第17話:ホットホット
今日からダンジョン探索を再開するが今までリュックに詰めていた荷物はすべてアイテムボックスにしまう。
ただ、手ぶらでダンジョンに潜っていると頭のおかしい奴って思われるかも知れないので空のリュックを背負い、武器のアダマンタイトバットも持っていく。
今日は地下10階まで潜る予定でいる。
なので長時間潜る時は普段、菓子パンやらおにぎりといった簡単に食べれる物を持ちこんでいたのだが今はアイテムボックスがあるので俺はおもむろにスマホを取り出すと電話をかける。
トゥルルル、
「はい。こちらホットホットです」
「もしもし、注文いいですか?」
「はい、どうぞ」
「唐揚げ弁当を30個お願いします」
行きにお弁当屋さんで買って、アイテムボックスで保温アンド保管する作戦だ。
ちなみになぜ30個も頼んだのかというと、もしもの時の非常食用で今後も余分に頼み、日替わりで種類も増やしていく予定だ。お金ならあるしね。
お弁当の注文も終わり、後はダンジョンコアの回収だ。
実は今まで俺のチートの源であるダンジョンコアが俺の居ぬ間に泥棒に盗まれたらどうしようなどと、懸念していたのだがアイテムボックスに収納出来ることがわかったので懸念の1つが解消され、これで心置きなく出掛けることができるようになった。
さてと、アイテムボックスのおかげで探索の仕度が楽になり、早々に準備が出来てしまったので家を出て、お弁当屋さんに向かうとしよう。
電話で予約してから徒歩20分足らずでお店に辿り着き、電話した旨を伝えると既に準備されていた。
探索者風の男が1人で30人前の弁当を取りに来たのを見て、店員さんはきっとパシられていると思ったことだろう。
俺を見るあの悲しげな瞳は間違いない。
会計を済ませると無理しながら抱えて店を後にする。
少し歩き、人気のない所でアイテムボックスに収納。
「アイテムボックス、マジで便利♪」
大量の弁当がなくなり、足取りも軽く鼻歌交じりにダンジョンへ向かう。
ダンジョンには相変わらず見慣れた行列ができており、もはや恒例だな。
いつものようにお行儀よく列に並び、自分の番を待つ。
◇
「あ~やっとだよ」
ダンジョンに入っての第1声である。
ダンジョンに入ると早速、地図スキルを使用する。
「おぉ~お?」
使用すると頭の中に地図が広がる感じがする。
しかし、この地図スキルはどうやら今まで行ったことのある場所は表示されていたがそれ以外の場所は灰色で塗りつぶされおり、今後必要であれば埋めていくとしよう。
ただ、どうも拡縮率がおかしい。
俺はダンジョン内を確認したいのだが今、頭の中に表示されているのは日本地図サイズだ。
なんとかならないかと思っていると自分で思うだけで変えれるようになった。
ダンジョンに潜る前に確認しておけ!というツッコミは受け付けない。
ピントをダンジョンに合わせると現在地も表示されている。
さらにあれこれと弄っていると平面図や3D表示も出来るようだ。
まるでカーナビみたいだね。
地図スキルも使いこなせてきたので地図を頼りに進む。
今回も最短距離でまずは地下5階へと向かう。
何事もなく地下5階に降り立つと体が強張り、あの死にかけた記憶が甦る。
しかし、今の俺はあの時とは違う。
そう思ったら、自然と俺を縛り付けていた恐怖が解けた。俺の努力であるサイドステップが恐怖に打ち勝った瞬間である。
そんな俺の気持ちの整理がつくのを待っていてくれたのか、ナイスタイミングで心優しいグレーウルフが5匹迫ってくる。
「少し多くないか?まあ、いいか」
俺はグレーウルフ達を見つめて魔法を発動する。
「シャドウバインド!」
影魔法の発動と共にグレーウルフ達の影から黒い触手のような影が伸び、グレーウルフ達の躯にまとわりつき、締め上げる。
「「「キャン!」」」
行動阻害?または拘束魔法?に捕まり、弱々しい悲鳴をあげるグレーウルフ達。
俺の魔法によってまったく動けないことを確認するとグレーウルフ達に近付き、頭部にアダマンタイトバットを降り下ろす。
グシャッ!
加減を間違え、頭が爆散した。
「うげぇっ!」
身体強化をカンストさせたことを忘れており、あまりの威力に心構えが出来ておらず驚く。
それを見ていた仲間のグレーウルフ達が怯え、吠えることを忘れたかのように小刻みに震えだした。
気の毒なのでそれぞれ一撃できっちり仕留める。
また、死にかけるのは嫌だったし、少しでも強くなるために俺の中で見逃してあげる選択肢はなかった。
お金にも余裕があるし、倒したグレーウルフをそのまま放置して探索を再開する。
倒したモンスターをアイテムボックスに収納することも考えたがお弁当が入っているので衛生上やめた。たぶん大丈夫だとは思うが俺の精神衛生的にも良くないので。
これが本音だ。
まだ、一緒に入れるには心の準備に時間がかかりそうだ。
何度かの戦闘を繰り返し、チートで強化された身体にも、そして魔法にも慣れてきたのでボス部屋を目指す。
地図の灰色で表示されない部分を埋めつつ、進んでいくと案外すんなりと見つけてしまった。
ボス部屋は洞窟のダンジョンとなかなかにマッチした感じの錆びた鉄の扉で出来ている。
流石にいきなりボスに挑戦するつもりはないので少し休憩をとることにして、扉の横に腰を降ろす。
休憩を終えて、自身の調子を確かめると扉の前に立ち、両手で押し開いていく。
中にはネットの情報通り、グレーウルフが5匹に一回りほど大きな白い体毛のシルバーウルフがいた。
相手は扉を開けて入ってきた俺に対し臨戦態勢をとる。
対する俺は気負うことなく部屋の中へと進み、そして戦いが始まった。




