17話 嫌な予感は当たりました
長らくご無沙汰してしまい申し訳ありません…!
昨年から急に色々ありまして気付いたら一年近くたってしまいました。
漸く落ち着いてきたのでまた再開したいと思います。
のんびりペースは変わらないかもしれませんがお待ちいただければ幸いです。
絶賛反省中の聖女様です。はい。
あれから当然ながらお茶会はお開き。王様や王妃様は何事も無かったような顔をしてたけど、みんなにはそれなりに被害が出てしまった。そう、私のせいで。
護衛の騎士さん達一人一人に私は平謝りして回った。起き上がれない人とかには勿論治癒も。と言っても威圧の精神疲労だから症状の緩和くらいにしかならない。回復は時間に任せるしかないのだ。
謝っていくとみんな気にしないでと言ってくれていい子ばかりでちょっと泣きそうになった。だから、みんな私に甘いってば。
一番被害を受けたカイゼルさんは当然ながら今はベッドの上。まだ起きないけど寝顔は苦しそうじゃないから良かった。
ホントもう、無茶するんだから。
寝ているカイゼルさんの手を握りながらじっと見つめていたら小さな声がした。瞼がゆっくり開いてカイゼルさんが目を覚ました。
「マリ…?」
寝起きのせいかちょっと掠れてる声。それでもカッコいいのだから男前恐るべし。
呼ばれて握った手を摩る。
「おはようカイゼルさん。体調、大丈夫?」
「ああ。少し怠いくらいだ。情けないな、倒れるなんて」
悔しげに言いながらカイゼルさんが身体を起こす。大丈夫かな?ふらついたりはしてないけど。心配だから身体に手を添えたらそっと腰を抱かれた。暖かい手にほっとする。
「情けなくなんてない。悪いのは私。私が馬鹿やっちゃったんだから。みんなに迷惑かけちゃった」
自己嫌悪で俯いたらカイゼルさんがそっと頬を撫でてきた。
「お前は悪くない。魔力の無い世界から来たんだ、使い方に慣れていないのも仕方ない」
「でも、感情をきちんと制御出来てればあんな事にはならなかった。カイゼルさんにだって迷惑かけた」
仕方ないなんて言葉で片付けちゃいけない。私はちゃんとこの事実を受け止めて反省しないと。自分の力の怖さを、しっかり理解しないと。
「マリ」
知らず力を込めていた手にカイゼルさんの大きな手が重なる。
「これは2人の責任だ。分かち合うんだろう?」
言われた言葉にハッとして顔を上げたら優しい笑をした瞳が私を見てた。今の言葉、前に私がカイゼルさんに言った言葉だ。失敗したら分けて、幸せなら2倍に。ちゃんと覚えててくれたんだ。嬉しいな。
「そっか、そうだね」
「俺には分けてくれるだろう?」
手を引かれて腕の中に抱き締められる。何処よりも安心できる場所に沈んでいた気持ちも浮上する。うん、大丈夫。カイゼルさんが居れば次は失敗しない。
「うん。私の失敗、半分貰って。それで次からは気をつけよう」
「それでこそ俺のマリだな」
恥ずかしい台詞と共にちゅ、と音がした。
ああああまた不意打ちで唇、に、ちゅーしたなぁぁぁ!!
だから!前振りを!してって!!
たぶん茹で蛸になってる私をみてカイゼルさんがくすくす笑う。にゃろう!だがカッコいいから許す!
「真っ赤だぞ?」
「誰のせいだとっ」
なんか悔しくて必殺ほっぺむにぃを食らわせる。毎度だけど柔らかいな!気持ちいいな!
「っ、こら、マリ」
「このこのこの!」
ふにふにと遊んでいたら誰かの魔力が近づいて来ているのを感じた。えっと、これは。
「マートルさんかな?」
「正解だ。もう兄上の魔力を覚えたのか」
凄いと褒められて、、だからぁぁ!唇にちゅーは!もう!たぁぁぁ!!
再びの茹で蛸になっていたらマートルさんが入ってきた。フレイ様も一緒だ。
「わ、カイゼル気づいた早々マリコさんにナニしたの」
「騎士としてあるまじき行為は駄目だぞ、カイゼル」
フレイ様!その顔でだからそう言う台詞を吐かないで下さい!誰なんだ!清きプリンスにそんな事を教えたのはぁぁ!
「なっ!?ち、違う!俺は何もしてません!」
揶揄われたカイゼルさんは赤くなって全否定する。2人して真っ赤っかって恥ずかしいいい!
そんな私達をみて2人ともくすくす笑う。くぅぅ!でもカイゼルさん、何もしてないは嘘だよね。言っちゃおうかとかよぎったけど馬鹿か私は。それ自分が更に恥ずかしいだけじゃないか!
「元気そうなら良かったよ。カイゼルは本当に無茶するよね」
やれやれって感じでフレイ様が肩を竦めた。それには私も同意だから頷く。
「周りで心配する方の身にもなれ」
マートルさんからも言われてカイゼルさんも言い返せない。自覚はあるんだ?無茶したって。
「申し訳ありません」
「よしよし、素直になってきたな」
わしわしと嬉しそうに頭を撫でるマートルさん。を、カイゼルさんが照れてる。可愛いぞ。反則だぞ、写メりたいぞ。
「っ、兄上、やめて下さいっ。こんな事をしに来たわけではないでしょう?」
撫でる手を振り払いながらカイゼルさんが問いかける。確かにカイゼルさんの様子を見にくるだけってわけではなさそう。前みたいに重傷ってわけじゃないかわざわざ部屋にまで来るほどじゃない。
カイゼルさんの問いにまだ撫でたそうだったマートルさんはやや渋々といった感じで手を離してから隣の部屋にくるように言った。
カイゼルさんもそれなりに回復はしてたからベッドから危なげなくおりて隣室に移動する。
いつものように私とフレイ様が座るとフレイ様が話を始めた。
あの後連れて行かれた女子高生ちゃん(詳しく歳は知らないから仮にね)からフレイ様達は話を聞いたそうなんだけど。
どうにも彼女のした事と一連の事件に違いがあると言う。
まずクインスくんの件。彼女が言うにはちょっと意識を操って、軽く騎士団に混乱をさせようくらいの魔法だったという事。意識を完全に操って更には騎士団長を毒の剣で襲わせるなんて事まではするつもりはなかったと。そんな強い魔法は使ってないしそもそも彼女には使えないんだそう。
ワイバーンの件も同じで、1匹をちょっとけしかけて嫌がらせ程度のつもりで群ごとなんてしてないと。
フレイ様を襲った魔法もやっぱり爆竹程度の威力で罠を仕掛けただけでそんな大規模な魔法にはしてない。
話を聞いて私もカイゼルさんも訝しむ。
「彼女が嘘をついてるんじゃ?」
「その可能性も考えたけどね。そんな強い魔法が使えるならカイゼルにあれ程あっさり防がれるわけがない」
フレイ様の言葉にカイゼルさんも同意した。本当に彼女が強い魔法を使えたなら確かにあの程度の騒ぎで収まるはずがない。
じゃあ。
「どうしてそれがあんな大事になったの?」
誰が彼女の魔法をそんな大規模なものにしたの?
私の疑問に3人は沈黙する。
重苦しい静寂が部屋を漂った時。
ソレを私は感じた。
背筋を何か冷たいものが撫でたような、ゾッとする感覚が這い上がる。
びくっとして思わずカイゼルさんにしがみついた。
「マリ?」
どうした、と続けようとしたカイゼルさんも言葉を途切れさせては私をぐいと抱き寄せた。
「っ、この、魔力は…!?」
フレイ様もマートルさんも感じたようだ。
まだ距離は遠い。でも、はっきりわかる。何か酷く禍々しい気配がこちらに向かってきている。私の中の聖女の力がそれを全力で伝えてきていた。
すると慌ただしい足音が廊下に響いては誰かが駆け込んできた。
現れたのはローレルさん。あんな血相を変えた表情、カイゼルさんが倒れた時以上だ。
「ローレル、どうした」
ノックも誰何もなく飛び込んできたローレルさんにフレイ様が問う。ローレルさんはフレイ様が居たことに僅か驚いたようだけどすぐさま告げた。
「竜が、出ました…!真っ直ぐこちらに向かって飛んで来ているとの報告です!」
「竜、だって…!?」
フレイ様の驚愕した声が部屋に響いた。
私はその声色に尋常じゃない事態が訪れた事を感じていた。