第60話
長かった移動も終わり、守山基地に着いたのは陽が暮れてからだった。
しかし、黒犬部隊に休息はない。
隊員達は基地に着くなり、手配してあった1BOXタイプの車に荷物を積み込み始めるが一人、ナイフ使いの男は手伝うこともせずに隊長に話し掛けていた。
「それで潜伏先はどうするんですか?隊長」
「それはいつものように現地に赴いてから決める」
「まあ、それが妥当ですかね」
そういうとナイフ使いは肩をすくめ、手配した機器の確認を行っている隊員の手伝いにいった。
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1回目の荷物の積み込みが終わり、名古屋の地理に疎い彼らはカーナビを使い陣内陽輝の自宅近くを目指す。
さいわい、陽輝の自宅はダンジョンからそこそこ近いこともあり、近隣住民は疎開していき、空き家と化した家が多くある為、初日の今日は拠点となる家を探すことが第一目標となっていた。
カーナビを当てに走ること、数十分。
陽輝の自宅に近付くと一旦、車を止めさせて隊長は今回の作戦の擦り合わせを行う。
「俺達はこれから陣内陽輝を確認してくる。お前達は予定通り、ここで一時待機だ」
車内に残されたのは後方支援担当の『オタク』に現場担当(実戦担当)の『酔っ払い』と『笑顔』だ。
彼らの呼び名は当初、ナイフ使いが付けたニックネームみたいなものであったが今ではコードネームのようになっていた。
「では隊長、監視用カメラを渡しますので上手いこと、設置してきてください」
隊長はオタクに頼まれると、小型の監視カメラを受け取り、背中に背負うリュックに詰め込んだ。
「1時間後にこちらから連絡する」
「「了解」」
簡潔に要件を伝えると二人は夜の闇へと消えていった。
人の気配がしない街を足早に進む二人。人が見当たらないとはいえ、警戒を怠ったりはしない。
隊長が前方を警戒し、ナイフ使いが後方を警戒して進むこと、誰かに見られることもなく、陽輝の自宅である陣内建設会社が視界に入る位置まで来た。
ここからより警戒を深めて、手渡された監視カメラを設置する場所を二人で探すがものの1分でちょうど良い場所を見つける。
陽輝の自宅の入り口がまる見えでなおかつ、家が空き家だったこともあり、道を挟んだ斜め向かいの民家に設置した。
陽輝宅の人の出入りが監視出来る場所にカメラを設置すると素早く、その場から離れて近くに建っていた丁度良い立地面のマンションの上層階を今回の潜伏先に決める。
ここで空き部屋を見つけると静かに浸入して潜み、監視を開始する。
当然、不法浸入であり鍵はナイフ使いがピッキングをして開けた。
両隣の部屋に人がいない事も調査済みではあるが慎重にマンションのベランダから陣内建設会社を見張り、時計を確認すれば予定していた1時間が経とうとしていた。
「隊長、そろそろ予定の時間ですよ」
ナイフ使いに促され、待機組に連絡を入れる。
今回の潜伏先の場所を伝えると程なくして車が到着すると手分けして迅速に機器を室内に運び込み、オタクが機器、主に監視用に使うパソコンを次々に接続し、一般人ではなかなかにお目にしないアンテナを設置する頃には1部屋が機器で埋まりかけていた。
その間も隊長は双眼鏡片手に監視を怠ったりしない。
運び込みが終わると新たな潜伏先には隊長とオタクだけを残して3人は基地に残した荷物を取りに行くのであった。
こうして翌日の朝方には準備が完了したが彼らは知らなかった。
陽輝が前日から強化合宿といって1ヶ月以上、御影優斗の家に引きこもり、姿を現さないことを。
その為、これからの1ヶ月間は彼らの主な仕事は監視カメラのバッテリー交換になるのであった。




