12話 反省しました
やたら長くなってしまいました。長さがまちまちで申し訳ないです。
転移門から帰還した先にはなんとフレイ様が居た。心配して見にきたのかな。後ろにマートルさんまで。護衛にして引っ張り回してるみたいだけどいいのか王様の方。
カイゼルさんにぴっったりくっつかれて帰還した私にフレイ様が笑みを浮かべて近寄ってくる。うわ、底が見えない笑顔なんだけど?同じ笑顔なのに使い分けるの怖い王子様。
けどその笑顔が直ぐに崩れる。
というのも、見知った顔を見た私が突如座り込んだからだ。
「マリコ様!」
「マリコさん、どうしたの!」
フレイ様もマートルさんも慌ててる。いや、一番慌ててるのは私です。
うおおおおお、力が入らないいいいい。これはもしや?
「あはは、今頃腰抜けたみたいです…」
時間差にも過ぎるでしょ。安堵したら今更に恐怖が訪れて腰抜けるとか。筋肉痛が3日遅れでくるあれと同じ事か?老いか?
のんきに笑った私をカイゼルさんが当然の如く抱き上げた。無表情だ。あちゃー、悪化した。
一応フレイ様には一礼したけどカイゼルさんはそのまま私を連れて行く。様子がおかしいのに気付いたフレイ様とマートルさんはそのまま後についてきた。王子様引き連れてとか不敬じゃないかな大丈夫?
それにしてもかなりきてるね、カイゼルさん。大丈夫…じゃないか。
真っ直ぐ向かったのは今や私の部屋にもなったカイゼルさんの私室。そこを過ぎて寝室までいくとベッドに私を座らせてくれる。カイゼルさんは側の椅子を引いて座れば私の手を両手で握っては額に引き寄せて俯いてしまう。
「で、何があったのかな?」
当たり前のようについてきていたフレイ様とマートルさん。説明はカイゼルさんに、は無理か。
自分の失敗を話すのは恥ずかしいけど仕方ない。私はさっきの出来事を掻い摘んで話した。
「それでこの状況か。カイゼルの気持ちもわかるよ」
話を終えれば軽く溜息を吐いてフレイ様が言った。呆れてる。すみません。
話してる間もずっとカイゼルさんは無言。怒ってるんじゃない。動揺が過ぎてそれどころじゃないんだ。私が今ごろ腰が抜けたように、カイゼルさんは私を失うかもしれなかったという事にたぶん動揺してる。
「無茶をし過ぎでしょう、マリコ様」
マートルさんも眉を寄せて言う。やっぱり呆れてる。怒鳴られるのも効くけどこうして静かに言われるのも効くなあ。
「大規模魔法が使われたのは感知したけど、原因がマリコさんだったとはね」
「あ、わかったんです?あの魔法」
「今回は場所が王都から近かったからね。あれだけの規模だとわかるよ」
あー、ですよね。近くで見てた私はびっくりしましたよ。あのクレーターどうなるんだろ。
「まあ、今回はとりあえず大事に至らなかったけど、くれぐれもマリコさんは無茶をしない事」
「はい、身に染みました」
私が傷付くことに、どれだけ心配をかけるかがよくわかった。帰還する時だって騎士さん達にもちょいちょい大丈夫か聞かれたし、あのローレルさんにすら心配された。まあ、よくよく考えたら有り得ないくらいにすっ飛んだからな…私が見てる立場だったら寿命が縮むよ。
目の前の2人も呆れているけど目が心配いっぱいの色をしてる。あーあ、もうホント馬鹿だなあ私。
「本当にすみませんでした」
「わかってくれたらいいんだよ。マリコさんを思う人は今は沢山居るって忘れないで」
そっか、そうだ。私を大事にしてくれる人は沢山居るんだ。独りぼっちで来た世界だけど、今はもう独りじゃない。
「その中で誰が1番貴女を思っているかはおわかりでしょう?仮に他の誰もが信じられず頼れなくとも、弟だけは信じて頼って頂けませんか?」
ずっと無言で私の手を握ってるカイゼルさん。マートルさんに言われなくても私はこの人を誰より信じてる。頼りにしてる。
「はい。もちろん。カイゼルさんだけじゃなくて、フレイ様もマートルさんも、他の私を大事にしてくれる人を私は信じて頼りにしてます」
私は幸せだ。なんだか勿体無いくらいだけどちゃんと受けとろう。そして大事にしよう。
「頑張り過ぎる2人は似た者同士か。でも周りが大変だから程々にね?じゃあ後はマリコさんに任せるからカイゼルの事宜しく。魔法の件も含めて陛下へ報告は僕がしておくよ。マートルはどうする?」
ちらりとフレイ様がマートルさんに視線を送る。動揺のおさまらないカイゼルさんの側にまだ居たいかもしれないから。
「いえ、私も戻ります。マリコ様にお任せします。カイゼル」
マートルさんがカイゼルさんに近寄り膝をつく。俯く顔を覗き込むように顔を寄せて軽く背中を叩く。
びくっ、としてカイゼルさんが顔を上げてマートルさんを見た。そうしたら私にもカイゼルさんの顔が見えた。
うわ、酷い顔。いや、普通に見たら全くの無表情なんだけど視線が泳いでて動揺して混乱してるのがわかる。
「大丈夫か」
「っ、はい…」
返事はした。声は届くみたい。良かった。
「後でまた来る。それまではここで休んでいろ」
「…はい」
また来る?何だろう?心配だから様子を見に来るってだけのニュアンスじゃないな。
「それじゃあマリコさん、また」
「失礼致します」
私が疑問を投げかける前に2人は行ってしまった。まあ後で説明があるかな。
私はまず、カイゼルさんを落ち着かせなくちゃ。
また俯いてしまったカイゼルさんの手を強めに引く。抜けた腰は回復してたからしっかり力は入った。
引かれてカイゼルさんは抵抗なくこちらにくる。椅子から立たせてベッドに座ってもらう。
私はカイゼルさんにぎゅっと抱き着いた。すっかり慣れた暖かみ。私の大事な人の温もりだ。
「カイゼルさん、ごめんね。不安にさせて」
「っ、マリ…」
身体の向きを変えてカイゼルさんが私を抱きしめ返してきた。さっきみたいな強さじゃなくて大切そうに優しく。壊れものに触れるみたいに。
「私は大丈夫だから。カイゼルさんがちゃんと守ってくれたから」
「…違う、守れなかった。絶対に守ると言ったのにだ。あの怒りは本当はお前に怒ったんじゃない。マリを守れなかった自身に腹が立ったんだ」
そうか、だからあんな魔法使ったのか。あれはそうほいほい使えるものじゃないのはわかる。魔力消費が大きいから後先考えずに使ったら自滅する。それを周りを確認もしないで使うくらいに怒りが優ったし動揺もしてたんだ。
「カイゼルさんが悪いわけじゃないよ。私が無謀な真似したのが悪い。カイゼルさんはもっと私を怒っていいんだよ?」
私がした失敗まで抱え込まないで欲しい。自分の責任は自分でとらないと。
「違う。俺のせいだ」
ああもう。責任感が強すぎる。なら、考え方を変えよう。
「カイゼルさんは私を伴侶にしてくれるんじゃないの?あれは嘘?」
「!嘘なわけあるか!」
突然話題を変えた私に疑問も持たずにカイゼルさんは即答する。
「この世界の事は知らないけど、私の世界では夫婦って苦労を分かち合うものなんだ。だから失敗したら2人でわけて幸せなら2倍になるんだよ?今回の事は2人の失敗」
賛否はあるだろうけど私はそう思ってる。教会で挙げる結婚式でも辞める時も健やかなる時も、ってあるでしょ。私はあれが素敵だと思う。
本当のところは私が全面的に悪いんだけど。言ってもカイゼルさんは納得しないだろうからね。
「分かち合う、か?」
「カイゼルさんが私をそういう相手にしてくれないなら私の失敗はわけないけど」
ちょっとだけそっぽを向いて意地悪する。
「マリ以外なんて嫌に決まってるだろう」
拗ねたような返事が返ってきた。こそばゆいけど嬉しい。
「じゃあ、私の失敗を貰ってくれる?私もカイゼルさんの失敗を貰う。2人でわけて、次はしないようにしよう」
「そうだな。マリとなら出来る」
身体を離したカイゼルさんが私を見つめてくる。目がいつもの優しい色に戻ってる。ああ、良かった。
「とりあえず私は飛び出さないように気をつける」
運動神経はそんな良くないし年齢的にもあれであれだから脳筋に動くのはやめよう、うん。
「そうしてくれ。心配なのはわかるが俺の部下はそんなにやわじゃないぞ」
「うん。あと私は自分の魔法ももちょっと信じる。カイゼルさんと頑張ったからね」
折角上手く使えるようになったんだから、そっちで頑張ろう。
「素人のマリに言うのは酷だろうが、焦らずに状況を把握するんだ。迷ったら俺に聞けばいい」
うん。焦るのは良くない。落ち着いて出来ることをしなきゃ。
うんうん頷いてたらするりとカイゼルさんの手が腰に回ってきた。ひゃ!これはいつものだ!
「マリ」
ふきゅぁぁあ!耳元やめ!これだけは慣れなかった!こそばゆい!
「ど、どしたのっ」
「好きだ」
たーあー!脈絡がない!恥ずかしい!なんなのよひゃぅぅ!復活してくれたのはいいけど振り幅が大き過ぎますー!
「話が全く繋がってないよっ」
「俺が言いたかった」
「さっきまであんなに大人しかったのに」
「それは…勘弁してくれないか?自分でもあんなに動揺するとは思わなかったんだ」
言いながらカイゼルさんが私を抱っこする。ベッドの上で姫抱きされてめっさ恥ずかしい。
「誰よりも、血が繋がった家族より大切な相手が出来て、その誰かが失われると感じたら怖かった」
私もそれはわかる。カイゼルさんが刺された時は怖かった。たまらなく怖かった。
「お互いに無茶は出来ないね?」
「ああ」
私を抱く手がするする身体を撫でる。いやらしくない優しい手つき。暖かくてふわふわする。カイゼルさんの魔力が流れてるみたいな。
「その撫でる手暖かいー。気持ちいい」
「暖かいか?特に魔法は使ってないが…いや、もしかして」
私の言葉にカイゼルさんが考えるように少し首をかしげる。私は特に他意なく言ったんだけど?普通に撫でる摩擦でほんわかするだけじゃないのかな。
「お前となら出来るかもしれないな。手をいいか?」
「うん?いいけど?」
きょとんとしてたら手を取られる。するといつもの魔力制御の訓練みたいにカイゼルさんが魔力を流してくる。
おや?あれ?カイゼルさんの魔力が私の魔力を引っ張った?いや、何となくそんな感じってだけなんだけど。
するりと抜けた私の魔力はカイゼルさんに流れていく。
「結界」
カイゼルさんが急に魔法を使う。
ってうわ!?なんだこの防御結界。完全排除結界だし。寝室に私とカイゼルさん以外入れないよこれじゃ。
「え、何したの」
「…出来たみたいだな」
カイゼルさんが軽く放心してる。やった本人が驚くな!説明してくれー!
私の視線に気づいたカイゼルさんが説明してくれた。
「これは魔力の相性の問題もあるんだが、繋がりが深い者同士なら魔力の貸し借りが出来るんだ。今はマリの魔力を借りて俺が部屋に防御結界を張ったんだが…予想以上の結果になって驚いた」
ええ!貸し借りとか出来るのか!凄いな!つまり今、私はカイゼルさんの乾電池か。え、例えが安っぽい?わかりやすいからいいのだ。
ん?これって凄いんじゃ?魔法のエキスパートのカイゼルさんにハイパー電池な私。
「カイゼルさん魔法使い放題?」
「まあ、お前の魔力値ならそうなるな。ただし身体が触れている必要があるから剣を使いながらは難しいだろうが」
ああ、それは確かに。私がすんごい運動神経と剣技の持ち主だったら2人で戦いながらも可能だろうけど無理です。
「けど、これが出来るならいざという時お前が側に居れば大概何とかなるな」
「カイゼルさんが防御魔法使って助ける事も出来るね」
今日みたいな時にカイゼルさんが防御魔法を的確に発動もできる。そりゃ私が出来たら1番だけど流石に経験値が違う。
「もしかして私が無駄に魔力多いのこの為だったりして」
「強ち間違いでもないかもな。後でそういう聖女が居なかったか調べてみるか」
成る程、誰かに魔力を提供して力になった聖女も居たかもしれない。
とりあえずは私とカイゼルさんの連携を、と話していたら外から声が聞こえた。
「おーいカイゼル?こんなガチガチの結界張って一体中でナニしてるんだい?」
フレイ様?ってー!だから!王子様!発言!発言を考えて!ナニって!何もしてませんから!
フレイ様の発言を聞いたカイゼルさんが真っ赤になると瞬時にまた魔力が流れていった。
その瞬間ばちん!と凄い音がした。
「うわっ!?」
「ひゃっ!?」
部屋の外はフレイ様、中は私の悲鳴です。何今の!?
「っ、悪い!慌てすぎて張った結界を無理矢理破壊した…」
解除じゃなくて破壊したの。それであんな音したのか。心臓に悪い。
結界が解けたらフレイ様が入ってきた。耳抑えてる。
「カイゼル?」
にこにこスマイル。怖!
「申し訳ありません、殿下」
「べったりくっついちゃって。元気になったのはいいけどね?」
ああああああああああ!抱っこされたままだった!
私は脱兎の如くカイゼルさんの膝から降りた。ちょ、カイゼルさんしょんぼりしないで!後でまたするから!
「話があるからこっちの部屋に来てくれるかな」
そういえばまた、って言ってたな。
私とカイゼルさんは寝室を出て隣の部屋に行く。カイゼルさんの私室の方だ。
部屋にはマートルさんも居た。うわ、こっちの笑顔もなんかコワイ。
「私が折角心配してやったのにすっかり元気になって何をしていたんだカイゼル」
「誤解です兄上!」
「尋常じゃない強度の結界を張って何を言うんだか」
「あれには理由があるんです!」
「はいはい、兄弟喧嘩はそのくらいにして。後でそっちは追求するから先にこっちの話」
ちゃんと追求はするあたりフレイ様だ。うん。
私達はソファに向かい合わせに座る。久しぶりにフレイ様の向かいに私、私の後ろにカイゼルさん。フレイ様の後ろにマートルさん。要人と護衛の立ち位置だ。つまり多分これからの話はそういう話という事。雰囲気的によくない話かな。
「さっきはカイゼルがああだったから言わなかったんだけど。実はマリコさん達が討伐に行っている間に僕も襲われてね」
は?え?フレイ様が襲われた!?
「なっ…!それは本当ですか!?殿下お怪我は!」
カイゼルさんが後ろからやや身を乗り出して聞く。
「僕は大丈夫。近衛達が庇ってくれたからね。けど視察に出ようと思って城門を出たらいきなりだったよ。城門が大破した」
「本当に大丈夫だったんですかそれ」
大破って。つまり魔法攻撃を受けたのか。ん?何か引っかかる言い方したような。僕は、って言ったよね?
もしかしてと思って私は後ろに立つマートルさんのステータスを見た。HP30000…うわ、兄弟揃って凄いな。今は20000。かなり減ってる。MP10000。わ、カイゼルさんよりある。それが2000。こっちも大分減ってる。何でもない顔してるけど疲れてるんじゃ。あれ、火傷?って怪我してるの?!
「マートルさん」
服の上からじゃ全くわからない。動きにも不自然さはなかった。けどステータスには嘘はないからね。とりあえず怪我の具合をみないと。
思考の中で色々考えてマートルさんに声をかける。
「どうか致しましたか?マリコ様」
「うん。とりあえず脱いで?」
「え?」
しまったぁぁぁぁ!前後の脈絡なしに結論だけ言っちゃったぁぁぁ!
とっさに後ろのカイゼルさんを見たら、ああああ!固まってる!
「え、マリコさん姉妹なんとかならぬ兄弟なんとかが趣味だったりするの」
フレイ様ぁぁぁぁ!?誰だ!王子様にそんな言葉教えたのは!出てこい!
「嬉しくないと言ったら嘘になりますが、まだ命は惜しいですし兄弟で争いは流石に困りますからここでは遠慮させて頂いても?」
マートルさんんんん!貴方もなんつう発言するんだ!うひゃぁぁ!ほら、背後から冷気が!
「違うー!誤解ですからー!そうじゃなくて!マートルさん怪我してるでしょう!火傷!」
明らかにからかってるフレイ様とマートルさんの顔が瞬時に真剣なものに変わる。カイゼルさんの冷気も引っ込んだ。
「何故それを…」
「兄上、怪我をされているんですか」
カイゼルさんの追求に答えたのはフレイ様。
「僕を庇って怪我をしたんだ。まともにくらってね」
火属性の魔法だったのかな。だから火傷。
「兄上!大丈夫なのですか!」
カイゼルさんが私の背後からマートルさんの方に回り込み詰め寄る。
「治癒はしたから大丈夫だ」
「でも完治はしてないんですよね?だから火傷の症状が残ってる」
「マリコ様は何故それがわかるんですか」
口調は穏やかだけど目が不審そうにしてる。
「それは後で話しますから、とりあえず怪我を見せて下さい」
真っ直ぐにマートルさんを見つめる。
「マートル、こうなったら黙っててもしょうがないよ」
フレイ様が座ってるソファの隣を叩く。つまりマートルさんに座れって事。
マートルさんは仕方ないとばかりに座れば上着を脱いでいく。
露わになった上半身に思わず手で口を押さえてしまう。右側半身に酷い火傷の痕があった。
「ちっとも治ってないじゃないですか!」
つい怒鳴るとマートルさんが苦笑いを浮かべる。
「後で治癒をお願いしようとは思っていたんです。カイゼルには知られないようにして」
マートルさんが視線を向けたので私もそちらをみたらカイゼルさんが顔色を無くして呆然としてた。
「ちょっと最近色々有り過ぎてカイゼルの負担が多かったからね。マリコさんの事もあったし心配させたくなかったんだけど」
「それはわかりますけど…とりあえず治します」
私はマートルさんに近づいては傷に手をかざす。
「癒しを」
治癒はすぐ発動して火傷は綺麗に治った。良かった。あんまり治癒が遅いと治っても痕が残っちゃうから。
「流石ですね、聖女の治癒は」
ありがとうございますと感謝を述べたマートルさんは服を着て身嗜みを整えるとカイゼルさんに近寄る。
「カイゼル。怪我は治して頂いた。もう大丈夫だ」
「っ、兄上」
またさっきみたいな動揺した様子。私はカイゼルさんの手を引いてソファに座らせた。私の事に続いてお兄さんまで命の危機に晒されて、目の当たりにしたんだからショックはかなりあるはず。
手は握ったままにする。
「カイゼル、休むかい?」
フレイ様の心配にカイゼルさんは首を振る。
「いえ、大丈夫です。こんな時に休んではいられません。ただでさえ1週間も休んでしまったのですから」
繋いでいた手が離れていく。大丈夫って事なんだろうけど私は心配だったから離れた手を掴み治してぎゅっと握った。カイゼルさんはそれにちょっとびっくりしたみたいだけどもう一度離すようなことはしなかった。
「無理は駄目だからね?でもまあ、マリコさんが居るからこれからは大丈夫かな」
フレイ様が握っている手に視線を向ける。うん、私がちゃんとカイゼルさんの助けになるし無理はさせません。
「弟は幸せものですね」
「羨ましいね。それはそうとマリコさん、何故マートルの怪我がわかったんだい?申し訳無いけど貴女に見抜けるような動きはしてなかったはず。カイゼルですら気付かなかったんだから」
あー、やっぱり突っ込まれるか。私はカイゼルさんの方を向く。
「マリコ様、2人になら話しても問題ないかと」
カイゼルさんの言葉に頷くと私は自分の魔力が10万ある事と他人のステータスが見られる事を話した。
「冗談、ではないんだね?」
「本当です」
「信じられない数値ですね…それに他人のステータスが見られるなどは聞いたことがありません」
2人とも驚いてる。私が一番信じられないけどね。
「どちらも事実に間違いはありません。魔力量は数値に偽りなくあると感じました。ステータスは言わずもがなでしょう」
「感じたって事はカイゼルはマリコさんと魔力交流をしたんだね」
「はい。凄まじい量です」
改めて言われると尋常じゃないよねー。
「僕も確かめてみたいな。構わない?」
フレイ様?何故その許可をカイゼルさんに?私じゃないの?
「ほら、マリコさんに触れるのはカイゼルの許可制でしょ」
「どこからそうなりました!?」
「よくおわかりですね。構いませんが、お気をつけ下さい。気を抜くと飲まれます」
カイゼルさんさらっと肯定した!この独占欲の塊め!嫌じゃないけどさ!嬉しいけどさ!
カイゼルさんの許可を得てフレイ様が私の手を取る。気を落ち着けよう。フレイ様に何かしちゃったら一大事だ。
触れた手からフレイ様の魔力が流れてくる。へえ、カイゼルさんと違ってなんだろ、暖かいけどさらさらする?
「っ!」
あれ、フレイ様手を離した。
「殿下」
「ああ、大丈夫。これは確かに凄い量だ」
苦笑いするフレイ様は軽く手を振るってる。
「すみません、気をつけてましたけどなんかしちゃいました?」
「いや、大丈夫だよ。マリコさんのせいじゃない。貴女は落ち着いて受け入れてくれたから。それでもちょっと影響はあった」
「それ程ですか。カイゼル、私も試してもいいか」
だから何故カイゼルさんの許可を!
「……構いません」
間があった!カイゼルさんお兄さんには厳しいな!
やれやれとばかりに肩をすくめつつマートルさんが私の手を取る。ん、マートルさんは暖かさが高いな。情熱っぽい。
「っつ!」
え、どしたの。勢いよく手を引いたけど?手をちょっと押さえてる。
「マートルさん、大丈夫ですか?」
「ええ、すみません。大丈夫です。私はどうやら2人より相性があまり良くないようです。少し痺れました」
うそ、魔力交流てそんな事あるの。
「治癒しますか?」
「いえ、お気遣いなく。少しすればおさまります。カイゼルはマリコ様と魔力交流をしても平気だったのか」
「はい。最初少し影響はありましたが今は問題なく出来ます。その上魔力貸与が出来ました」
「貸与まで?カイゼルとマリコさんはそこまで相性がいいの」
カイゼルさんの言葉にフレイ様が驚く。そんなに凄い事なんだ。
「マリコ様の魔力をお借りして張ったのが先程の結界です」
「さっきのあれはそういう事。納得したよ。聖女の魔力を借りたのならあれ程強固になるわけだ」
つまり、魔法を使ったのはカイゼルさんだけどそれに使われた魔力は私のだったからガチンガチンの結界になったのか。
「この事、他に誰かに話した?」
「いえ、殿下と兄上以外には誰も」
「その方がいい。マリコさんの魔力量もステータスの事も、カイゼルとは貸与出来る事もこれ以上は広めない事。ただ、申し訳ないけど父上と母上には話させて貰えるかな」
「それは構いません。にしても大ごとになっちゃいましたね」
「本人を前に言うのは気が引けるけど、やりようによっては悪用し放題だからね」
うん、それはわかる。貸与まで出来るとか、今のところはカイゼルさんだけだけど他に誰か出来る人が絶対いないとは言い切れない。
「しかしそうなるとマリコ様の警備は強化しなければなりませんね。カイゼルの部屋に移動して頂いたのは良かったです」
守りやすいという点だと確かに騎士団の敷地内の方がいいよね。聖女の部屋の辺りは結界はしっかりしてるけど人が制限されてるから人員の配置がなかなか難しい。何かあった時の対処がカイゼルさんかローレルさん限定になっちゃう。ここなら結界は新たに張れば済むし。
「マリコ様は何があっても私が守ります」
握っていた手がぎゅっと握りしめられた。この手は私を安心させてくれる。
「それについては信じてるけど、カイゼルも無茶は駄目だからね?それと」
フレイ様が一度言葉を切っては私達を見回す。んん?なんだろ?
「この4人で居る時くらい、堅苦しいのはやめないかい?」
どゆこと?4人でソファに座ってるあたり既にずいぶんフランクな気もするけど。
「つまりは口調を改めろという事かな、フレイ」
マートルさんがフレイ様を呼び捨てにした。ああ、そういう事かあ。っていいのかなあ。
「マートルは理解が早いね。カイゼルもマリコさんもそうしてくれたら嬉しいんだけど」
フレイ様が言うんだからいいか。
「フレイがそう言うなら私もいいよ。けど本当に4人の時だけね?」
「勿論。さてカイゼルは?」
フレイ様がカイゼルさんを見る。
「…本当に王族らしくない奴だ、お前は」
あ、折れたね。ちっちゃい頃から一緒にいるからなんだかんだフレイ様には甘いんだなあ。
む?フレイ様にやにやしてる。最近その含み顔多いなフレイ様。王子様にあるまじき顔ですよ?
「で、カイゼル?」
で?でってなんだ?ってうおわ!?
膝だっこされたぁぁぁ!何故だ!今の流れから何故膝だっこなんだ!
「これで満足か?」
「そうそう、それ見たかったんだよね」
「私にもさせてくれないか?」
「兄上、俺が許すと思うのか?」
「ちょ、ちょっと3人で話進めないで!」
なんなんだもうー!
「フレイは、俺とマリが普段どうしてるかをみたかったんだ」
ええええ!?なんだそりゃ!いちゃついてるのみたいとかなんですかー!
「他人のいちゃつきなんてみて楽しい?」
「楽しい。照れてるマリコさん可愛いし、独占欲丸出しのカイゼルは珍しいから面白い」
遊んでるな!フレイ様!
「カイゼルさんはこれでいいのっ」
「フレイにこの手の事で逆らうのはあきらめた。それに別に減るものじゃないしお前が俺のものだとわからせるだけだからな」
減る減る!私の何かは減る!恥ずかしい!
「我が弟ながらこれ程独占欲が強いとは思わなかった」
「無闇にちょっかいを出したら兄上でも斬る」
真顔で言わない!カイゼルさん!
「うわー、カイゼル愛が重い。マリコさん頑張って」
「人ごとでしょ、フレイ!」
「マリ、嫌か?」
うひゃ!耳元で言わないでってば!
「嫌じゃないから、そこで囁かないでよっ」
「マリコさんは確かに可愛らしいな」
「可愛らしいよね、マリコさん」
2人とも生暖かい眼差しやめ!あと可愛い連発やめー!なんの羞恥プレイなんだ!
「可愛くない!って言うか2人とも私にさんとかいらないよ?気軽にするんじゃないの?」
私も呼び捨てでいいのになあ。
すると2人が顔を見合わせた後言った。
「「命は惜しい」」
ぴったりハモった。
あー、はい。わからなくはないです。
おかしい。色々重大な事があった筈がいつの間にか私とカイゼルさんのらぶらぶ度判定会みたいになってしまったのは何故なんだー!
うう、まだまだ私には人前でのらぶらぶは難易度が高いようです。




