魔法使えたらやばいかも。使えなくて良かったか。
「マリコ様は主に防御と回復をしていただきます。特に回復が一番重要です。魔力の高い聖女様は高度な治癒が出来ます。千切れた四肢すら繋げる程です」
千切れた四肢…そんなのはできれば遠慮したいから防御も頑張ります。
魔力の使い方はマースさんの部下みたいな人が教えてくれるとか。後で紹介してくれるって。
場所はこの部屋から近くの中庭みたいなところでする。詳しく聞いたら私が居るここは城のちょっと端でこの部屋含めた一画は聖女関係者以外立ち入り禁止区域らしい。聖女を守るっていうか危険人物扱いみたいじゃない…?猛獣か?聖女。いや、MP10万は猛獣か。違うわ!私は基本人畜無害です!
マースさんが説明を終えると部下の人を連れてくる為に退出した。トリヤさんは食べ終えた食器を下げに退出。
は!銀髪イケメンと二人きり!?扉は開けてあるけど。良くあるほら、淑女と二人きりのときはやましいことがない限りはドア開けとくとかいう。
それはいいとして!何を話せば…と思っていたらローレルさんがつかつか近づいてきた。
そして言ったのだ。
「ブサイクだな」
ここで最初に戻るわけで。
というか初対面で言われた衝撃で今までを走馬灯しちゃったじゃないか!
いきなり!ブサイクとか!失礼にも程がないか!
手がでかけたが抑えつつ睨むとローレルさんが続ける。
「聖女だからどんな美女かと思えばやはり人並み以下。これならまだ前に来た少女の方がマシだった。こんな女を護衛する為に団長が駆り出されるなど無駄以外何物でもないな。聖女など居なくても騎士団だけで魔物を討伐すれば良いだけだ」
一息でそこまで。
はーぁー!?
言わせておけば人をゴミみたいに!いや、そこまで言ってないかもだけど声色がそう言ってる!
これは流石にぷちんときた。駄目だと思ったが手がでた。
平手打ちかまそうと手をぶん回したらあっさり手首を掴まれた。
「言葉より先に殴りかかるとは乱暴な女だ」
「手を出されるような事をそちらが言ったんですけど!?」
口調がまだ丁寧におさまったのは自分で自分を褒めたい。これは仕事のなせる技だな。丁寧にしかし苛立ちをぶつけるのだ。常に平常心でいられる程私はできてませんので怒る時は怒るのだ。今日の納期が遅れます連絡を夕方にしてきてもこちとら既に納品先にしこたま怒られた後だっての!
脱線した。今はこの失礼イケメンだ。
「当然の事を言ったまでだ。聖女など期待しても意味がない」
「そうは言いますけど、今まで聖女のおかげで魔物の大量発生を乗り越えて来たんでしょう?」
「今まではな。これからもそうとは限らない。来るか来ないかわからない上に聖女を引き受けずに逃げるような女頼りより騎士団を強化する方が余程いい」
刺すような瞳が私を見る。引き受けずに逃げた。その言葉が私の口を閉ざさせた。
私からしたら知らない世界の知らない事情。無理矢理呼ばれて聖女しろとか理不尽な話しだ。しかし彼らにとっては生死がかかる事。嫌だからと逃げられない。国を、そこに生きる人を見捨てるわけにはいかないのだ。
聖女と言うものの重みを見せ付けられたようで何も言い返せない。逃げ出した前の聖女の子も悪くはない。互いの事情が違う。この事に誰が悪いというのはない。あるのはただ、魔物とは戦わなければならないという事実だけ。
沈黙する私をローレルさんは冷ややかな目で見つめるだけだった。色々な怒りを含んだ色。寒くなるくらい、冷たい目。
痛い沈黙が切れたのはローレルさんが掴んでいた私の右手を離したと同時にノックが響いたからだった。
その時にはローレルさんは既に元いた位置に戻っていた。いつの間にというくらい速い。流石は副団長を務めるだけはあるのか。
ノックに返事をすると入って来たのはマースさんと小柄な女性。柔和な笑顔はなんだかほわほわ癒やし系だ。
「おや、どうなさいました?マリコ様」
「あ、いえなんでもありません」
私が難しい顔をしていたからだろう。マースさんが心配そうに言う。
先程の事は言わない方がいいだろう。私は思いのほか強く握られて赤くなっていた右手首を隠しながら答えた。長袖で良かった。
マースさんが連れてきた女性はカミーリアさん。今度は綺麗なピンク色の髪に濃い紫の瞳。また異世界っぽい色合いだ。十七歳だそうだ。ぐは!また若い子だ!
やめて私のメンタルを吸わないで若い子。
精神的ダメージを受けつつ私も挨拶をする。
「ではマリコ様、私はこれで。後はカミーリアに任せます。何か御用がありましたらいつでもお呼び立て下さい」
マースさんはカミーリアさんを紹介するとそう言って退出した。
「それではマリコ様、中庭に参りましょう」
「はい、お願いします」
カミーリアさんについて中庭に向かう。当然だがローレルさんも後ろについて来た。視線を感じるー。刺すような視線。見えてないからって睨むな。
中庭はそれなりの広さがあった。百メートルがまっすぐ引けるくらいの学校の校庭程度?景観用に庭として整えられているが良くあるガゼボみたいなのはない。訓練用なんだね。
「ではマリコ様、まずは魔力を感じるところからです」
魔力を感じる。なかなか難しい。私の世界に魔力はないしね。
カミーリアさんが言うには、この世界では魔力は誰にでも魔法が使えるとか。魔力量により強さがかわる。攻撃魔法も使い手の魔力により威力が違う。ただし聖女は攻撃魔法は使えないけど。
魔力、魔力。なんだろ、血流みたいな感じなのかな?
そんな事を考えたら身体の中に暖かいものを感じた。あ、これが魔力?
「何か身体の中にほわほわ暖かいものがある気がします」
「流石聖女様。それが魔力です。次にその魔力を手の平に集中させて下さい」
「手の平に…」
暖かいそれわ手の平に集まるようにすればぼんやり手の平が光った。これが私の魔力か。
「出来ておりますね。では癒しの魔法を試してみましょう。傷を癒すというイメージを頭の中で描いて下さい」
魔法を使うのにどうやら詠唱とかは必要無いらしい。ただ言葉にするとイメージが明確になるからだいたいは何か言うとか。
「えっと、癒しの力よ」
次の瞬間、光がぶわっっと溢れた。うお、なんだこれ。
「これは…なんて魔力量…!」
カミーリアさんが驚いている。成功でいいのかな?
「今ので良かったんでしょうか?」
「大丈夫です。成功ですよ。癒しの力としては申し分ありません。素晴らしいです。近くにいた私には凄い影響がありました。活力がみなぎってます」
やや興奮した様子のカミーリアさん。そ、そんな凄かったの。
「ただ、一つ問題があります」
え、何、元気はつらつになり過ぎるとか?24時間働けちゃう?
「魔力量には問題ありませんが、制御が出来ておりません。今のままでは魔力の放出に無駄があり過ぎてしまいます。それではすぐに魔力が尽きてしまうでしょう」
あー、出し過ぎってわけか。は、攻撃魔法じゃなくて本当に良かった。火とか使ってたら今頃大惨事だ。
「最初から制御はなかなか出来ません。ゆっくり出来るようになりましょう」
「はい、宜しくお願いします」
よし、頑張ろう!って、ローレルさんの視線が更に冷たくなってる。もう本当になんなんだろ。
先行き色々不安だけど、とにかくやるしか無いよね。