16話 乗り込まれました
長らく更新が止まっていて申し訳ありませんでした。
またぼちぼち再開できたらと思います。
まったり待っていただければ幸いです。
一応ですが、昨日あれから何もございませんでしたことよ。ホントだから!やましいことは何もない!ないったらない!誰だ嘘だろとか言ったの!ホントにない!
ただひたすらカイゼルさんにへばりつかれただけです。ヤキモチ度が増してきてる。カイゼルさん以外に撫で撫では気をつけよう。
それににしても。私が居るからかなのかは不明だけど、頻繁だった魔物襲撃は頻度がばらばらになりつつある。1日数回の時もあれば数日開く日も。何となくそのことに嫌な予感がするんだけど、もやっとしてはっきりしないから特に誰にも話してはない。
それより今の状況。おかしい、今は厳戒態勢とかじゃないのか。
目の前で優雅にカップ傾けては微笑んでる王妃様を見る。
はい、絶賛お茶会の最中です。広いお庭にテーブル出して。しかも王妃様だけじゃなくて王様もフレイ様もいてロイヤルファミリー勢揃い。
なにゆえ!?狙われたりしてるのに優雅にお茶会とかいいのか!
ロイヤルファミリー全員居るので当然ながら周りは近衛騎士さん達がいっぱい。プラス私が居るから騎士団の騎士さん達もいる。なのでカイゼルさんマートルさんも一緒。眼福眼福…じゃなくて。
「こんな時にお茶会とか大丈夫なんですか」
お茶を一口飲んでから問いかける。あ、お茶美味しい。高いやつだな。
「あら、たまには息抜きも必要でしょう?」
ほほほ、と笑う王妃様はめっちゃマイペース。王様もにこにこ顔。フレイ様は何か複雑な顔してる。え、なんで。
「それはそうですけど…こんな場所で皆さん一緒とか危険だったりしません?」
「大丈夫よ。騎士達が居るもの。…それにこれわざとだし」
最後の方が小さくて聞き取れなかった。何言ったんだろ。何かこう、とんでもない予感がする。
その時。
飛んでくる強い魔力を感じた。これは、攻撃魔法!狙いは……ここ!?
「マリ!!」
気付けたものの動けずにいた私を力強い腕が引く。すっぽり包まれるように胸元に抱きすくめられる。
次の瞬間、凄まじい爆音と共に攻撃魔法が直撃した。
粉塵がもうもうと上がる。周りが全く見えない。しっかり抱き込まれてるから余計に。
何が起きたの?みんな大丈夫なの?王様達は!?
そこに澄んだ声が聞こえてきた。
「こんなに早く引っかかるとはね。にしても正面から喧嘩ふっかけてくるなんておばかさんね?」
「母上、母上、素が出てます」
ええええええええええええ!今の王妃様の発言なの!?
びっくりしていると急に視界がクリアになった。
もう少し状況を見たくてもそもそしたらカイゼルさんが体勢を変えてくれた。ただ、背後からしっかり抱き込まれたままだけど。
見えた景色に唖然とする。テーブルがあった場所の数メートル先に見事なクレーターが出来ていた。
でも、被害はそこだけだ。周りは一切壊れてない。周りにいた騎士さん達も怪我はないようだった。良かったぁ。けど。
「防御魔法?」
誰がいったい。この場の全員に強固な防御魔法がかかってる。加えて私にはカイゼルさんが、王様達にはマートルさんが防御結界を張っていた。
あの一瞬で流石。でも、それを上回る速さで誰かが全員を守ってる。誰?
「王妃の魔法はやはり素晴らしいね」
「あら陛下、お褒めにあずかり光栄ですわ」
「これ王妃様がしたの!?」
思わず声に出た。するとカイゼルさんが少し苦笑いしながら答えてくれた。
「この国で一番魔法が強いのは王妃様です。そして剣の腕が本当に一番強いのは陛下です」
あ、カイゼルさん敬語。じゃなくて。
うっそぉ!?この夫婦最強かい!
「夫婦喧嘩したら凄そう」
「あら、喧嘩する理由がないからしないわよ」
「王妃に手は上げられないなあ」
「母上、父上、だから素が、出てます!」
私の呟きに王妃様からツッコミ入った。それにフレイ様がさらにツッコんだ。忙しいなフレイ様。
「あれは通常運転?」
「……城内では、割と」
カイゼルさんが私の呟きにぽそり返してきた。王妃様の印象が…!でも美人だから許す!
「なんなのよもう!全然効いてないし!」
のほほんしてたらいきなり甲高い声が割って入ってきた。誰?
全員が声の方を向く。あ、カイゼルさんのぎゅが強くなった。
クレーターの向こうに人影があった。小さいな…え、女の子!?
そこに居たのは確かに女の子だった。たぶん17歳くらい?
あの女の子が今の魔法を?
びっくりしてたらカイゼルさんの呟きが聞こえた。
「最初の、聖女…?」
え、嘘、あれが私の前に来た聖女?そんな子が何で攻撃魔法なんて。
現れたのが女の子、しかも元聖女という事でみんな若干戸惑っている様子。でも警戒は解いてないのは流石。
そんな空気を物ともせずに女の子はイライラした様子でぶつぶつ言った後に私を見た。え、何その目私なんかした?
「気分悪い!人の目の前でイチャイチャして、そこのおばさん!!」
「は?!誰が行き遅れのおばさんだって!?」
指差されたのと台詞に秒で反応してしまって即座に言い返してました。すみませんいい歳して沸点低くて。
「いや、そこまで言ってないぞマリ…」
カイゼルさんから素で突っ込み頂きました。あれ、そうだっけ?
「そこまで言ってないけど!?でも行き遅れとか笑えるー!仕事が恋人、とか古臭いけど?単に婚期逃しただけじゃん?」
「悪意が透けて見えたのよ!別に仕事が恋人なんかじゃなくて本気で忙しいだけよ!商社の営業事務舐めんな!」
「そういうのが言い訳って言うんだけど?おばさん!」
「おばさんおばさん連呼しないでくれる!?小娘!」
「はあ?誰が小娘よ!」
「事実を正確に述べただけよ!」
「マリ、マリ。ちょっと落ち着け」
ついつい煽られて応酬してたらカイゼルさんからストップかかった。周りをみたら…あっ、ちょっと引かれてる!?しまった、素が出すぎた!
「あっ、すみませんすみません!」
慌てて謝るけどたぶん素はバレた…。
「そんなマリコさんも僕は可愛いと思うよ」
「少し驚きましたが、それは私も同意します」
フレイ様とマートルさんがそう言って頷いてる。可愛いは嘘じゃない…?2人とも気を使い過ぎてない?
「は!?逆ハーとかムカつく!1人ちょうだいよ!」
話してたらまた彼女からそんな声が。って逆ハーて!
「ちょ、人聞き悪い言い方しないでくれる!?かっ、彼氏は1人よ!」
自分から彼氏って言うのめっちゃ恥ずかしくて噛んだ。
「誰よ!」
「見ればわかるでしょ!こっ、この人!」
今はがっつりハグはしてないけど、カイゼルさんは未だに私を抱き締めてる。
そのカイゼルさんの腕を掴んで主張したらカイゼルさんがちょっとびっくりした顔をした後嬉しそうに微笑んで。うわ、またそんな顔して!恥ずかしい…!
「却下!」
「却下って何!?」
「おばさんには勿体無すぎ!」
「うぐ!」
それは、充分わかってるわよ…!でも他人に言われるのは刺さる…!
「マリコさんは可愛いわよ!カイゼルには勿体無いくらい!」
ダメージを受けていたらそんな声が飛んできた。ステキな声だけど内容!王妃様嬉しいですが恥ずかしいですぅぅぅ!
「…勿体無い…」
ってあああ!?そこでなんか被弾しないでカイゼルさんーー!
しゅんとするカイゼルさんの腕をなでなでする。
「母上、カイゼルがしょんぼりしちゃったじゃないですか」
「あら、ごめんなさい?」
ふふふと笑う王妃様は笑い方が美しくてうん、ダメだ許しちゃう。
それはカイゼルさんも同じらしくて微笑まれて逆に恐縮しちゃってる。こういう所はちょっと可愛いなあ。
「あー、もー!人を除け者にして楽しんでないでくれない!?」
イラついた叫びとともにまた攻撃魔法が飛んできた。
「無駄だ」
カイゼルさんが私を片腕に抱いたまま手を前に差し出した。
ぱんっ、と音がして攻撃魔法が消し飛ぶ。うわ、何したの。
疑問顔してたらマートルさんが微笑んで解説してくれた。
「カイゼルが同等威力の魔法をぶつけて相殺したんですよ。あれならば周りへの被害が一番少ないですから。流石我が可愛い弟」
へぇ、凄い。感心してカイゼルさんをみたらむすっとしてる。どうしたんだろ……あ、あれか。
「兄上、可愛いは余計です」
やっぱり。可愛いって言われたのが不満らしい。でも、下の兄弟ってのはいつまで可愛いんだから諦めた方がいいよカイゼルさん。
微笑ましくマートルさんとカイゼルさんを見ていたら、それをぶち壊す言葉が投げかけられた。
「ムカつく…!どいつもこいつも私を馬鹿にして!本当なら私がちやほやされるはずだったのに!ムカつくから嫌がらせで魔物けしかけたり人操ったりしたのになんにも起きてないし!」
…は?
今なんて言った?
魔物をけしかけたり、人操ったり?
それってもしかして、あのワイバーンとかカイゼルさんが刺されたのとかの事?
彼女のセリフに私は何か糸がぷつん切れた音を聞いたような気がした。私の中の何かがぶわり膨らむ。
気付けばカイゼルさんの腕の中から出て仁王立ちして彼女を睨みつける。
「ワイバーンの群れも、クインスくん操ったのも貴女がやったの……?」
「群れ?よくわかんないけど、あの翼のある変なヤツ向かわせたり純朴そうな男の子にちょっと魔法かけたりはしたわよ。少しくらい困ればいいってね!」
彼女から決定的な言葉を聞いて私の怒りは増した。
ワイバーンのあの群れも、カイゼルさんが死に掛けたのも…彼女が逆恨みでやった事だって言うの?
「貴女ね…自分が何したかわかってるの…?」
「は?なんか文句…ヒッ!?」
私に睨まれた彼女が尻餅をつく。私はそれを冷めた目で見ながら告げる。
「貴女のせいでね…騎士さん達は沢山怪我したし、若い騎士の子は傷付いたし、カイゼルさんは……死ぬところ、だったのよ…!!貴女の、逆恨みの腹いせで!私の、大切な人は……死にかけた…!!」
怒りが抑えられない。そんなことでみんなが心も身体も沢山傷付いて!カイゼルさんは死にかけて!許せない!!
ぐっ、と一歩足を踏み出す。彼女は怯えたように後ずさる。
「貴女が聖女を拒否した気持ちはわからなくはない。でも、最終的に決めたのは貴女。選んだのは自分。それを思い通りにならないからって他人を傷付けていいわけがない!貴女は道理のわからない子供じゃない。何を自分がしたのか、きちんと自覚しなさい!!」
酷い、許せない、許せない!!
私の中の感情が荒れ狂う。
その何かが彼女に襲いかかろうとした時。
「っ、マリっ…もう、いい。いいから落ち着け…!」
力強く温かい腕が私を背後から抱きしめた。
誰よりも信じられる大切な人の温もり。
カイゼルさんの顔を見上げたら苦しげに歪んでいた。え?どうして?
そこで初めて私は周りの人達が全て地面に膝をついている事に気付く。中には倒れている人も。かろうじて立っているのはロイヤルファミリーとカイゼルさん。マートルさんですら片膝をついて俯いてる。
え?何が起きてるの??
「マリ…っ、気持ちを、落ち着けてくれ……お前の魔力の威圧に皆が耐えられない…!」
カイゼルさんの言葉にはっとする。私の中で膨れ上がっていたのは、魔力か!つまり私は10万の魔力を全開にして周囲に威圧を放ってたの?!
慌てて深呼吸しては気を落ち着かせる。落ち着け私、おさまれ魔力!
そうして少しののち膨れ上がっていた魔力は波が引くようにおさまっていった。
「っく……っ…」
同時に威圧が解除されたのか周囲にいたみんながふらつきながら立ち上がる中、私を抱きしめていたカイゼルさんがその場にどさり倒れ込んだ。
「え、カイゼルさんっ!?」
驚いて倒れたカイゼルさんをみたら気を失ってた。嘘、なんで?!
「カイゼル!」
すぐさまマートルさんが駆け寄るとカイゼルさんの身体に触れて診る。
「マートルさんっ、カイゼルさんはどうしたんですか!?」
「無茶をする…全く。異常はありませんから命に別状はありませんよ。マリコ様の魔力をおさえる為に威圧を受けながら無理矢理近づいて自身の魔力を限界まで流し込んで押さえ込んだんです。威圧の影響と魔力欠乏で気を失っただけですよ」
マートルさんの説明に少しほっとするも、申し訳ない気持ちになる。私が魔力を放出したせいでみんなに、カイゼルさんに迷惑をかけてしまった。
自己嫌悪でうなだれた私をマートルさんがそっと頭を撫でてくれる。
「ご自分を責めてはなりませんよ。マリコ様がああなったのはカイゼルや騎士達を思ってくれての事でしょう?皆その気持ちは嬉しく思っていますよ」
言われて周りを見る。視線が合えばみんな優しく頷いてくれた。もう、みんな聖女だからって甘過ぎだよ…?
「けど…ごめんなさい。私はまだ自分の魔力の恐ろしさをちゃんとわかってなかった」
10万の魔力は、やはり使い方を誤れば大変な事になるんだ。あのまま暴走でもしてたらどうなっていたか。
「マリコ様。今日それを理解出来たならば次から気をつけていけば良いのですよ。貴女の周りには幾らでも助けの手はありますから学んでいかれれば大丈夫です。それに、マリコ様のおかげで彼女はおさまりましたしね」
マートルさんが向けた視線を追いかけて顔を向ければ彼女が半ば騎士さんに抱えられるようにしながら連れて行かれるところだった。
とりあえずは、この騒動はおさまった、らしい。