美嘉 後編その3
正門で戦っている者達にモンスターの大群を前にした時の焦燥感はもうなかった。
あれだけいたモンスターの群れはみんなの頑張りでアスファルトが見えるくらいに散発となり、余裕が出てきた正門組は交替で休憩を取っている。
戦闘開始から既に5時間が経過してのことだ。
「美嘉先輩、お疲れ様です!」
私も2度目の交替の為、臨時で設けられた休憩所に移動すると正門で遠距離班の指揮をしていた後輩君に声を掛けられる。
「外の様子はどうでした?」
「かなり数が減ってきてるから後一時間もすれば、防衛戦は終わるんじゃないかしら」
ここに来る前に見た時は中型や大型のモンスターが迫って来ていたがことごとく私と翠が創った茨の壁に絡め取られて、遠距離班の良い的になっていたことを告げる。
「そうですか、じゃあ僕らはの出番はもうないかもしれないですね……」
休憩を取ったことで余力が出てきたのであろう。リーダーの後輩君は少しだけ残念そうに肩を落としていた。
「リーダー!せっかくここまで頑張ったんだから俺達が最後の良いところ貰いに行きましょうよ!」
「いいじゃん!それ!」
「賛成!賛成!」
何処にでも調子のいい奴らはいるようで休憩所に笑いが起きる。
みんな呑気なように感じるが終わりの見えない防衛戦をここまで耐えるのはかなり辛かった事が彼等の笑う膝やいつまでも重い腰から見て取れたが美嘉は何も言わない。
彼等の頑張りがもうすぐ報われるのだ。ここで水を差す必要はないだろう。
「よし!それじゃあ、今頑張ってる奴らには悪いけど、俺達が最後に華を飾らして……」
ドオォォーン!!
「うわぁっ!?」
「きゃあ!?」
爆発音と共に正門から少し離れた場所にあるこの休憩所にまで爆風や瓦礫が飛んできた。
爆音がした方に目を向けると土埃が酷く、視界を遮っている。
休憩に入りかけていた紅、蒼、翠が警戒体勢を取り、緊張が伝わってくる。
土埃が収まり始めると正門の被害が徐々に露わになってきた。
「そんなっ!?」
さっきまで自分が戦っていた場所を見て、悲鳴に近い声が出る。
目の先にあったはずの正門は防壁と共に跡形もなく、吹き飛んでおり近辺で防衛戦をしていた者達は直撃だったのか、瀕死の状態で地面に倒れていた。
「みんな!救助するぞ!」
「おう!」「はい!」
状況をいち早く把握したリーダーは震える膝に力を入れると誰よりも早く駆け出す。
そんなリーダーに続くようにみんなは歯を食い縛り、力の入らない足を前へ前へと進ませる。
私は救助に向かうみんなを一瞥するとまだ収まらない土埃の向こうを見据えて歩き出す。
内心では私もみんなを助けなければと良心が騒ぐが不穏な気配から意識を外すことが出来ないでいた。
「ごめん、みんな。私は救助を手伝えない」
必死に仲間を救おうとしているみんなの横を通り過ぎながら呟く。
「……だけど、コイツは絶対に許さないから!」
土埃が晴れ、壊された正門の外にはコウモリの翼を持ち、闘牛のような角を生やし、三日月型に口を歪める悪魔がいた。
美嘉は初めて悪魔を見て、これまで戦ってきたモンスターとは生物としての存在の格が違うことが解った。
それはテイマーとしての本能でもあり、自分の今のレベルではこの悪魔をテイムすることは敵わないとも思い知らされる。
「み、美嘉先輩……た、戦っちゃ駄目だ……」
悪魔は人の恐怖を喰らい、人に恐怖を振り撒く。
存在の格が劣る者にとって、悪魔という存在自体が恐怖の対象となる。
後輩君は防衛戦で心も身体も疲弊していたこともあり、悪魔から放たれる恐怖波動を受け、心が恐慌寸前まで追い込まれるが無理矢理に自身の恐怖を抑え込み、尊敬し憧れる先輩美嘉に振り絞った声で警告した。
だがその意見を美嘉は通さない。いや、通せない。
ここで自分がこの悪魔を何とかしなくては確実にコミュニティの皆は殺されると思ったから。
「みんな、防衛戦で疲れて辛いと思うけど、出来るだけ早くここから離れて…………急いで!」
美嘉の悲壮な言葉を受け、みんなは仲間を抱えながら最後の力を振り絞り、正門から離れていく。
しかし、美嘉の前に佇むのはモンスターの中でも悪名高き悪魔。
こちらの都合良く、撤退などさせてくれなかった。
「逃ガスモノカ!」
背中の翼を羽ばたかせるとそれが予備動作だったのか素早く加速し、美嘉の横を通り抜けようとして最後尾にいた後輩君を狙う。
「っ!?蒼ぁ!翠ぃ!止めて!!」
私の命令で翠は蔦を生やし、悪魔の足を取ろうとするがヒラリと躱されるがその僅かな時間に蒼は氷のブレスを吐く。
蒼の吐いた氷のブレスは見る見るうちに固まり、悪魔の前に氷の壁を創り出す。
「小癪なヤツラめ!」
悪魔は急に立ちはだかった氷の壁に阻まれて翼を止める。
蒼と翠が稼いだ時間を使い、私と紅で悪魔を牽制するように囲む。
「ここから先へは行かせない!」
バシンッ!
腰に吊るしていた鞭を解き放ち、悪魔の手前のコンクリートを抉り、礫を飛ばしてやる。
「人間ゴトキが、ナマイキだ!」
挑発によって、標的を後輩から私へと変えた悪魔はその場で浮遊し、目の前の生意気な女をどんな風に痛ぶってやろうかと残酷な想像をする。
元から吊り上がっていた三日月型の口が更に上がると悪魔とコミュニティの存続を賭けたラストバトルが始まった。
次回も水曜日の同じ時間に投稿します。
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