15話 諦められませんでした
更新遅くなってすみません。
師走本当に師走…。
こんな場所ですみませんがブックマーク、評価ありがとうございます。緩い話ですがこれからも暖かく見守って頂けたら幸いです。
何故だ。何故こうなってる。
マートルさんの所から帰ってきてカイゼルさんは書類の続き始めたんだけど。
さっき私が整理したのはそれなりに片付いたみたいで急ぎは無くなったみたい。整理してみれば早急に必要なものはそれ程なかったわけだ。書類整理あるあるだ。目につくものからやってると混乱してしまう。優先順位は大事。
そんなわけで、急ぎがないからと執務室にあるソファに座ってるのはわかる。執務机よりリラックスして出来るからね。
そこで、何故に私が膝抱っこされてるのかな?!
ソファに移動して手招きされたから素直に従ったら隣じゃなくて膝に座らされたんだけど!?その状態で何事も無かったように仕事しないでくれない?ちょっと?
「カイゼルさん、この体勢って何故」
若干フリーズしてたからようやくツッコミ入れられた。
「俺が癒されるからだ」
うっひゃあ、幸せそうに微笑んじゃって。見惚れるからやめて。じゃなくて!
「癒しがあるようなものじゃないと思うけど私」
癒し系ふわふわ女子とかじゃないよ?可愛い要素はないよ?
「側にいて抱きしめて温もりが感じられるのは俺にとって最高に癒しだ」
笑みを絶やさずカイゼルさんが擦り寄るように片腕で抱きしめてくる。うーわー、なんか日に日に糖度が高くなる。貴方のデレ度レベルはどこまであるんですか、ちょっと。数値を見せて。乙女ゲーみたいにステータスにのせて。
「それなら隣に座るだけでもいいんじゃ」
「この方がいいんだ」
「重くない?」
一応平均体重ではあるけど、それでも人1人分は重いよね?
「このくらいでへたれるような鍛え方はしていない」
書類を置いたカイゼルさんが私の頬を愛しげに撫でる。それからぎゅー。いつも以上にやたら触れてくるなあ。嫌じゃないけど、なんか違和感が。あ、もしかして?
「カイゼルさん、疲れてる?」
気付いた可能性を指摘する。
人が癒しを求めるなんてまあだいたいは疲れてるからだ。それも身体の休息じゃなくてもふもふ触りたいとか可愛いものみたいとか、自分の趣味嗜好に走る時は精神的に疲れてる時。私も仕事で精神的に疲れた時は趣味に走る。つまりカイゼルさんは今そういう状態なわけだ。
「いや、身体に問題はない」
「そうじゃなくて、精神的にって事。気疲れしてるんでしょ」
私が来てから、いや、前の聖女が来た時からストレス溜まってるんじゃないかな。魔物は増えるし護衛は気を張るし。だから癒しを求めてる。その癒しが私っていうのはまあ、恥ずかしいけど嬉しい。
「そうなんだろうか?」
カイゼルさんはあまり自覚が無いのか首を傾げてる。無意識かあ。あんまり良く無いなあ。
「そうだよ。カイゼルさんは心も休めないとだね。その、まあ私がいて楽になるなら、えっと、このままでいいけど」
膝抱っこ恥ずかしいけど、カイゼルさんがしたいっていうなら!羞恥よりカイゼルさん大事だもん。頑張る。
「楽にはなる。凄く落ち着く」
「なら、いいよ。あ、でもホント脚が痺れたとかなったらちゃんと言ってね?」
「ありがとうマリ。大丈夫だ、心配するな」
ちゅ、とカイゼルさんがキス。くくく、唇!はうぁぁぁ!甘い、甘いよ!味なんてしない筈なのに砂糖みたいな気がするよ!
私を悶えさせたカイゼルさんはまた仕事に取り掛かる。くそう、動揺しまくるのは私ばっかりで悔しい。でもめっちゃご機嫌で幸せそうな笑顔しながら仕事してるカイゼルさんを見たらどうでも良くなるから好きになるって、凄いね。うん。
にしても、癒しが欲しいくらい疲れてるのか。だから夜はすぐ寝ちゃうんだろう。心配だなあ。無意識だから余計。自覚が無いとか結構無理してるんじゃないだろうか。
書類を見てるカイゼルさんの横顔は疲労は見てとれるような顔色はしてないけど。
それでも心配でついその顔を撫でてしまう。
「マリ?どうした?」
「ん、無理しないで欲しいなって。人はさ、過労でも死んじゃうんだよ」
かろうじてうちの会社ではまだ過労死した人は居なかったけど、話は聞いた事がそれなりにはある。ある日突然来なくなる。
私の顔が余程深刻だったのかカイゼルさんが仕事の手を止めて私を見る。
「心配させてるか」
「そりゃするよ。大事な人なんだから」
ぎゅーっと抱き付く。するとカイゼルさんも抱きしめ返してくれる。怪我するのも心配だけど、心が疲れてるのだって心配。身体と違って目に見えないから余計に。
「それ程無理をしてるつもりは無いんだが。でもお前がそんなに心配するならもう少し考える」
「なんかごめんね?」
カイゼルさんみたいに出来る人にはもしかしたら余計なお世話なのかもと思ったら自信がなくなって謝る。私が心配し過ぎてるだけかも。
「何でお前が謝るんだ。俺を心配してくれているだけだろう?それにマリだけじゃなくて同じ事は皆に言われているからやはり少し無理はしているんだろう」
他にも?あ、お兄さんとかローレルさんとかか。騎士さん達にも言われてるかもね。
「とりあえず今日はこのくらいにするか。お前のおかげで急ぎは片付いたからな」
カイゼルさんは書類をまとめると私に向き直る。
「さて、どうするか」
どうするかって、私見ながら言わないでくれますか。私をどうにかするみたいにしか聞こえないんだけど?
「ど、どうするの」
「お前の力でいい具合の結界も張れるからな。何でも出来るぞ」
何でもってなんだ!つか、あの結界をそんな事に使うのか!まだ昼間!つかそれ以前にまだそんなアレコレは心の準備が!
わたわたわたわたしてたらカイゼルさんがくすくす笑いだす。
「動揺し過ぎだぞ?何を想像したんだ?」
わかってるくせにー!にゃろう、人をからかうとはいい度胸だなっ。
「カイゼルさんが妙な言い方するからでしょっ。このっ」
必殺ほっぺむにゅう。毎度だけど柔らかい!気持ちいい!
「こら、やめろ」
言いながらもにやにやしてる。もー、こいつはー!
カイゼルさんをどうとっちめるか考えていたら誰かがこちらに来る気配がした。んーと、えと、これはたぶん?
「ローレルか?」
カイゼルさんも気付いたみたい。あ、良かったあってた。一応それなりに個別判断が出来るようにはなってきた。まあまだごく一部だけだけど。
軽いノックの音。
「団長、ローレルです。宜しいでしょうか」
「ああ。構わない。入って…ぅぐ!?」
カイゼルさんが普通に入室許可しようとして私ははっとしてつい肘打ちしてしまった。あ、鳩尾入った。これ2度目だったかな?
「団長?」
怪訝な顔をしてローレルさんが入ってくる。危なかった。膝抱っこ見られるところだった!
きっとローレルさんの視界にはソファに座って焦った顔してる私とお腹押さえて呻いてるカイゼルさんという状況。うん、意味わからないね。
「何をされていたんですか」
やや呆れ顔のローレルさん。冷ややかな眼差しが痛い。
「…な、何でもない…」
ごめんクリーンヒットしたみたい?弟にいつもしてたからつい。ああ、カイゼルさんちょっと涙目だ。後でフォローしよう。余談だけど弟は慣れてるからガードも完璧です。
ローレルさんが私をみてやや睨むけどスルー。
「っ、それよりどうした、ローレル」
流石に鍛えてるカイゼルさん。復活は早い。
あ、でもステータスみたら5だけHP減ってる。え、私そんな鋭い肘打ちしちゃった?……後で絶対フォローしよう。
「急ぎではないのですが。クインスの件です」
ローレルさんが伝えた名前にカイゼルさんの表情が硬くなる。
クインスくんか。操られてカイゼルさんを刺した。そういえばあれからどうしたかを聞いてない。たぶん私には聞かせないようにしてたのかも。
「クインスがどうかしたか」
「職を辞すると申し出てきました」
辞するって、騎士を辞めちゃうの?クインスくん。何で、あの子は悪くないのに。
カイゼルさんを見れば眉を寄せてる。
「受理したのか」
「いえ。騎士団の騎士の解雇に関する最終決定権は団長にありますから」
「クインスはどうしてる」
「自室です。受理はしてませんが本人の意思は固いようですので多分身の回りの整理をしているかと」
そこまで?でも団長を刺したりしたからそれだけショックだったんだ。
ローレルさんの言葉にカイゼルさんは沈黙する。悩むのはわかる。不可抗力とは言え自分を刺した相手だ。でも、大事な部下でもある。内心どれだけ複雑だろう。
そう言う私だって複雑だ。刺されたカイゼルさんを見た時は胸が潰れそうだった。生きた心地がしなかった。あのまま、もしカイゼルさんが帰らぬ人になっていたりしたら私はクインスくんを許せたかはわからない。
それでも。カイゼルさんは助かったから私はクインスくんには騎士をやめて欲しくはなかった。誰かが企んだ何かに負けて欲しくなかった。
だがこれは私の勝手な思いだ。殺されかけた当の本人がどうするか。私はそれに口を出す権利はない。
沈黙してるカイゼルさんはまだ悩んでる。ふと視線がこちらを向いた。私はその視線を真っ直ぐに受け止める。言葉にしなくて通じるかはわからないけど、私はカイゼルさんの意思を尊重する、その思いを込めて見つめ返した。どんな結論を出したとしても、私はそれを受け入れる。
私の気持ちが通じたかはわからない。でもカイゼルさんは何かを決心したよう。
「俺が話をする」
立ち上がって行こうとするので私は引き止める。
「私も一緒に行く」
「おま…マリコ様はこちらでお待ち下さい」
私がそう言いだすとは思ってなかったのか、思わずお前って言いかけて言い直した。私の事結構わかってるのに行くって言い出すって思わなかったのかな?
「やだ、ついてく」
がっちり腕をホールドして離さない。
私は、カイゼルさんの決断を見届けたい。
カイゼルさんは軽くため息を吐く。
「わかりました。貴女はこういう時は引きませんからね」
案外早く折れてくれた。もう一言二言なんか言われるかと思ったんだけど。
「団長、まだ大丈夫かとは思いますが急がれた方が良いかと。それと」
言葉を切ったローレルさんが私を見る。何?なんなの?視線が何か生暖かい。
「俺の前でもう取り繕わなくても構いませんよ。マリコ様と好きなようにいちゃついて下さい。もうお二人の仲は公認なのですし」
「は!?」
いちゃつくって、何を言うんだこいつはー!つかローレルさんからそんなセリフが出るとは!
「なっ、俺は別に取り繕ってるつもりは」
「マリコ様、などよそよそしく話さずともいいと言う事です。勿論公式な場ではきちんとして頂かなくては困りますが、騎士団内では今更かと」
まあそう言われたら確かに騎士さん達には今更かもしれないかなあ。ワイバーンの事件時にべったりなのは見られたし、話し方も聞かれたし。
私としては敬語よりは普通に話してくれた方がいいんだけど。カイゼルさんその辺り堅そうだよね。
「公私はわける」
「あれだけべったりくっついていて公私もクソもないでしょう」
うお、ローレルさんが辛辣さを隠さなくなってきた。そのうち私にも二人きり以外でタメ口出そう。
「諦めようカイゼルさん」
先に私開き直る。カイゼルさんがべったりなのはたぶんもう変えられないだろうし。
「くそっ。ローレル、そう言ったからには苦情は受け付けないからな。とりあえず行くぞマリ」
あ、カイゼルさん吹っ切ったな。私の手を取ってはクインスくんの所に行くために部屋を出て行く。すれ違いざまみたローレルさんの顔は予想してない表情だった。安堵?
それが気にはなったけど今はまずクインスくんの方なのでカイゼルさんに連れられていく。
がっつり手を握ってる姿はばっちりみんなに見られる。恥ずかしいぃぃ!けど、ちょっと慣れてきた気もするから慣れは怖い。
騎士団の敷地内を暫く歩くと宿舎らしき場所に着く。騎士さん達がいっぱいいる。交代で休みを取ってたりするからだいたい誰かはいるようだ。
並ぶ部屋の一室に着くとカイゼルさんは私の手を離さずノックする。伝わる感触から緊張してるのがわかった。
「はい」
中から返事があった。良かったまだ居たみたいだ。
「俺だ、入るぞ」
「っ、団長っ?」
カイゼルさんは許可の返事を待たずに入室する。まあ騎士団のトップだから許可も何も無いか。
入る時には流石に手は離した。離れる瞬間に少し強めに握られたのは多分気のせいじゃない。
クインスくんはローレルさんが言っていた通り出て行く為の荷造りをしてた。
「団長、それにマリコ様まで…!」
私も続いて入ってきたことにクインスくんはだいぶ慌ててる。
そんなクインスくんにカイゼルさんは冷静に問う。
「話は聞いた。騎士を辞めるそうだな」
団長と聖女の来訪でわたわたしていたクインスくんだけどその問いを投げかけられると一転落ち着きを取り戻した。カイゼルさんが来た時から聞かれるとわかってたんだろう。
「自分の意志ではなかったとは言え、俺は団長をこの手で殺す所でした。それは許される事ではありません。そんな俺は騎士を続ける資格は無いと思いましたから」
淡々と答えてるけど目はそうじゃない。志半ばで騎士を辞めるという悔しさが宿ってる。
彼の答えを聞いたカイゼルさんは暫く無言の後に口を開いた。
「お前はそれでいいのか。このまま騎士を辞めて後悔は無いんだな」
「っ、はい」
躊躇があった。辞めたくはないんだ。でもしてしまった事の重大さを受け止めきれてない。
「お前が本当に納得して決めたのなら俺はその意思を尊重する。だが、僅かでも心残りがあるなら許可はできない」
「俺は、未練なんてっ」
自分の手を握り締めてクインスくんは反論する。けど、その態度は余計に未練があると言っているようにみえるだけだ。
「俺はお前を恨む気持ちはない。あれは気付けなかった俺の失態だ。お前が責任を感じる必要はない」
「団長は悪くありません!俺が力不足だからあんなことになったんです!」
悔しさが滲み出るようにクインスくんが叫ぶ。
「そう思うならこのまま騎士を辞めていいのか?力不足だったというままで」
「っ、それはっ…」
葛藤してるのがわかる。辞めたくはない、でもまた同じ事を繰り返してしまったらという恐怖もある。一度取り返しがつかないくらいの失敗をしたらそれを乗り越えてるのは容易じゃない。
口を出すつもりは無かった。それは本当。でもやっぱりほっとけない。騎士団の子達はみんな大事な家族みたいになってるから。
ごめんねカイゼルさん。黙ってられない聖女様で。
「クインスくん。私は辞めて欲しくないな」
突如口を挟んだ私にクインスくんは驚くも言葉を返す。
「マリコ様…でも、俺は団長を、マリコ様の大切な人の命を奪うところだったんですよ」
「わかってる。本音を言ったらもし君がカイゼルさんの命を奪ってたら許せなかったと思うよ」
「ならどうして」
甘いって言われるだろうけど。
「でも、カイゼルさんは助かった。私が助けた。私は誰も失いたくない。手が届くなら守りたい。そこにはクインスくんも入ってる。怖さを知って悔しさを知って辛い思いを沢山した君を私は助けたいし守りたいよ」
「マリコ様…」
俯いたクインスくんから涙が一筋溢れた。
「正直に聞かせて欲しいな。クインスくんは本当に騎士を辞めていいの?」
「俺、は…辞めたくないです。騎士を続けたい。俺だってみんなを守りたいです!」
涙に濡れた瞳。でも真っ直ぐに私を見てクインスくんは言った。
「強くなれクインス。まだお前は強くなれる。王都の騎士に、俺の騎士団に選ばれたんだからな」
カイゼルさんが優しくそう告げたらクインスくんは涙腺が崩壊したのかぼろぼろ泣きながらも頷いた。
もー、見てたら堪らなくなってクインスくんを思わずぎゅーして頭を引き寄せては撫で撫でする。可愛いなあもう健気だなあ!いい子だよ君は!
「マリコ様っ、そ、その、あの」
「頑張ろうねー、クインスくん!私も頑張るからさ!」
あわあわするクインスくんが可愛過ぎて撫でまくってたら背後から冷気が来た。
は!しまった!カイゼルさん忘れてた!
「…いつまでマリにくっついてるんだ!」
ひっぺがされた。もう少し撫で撫でしたかったんだけど…うわ、拗ねてる!完全に拗ねてるカイゼルさん!
「す、すいません団長!」
「斬る」
「待った待った落ち着いてカイゼルさん!」
真顔で言うなー!冗談に聞こえない!
「その元気があるなら大丈夫だな?この後訓練所に行って全員に鍛え直して貰ってこい」
「は、はい!」
カイゼルさんの冷気が余程怖かったのかクインスくん脱兎で出て行っちゃいました。ああああ、なんか悪い事しちゃったなあ。
「マリ」
って、うお!めっちゃ拗ねてる!拗ねてる超えて泣きそうになってる!今さっきまでの団長顔どこ行ったの!
て、うわ!?何故いきなりお姫様抱っこ!?えええ!このまま帰るの!?
私を抱き上げたカイゼルさんはそのまま来た道を戻り始めた。
待てー!晒し羞恥プレイかー!?
「ちょ、カイゼルさん下ろして?!」
「嫌だ」
おいい!子供みたいな即答しないでよ!?
だぁぁぁぁ!行き交う人々が微笑ましくみてくるぅぅ!また更なる噂が広がるぅぅ!
私の心の叫び虚しく、そのまま部屋まで連れて行かれた。
戻ったらまだローレルさんが居て姫抱っこの私を見て呆れた眼差しを向けてきた。
「団長、そのご様子ではクインスの件は解決したんですね」
「辞職は撤回させた。今は訓練所だろう。行って鍛え直してこい」
「団長が行かれないんですか」
わかってますけどね、と私に視線を向けてローレルさんが聞く。だぁぁあ!私のせいじゃ…いや、私のせい?
「俺はこれから忙しい。急用以外は呼ぶな」
「了解です」
うええ!引くのか!そこで!ローレルさん!
ローレルさんはそのままあっさり退出した。
残された私は観念してカイゼルさんの機嫌を何とかして戻す方法を考えるのでした。
いや、でもね?
妬いたり拗ねたりは嫌じゃ無いんだけど。むしろ嬉しかったりするんだけど、ね。




