第22話:探索者
ミセスドーナツでこれからドーナツパーティーでも開くのかというくらい、ドーナツを買い込み、人目を気にしながらアイテムボックスへ収納。
デザートのために遠回りした分、普段よりも遅い時間にダンジョンに辿り着いてしまった。
「やっぱりこの時間帯は混んでるな」
軽い愚痴をこぼしつつ、大人しく並んでいると行列の少し前に並んでいる探索者達の話し声が耳に入ってきた。
「そういえば、あの話聞いたか?」
「何の話だよ?」
「雷神だよ、雷神。」
雷神と聞き、誰のことだと思ったがすぐに陽輝の異名だったことに気付く。
「ああ~、あの話か」
先日、陽輝が単独で地下18階に到達した快挙の話題だろうと思い、友人として自慢であり、誇らしく感じつつ聞き耳を立てていると何やら不穏な言葉が聞こえてきた。
「あんなことになるなんて雷神もお終いだろうな」
「(はぁ?陽輝がお終い?)」
「だな。流石に雷神程の実力者でもあーなっては探索者は続けられねぇよ」
自分でも気付かないうちに前に並ぶ人達を追い抜き、陽輝の噂をしていた彼等に詰め寄っていた。
「おいっ!ちょっといいか?」
「な、なんだよ?いきなり」
「雷神がお終いとか言ってたがどういうことだ?」
自分達は行列で待つ間の何気ない会話をしていたつもりだったのに張り詰めた空気を持つ、見知らぬ青年がいきなり話し掛けてきたら誰でも戸惑うだろう。
しかし、俺の鬼気迫る態度に雷神の関係者だと思ったのか噂をしていた彼等はお互いに目を見合わせて気不味そうにする。
「ふ、二日前の事だ」
自分達は軽い気持ちで話していただけなのにまさか関係者がいたとは思いもよらなかった彼等は素直に教えてくれた。
「な、なんでも探索者になったばかりの素人のガキを連れて、レベリングをしていたらしいんだがその素人が無茶をしたらしく、それを庇って大怪我を負ったらしい。何人もの奴らが血だらけで運ばれて行く、雷神を見たと言っていたから間違いないと思う・・・。」
そこまで聞き、あることを思い出す。
陽輝とのメールでスポンサーのお偉いさんの孫のレベリングをしつこく頼まれ、仕方なく承諾したと言っていた事に。
「それで陽輝は・・・雷神は今どこにいるんだ?」
まさか陽輝がそんなことになっているとは思っていなかった俺は動揺していたのだろう、答えられないような質問を投げ掛けてしまったが彼等は憶測で答えてくれた。
「そこまでは流石に・・・ただ、かなりの大怪我だから病院に入院してるんじゃないか?」
居ても立ってもおられなくなった俺はお礼も言わずにその場から離れる。
向かう先は最近、俺もお世話になったダンジョンから一番近くにある病院だ。
陽輝に電話を掛けながら人目もはばからず、俺は全力で駆け出した。
今の俺が全力で走ると普通に走っている車よりも速いため、すれ違う人達は驚きの目で見ているが今はそんなことを気にしている余裕はない。
病院へは徒歩で10分の距離だが今の俺なら3分とかからない。
陽輝への電話は繋がらず気が焦り、病院へ着くまでの時間と距離がとてつもなく長く感じていた。
病院へ着くと受付に向い、陽輝が入院しているか確認した。幸い受付のお姉さんが以前、陽輝に連れられて入院した俺のことを覚えてくれた為、こっそりと特別に病室を教えてくれた。
ただし、陽輝を見てもショックを受けないようにと念を押されて。
病棟へ移り、エレベーターを待つのも、もどかしく階段を早足で駆け上がると陽輝の病室を探す。
陽輝の病室は個室が並ぶ階の一番奥の部屋。
表札に陳内陽輝と書かれた張り紙が貼り付けられている。
動揺する心を無理矢理に押さえつけて、病室の扉を軽くノックする。
トントン!
返事はなく、もう一度ノックする。
トントン!
やはり返事はなく、寝ているのかと思いつつもドアノブに手をかけると扉はゆっくりと音をたてることもなく開いた。
部屋の中は窓から射し込む日差しがベット際まで照らしており、光の中に埋もれるように横たわる人の影。
影に吸い寄せられるように部屋の中に踏み出し、顕になる影。
そして、俺が見たのは左腕と左足の膝から下を失い、全身を包帯に巻かれ、痛々しくも変わり果てた陽輝だった。




