65話
俺達に協力要請をしにきた巌田3等陸佐はお願いだけすると俺達にも考える時間が必要でしょうと言い、返事は後日となった。
世間が大変なことになり、自衛隊も大忙しで猫の手も借りたいだろうにわざわざ俺達に考える時間をくれたのは監視したことに対するお詫びなのか、それとも少しでも印象を良くしようとしたのか…。
彼等が帰った後、リビングでは協力するかしないかの話し合いはされなかった。
それは全員が協力することについて、否はなかったからだ。
では何を話しているかと言えば、どこまで協力するかについてだ。
「俺は大地の旅団の人達にしたようにスキルクリスタルを渡そうと思う」
そう言うのは人一倍責任感が強い陽輝だ。
「でも、『あれ』の存在がバレたらどうするの?」
心配しているのは美嘉ちゃん。ちなみに『あれ』とはダンジョンコアのことだ。
巌田3等陸佐達が帰った後、俺達は慎重さを欠いていたことを痛感し、ダンジョンコアという固有名詞を使うことを禁じた。
「俺も陽輝に賛成だがあれがバレるリスクを避ける為にも限度は決めた方がいいと思う。それともしもの場合に隠れる場所とか全員がバラバラになっても集まれる場所を作っておくのが良いと思う」
「私も優斗君に賛成だ。今は何が起こるかわからない。不測の事態に対応できるように準備しておいて、損はないだろう」
陽輝のお父さん、達也さんが肯定してくれたおかげで心配そうに話の行方を見守っていた直子さんと沙耶ちゃんも頷く。
陽輝も異存がないようで納得している。
後はどこまで協力するかだ。
「優斗はどこまで協力すれば、良いと思う?」
俺は少し考えると自分の考えを言う。
「俺はまず自衛隊や警察にアイテムボックスのスキルクリスタルを渡そうと思う」
俺の考えに対して、最初に口を開いたのは達也さんだ。
「なぜアイテムボックスからなのか、聞かせて貰えるかい?」
俺が話しやすいように問い掛けてくるところは流石、年長者と言ったところだ。
俺は達也さんを見ると小さく頷き、理由を告げる。
「巌田3等陸佐さんは最初、俺と陽輝に協力要請をしに来たと言っていた。そして、最後に戦闘力とアイテムボックスの力を貸して欲しいと言った」
「そういうことか!」
陽輝は理解したようだが女性陣はまだ、ピンときていないようなので続ける。
「つまり、巌田さんは俺と陽輝に輸送が困難な地域を手伝ってもらいたいんじゃないかと思う。自衛隊でもアイテムボックスの有用性は知ってる奴は知ってるはずだし、俺と陽輝ならモンスターの襲撃を受けたとしても退けられると踏んでいるじゃないかと思う」
「優斗の考えは俺達が困難な地域を担当して、アイテムボックスの使い手を増やして、その他の地域の輸送効率を上げようって腹づもりだな」
その考えもあるにはあるんだが本当の目的は違うんだよ、陽輝。
「優斗君、それだけじゃないんじゃないかい?」
ここでも流石と言うべきか、達也さんは俺の考えを見抜いている。
「陽輝の言う通り、少しでも困っている人達を助ける為には物資を大量に運べるアイテムボックス使いは多いに越したことはないと思うけど、俺はアイテムボックス使いを増やすことで俺と陽輝の負担を減らして、最初に言った隠れ家を確保する時間を少しでも作りたいと思ってる」
もし、俺の予想通り輸送関係となれば、全国を引き摺り回される可能性がある。そうなれば、ここにいるメンバーと離れることも多くなり、いざという時に守れないかもしれないと危惧していた。
「優斗さんと離れることになるんですか・・・」
心配そうに声を上げたのは沙耶ちゃんだ。
「まだ、確定ではないが俺はそうなる可能性が高いと思う」
「そんな・・・」
「だから、もしもの為に『あれ』は達也さんに預けようと思う」
「「「っ!?」」」 「いいのか?優斗」
ダンジョンコアは俺が手に入れ、これまで散々世話になってきた俺のアイデンティティでもある。
それを簡単に渡すことに皆は驚いている。一人を除いて。
「わかった。引き受けよう」
達也はこれまで年長者として、保護者として優斗と陽輝の力になれない自分に自責の念を感じていた。
それはセカンドフェイズに移行してから純粋な力でしか解決出来ない事柄が増えたから仕方なかった部分もあるがそれでも大人としての意地がある。
今、2人は2人にしか出来ない事を成そうとしている。
なら2人を支えてやるのも2人が残る者達を心配しないで済むように自分が頑張る時だと決意していた。
「もし、2人が離れてもその間は私が必ず皆を守る」
断言するその姿はまさに頼りになるお父さんの姿だった。
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翌日、巌田3等陸佐に返事をするため、渡されていた通信機で連絡を入れる。
残念ながら昨日まで使えていたネットや電話は繋がらない状態が続いており、連絡が取れなくては困るということで渡されたものだ。
連絡すると10分もしないうちに到着したようでチャイムが鳴る。
昨日の茶菓子のくだりリベンジを企む俺を余所に美嘉ちゃんが先にチャイムに出て阻止された。
全員が昨日と同じ位置につくと巌田3等陸佐が問い掛けてくる。
勿論、美嘉ちゃんはソファーに座る天丼をして達也さんに指摘された。
どうもこの陣内兄妹はお笑いに走る傾向がある。
「それでは返事を聞かせて貰えますか」
「俺も陽輝もあなた達に協力しようと思います」
俺の言葉を聞いて、巌田3等陸佐は安堵の雰囲気が漏れるが簡単には安心なんてさせない。
「ただし」
続く、俺の言葉で後ろの笑顔さんがピクっと反応する。
「条件があります」
「・・・聞きましょう」
昨日、協力をすることを決めた後、どこまで協力するかも話し合った。
アイテムボックススキルは4人分渡す。
「まずは俺達が秘密にしていること言いたくないこたは聞かないでください」
「・・・わかった」
「了承してくれたのでこれをどうぞ」
俺はアイテムボックスからテーブルの上にアイテムボックスのスキルクリスタルを4つ出す。
昨晩、俺と陽輝で必死にサイドステップをした結晶だ。
「こ、これは?」
「アイテムボックスのスキルクリスタルです」
「なっ!?こ、これをどこで!?い、いやなんでもない。これを我々にですか」
これまで動揺すら見せなかった巌田3等陸佐も流石にこれには動揺していた。
「はい、俺達が協力する証だと思っておいてください。それと習得させる人は自衛隊か警察の人。巌田さんが信頼出来る人でお願いします」
「わ、わかりました」
巌田3等陸佐と笑顔は度肝を抜かれていた。まさか輸送方法の目当てにしていた相手から目当てのスキルが貰えるなんて思ってもいないことだったからだ。
「アイテムボックスに関しては口外しても良いですがくれぐれも出処だけは黙ってて下さい。もっと欲しいと言われても今はそれが最後なので・・・」
「わかりました。信頼出来る者に託すと約束します」
優斗が言うことは本当で今、ダンジョンポイントはほぼ残っていない。
というのもアイテムボックス4つと交換した残りのポイントはここに残されることになる者達の強化に充てたからだ
優斗と陽輝がここを発った後、達也、美嘉、沙耶、直子達は自身の更なる強化と全国に配るスキルクリスタルや場合によっては食糧を確保することになっている。
それが昨日、話し合った結論。
そして、どう話を持っていけば、自分達に不利がなく負担が少ない条件を付けられるか。
頭に出したアイテムボックスクリスタルは効いているようで第1段階は何とかなったと優斗は内心でホッと息をつくのであった。




