11話 怒られました
宜しくお願いします〜。
あれから1週間。
ええ、もうなんだか濃い1週間でしたよ。
初日にカイゼルさんと一緒に寝ちゃったのはまあ仕方ないとして、その後ずっととかどういうコト。けど元の部屋に戻るとかせめて別部屋にって言うとすんごいしょんぼりするんだもん!ずるいでしょ!私だけにそんな顔見せて!卑怯なり!
誰か反対すると思ったら誰も反応しないどころか歓迎された。コラ!いいのか!
気づいたらカイゼルさんの寝室の隣に一部屋私の部屋増えてたんだけど。荷物とか移動してたし。え、私ずっとここ?しかも部屋はあくまで私室で寝室はカイゼルさんと一緒とかどうなってるの。私の世界ではまあ夫婦寝室一緒はわかるけどこういう世界でそれありなの?いいの?え、王様と王妃様いまでも寝室一緒?庶民的だな!本当に!ていうかまだ婚約すらしてないのに周りが先に進みまくってるし。ついていけないー!
当のカイゼルさんは一緒に居られるのが嬉しいとか言って幸せそうだからもう、カッコいい男ってずるい。
え?やましいコトはしてませんよ?してませんよ?大事だから二回言いました。まあ、カイゼルさん一応病人だし?ちゅーくらいで我慢してたよ。いいでしょ!ちゅーくらい!ちゅーくらい!どうだ、1週間くっつかれまくったからそれなりに慣れたぞ!
そんな中訓練もしてたんだけどこれが予想に反して厳しかった。甘々うふふとか思ったら案外ガチだった。怒るとか怒鳴るとかはないんだけどカイゼルさんの厳しい事厳しい事。飴と鞭使いが非常に上手いし。おかげで1週間で凄い魔力制御上達したよ。出来るまで失敗する毎にキス一回とか、嬉しいのか罰なのかわかんないし。羞恥プレイにも耐性がついたたぶん。
「どうも謀られた気がしてならない…」
体調が戻ったカイゼルさんは復帰して今は騎士団の訓練場。休んでたから身体が鈍ってるからって騎士さん達を相手にしてる。私はそれの観察中。カイゼルさん強いなー。カッコいいなー。
「マリコ様?どうしました?」
手合わせの交代待ちして隣にいた騎士さんが私の呟きに反応した。
「いや、カイゼルさんがあんなに激しく熱い人だとは思わなかったよ」
うん、ちょっと体育会系入ってた。
「だ、団長そんなに凄かったんですか?」
騎士さんが動揺したような声を出す。ん?おかしなこと言ったかな?
「うん、凄かった」
「え、団長そんな激しくしたんですか!」
反対側に居た騎士さんが声を上げた。いや、良く通る声だな。あ、声にカイゼルさんが気づい…え、何その驚愕顔。
「凄かったけど、それそんな驚くこと?」
「いえ、何といいますか、その…」
「これ以上お伺いするのは流石に」
ん?何でみんな顔反らすの?ん?何か齟齬が生まれてる?私カイゼルさんが訓練凄かったって言っ…ああああ!主語抜けてた!
「ち、違うよ!やましい方のじゃないよ!?」
だああああ!あっちの方に凄いとかなってた!まだ体験してませんから知りません!
「マリコ様、これ以上変な話題を広めるような真似をしないでくださいっ」
いつの間にか側に来ていたカイゼルさんが僅か顔を赤らめて言う。背後を見たら騎士さん達が屍と化してた。あ、からかわれたか。
「あはは…ごめん」
「え、団長違うんですか?」
「お前も特別指導をしたいのか?」
にっこり笑うカイゼルさん。目は笑ってないよ?あ、寒いよ?冷気出さないで?カイゼルさんは聞いたんだけど主要4属性地水火風どれも得意なんだって。なのにこういう時必ず冷気なんだけど、水が特に得意なんじゃないの?
「え、遠慮します!」
びびった騎士さんが私の背後に逃げた。こら!盾にするな!
するとカイゼルさんがすかさず騎士さんの首根っこ掴んで投げた。
「近い!」
それからさり気なく腰を引かれた。とぁぁぁぁ!近いのはカイゼルさんだよ!いや、嫌じゃないよ恥ずかしいだけだよ!
「団長、お元気になられたのは幸いですが…明らかに護衛としての立ち位置は突破されてますね」
若干呆れ顔のローレルさん。うん。気持ちはわかります。遠慮がなくなってるよね。
「どういう意味だ?」
「その立ち位置と腰の手は護衛の範疇を超えてますよ」
「!」
カイゼルさんがはっとして手を離した。狼狽えてる?え、まさかあれ無意識なの?
口元に手を当てて赤くなってる。マジだ無意識だ。
「団長がそれ程独占欲が強いとは思いませんでした」
「団長も人の子だったんですね」
「生きてるうちに団長の照れ顔なんて見られると思ってませんでした」
「…お前達、覚悟は出来てるな?」
カイゼルさん寒い!冷気凄い!みんなからかうのやめて!
冷気を感じて騎士さん達がわっと散る。それを見事なスピードでカイゼルさんが追っかけては投げ飛ばす。騎士さん達、南無。
「団長!!」
和やかなんだから騒がしいんだかの雰囲気の中に突如緊迫した声が響いた。1人の騎士さんが慌ただしく駆け込んできた。
一瞬で場の空気が変わる。
「どうした」
「魔物が出ました。街道近くの平原に、しかもワイバーンが約100体です」
「100体だと!」
ワイバーンてあれか、ドラゴンもどきみたいな。100は多すぎやしないか。私の知る限りなら10数体でも厄介なヤツのはず。もどきだけど大きさは人の3倍くらいだし飛ぶし火も吐くしで面倒な魔物だ。
「信じられない…それ程の群れになどなる筈が」
ローレルさんが呆然と呟く。そこにカイゼルさんの声が鋭く響く。
「呆けている暇はない!全員出撃準備!すぐに向かうぞ!第2隊がついて来い!」
「はっ!!」
場が急に慌ただしくなる。私は邪魔にならないように隅で見守る。
ワイバーン100体。勝てるんだろうか。いや、私が頑張らないと!
王都の騎士団はだいたい1000人くらい。それを3隊にわけて警備やら討伐やらしてる。1000人じゃ国全体をカバーするには足りないと思うだろうけど、あくまで王都の騎士団だけ。各主要都市とか街とかにはちゃんと常駐の騎士さんがいるのだ。彼らが手に負えない魔物が出るとカイゼルさん達王都の騎士団が出張る。つまり今回みたいな事。王都の騎士さん達は数は少ないけど精鋭だからね。
そんな彼らだけど流石に100体は厳しそう。冗談抜きに私が頑張らないとだ。
気合い入れてる私に指示を出していたカイゼルさんが近寄ってくる。険しい表情だ。
「マリコ様。気持ちとしてはお連れしたくは無いのですが…ですが、貴女が居なければ騎士達は無事ではいられないでしょう」
目を見ると感情がせめぎ合ってるのがわかる。危険だから連れて行きたくない。でも私が行かないと大事な部下は確実に負傷する。最悪死者も出る。
真っ直ぐ見つめると私は言う。
「私は行くよ。カイゼルさんに大事な騎士さん達は私にとっても大事な人達なんだから」
「ありがとうございます」
「この為の聖女なんだから。大丈夫、危ない真似はしないよ。ただ、前線には出るからね」
「それは…!」
「前に出なきゃ、皆んなに適切な魔法がかけられない。これは譲らないよ」
防御魔法は無敵じゃない。攻撃を喰らって耐久が落ちたら壊されてしまう。聖女だからか普通の人のそれよりはかなり耐久は高いけど無限じゃない。ならば前に出て危なそうな人には再度魔法をかけ直さないと。
「絶対に、守ります」
私の決意にカイゼルさんはそう返してくれた。
「うん、信じてる」
怖いけど、カイゼルさんもローレルさんも騎士さん達も居る。大丈夫。私は皆んなを守るよ。
そうこうしているうちに出撃準備は整った。
皆んなと共に私は転移門から出撃した。
転移先からの移動は今回は近かった。
長く伸びる街道の脇の平原。その先にこちらに向かう群が見えた。
遠目には鳥か何かの群れにしか見えないがあれがワイバーンかと思うとぞくりとする。
騎士さん達はカイゼルさんの指示を受けて平原に展開する。
ワイバーンは飛んでいるからまずは地面に落としてから倒さないとだ。初撃はカイゼルさんがする。
距離が近づいてくればはっきりと姿が認識できた。魔力の圧が凄い。
私は気圧されまいと魔力を練ると騎士さん達全員に防御魔法をかける。訓練のおかげで驚く程高い質の頑丈な防御がかかった。
私の魔法に騎士さん達から驚きの声が上がる。士気も上がったみたいだ。
ワイバーンが近くなった。するとカイゼルさんの魔力が跳ね上がる。そして。
「疾風の業火!!」
風と火の属性の合わせ技。燃え盛る炎がカマイタチのようになりワイバーンを襲う。
「グギャァァ!」
カイゼルさんの魔法で3分の1程は倒せた。残りは地面に落下して悶えてる。カイゼルさんの魔法凄い。
「行け!決してここから逃すな!」
街道の先には街がある。ワイバーンがくればひとたまりもない小さな街だ。絶対に行かせるわけにはいかない。
騎士さん達が地面に落ちたワイバーンに向かう。落下はしたが油断は出来ない。
「カイゼルさんも行って」
私は自分に魔法を重ねがけしつつ言う。
「マリコ様、前に約束したでしょう?私を側から離さないと」
「私もついてくから離れる事はないよ」
「それは危険過ぎます!」
「手の届く範囲にいる。大丈夫、防御魔法は切らさない。発動の速さも質もカイゼルさんが一番わかってるでしょ?」
訓練の時にやったのだからわかってるはず。何よりまず自分を守る魔法を素早く発動出来るようにって鍛えられたから。
「絶対に無茶はなさらないで下さい。貴女は守る事に専念を」
「了解」
返事を返すとカイゼルさんがワイバーンに向かう。私も後に続く。
暴れるワイバーンは手当たり次第に炎を吐く。私はカイゼルさんの後ろで補助をしつつ周りを見ては騎士さん達にも魔法をかける。
訓練のおかげで騎士さん達の魔力の流れや状況が手に取るようにわかる。多分聖女のチートもあるんだろう。誰がピンチなのかもすぐわかるから適切に魔法がかけられる。
その時、近くで戦ってた騎士さんが1人膝をついた。まずい、防御切れてる。すぐに魔法をかけたけど怪我をしてるのか立ち上がれない。眼前にはワイバーンが迫る。
乱戦で流石に集中力が切れかけてた私は治癒をかけるのではなくて走り出していた。助けなきゃ、と身体が動いた。
「マリコ様!?」
カイゼルさんが焦った声を出すけど足は止まらない。
ぎりぎり間に合った私は動けない騎士さんを突き飛ばした。代わりに攻撃を喰らって私は見事に吹っ飛んだ。
「マリ!!!」
カイゼルさんから悲鳴のような叫びが聞こえた。
あだだだだ!わわわわわわわ!?
おむすびころりんみたいな感じで私は盛大に転がった。衝撃はかなりあったけど怪我はない。魔法重ねがけしてて良かった。
って、やば!
前を見たらワイバーンが追撃してきてる。立ち上がり逃げる暇がない。でも多分まだ喰らっても大丈夫。防御はいきてる。
衝撃に備えて身構えた時、誰かが目の前に立ち塞がる。カイゼルさん、速い!
「させるか!!」
剣身に手を滑らすと炎が上がる。剣に炎を纏わせたんだ。それを横薙ぎにすればワイバーンが真っ二つに裂けて燃えた。
「カイゼルさん、その」
「……くそ!!!」
声を掛けようとして引く。カイゼルさんの魔力が初撃以上の高まりを見せたから。
「!?全員団長の後ろまで下がれ!!」
カイゼルさんの魔力を感じたローレルさんが慌てたように叫ぶ。何?何が起きるの!
騎士さん達が一斉に下がる。残されたのはワイバーンだけ。
「業火!!氷雪!!土崩!!烈風!!」
カイゼルさんの魔法が発動する。
平原の周りに4色の柱が現れた。言葉通りに4属性の色をしたそれは竜巻みたいに荒れ狂いながらワイバーンを蹂躙していく。そして最後に4柱が合わさると大爆発を起こした。
凄まじい爆風だったけどいつ間にか張られていた防御結界で吹き飛ばされる事はなかった。カイゼルさんが張ったのかな?
爆風がおさまった後には特大のクレーターが出来てた。
何だ今の。とんでもない威力だよ?一歩間違えば周りも危なかったくらい。
呆然としてる私にカイゼルさんが肩で息をしながら近づいてくる。ステータスを何気に見たらMPが1000にまで減ってた。戦いながら魔法も使ってたからある程度は減るだろうけど流石にあのくらいの戦闘でカイゼルさんがここまで減らす事はないはず。つまり先程の魔法にごっそり魔力を持っていかれたんだ。
まだ座り込んだままの私の前にカイゼルさんは膝をつくと両肩を勢いよく掴む。痛っ、力入り過ぎっ。
「馬鹿かお前は!!聖女が騎士を庇ってどうする!!」
凄まじい勢いで怒鳴られた。敬語もへったくれもない。こんな勢いで怒鳴られたのとかカイゼルさんは初めてだしそれ以外でも久しぶりだ。
「その、騎士さんが危なかったから…」
「なら防御をかけるか治癒をすればいいだろう!!死にたいのか!?騎士はお前がいれば治癒できる、だがお前に何かあればどうなると思ってるんだ!!」
肩を掴む手にさらに力が入る。痛い。でも私は何も言えなかった。慢心したら駄目だって思ってたのに、また失敗した。そしてまたカイゼルさんに心配をかけてしまった。
「お前に、何かあったら…俺はっ!!」
そのまま力一杯抱きしめられる。その力強さにカイゼルさんの気持ちが痛い程伝わってくる。
「…ごめんなさい、カイゼルさん」
「…怪我は、無いな…?」
「うん、大丈夫」
手を回して抱きしめ返す。ごめん、本当に。
「マリコ様、団長…」
大爆発の余韻から解放された騎士さん達が私達に近寄ってくる。声を掛けてきたのは私が助けた騎士さんだ。
「申し訳ありません…!自分のせいでマリコ様を危険な目に合わせてしまって!」
青ざめた表情の騎士さんは脇腹を押さえてた。怪我がまだ治ってない。治癒したいけどカイゼルさんがまだ離してくれない。
とんとんと私はカイゼルさんの背中を叩く。
「カイゼルさん、私は大丈夫だからもう離して?」
ゆっくりカイゼルさんが身体を離す。表情は落ち着いてるみたいだけど目がまだ動揺してる。かなりショックを与えたみたい。後でちゃんと話ししよう。
「…いや、お前のせいじゃない。気にするな」
さっきの怒鳴り声が嘘みたいに静かにカイゼルさんが言う。
「ですが!」
「気にするなと言っている。謝罪する気持ちがあるなら反省をして次に失態を犯さないようにしろ」
「団長…すみません、ありがとうございます…!」
騎士さん涙浮かべてる。良かった、厳罰とかにならなくて。私がそういうの望まないからしなかったのかな。
それより治癒!
「皆んな治癒するから怪我した人は寄って。重傷な人いる?」
見渡すけど特にいないみたい。一番酷くて助けた騎士さんくらいかな。これならまとめて治癒出来そう。私は立ち上がると魔力を練る。
「癒しを」
手を広げて治癒魔法を発動する。
「マリコ様、ありがとうございます」
「マリコ様のおかげで助かりました」
皆んなが口々にお礼を言ってくる。色々やらかしたけど守れて良かった。
「皆、すまなかった。俺の魔法に巻き込む所だった」
集まった騎士さんにカイゼルさんが謝る。確かにあれは気をつけないと大惨事だ。
「そんな、団長が謝る事はありませんよ!」
「自分達が不甲斐ないからいけないんです!」
あわあわしながら騎士さん達が言う。
「結果的に良かったですが、次からは一声頂ければ構いません」
少し呆れながらもローレルさんが言ってから続けた。
「今回の件の原因はマリコ様ですからね。団長がキレますからマリコ様はくれぐれも無茶をしないように」
睨まれた。あれは、馬鹿かお前団長キレさすんじゃないって言ってる。そう副音声聞こえた。
「では戻りましょう。全員帰還準備をしろ」
ローレルさんが指示を出す。カイゼルさんと言えばまた私を背後から抱きしめて離してくれない。これは結構きてるなあ。
恥ずかしいより申し訳なさが先に立って私はカイゼルさんの好きにさせてそのまま城に帰還した。




