66話
巌田3等陸佐との話の主導権を握ることには成功したと思う。ならば、ここで畳み掛ける。
「それと」
巌田3等陸佐は頭の中で誰にアイテムボックスを習得させるかを思案してしまい、優斗の発言に遅れる。
「出来るだけ俺達2人をここに帰らせてもらえませんか」
この条件こそが俺達にとって、メインなのだ。
「それはどれくらいの頻度を希望ですか」
「できれば週一日は欲しいです。最低でも月に二日は保証して欲しい」
巌田は内心で黙る。
今回はたまたま、優斗と陽輝の監視任務を受けていた経緯があり、また対象の家に比較的近い守山基地にいたということで2人へ協力要請をするよう命じられただけだった。
救援を待つ者は全国におり、この事態に政府は混乱し、自衛隊も警察も上手く統制が取れているとは言い難い。
上官からは2人に協力を要請するように指示されたが協力関係が結べた後にどこの救援に向かわせるかは自分の権限では限度がある。
「それも協力の条件に含まれますか」
「はい」
優斗の目を見て、巌田の直感が囁く。
「わかりました。私が責任を持って、上層部にその条件を飲ませます」
彼等の協力なくして、事態は収束しないだろうという直感を信じる男がそこにはいた。
条件を呑んでもらうことに成功し、2人のやり取りを見ていたメンバーは胸を撫で下ろす。
「よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ協力要請に応えて頂きありがとうございます。では各地に配る物資の確保にはまだ時間が掛かるので3日後に迎えに来ます」
それだけ言うと巌田3等陸佐達は帰っていった。
巌田3等陸佐達が帰ってから3日間の猶予があることがわかったのでその間の期間を有効に使う為、俺と陽輝はサイドステップを踏み続ける。
陽輝はリビングの入り口で俺はキッチンの家事経路を使い、残りの4人は思い思いに過ごす。
「なあ・・・優斗・・・3日間・・・これ・・・やるのか?」
「いや・・・3日目・・・ダンジョンで・・・レベル・・・上げ・・・しようと・・・思う」
変な喋りだが勘弁してほしい。なんせ俺達はサイドステップ中だから会話が途切れ途切れになるのだ。
そんな俺達を美嘉ちゃんと沙耶ちゃんは珍獣でも見るような目で見ていた。
達也さんと直子さんは新しい拠点にする場所の候補を話し合っている。
こんな風に過ごせる日々も残り僅かとなっていた。
▼
協力要請までの猶予であった3日間が過ぎた。
3日目は予定通り、皆のレベル上げを優先し多少の無茶はしたが全員がレベル15を超えることが出来た。
特に達也さんは鬼気迫る勢いで一人だけレベル20を超えている。
スキルレベルも全員が平均で4レベルに達しており、余程の事態にならなければ難を逃れられるであろう。
朝、自宅の前に自衛隊の車が到着する。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
車から出てきた巌田3等陸佐はビシッと立ち、挨拶してくる。その隣にはいつもの笑顔を張り付けた部下の人もいる。
「本日よりよろしくお願いします」
「「はい」」
「では問題なければ、出発したいと思うのですがよろしいですか」
俺と陽輝は問題なかったので玄関から見守る皆に挨拶すると車に乗り込む。
昨晩、俺と陽輝の送別会を行っているので引き止められたりはしない。
車に乗り込み、走り出すと助手席に座る巌田3等陸佐が話し出す。
「守山基地まで時間があるので今後の説明をさせてもらいます」
「その前にひとついいですか」
口を開いたのは陽輝。運転席の笑顔さんとバックミラーで目が合った。
「どうぞ」
「これから俺達は協力し合っていく関係です。そこで言葉使いを改めないかと思います」
陽輝が言いたいことはわかる。俺も正直、この調子での会話に息苦しさを感じていた。
巌田3等陸佐は一瞬だけ逡巡したが俺達が言いたいことを理解すると口調を変える。
「わかった。私も国に仕える手前、体裁というものがあったので少々堅苦しい言葉を使っていたがこれからはお互いに仲間として接しさせてもらう」
「それでお願いします。ただ巌田さんは年上なので最低限の礼儀はとらせてもらいますね」
「そうだな、ウチの奴らにも見習わせたいもんだ」
バックミラーから見える笑顔の人の表情に苦い色が混じった気がした。
「それじゃあ、今後の予定を言わせてもらう」
俺と陽輝は小さく頷くと説明の続きを待つ。
「2人には別行動してもらい、各地域の避難所に物資を届けつつモンスターの討伐を頼みたい。勿論、我々も共に行動する」
大体、予想通りなので俺達は特に口を挟んだりはしない。
「2人が別れて行動することに不安があるかもしれないが事は急を要する。すまないが理解してほしい」
「その辺りは陽輝とも話して、想定内なので問題ないです」
「助かる。それから私と今、運転している草薙1等陸尉がそれぞれ2人に同行する」
「2人ともよろしくね」
草薙さんは運転中だから軽く片手を挙げて挨拶してくる。
「すまんな、こんな奴だが腕はそれなりに立つんだ」
「構いませんよ、俺達も草薙さんくらいフレンドリーなら接しやすいんで」
「いや〜、そう言ってもらえると助かるね」
巌田は内心で溜息をついていたが2人がいいならと容認するのであった。
守山基地までは30分程でついた。
車内ではこれから行う物資輸送についての概要の説明を聞いた。
俺達は主に県内の物資輸送とモンスター討伐を担当する。が、応援要請があれば、他県にも足を伸ばす予定らしい。
ただ現在、通信が限られ各現場には大なり小なり混乱が起きており、情報が錯綜している為、細かい事が解り次第とは言われたがどうなるかはわからないらしい。
基地には積み上げられた物資と疲れ果てていると思われる自衛隊員達が座り込んだり、人目も憚らずコンクリートの上で寝ていた。
「みっともないところを見せて悪いな」
「いえ、そんなことないです」
彼等はこの非常事態に誰よりも働いた人達だ。
それこそ、基地内には避難してきた人々や救助した人達で一杯になり、彼等の寝れる場所がないことぐらい想像がついた。
俺達はそんな彼等に敬意を払いながら巌田さんに連れられ、物資の方に向かって歩いていく。
物資の前にはこれから俺達と一緒に行動すると思われる人達と自衛隊とは違う作業着を着た男がいた。
作業着を着た中年男性は俺と陽輝を見つけるや値踏みするように下から上へと見る。
「・・・ふむ。見たことない装備だが並みの装備ではなさそうだ。それこそ、我々が造る装備とは段違いの性能がありそうだ」
「御神さん、彼等については詮索しない約束です」
巌田さんの言葉には険があった。
「おっと!すまない。つい職業柄、装備を見るとどうしてもね」
俺は自身の装備の性能を一目で見抜く中年男性に警戒心が高まるが陽輝はまた違うことを考えているようだった。
「ゴホン!優斗君。彼は自衛隊に協力してくれている民間企業の代表だ。そして、陽輝君は確か面識があったね」
「はい、そうですね」
何!?陽輝知り合いなの?どういう繋がりという俺の視線は無視されて話は進んでいく。
「初めまして、御影君。私は武器、防具の製造に携わる株式会社『MIKAMI』の代表。御神けんたろうです。そして、陣内君は久しぶりだね」
「そうですね、御神さんもお元気そうでよかったです」




