第2話:探索
現在、日本にあるダンジョンは全部で7つある。
北から北海道、新潟、東京、愛知、大阪、福岡、沖縄の7つだ。
7つのダンジョンにはそれぞれ個性というべき特徴がある。それは出現するモンスターが大きく種類によって分かれているのだ。
北海道のダンジョンはスライムやゴーレムといった無機質系統、新潟は昆虫系、東京は竜種系、愛知は獣系、大阪は悪魔系、福岡はゴブリンやコボルト、オークといった邪人系、沖縄はアンデット系といった感じだ。
俺が通っているダンジョンは愛知県名古屋市にあるダンジョンだ。
ダンジョンは家から徒歩で約20分程の所にある。
ダンジョンが出来てからというもの、もたらされる未知なる素材は有用な物が多く新たなる産業としてなりつつあり、ダンジョンへは専用バスが出ているくらいだ。なので俺はバスで通っている。
バスに揺られながら窓の外に目を向けるとダンジョンが近付くにつれ、破壊されたビルや家が増えてくる。そして、さらにバスが進むとやや変わった様相の人達が増えはじめる。
そんな彼ら彼女らの共通点といえば皆がリュックに武器らしき物を持っていることだろうか。
俺と同じ金属バットから木刀、警棒、鉄パイプ、スコップ、刺又等、珍しい物では鍬だろう。
最近ではこの光景にも慣れ、大氾濫の時に壊されたまま持ち主がいなくなり、手付かずになっている建物をぼ~っと眺めているとやがてバスが目的地のダンジョン前に到着した。
その足でダンジョン入り口へ向かうがすでに短くはない行列が出来ている。
まだ、早朝ということで昼時のファーストフード店程度だがこれがピークの時間帯になるとダンジョン周辺は人でごった返す。
列に並ぶこと5分、自分の番が来たので探索者カードを機械に通し駅の改札のようにしてゲートをくぐる。
ダンジョンの入り口は元は名古屋市栄の地下街へと下る入り口だったのだが深夜、人がいない間に侵食されダンジョン化したらしい。
その為、ダンジョンへの入り口は幾つかあったりする。
広さは元の地下街を呑み込み巨大化して複雑になっている。
俺はスマホでマップアプリを起動しつつ、地下街へと続く階段を下り、辺りを見渡す。
周りには熟女の女性達の姿が目立つ。理由は若さを求めてだろう。
つい最近、分かったことでモンスターの肉を食べると見た目が若返るらしい。少し前からそのような噂はあったが俺は眉唾物だと思っていた。
しかし先週、テレビで体現者が出てきたことを皮切りに女性の探索者が爆発的に増加した。
その体現者というのが高齢を理由に引退した大女優だった。
その女優は引退した時、80歳を越えていたにも関わらずその1年後の復帰の記者会見では見た目が30代になっていて世間を驚かせた。
そんな彼女?を世間が放っておくはずもなく、若返った理由を追及し判明したのがモンスター料理だった。
その時、俺はこう思った。
最初にモンスター食った奴すげぇな。
そんな訳で現在は空前のモンスター料理ブームである。
さて、そろそろ探索を真面目に開始しようと思う。
俺の現在の狩り場は地下1階層になる。
若さの為にモンスターを求めて血走った目をして殺伐とした雰囲気を漂わせる数多の女性達を刺激しないように避けながら進む。俺の本能がそう言っているから仕方ない。
◇◇◇
探索すること30分、成果はない。
今まででは30分も探索すればモンスターの2匹や3匹は狩れていたのだが本日はポップした傍から熟女の女性達に狩り尽くされている。
その鬼気迫る姿はとても恐ろしい。
モンスターはゲームのようにある程度、時間が経つことにより湧き出てくるが確実に供給が間に合っていない状態だ。
あの人達の中に割って入るなど考えられないので仕方なく、俺は人口密度が少ないであろう奥へと進むことにする。
◇◇◇
歩くこと数時間。
本日、最初の獲物は小さな角が特徴のウサギ型モンスター。
ゲームやラノベでお馴染みのテンプレモンスター『ホーンラビット』だ。
ダンジョンの中では正に最弱の部類に入るモンスターではあるが初めての人が一人で相手をするには実は危険だったりもする。
しかし俺は初めてではないので体当たりの為に突っ込んできたホーンラビットをフルスイングで打ち返す。
俺の振るった金属バットはラビットを正確に捉えて左中間を抜けて鈍い音と共に壁にぶつかる。
地面に落ち、動かなくなったラビットをバットでつついて死んだか確認してビニール袋に包んでリュックにしまう。
そこで時間を確認すると既に14時を回っていた。
人の密度が低いところを目指して、移動していたとはいえ、1匹狩るだけで五時間近くかかったことになる。
そして、長時間かけて移動しても周りにはまばらだが人がおり、ここで粘っても今日はあまり期待は出来そうにないので帰りのことも考えると同じくらい時間がかかるとすれば帰る時間が遅くなってしまうので本日は引き上げることにする。
俺の活躍を見せられなかったのはまことに残念である。
ジャージのポケットにしまっておいたスマホを取り出すとマップアプリを開き来た道を戻ることにする。
マップアプリは本当に便利で作った人達、マジ神と思いながら帰るのであった。