第58話︰監視
セカンドフェイズに移行した時から遡ること、およそ3ヶ月前。
都内某所にあるオフィスビルの一室では一人の部下から不思議な報告があげられていた。
「失礼します、主任。少々報告したい事があるのですが?」
主任と呼ばれた男は忙しいのか書類から顔をあげることなく、ぶっきらぼうに部下へ報告するように促す。
「なんだ?」
部下に至ってもいつもの事なので気にせずに報告へと移っていく。
「重傷で入院していた元監視対象である『No.13陣内陽輝』が先日、完治し退院したとのことです」
主任と呼ばれた男は部下から告げられた信じがたい報告に眉をひそめて読みかけていた書類を机に置くと報告の内容を再確認する。
「『陣内陽輝』と言えば、四肢を欠損して探索者に復帰するのは絶望的と見なして、監視対象から外したはずだが完治とはどういうことだ?」
主任としても陣内陽輝はこの当時、世界で唯一『雷魔法』を所持している探索者として有力視されていた為、覚えが良かった。
「そのおっしゃる通りですが先日、名古屋にある病院から四肢を欠損した探索者が元通りに完治したとダンジョン対策本部へ報告があり、本部が調べたところ、元監視対象であった『No.13陣内陽輝』と判明。こちらに彼の情報を照会するよう本部から要請が来ております」
現在の医療では完全に欠損部位を復元完治する技術は不可能であり、この報告は信じがたいものだったが冗談で本部も要請などしてくる訳がないので素直に要請に答えるよう伝える。
「わかった。『元監視対象No.13』のデータ照会は要求通りに本部の方へ送ってくれ」
「わかりました」
「それからもっと詳しい情報が知りたい。本日より『元監視対象No.13陣内陽輝』は特別監視対象とし、現場にも人を送り、最優先で監視させろ」
「わかりましたが誰を送りますか?『監視対象No.13』は索敵のスキルを所持している可能性が高かったかと記憶していますが」
「そうだな・・・。黒犬部隊を行かせろ。あいつらならバレることはないだろう」
「ではそのように手配しておきます」
指示も終わり、部下が手配の為に部屋を出ていくと主任は欠損回復について、いくつかの可能性を自分なりに考え始めた。
「(我々が把握している『陣内陽輝』のスキルは3つ【剣術・索敵・雷魔法】)」
これは組織内部の人間を陽輝及びその近辺に送り込み、情報収集をさせて、時にはダンジョン内でも監視して徹底的に調べさせたので間違いないと思われる。
「(我々が把握していないスキルをまだ持っていたのか・・・)」
冷めたコーヒーに口をつけてさらに深い思案を浮かべる。
「(もしくはダンジョンで欠損を回復する、何かしらの魔道具を陣内陽輝は得ていたのか、または第三者による高位の回復系スキルか)」
回復魔法自体は既に確認されてはおり、傷を治す程度ではあったが専門家達はスキルレベルが上がれば欠損も治せるとの見解を示していた。
「(今はいくら考えても結論は出ないか・・・)」
今は調査の結果を待つしかないと自分自身ですら気付いていない興奮を抑えると大人しく机に置いた書類を手に取り、また目を通し始めるのであった。
そんな彼らはいったい何者なのか。
表向きには『ダンジョン観測室』として活動しており、普段は日本全国にあるダンジョンの入り口からダンジョン周辺に定点カメラを設置して大氾濫が起きないか観測している。
しかし、裏では公には公表されていない政府機関の組織『探索者監視本部』として活動していた。
目的はダンジョンで力を得た探索者達、特に強いと思われる探索者の監視を主な業務として。
これは力を得た探索者が自分たちにとって危険分子となるのではと危惧した政府により、創られた組織であり、そんな彼らに陽輝は目を付けられてしまったのである。
外は今にも雨が降り出しそうなほど、暗く厚い雲に覆われ、まるで陽輝の行く末を現しているかのようだった。




