10話 砂糖漬けになりました
宜しくお願いします〜。2人の糖度はだんだん増していきますたぶん。
翌朝。暖かい何かにぎゅーっと包まれて幸せーな気持ちで目が覚めた。
はて、どうしたんだったけ?
目を開けてみれば真正面に男前な顔。ってわー!?
穏やかにすやすや寝てるのはカイゼルさん。私はがっつり抱き込まれて寝てた。でも苦しくない辺り流石だ。絶妙な抱き締め加減とか凄いな。
そうだ、私告白されて受け入れて。一緒に寝たんだった。
にしても、無防備な寝顔はちょっと可愛い。
その時ノックの音がした。続いてトリヤさんの声。
どわー!?
「っぐふ!?」
びっくりし過ぎた私はカイゼルさんをどつき飛ばしてしまいました。あ、鳩尾クリティカルヒットした?
「マリ、朝一に、これは酷くない、か?」
「ああああ、カイゼルさんごめんなさいごめんなさい!」
お腹を押さえてカイゼルさんが呻くように言う。つか愛称呼びかっ。
急いで布団から抜け出しながら謝る。病人にする所業じゃないね、うん。
話し声が聞こえたからか、トリヤさんが入ってきた。続いて何故かフレイ様とローレルさんまで。
3人がじっっっと私とカイゼルさんを見る。な、なにかな?
「やっとでしょうか」
「やっとみたいですね」
「最後まではしたのかな?」
トリヤさん、ローレルさん、フレイ様の順です。ってフレイ様の発言はどういう意味ですかー!!
「み、皆さん一体どういうこと」
「え、くっつきそうでくっつかなかった君達が漸くくっついたんだろう?で、最後までしたの?」
は!?えー!?なんじゃそら!っていうか最後までって、は!?
「俺はそんな不埒な真似はしてない!!」
状況を把握したカイゼルさんが勢いよく起き上がると赤くなりながら素で怒鳴った。
つ、つまり私とカイゼルさんがいつその、くっつくかを皆さま観察してて、漸くくっつくいたから昨夜はお楽しみでしたかということですか!?
フレイ様、そんな王子様顔でそんな発言やめて下さいー!!乙女の夢が!願望が!
「おや、カイゼル、理性が頑張ったんだね」
「殿下!」
ああもう、カイゼルさん真っ赤っかだよ。
「フレイ様その辺りで勘弁してあげて下さい。カイゼルさん一応病人ですから」
「ごめんごめん。でも2人が共にあることを決めてくれたのは本当に嬉しいよ。それとカイゼル」
笑いながら近づいてきたフレイ様がカイゼルさんを真っ直ぐに見つめる。
泣きそうに見えるのはきっと見間違いじゃない。
「……無事で、良かった」
「…殿下」
さっきのからかいは半分か。本音はこっちだね。フレイ様もやっぱりカイゼルさんが心配で心配で仕方なかったんだ。
「ご心配をお掛けして申し訳ございません」
「カイゼルが悪い訳じゃないから気にしない。事情は聞いた。防げるような事態じゃないよ」
そうだ。何でカイゼルさんが刺されるなんて事になったか詳しい事はまだ聞いてなかった。
トリヤさんには下がってもらってからフレイ様が詳細を話してくれた。
カイゼルさんが執務室にいる時に1人の騎士が入って来た。彼はいきなりカイゼルさんに襲いかかってきた。カイゼルさんは顔見知りな上に若い彼だからつい油断してしまって。辛うじて急所は避けたけど刃は受けてしまった。
刺した彼はそのまま逃げて行って自害しようとした所を捕縛。幸い彼は怪我はしてない。ただ、捕らえられて尋問を始めてすぐ正気に戻ってした事を全く覚えてないとわかった。しでかした事を聞いて今はショックで口も聞けないらしい。
その彼はクインスくん。あの一番若い子だった。
「彼は私を刺した時に言っていました。『お前が死ねば聖女はどんな顔をするだろう』と」
「つまり、狙われたのはカイゼルじゃなくて聖女?」
え、私?うっそ。
殺されるかもしれなかったのが私かと思ったら背筋が寒くなって思わず自分の身体を抱き締める。
「可能性は高いかと。ただ、聖女を直接狙わなかったので標的が聖女だけなのか、それともまだ他に襲う可能性があるのかはわかりません」
「彼が主犯だと思う?」
「いえ、クインスは操られていたようです。目が正気ではありませんでした。尋問時の事と合わせればかなり強い精神魔法で支配されていたかと」
なんて酷い。無理矢理操って上司であるカイゼルさんを指すように仕向けるなんて。
「側に来るまでは普段の彼の魔力と同じでした。だから油断してしまいました。失態です」
悔しげなカイゼルさん。部下を大事にしてる人だから余計に辛いだろう。
「君が気付かないくらいに巧妙に隠していたという事はそれだけ魔法をかけた者が長けていたからだ。君が気付けないものなら他の誰も気付けないよ」
「ですが」
「しつこいよ。切り替えるんだカイゼル。今はそんな事を気にしている場合じゃない。聖女が標的になったんだ。これからどうするかだろう」
事態の深刻さに更に怖くなって抱きしめる手に力が入る。
「その話をしたいけれども、そろそろ君が限界かな」
フレイ様がちらりカイゼルさんを見た。
なんだろ?限界?
私もカイゼルさんをみたら右腕が目に入る。あ、もしかしてずっと上半身を支えてた?しかも少し震えてる。
「いえ、私はまだ大丈夫です」
「嘘はいけないな」
フレイ様がカイゼルさんの右腕を払う。すると支えを失った身体があっさり倒れた。布団に突っ伏す前にフレイ様が受け止める。
「これの何処が大丈夫なのかな?身体にまだ力が入らないんだろう?」
「これは、その」
カイゼルさんは自分で身体を起こそうとするけど上手くいかないみたい。何とか体勢を立て直してまた腕で支えるけどあれは長く持たない。先程よりはっきりわかるくらい腕が震えてる。
「カイゼル。…無理しないでちゃんと休んでくれ」
悲しげなフレイ様の目。その表情にカイゼルさんも素直に頷いた。
「わかりました」
「これからの事は陛下や僕が考えておくから、とにかくカイゼルは身体を休める事を一番に考えて。騎士団の方はローレルが当面指揮を取るように。何かあれば報告させるから。討伐の方はマリコさんに付いてきてもらいたいけど、カイゼルの復帰までは彼についていて」
「いいんですか?それじゃあ私がいる意味が無いんじゃないですか?」
討伐について行って皆んなのサポートするのが私の役目なのに。カイゼルさんはもちろん心配だけど、騎士団の皆んなだって心配だ。
「マリコさんがついてきてくれたらもちろん助かる。でも狙われてる可能性がある以上外に行くのは危険すぎる。カイゼルが居るならまだしも彼がこの状態だ。城に居た方がいい」
確かに、外に出たら狙われ放題か。幾ら魔力感知が出来るからって所詮は素人。本職に守ってもらわなければ足手まといである。
「わかりました。でも、討伐に行く皆んなに防御魔法かけるくらいはさせて下さい。あと、戻ってきてからの治癒も」
少しでも怪我は無くしたい。騎士さん達は私にとってはもう大事な家族みたいなものだから。
「ありがとう、それだけでも十分助かるよ。それからマリコさんはこのままカイゼルの部屋にいて。2人一緒に護衛するなら一緒に居てくれた方がいい。本当は元の部屋が一番安全なんだけどまだカイゼルは動かせないからね」
「私は大丈夫です」
「満足に身体を支えられないくせにかい?そうなると誰かに支えて貰わなければ歩けないだろう。その姿を城の者に見せるのかな?わかっているだろうけど、今回の件は騎士団内と一部の者しか知らない。城内で騎士団長が刺されて重傷だなんて話が広まるわけにはいかないからね」
それは困るね。騎士、それもトップの団長が瀕死の重傷を負ったなんていくら治癒して大丈夫だからって国民の不安を煽る事だ。ただでさえ魔物の件がある。騎士団を信頼してる人々にしたら不安材料には十分な出来事だ。
フレイ様に言われてカイゼルさんも沈黙する。悔しいんだろうな、たぶん。自分のせいで周りに迷惑かけてるんだと思ってる。
「わかったなら大人しく従う事。いいね」
釘をさすように言うとフレイ様は扉に向かって出て行こうとして振り返ると私をみて手招きした。
なんだろう??
近寄ると小声で耳打ちしてくる。
「言わなくても大丈夫だろうけど、カイゼルの事頼めるかな。どうにも真面目過ぎるから今回のこと、かなり気にしてると思う。彼だけのせいじゃないのだけど、僕から幾ら言っても聞かないだろうし」
「わかりました。大丈夫です、無理はさせませんから」
「マリコさんがカイゼルの好い人になってくれて良かった。ああ、落ち着いたらちゃんと婚約発表するからね」
好い人!ふわ!改めて言われると恥ずかしいな!って婚約発表て!えええええ!
「いや、そんな発表とかしなくても」
「何言ってるんだい。我が国が誇る騎士団長と国を救う聖女様なんだから大々的にするに決まってるじゃないか。楽しみにしててね?」
「ちょ、まっ、えええ!」
さらり最後になんか爆弾投げていった!フレイ様!待ってー!もう少し話を!あああ行っちゃった!
「おい」
「ふぁい!?」
衝撃からまだ立ち直らないうちに今度はローレルさんが話しかけてくる。びっくりして妙な声が出た。
「殿下がおっしゃっていたから、俺が言う必要はないかとは思うが。団長を頼むぞ」
お、久々のローレルさんタメ口。案外きっちりしてて2人きりじゃないとこの口調は出さないんだよね。
「わかってるよ。何より私が心配だし」
「団長は、無理をし過ぎるんだ。お前が来る前も討伐で無茶ばかりして。酷い怪我も一度や二度じゃない。毎回ギリギリまで平気な顔をしているから、俺達は気が気じゃなかった」
「大丈夫。私が居るからカイゼルさんも、もちろん騎士団の皆んなも守るよ」
私が居る限りはもう酷い怪我なんて誰にもして欲しくない。
「お前も無茶はするなよ?何かあってとばっちりを食うのは俺達だからな?」
「あー、そうだね。そっちも了解」
「じゃあな。何かあれば呼べ」
そう言ってローレルさんも部屋から出ていった。
皆んなカイゼルさんが心配で大事なんだなあ。
そのカイゼルさんの方を振り向いたら横向きに倒れてた。ああ!支えきれなくて倒れちゃったか!
駆け寄るとカイゼルさんは悔しげに拳を握りしめてた。体勢を変えようにも1人で出来ないんだ。
「カイゼルさん、大丈夫?」
「くそっ、力が入らない…情け無い」
手をかして仰向けに寝かせてあげる。
「皆に迷惑をかけてばかりだ」
「誰も迷惑だなんて思ってないよ。ただカイゼルさんが心配なだけ」
本当に真面目。周りはむしろもっと頼って欲しいと思ってるくらいなのに。
「マリ…」
うっわ?!なんだそのボイス!甘!急に何!つかそんな呼び方されちゃうのかこれから!
甘くて優しくてぎゅんぎゅんする声に思わず後ずさる。刺激が強い!これ無事に慣れるのかな!?
「マリ?何故逃げるんだ?…俺が、情け無いから嫌になった、か?」
ってああああ、しまった!また勘違いさせてる!身体が弱ってて気弱になってるから思考がネガティブよりだよ!
「弱味に漬け込むみたいに告白したくせに、守るどころか守られるばかりだから、頼り甲斐がないか?」
「ああもう、どうしたのカイゼルさん。昨日はあんなに強気だったのに」
まだちょっと恥ずかしかったけど側に戻れば手を取って握る。
「お前が逃げたから」
「あー、あれは、その、カイゼルさんがあんまりその」
言わなきゃ駄目か?駄目か?駄目だろうなぁもう。
「俺が?」
「甘ったるく名前呼ぶから恥ずかしかったんデス」
だぁぁあ!言うのも恥ずかしいよ!羞恥プレイ!
「本当に?嫌になったわけじゃないんだな?」
「信用ないなあ。もー、大好きです。嫌いになるなんてない。心配はしてるけど情け無いとか頼りないとか思うわけない」
「…良かった」
やっと笑みが零れた。
「何度も言うけど、私も皆んなもカイゼルさんが心配なだけだよ?だから休めっていうんだから素直に今は甘える!」
頼ったり甘えるのは悪い事じゃない。自ら何もしないで頼って甘えるだけは駄目だけど、1人でどうにもならない事を1人で頑張る必要は無い。
「甘える、か。マリにも甘えても?」
「当然でしょ。えーと、その?恋人、だし?」
自分で言うのまたもや羞恥プレイぃぃ!!恋愛初心者みたいなもんだから色々ハードルが高い!
「顔が赤いぞ」
「るさい!慣れてないんだから!」
くー!恋人同士のきゃっきゃうふふなんて未履修なんだから仕方ないだろう!
「なら、休む間は存分に甘えさせてもらうか。そうしたら慣れるだろう」
何する気だもうー!でも、毎回赤くなってるのもなんか悔しいしなあ。頑張れ私。
「う、受けて立つ!」
「色気がないぞ?」
カイゼルさんがくい、と私の手を引く。引き寄せられるままに近寄ると肩の辺りに寄り添うように顔を寄せた。
愛しげに見つめる瞳と視線が絡む。あまりに熱がこもりすぎててまた顔が赤くなるけど目が離せない。
すっとカイゼルさんが顔を寄せてきたと思ったらキスされた。優しいふわりとした、キス。
「マリ、愛してる」
っぁぁぁぁぁ!?愛してるってああ!恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!耳が溶ける!心臓ばくばくする!
羞恥が限界になって私は顔を伏せる。
男前からの甘いボイスの愛してる、破壊力凄まじい…!
「マリ?」
あー、また不安そうにする。浮き沈みの波が激しいな。ちょっと情緒不安定か。きちんと言葉にしないとだね。赤い顔は見せたくないけど頑張って顔をあげる。
「待って、嬉しいし幸せだし喜びしかないけど最大級に恥ずかしいからその言葉はたまににしてください」
「わかった。とりあえずは好き、くらいに留めておく」
カイゼルさんはくすくす笑って頭を撫でてきた。手つきの優しさにまた熱が上がる。愛しそうに撫でられるってこんな気持ちいいんだなあ。
「嫌なわけじゃないからね?」
「顔を見ればよくわかる」
恥ずかしい顔してるんだろーなー、私。他の誰にも見せられない!
「あー、もー。よし、訓練しよ」
落ち着かなくて身体を起こすと顔をぺちぺち叩いて気合入れる。皆んなを守る為にはもっと上手く魔力を制御出来るようにならないと。
「?何をするんだ?」
「魔力制御訓練。燃費良くしてもっと質の高い防御魔法使いたいんだよね。これとか」
私は部屋を中心に結界を展開する。敵意を持って入室すれば感知できるものだ。
「これをお城の敷地を囲うくらいにしたくて」
「城を全部か!相変わらず凄いなお前の魔力は」
「量だけが自慢だからね。今やると出来なくはないけど多分魔力が半分以上持ってかれちゃうと思う」
「やるなよ?」
私の言葉を聞いてカイゼルさんが眉を寄せる。
「やらないから大丈夫。これ以上カイゼルさんに心配かけたらカイゼルさん泣いちゃいそうだし」
「泣きはしないが心配で眠れなくなりそうだからやめてくれ」
苦笑いを浮かべるカイゼルさんにあははと笑いを零す。
さて、訓練訓練。手に魔力を込めて、身体の中の魔力を感じる。見た目凄い地味だけどこれが一番大事。基礎が重要なのはなんでも同じなんだよね。
始めた私の手をカイゼルさんがひょいと引く。何?どしたの?
「制御訓練なら手伝ってやる」
繋いだ手がじんわり暖かくなる。あ、カイゼルさんの魔力が流れてるのか。
「助かるけど、身体に負担かかるんじゃ?」
身体を休めなきゃいけないのに、大丈夫なのかな。
「いや、この程度なら問題はない。子供の頃から訓練をしてるんだ。基礎は息をするくらい簡単にできる」
そうかー。それができない私は子供以下か。そこそこぐさりとくるが仕方ない。魔力なんぞない世界から来たんだから。
「負担がないなら、お願いしようかな。でもちょっとでも疲れたらちゃんと言ってね?」
「わかっている。お前こそこれ以上心配させたら泣くだろうからな」
ぐ、言われた。泣いちゃった前科あるからなあ。
「なら始めるぞ。俺の魔力はわかるな?これを身体に馴染むように循環させるんだ」
ふわー、あったかーい。カイゼルさんの魔力優しくてほかほかするー。
「眠くなりそう」
「訓練にならないぞ?しかし…お前の魔力が10万というのは本当だな。何て量なんだ」
カイゼルさんがちょっと顔をしかめる。
「大丈夫?」
「大丈夫だ。マリが俺に対して全く敵意を持っていないからな。少し飲まれそうだったがすぐ馴染んだ」
「本当に?無理してない?」
飲まれたり逆流したりしたらカイゼルさんが危ないんじゃ。
「していない。お前が俺に敵意を向けるつもりがあるなら別だが」
「そんな事するわけないでしょ!」
「なら問題ない」
じっと見て様子を伺うけど、辛そうだったり苦しそうだったりはしない。一応大丈夫かな。
けど私の魔力はやっぱ規格外かあ。この魔力循環、ほいほい他人とやらない方がいいね。
「俺以外とこんな真似はするなよ」
私の思考を読んだようにカイゼルさんが言う。
「わかってる。相手に危害を加えかねないからでしょ」
「それもあるが、魔力量が知られるというのは弱点でもある。それに…」
ん?他にまだ何かあるのかな?
「誰かに身体を触れさせたくないし、魔力を交わらせたくない」
甘い声。ふわぁぁぁ!?ちょ、だからいきなりそういうのやめてってもう!
「カイゼルさんて、案外独占欲強い?」
「マリが色々無防備過ぎるだけだ」
そうかなぁ?カイゼルさんが過保護なだけしゃないかな?
なんて考えながら魔力制御を続ける。にしても本当にほわほわする。優しく感じるのはカイゼルさんが優しいからなのかなあ。
そんな感じで穏やかに、でも時々カイゼルさんの糖度に撃沈しながら過ごして居たら人の気配がした。
ん?誰だろ?魔力はかなりある人みたいだなあ。うーん、まだ個人判別は出来ないや。
「…兄上?」
魔力の主にはカイゼルさんが気付いた。え、お兄さんがきたの?
カイゼルさんが呟いてすぐ、マートルさんが入ってきた。
私達をみてにっこり笑う。
「お邪魔だったかな?」
ん?ああああ!カイゼルさんと手繋いだままだ!ってあれ外れない?カイゼルさん?こら?
「何故兄上が。しかもお1人ですか?」
本当だ。護衛対象も居ない。完全に1人だ。
「陛下と殿下に追い出された。お前はいつになったらカイゼルの見舞に行くんだとね」
王様もフレイ様も優しいなあ。近衛として離れられないマートルさんをそうやって行けるようにしてくれたんだ。
近づいてきたマートルさんは私とは反対側のサイドに来るとカイゼルさんを見る。
「…流石に今回は肝が冷えた」
静かに落とされた声は胸が締め付けられるような声。安堵の中に恐怖が僅か感じられた。
大事な家族が死にかけたんだ。聞いた時マートルさんがどんな気持ちでいたかが垣間見えた。
「申し訳ありません。兄上にまで迷惑をおかけして」
「迷惑などあるわけがないだろう。弟が死にかけて心配しないはずがない」
家族に何かあったら。私ならもっと動揺するだろうな。マートルさんは強いな。けど、今回は本当に怖かっただろう。
それきり黙ってしまったマートルさんをカイゼルさんはどう声をかけていいかわからないみたいで身体を起こそうとする。
「起きなくていい、寝ていろ」
気付いたマートルさんが軽くカイゼルさんの身体を押さえる。
「殿下から聞いている。身体に力が入らないのだろう?いいから休め。いや…頼むから休んでくれ」
「兄上…」
この前見せてくれていた優しい笑みがずっと消えている。任務に就いてる間は気を張っていられたけど、こうして顔をみたら緩んじゃったんだろうな。
「俺は、大丈夫です兄上。マリコ様が助けて下さいましたから」
「ああ。マリコ様にもお礼をお伝えしなければならないな。本当にありがとうございますマリコ様」
「私は私の出来る精一杯をしただけです。それに私にとっても、その…カイゼルさんは誰よりも大切な人ですから」
助けられる力があって良かった。本当に。
「良き伴侶を得たな、カイゼル」
って何故知ってるんですかマートルさん!あ、笑みが戻ってる。良かったけどだから何故知ってる!
「殿下から聞きましたよマリコ様」
顔にでてた!?つかフレイ様ぁぁぁ!
「最後までしたのかな?」
「だから、そんな不埒な真似はしてません!」
またカイゼルさんが怒る。これ暫く同じネタで遊ばれるなあ。
「興奮すると身体に良くないぞ?」
「誰がそうさせたんですか全く」
あはは、いつもの2人に戻った。マートルさんも安心したみたい。
「では、お邪魔な私は退散するとしよう」
邪魔とかないんだけど、マートルさんもあまり長く離れてはいられないのと、カイゼルさんの身体を気遣ってるとわかったから引きとめない。
マートルさんは立ち上がって行こうとする。
「兄上」
カイゼルさんが声を掛けた。
「来て下さってありがとうございます」
「大事な弟だ、当然だろう。何かあれば力になるから1人で無理はするんじゃないぞ」
ぽんぽんとカイゼルさんの頭を撫でてから私に綺麗に騎士の礼をしてマートルさんは出て行った。
「子供じゃないんだが」
撫でられた頭を触りながら困惑するカイゼルさん。
「マートルさんも心配だったんだから仕方ないよ」
カイゼルさん、沢山愛されてるね。
「早く体調を戻さないとだな」
「そうそう、それが一番。よし、今日はもう休もう」
訓練はお仕舞いにしようとして手を離そうとする。そういやマートルさんが居る間ずっとこのままだったよね…?ぐぁぁ!恥ずかしい!てか何故外れない!
「訓練が終わったら握ってくれないのか?」
ぐ!しょんぼりするとか卑怯なー!
「もー、急に甘えるんだから」
「甘えていいんだろう?」
甘さが!また!むあああ!恥ずかしい!でもあー、もー!許す!
側にいる間は訓練じゃなくても握ってるから安心してねカイゼルさん。




