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不老不死

作者: 西園良

 俺は不老不死になった。嘘でも誇張でもなく、本当に不老不死となった。妄想でもなく、俺は正常である。多分だけれども。



 ある日の放課後。俺は部活に所属していなかったので、特に用事はない。まあ、予習復習はしないといけないので、遊びまくる訳にはいかないが。それでも、部活動等をやっている生徒と比較すると余裕がある。いつものように帰り道を歩いていると、後ろから声をかけられたような気がした。男の声だ。俺は後ろを振り返る。20代後半のように見える。俺は辺りに目を配る。俺以外に誰もいない。俺への呼びかけかを恐る恐る尋ねてみた。男は肯定した。

 男は話があるから近くの山に来て欲しいと求めてきた。うちの高校は山が割と近くにあるので、そこまで時間はかからない。しかし、見知らぬ人間が声をかけるなんて今の時勢は怪しすぎる。ここで無視して帰宅するのがセオリーだろう。でも、家に帰っても予習復習するだけで暇なのも事実である。あえてセオリーを無視してこの不審人物についていくのも良さそうだ。

 彼が急かしてくる。やめて欲しい。結論として、俺はついていくことにした。何かあれば警察に通報すればいいし、最悪死んでしまったらそれまでだ。


 山の中に俺たちはいた。山の中といっても入口から結構近いところだから、迷うことはないと思う。というか今は人がいないけれども、いつ人が来てもおかしくはないのに、こんな場所で良いのか?

 そのことを聞こうと思ったが、いつの間にか男がいなくなっていた。辺りを見ても男の姿はない。帰った可能性は低い。俺が気づくはずだから。ならば、奥に行ったのだろう。奥に行ってみても良かったが、行きすぎて遭難したらあれなので俺は帰ろうと決めた。不審人物に振り回されただけか。面白いことを期待していたのにガッカリだ。

 俺が帰ろうと歩を進めようとすると、いきなり眩い光が俺の視界を奪った。眩しい。何なんだ。すぐに光が消えた。すると、見たことある男が上空にいた。というか、先ほど俺と一緒にいた男が謎の棒を持って、俺を見下ろしている。何かのマジックか? 俺はじっくり男を観察して見たが、分からない。男がタネも仕掛けもないと俺の心を読んだかのように答えた。

 ならば、これは夢なのだろう。早く目を覚まさなければならない。俺は頬をつねってみる。痛い。どうやら現実のようだ。古典的な確認の仕方に自分で呆れるけれども、他の方法を知らないのだから、仕方ない。男が長々と意味不明なことを言っていた。

 私は実は神なのです。たまに人間のフリをして、この地上を歩き回ります。今日私は退屈だったので、人間のフリして適当に散歩していました。すると、貴方を目にした瞬間何故か不老不死にしたくなりました。それで、人目につきにくそうなこと山に誘いました。どうですか? 不老不死になってみませんか?

 以上がこの男の台詞だ。もう突っ込みどころが多すぎてどこに突っ込みを入れるべきか迷う。仕方なく1つに絞る。不老不死になって俺の年齢と外見が一致しなくなったらどうするのだろうか? これを尋ねてみると、自分の息子ということにしておくし戸籍もそのようにする、という返答が来た。えらい都合の良い設定だな。どうしますか? と促された。正直信用していないけれども、遊び半分で承諾してみることにした。

 神と名乗った男が両手を上に上げる。すると、眩しい光がまた周りを光らせる。またかよ、眩しいっつーの! 光が消えて視界が戻る。神と名乗った男の姿はなかった。どこかに行ったのだろう。特にやることもなさそうだし、帰るかな。結局無駄骨だったかもな。

 その日の夕方。近くの山で光があったことは家族間で話題にならなかった。



 翌日も数日後も数週間後も山の光が世間で語られることはなかった。俺の幻覚だったのだろうか。



 大学3年。俺は東京の大学で普通のキャンパスライフを送っている。普通に友達も知人もいる。一応恋人もいるが、最近うまくいっていない。もうそろそろ別れようかと考えている。

 ある日友人が、お前高校生に見えるから詐称して不正入学したんじゃね、とジョークを飛ばしてきた。俺も冗談の口調で笑って否定した。それで話は終わった。

 言われてみれば、不老不死がどうたら言っていた不審な男と会った時から肉体の姿が変わっていないような気がした。まあ、気のせいかもしれないが。そう、気のせいなのだろう。もし気のせいじゃなかったらどうしよう? その時考えればいいか。俺は思考を打ち切った。



 社会人1年目。俺は大学を卒業し、上場2部の会社に入社できた。とりあえず安定した生活はほぼ約束されたことが嬉しかった。

 ある日同僚と世間話をした。同僚は、新しいものと古いものでどっちが大事? と俺に言ってきた。よく分からなかったが、どちらも大事だろと思ったので、その旨を伝えたら同僚は呆れたようにため息を吐いた。文句を言いたかったけれども、同僚は究極の2択なんだからどちらもダメに決まってるだろ、と言った。仕方なしに思考する。そして、俺の考えを同僚に伝える。強いて言えば新しいものだ。理由はいつまでも古いものに拘って新しいものを無視すれば、人類は滅びる。人類の歴史は進化の歴史であり、進歩の歴史でもある。俺の考えを聞いた同僚はなんとも言えない表情で、そうか、と呟くだけだった。



 ある日、大学時代の友人と飲みに行っている。お互いに仕事の愚痴やらを吐き出したり、仕事のスキルアップのやり方を話し合ったりした。後、変なやり取りもした。友人が後輩に結構酷いことをしたので、俺が怒ってみた。友人は神妙な顔で謝ったが、俺はごめんですむなら警察はいらないと告げる。だが、友人は不満そうな顔でこの程度じゃ警察沙汰にならねえ、と言ってきたから、俺はそういう意味でないと嗜めた。それを聞いた友人がどういう意味か尋ねてきた。正確な意味は忘れたけれども、謝っただけで悪いことはなくならない的な意味だったと思う。友人はどうすれば良いか言ってきたので、俺は何か品をあげるなりおごるなりすればどうかと提案してみた。友人は素直に頷いた。嗜めた意味はあったなと俺は満足した。



 1ヶ月後。俺は知人から相談を受けている。少し長めの話だったので、まとめてみようか。

 近所の40代のおばさんがアイドルになることを目指しているが、現実を教えて止めさせたい。

 なるほど、言いたいことは分かる。微妙にお節介な気がするけれども、気持ちは分かる。だが、そのおばさんが目指しているアイドルにもよる。世の中にはアラフォーアイドルというものがあるから、そこなら問題ないのではないか?

 その旨を喋ってみると、知人は微妙な顔つきで、そのおばさんは一般的なアイドルを目指しているんじゃないかな、と答えた。まあ、とりあえずこの話はおばさんに伝えると知人は納得した。



 数週間が経過して、友人と会った。前言っていた後輩云々は解決したようだ。色々な話を聞いたり喋ったりした。俺は気になっていることを友人に話してみた。

 中学の時代に副教科ってあったじゃん。今もあるみたいだけど。普通の教科と副教科が分かれているよな。副教科ていう日本語おかしくないか? 友人が理由を聞いたので、副教科と呼ばれるものは別に普通の教科をそえているわけでないからと答えた。まあ、副という漢字に他に適切な意味があるのか分からないが。

 友人は日本語として合っているかはともかく、定着してしまったものは仕方がないと俺に譲歩を求めてきた。その通りなので、同意はしておいた。ちなみに副教科は、保健体育、技術家庭科、音楽、美術である。



 未だ独身である。この会社で35才の独身は肩身が狭いので、俺は自分で会社を立ち上げた。大企業ではないが、そこそこの中小企業にまで40代で成長させられたので、順調と言えるだろう。

 さらに、俺は今までこそこそと研究していたことがある。学問だ。そして、この年で誰にも知られていない新しい発見をした。尋常なく嬉しかった。論文で発表するのがセオリーだけれども、俺はあえてネット上のブログに投稿した。これが評価されたら良いな、と思った。



 10年くらい遡った30代。俺の外見は高校生の時から全く変わっていない。あの時の不老不死とやらが本当であるのかと信じてしまう。その思考を読み取ったかのようにあの時の神を名乗るものが現れた。

 年をとったら戸籍を息子のものにしておくと言っていたが、犯罪ではないか?

 この問いに神を名乗る者は答えた。不老不死による弊害では犯罪にならないようになっている。

 なんとも都合の良い話だ。しかし、目標に支障がなく、前科者にならないのであれば、俺にも都合がいい。神を名乗る者は満足気な顔で去っていった。どうやら、俺が同意したことを読んだようだ。



 現在。研究にも企業にも没頭できて、あの神を名乗る者に感謝している。



 俺は81歳になった。外見は高2のままだが。俺には戸籍上の息子の勇人はやとと戸籍上の孫のりゅうがいる。もちろん、実際には息子も孫もいない。

 先ほど神を名乗る者がやってきて、そろそろ戸籍上死んだ方が良い、と忠告してきたので、俺は了承した。もう俺は他人には龍として振る舞わなければならないのだ。



 俺が戸籍上死んでから2年。俺の発見はとうとう日本史の教科書に載った。嬉しすぎる。こんなに幸せで良いのか、俺。



 さらに1年後。龍つまり俺のクラスメイトは、お前のじいちゃんすごいよな、と称賛してくれた。鼻高々だった。



 30年後。俺は新たな発見をした。前の発見Aの派生になるけれども、新たな発見であることに変わりはない。発見Bと名づけよう。これはブログではなく、新しい媒体に入れよう。これも評価されたら良いな。



 120年後。発見Bと俺の名前が歴史書に載った。嬉しかった。欲を言えば、日本史の教科書に載りたかったが、これは贅沢だな。ちなみに、発見Bは発見Aと同じ時期に発見されたこととなった。本当は違うけれども。

 俺はさらに発見Bを追究することにした。

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