第59話
探索者監視本部で新たに出された指令。
『陣内陽輝』の特別監視。
この指令を伝える為に部下の男は探索者監視本部ビルにある待機室へと向かっていた。
しかし、その足取りは重い。というのもこれから会う相手はひと癖もふた癖もある『黒犬部隊』。
生粋のデスクワーカーである彼は現場から叩き上げたような粗暴な輩が苦手なのだ。
待機室の扉の前に立ち、ノックしようとするがその前に中から声がかかる。
「カギなんてかかってないから勝手に入ってこい」
ノックをしようとしていた手が宙で止まったまま、溜息をひと息吐くと意を決したようにドアノブを回して、部屋の中へと進む。
この待機室は名目上はこのオフィスビルの警備員の休憩室となっているが実際は『黒犬部隊』の溜まり場となっていた。
部屋の中では奥のソファーに腰掛け、手を頭の後で組みテーブルに足をかけて寛ぐ、大柄な強面が迎えてくる。
その手前には入念にナイフの手入れをしている目がイッちゃってる者や昼間から酒を浴びるように飲んだのだろう空のビンを山のように積み上げて爆睡している者、ニヤニヤと不愉快にもこちらの顔を窺っている者、パソコンと向き合いひたすら何やら呟いている者。
そんなヤバイ彼らを一瞥するとこの部隊の隊長である大柄な強面が姿勢を改めることもなく、さっさと用件を言えといわんばかりに視線から圧力を放ってくる。
その圧力に負けつつ、主任からの指令を伝える。
「本日、主任より新たな辞令が下りました」
部下の言葉に隊長の目が細められる。
「・・・ほう」
隊長の吐いた返事がきっかけか、一人を除いて部屋にいた面子から一斉に視線を向けられ、怯みながらも続ける。
「『黒犬部隊』は本日より特別監視対象となった『陣内陽輝』の調査の為、名古屋に向かってもらいます」
「特別監視ねぇ・・・」
誰が言ったのかその言葉はすぐに空気へと溶け込んでいった。
「詳細は文書で追って通知しますので出発の準備だけはしておいてください」
それだけ言うと部下は逃げ帰るように部屋から出て行った。
部下の男が部屋から出ていくとナイフをいじっていた男が隊長に話を振る。
「特別監視とは穏やかじゃないですね、隊長」
言葉とは裏腹に顔がニヤついている隊員。
「そう言うわりには顔が嬉しそうだな」
「そりゃあそうですよ。最近は警備の仕事ばかりで正直、退屈だったんですよ。しかも、今回はあの『雷神』が相手となれば、なかなか楽しめそうじゃないですか」
しゃべり終わるや持っていたナイフを壁に掛けてある、的へと投げる。ナイフは綺麗に的の中心を捉えていた。
「期待してるところ悪いがまだ、戦うと決まった訳じゃないからな」
言葉では否定しつつも隊長と呼ばれる男の顔にも喜色の色が浮かんでいる。
「とにかく、仕事の準備にかかるからそこで寝ている馬鹿を起こせ!」
「了解!」
隊長の号令と共にさっきまでだらしなくしていた隊員達がきびきびと動き出す。
「必要な機材や嵩張りそうな物は守山基地に送って現地で受け取れるように手配しておけよ」
こうして命令書が届くまでに粗方の準備を終えるのであった。
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黒犬部隊は自衛隊が所有する自衛官運搬用トラックに乗り、東名高速を走っていた。
車内では隊長が渡された命令書と陽輝の情報が書かれた書類に再び目を通していた。
「隊長、そんな紙切れを何度も見て、何か気になることでもあるんすか?てゆーか、乗り物酔いしますぜ」
長年、同じ部隊で過ごし、実力を認め合った仲であり、多くはないが共に死線を越えた友でもあるからと相変わらず、上司である隊長に対して不遜な態度のナイフ使いの男。
「・・・どうにも名古屋に近付くにつれて、俺の【直感】スキルが騒ぐんだよ」
この言葉に隊員全員がギョッとした顔をして、隊長を見る。
それもそのはず、今までこの隊長の【直感】スキルによって、隊員達は何度も危険を回避した経験があった。
「隊員、それはヤバイ感じなんすか?」
口を開いたのはやはりナイフ使いの男。
「いや・・・、皮膚がざわつく位でヤバイ程ではないな」
それを聞いて、わずかながら落ちつく隊員達。
「どちらにしろ、今回の仕事は一筋縄ではいきそうにないようだ。お前達も気を引き締めて挑んだ方が良いぞ」
隊長の言葉に隊員達は一層、気を引き締めるのであった。
当初、守山基地ではなく、小牧基地と書いておりましたが小牧基地は航空自衛隊基地とのご指摘をいただきましたので守山基地に変更させていただきました。




