第10話:出会い
薄暗い洞窟の中で指1本動かせず、声すらも出せない状況に俺は深い絶望に沈み込んでいた。
なのに頭をよぎるのは今は亡き両親と過ごした暖かい思い出や仲の良かった友人達と過ごした楽しかった日々。
そんな昔の出来事を思い出しているとなぜ、自分はダンジョンなんかに挑んでしまったのかという後悔が後を絶たない。しかし、今となっては手遅れだと思うと涙が止めどなく溢れる。
「(・・死にたくない・・・)」
どれ程の時間が経ったのだろうか。
俺にとっては永遠とも思える地獄の時間も終わりを迎えようとしていた。
ほとんど、反応のなくなった俺にタイラントウルフは飽きてしまったのか止めを刺そうと大きな口を開き、噛み付こうとする。
「(誰か・・・助け・て・・)」
持て遊ばれていた最中にも何度も祈った願い。
スローモーションで見えるタイラントウルフの噛み付きを見つめつつ、最期の願いを捧げる。
「(お願いだから誰か助けて!)」
そして、最期の願いを聞き届けるかのように轟音と共に一条の光がタイラントウルフを穿ち、俺の攻撃ではビクともしなかったタイラントウルフが大きく後方へと飛び退く。
タイラントウルフは先程まで俺に首ったけだったのが嘘のように距離を取り、警戒の為に全身の毛を逆立てる。
最早、首を動かし確認することも出来ない俺の耳に誰かが近寄ってくる足音が聞こえる。
「なんでこんなところにタイラントウルフがいるんだ?」
その足音の人物から発せられた声には気負った様子もなく、淡々と紡がれた。
足音がだんだんと近付いて俺の横に来ると呼び掛けられる。
「あんた、生きてるか?」
切実に願っていた助けてくれる誰かに僅かな希望の光が見え、呼び掛けに応える為に力を振り絞り、微かに首を動かす。
「すぐに終わらせるから少しだけ待っててくれ」
男はしっかりとそれでいて落ち着いた声で言った。
男の返事を聞き、張り詰めていた緊張と恐怖から解放された、俺の意識はそこでプツリと途絶えた。
◇◇◇
どのくらい気を失っていたのだろうか?
「(・・俺は・・・生きてるのか?)」
まだ意識が朦朧する中、俺は見知らぬ青年に背負われ、ダンジョンの中を進んでいる。
背中に背負われるなど、いつぐらいぶりだろうか、どこか夢心地のような懐かしい幼き日を思い出しながらも正気を取り戻す。
覚醒による身体の強張りを感じ取ったのか青年は通路の脇に寄り、壁にもたれられるように俺を降ろした。
「気が付いたみたいだな。気分はどうだ?」
青年は俺の目を見ながら確認するように問い掛けている。
一瞬、何を聞かれたのか分からなかったがすぐに思い出した。
折られた腕は手当てされ、潰され続けた胸の痛みは何処へ行ってしまったのか、今はほとんど痛みを感じない。
「俺は・・・生きてるのか?」
「ああ、生きてるぞ」
「あんたが助けてくれたのか?」
「そうだな。たまたま戻る途中で見かけたから助けさせて貰った」
照れ臭そうに頬を掻きつつ答える青年。
「ありがとう。本当に・・ありがとうございます・・・」
本当に助かった実感にまた涙が溢れ出す。
その後、一通り泣き崩れ、俺が落ち着いた頃合で青年はまた話しかけてくる。
「あんた、かなり危ない状態だったからポーションを使ったがそれでもまだ全快していないみたいだし、このまま病院まで送るよ」
正直、自分一人では歩くのは難しいと思うので素直にお礼を言って送ってもらうことにする。
「そう言えば、まだ自己紹介してなかったな。」
そう言って青年は笑顔で自己紹介を始めた。
「俺は陣内陽輝。一応高校2年の17歳。よろしく」
この時、俺はまだ頭が回っておらず、先日テレビで見たプロ探索者とはまったく気付かずにダンジョンの入り口に差し掛かったところでようやく気付くのであった。
「俺は御影優斗。歳は19歳。自称探索者。よろしく」
「見た感じ同い年かなって思ってたんですけど、タ
メ口聞いてすいません」
「いやいやっ!?命の恩人だし、状況も状況だったから全然、タメ口で良いから」
「そう言ってもらえると助かります」
この出会いが後に「白の剣士、陣内陽輝と黒の剣士、御影優斗」と呼ばれるようになる2人の初めての出会いであった。




