第1話:出発
部屋の中に目覚ましのアラームが鳴り響く。
まだ、初春ということで朝は肌寒くもう少しゆっくりと寝ていたいという誘惑に誘われるが布団から腕を伸ばし、アラームを止めて気合いで起き上がる。
本日は平日、普通であれば朝食や出勤の準備などで慌ただしい朝になるのであろうが残念ながらダンジョンが近かったこともあり、2年前の大氾濫によって両親を二人とも失ってしまった為、家の中は閑散としている。
俺の名は御影優斗。今年で19歳となる自称探索者だ。
高校在学中に両親を失い、それでもなんとか卒業はしたが親しい友人達は安全の為に家族でダンジョンから離れた地域へと引っ越してしまっている。
ひとり、台所で前日に買っておいた惣菜パンを貪り、朝食を簡単に済ませる。
一人での朝食も最近になってやっと慣れてきた。
自称《探索者》である俺の仕事はダンジョンの探索であり、当然ダンジョンに潜るのは今日が初めてではない。
両親をモンスターに殺され、自暴自棄になった俺は復讐の為に在学中に探索者の資格を取り、単身でダンジョンへと向かったが訓練も受けていない、ましてや平穏な日常を過ごしていた学生が無双出来る訳もなく、現実は厳しく復讐の炎も今では下火となっている。
それでも両親を殺したダンジョンに思うところがあり、今でも地道にダンジョンへと潜り続け、少しは探索者として様になってきたかもしれない。
愛用している少し大きめのリュックにタオルや着替え、捕った獲物を包むビニール袋、水分補給用の水、携帯食糧、スマホを詰めて最後に探索者カードを確認してから着替える。
服装は動きやすいように上下ジャージにスニーカー、武器は金属バットだ。
前言撤回、見た目はまだまだ様になっていない。
そして、探索者カードという物は政府が探索者を管理するために作った魔道具でランキングといったものが表示される。
ランキングは踏破階数やレベル、倒したモンスターの数で順位が自動的に上がっていくと聞いている。
俺のランキングは現在60万番台のFクラスである。登録者数が日本だけで100万人を越えていることを考えれば、だいたい中間くらいの順位だろうか。
そして何故、政府が探索者カードといった魔道具を作れるかというとダンジョンを調査した時にカードを作る装置がダンジョン内に置かれていたそうだ。
武器が金属バットなことにも一応、理由がある。
ダンジョンへの立ち入りが解禁になってからというもの幾つかの企業が武器等を開発販売しているが当然値段が高く、銃刀法なんたらの申請やそもそも未成年には販売が禁止されている為、俺は仕方なく金属バットを使っている。
着替えも終わり、荷物の確認も終えると玄関へと向かい、今日も頑張る為に自身に気合いを入れる。
それが終われば、誰もいない家の中に向かって「行ってきます」と言い、返ってこない返事を確認してから家を出るのであった。